こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。
最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。
報酬ですか?いえ。お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。
さて、今回のお客様は…。
体育館。
時刻は既に夕方。陽も傾き、その陰は長く伸びている。
体育館に人影はなく、静寂に包まれている。幽かに遠く、金属バットが硬球を叩く音や黄色い声がする。
大きくため息を付く少年。きょろきょろと辺りを見渡す。
辺りに人影がないのを確認すると、それまで正座していた脚を崩して大の時に転がる。
「あー、畜生…やってられねえよ」
ふうーう、とまたため息。その刹那、
「くおーらあああ!」
と、雷のような怒鳴り声が人気のない体育館に響きわたる。
電撃にはじかれたように飛び上がる少年。
「誰が正座をやめていいと言ったかあ!」
あわてて正座を組み直す少年。
体育館の入り口付近。ひとしきり説教を食らう少年を遠巻きに見ている一人の少女。ふふん、と不敵な笑みを浮かべる。
ふくれっ面で正座を続ける少年。口の中で密かに横暴教師への呪詛を刻んでいる。
「おにーちゃん」
「うわっ!」
突然声を掛けられて驚く少年。
「どうしたの?こんなところで」
怪訝な表情で突如現れた少女を従える少年。
「…な、何だお前は」
「よくぞ聞いてくれました!」
と言ってごそごそとポシェットの中から何かを取り出す。
「はい!これ」
名刺を差し出す少女。
不審に思いつつもそれを受け取る少年。そこには連絡先住所も電話番号も無く、ただ「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」と書かれているだけだった。
「何だよこれ?」
「名刺よ」
「お前何年だ?」
「そんなこといいから依頼を言ってよ」
「は?」
「もう、鈍いのねえ。あたしは困った人の味方なの」
「何言ってんだよ?」
「私の仕事よ。困った人がいたら助けてあげるの。で、どうしたの?なんでこんな所に座ってんの?」
「座らされてんだ!あのくそ馬鹿に!」
そう言いつつも、何度と無く脚の位置を変える少年。
「痛そうね」
「うるせえ!」
「よし分かった!脚がしびれない様にしてあげるよ!」
「ほう!そうかよ!じゃあそうしてもらおうじゃねえか!」
「いいよ。じゃあ目えつぶって」
「よーし」
目をつぶる少年。その瞬間、少年の胸部が突起し始める。肩幅が狭く、なで肩になり、髪が伸び始める。
「この学校ってさあ、女子の髪って肩までだっけ?」
「ん?確かな」
「じゃあこんなもんね」
「おい、何の話だよ」
「少女」を見てちと考え込む華代。
「うーん。女の子の学ランってのもある意味凶悪に可愛いけどやっぱちゃんと制服着ないとね」
と、見る見る制服が変形していく。カッターシャツの襟が大きく、黒くなり、スカーフが現れる。ズボンのベルトが消失し、脚を包んでいた二本のトンネルが一本に、つまりスカートになっていく。すっかりセーラー服姿の女子中学生になってしまった。
すっかり女子生徒になってしまった少年。
イラスト 神木亨太さん
「はいはい黙って…よし出来た!目開けていいよ」
「ん?うわっ!な、何だこりゃあ!」
「はいはい動かない動かない。いい?こうやって」
少年の、いやその「少女」の脚を正座の状態から膝から下だけ左右に広げる華代。
「うわわっ!」
いわゆる「とんび座り」になる「少女」。
「どう?痛くないでしょ?」
余りのことに呆然としている「少女」。
「この座り方はね、「とんび座り」って言って、骨盤の形の関係で女の子にしか出来ない特殊な座り方なのよ。どう?これで痛くないでしょ?ちょっとズルいけどね」
「あ、ああ、あ…」
「いやいや、いいってことよ。お礼には及ばないわ。今度朝礼とかで女の子見ててご覧よ。みんなズルしてこうやって座ってるから」
口をぱくぱくさせている「少女」。
「んー。口も利けない位感動してるのね。分かるわ。これでもう正座なんて平気だもんね。それじゃあ!」
その少女は風の様に去っていった・・・。
今回の依頼も実に簡単でした。こういう細かい知識って意外に皆さん知らないんですよね。人生何事も応用ってことで。あ、でも一つだけ失敗しちゃいました。今回の依頼人には悪いことしたかなあって思います。実はあの学校って男子は学生服だけど女子はブレザーなんですね。間違えちゃって済みません。でもまあ、また何か困った事があったら何なりとお申し付けださい。今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。それではまた。
|