「華代ちゃんシリーズ」

「マナー」

作・真城 悠

*「華代ちゃん」の公式設定については

http://geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.html を参照して下さい

 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

 さて、今回のお客様は…。

 

 

 親子連れの子供が嬉しそうに飛行機のおもちゃをいじっている。それを見て笑顔を浮かべて通り過ぎる客室乗務員の田辺。こういう可愛いお客だけならいいんだけど…と思う。

「おねえちゃん。もっと無いの?」

「あるわよ」

 そう言って別のものを渡してあげる。

「あ、ありがとうございます」

 母親が礼を言う。

「どうも」

 父親も続く。若い夫婦の様だ。

「いえいえ。どうぞごゆっくり」

 時間を確認する田辺。そろそろジュニアパイロットの時間ね。今日は確か…一人だったっけ。

「あ、コーヒーお願いします。ホットで」

「僕はウーロン茶」

 品のいいビジネスマン二人が声を掛けてくる。

「はい、ただいま持ってこさせますので」

 ジャンボジェットの中を歩いて移動する田辺。特に帰省シーズンという訳でもないのだが、週末のせいだろうか、五百席は殆ど埋まっている。相変わらずビジネスマンが多いが、家族連れもまた多い。

「えーと、華代ちゃん…だっけ?」

「うん」

 小学生くらいの女の子である。子供の一人旅としてはやはり異例の若さだ。親も随分思いきったもんだな、と思う。

「はい、じゃあこっちへどうぞ」

 ジュニアパイロットとは、子供のみのお客に、特別にコクピットを見学させてあげるサービスのことである。

 

 

 同じく客室乗務員である千葉は、お尻になにやらおぞましい感覚を覚えた。

「きゃあっ!」

 思わず声を上げてしまう。

 咄嗟に振り向くとそこには赤ら顔の酔っ払いのおっさんがいる。

「えへへえ〜、いいじゃねえかよお〜」

 ジャンボとは言え、そうそう通路は広くない。飲み物を載せたカートを押していた千葉は行き場を失って困っている。そこに付けこんで更にお尻を触りまくる酔っ払い。

「いい尻だの〜。やっぱスッチーはええのお」

「や、止めてください!」

「なあに言ってんだ!高い給料取ってんだからサービスしろよおお!」

 正体を失うほど酔っている酔っ払いは立ち上がって千葉を抱きしめようとする。

「や、やめてえ!」

 周囲の客は見て見ぬ振りをしていた。中には狸寝入りしているのもいる。

 

 

「わー、すごーい」

 感心している様子の華代、と呼ばれた少女。

「ははは。凄いだろう」

 機長は得意げに言う。

「よくこんがらないですね!」

 子供らしい純真な言葉にコクピットの雰囲気も和む。

「そりゃプロだからね」

 副機長も口を挟む。

 

 

 後ろからがっしりとその手を掴む辻。

「な、何だテメエは!」

「嫌がっているじゃないですか」

 いかにもな好青年である。酔っ払いの隣に座っていたが、余りの横暴に見かねて立ち上がったのだ。

「うるせえ!嫌よ嫌よも好きの内ってな!このねーちゃんだって実は喜んでんだよ!」

 酒臭い息に顔をしかめる辻。

「他のお客さんにも迷惑ですよ」

「格好つけてんじゃねえ」

 と言ってまた千葉のおしりをなで上げる。

「きゃあ!」

 その瞬間、酔っ払いの胸倉を掴んで絞り上げる辻。

「ぎゃあ!」

 その眼前に顔を付きつけ、ドスの効いた声で言う。

「いい加減にしろよこの酔っ払い…大人しくしねえと一万メートル下に放り出すぞ…」

 急に元気のなくなる酔っ払い。

「…な、何だよ…俺が何したってんだ…」

 手を離す辻。どさりと自分の席に崩れ落ちる酔っ払い。酔いも抜けた様なその顔つき。

「あ…有難う…ございます…」

 うっすらと涙を浮かべた千葉が力なく言う。

「いえいえ」

 軽く笑顔を送る辻。

 この騒動で少し乱れた制服のスカーフを直しつつ、配り終わっていないジュースの乗ったカートをからからと押して行く千葉。

 それを見送って辻も席につき、文庫本を広げる。

 再び静寂の戻る機内。

 

 

 

 機体後部。

「またやられたの?全く酷いわねえ…」

 チーフの手島があきれている。

 その前で涙を拭いている千葉。

「いいからあなたも泣くのやめなさい」

「は、はい…」

「国際線はこんなもんじゃないのよ」

 先輩も口を挟んでくる。

「そうそう。団体さんで来るでしょ?しかもアルコールフリーだから手が付けられないわよ」

 気圧が低い状態ではアルコールがすぐに効いてくる。通常の気圧下の半分の量で悪酔いすると考えて間違い無い。特に日本の団体男性客のたちの悪さは世界中に轟いている。中には「態度が生意気」などと難癖をつけてスチュワーデスに殴りかかり、重傷を負わせた事件なども起きている。近年、余りに問題がある乗客は厳密に刑事罰が適用される傾向にあり、やむなく一種の「逮捕・拘禁」状態にすることもあるという。

「私の先輩なんて熱湯のコーヒー掛けられたもんよ」

 海外の航空会社では保安の意味も兼ねて、ある程度客室乗務員を男性にすることが常識となっているが、わが国ではその対策は立ち遅れているといわざるを得ない。

「ほらほら、無駄話はそこまでよ」

「おねーちゃんたち」

 一斉にその声の方向に振りかえるスチュワーデスたち。

 自分達の視線のかなり下の方に小学生くらいの女の子がいる。

「あ、あなたは…」

「おねーちゃん、さっきはありがとね」

「田辺さん知ってるの?」

「ええ。ジュニアパイロットのお客様です」

 と、何やらごそごそと取り出してくる。

「はいこれ。はい。はいこれ」

 全員に紙片の様なものを渡す。

「あらあら何かしら」

 手にとって確認する。そこには「ココロとカラダの悩み、お受け致します。 真城 華代」とある。

「へーえ、悩みを聞いてくれるんだ」

 と言って返してくる。

「あ、いいですよ。持っていて」

「華代ちゃんの仕事はわかったわ。これはいいから」

 彼女たちは何も嫌がっている訳ではない。内規により、乗客から個人的にものを受け取ったり渡したりするのを禁じられているのだ。

「そう…まあいいわ。で?お悩みは?」

 にっこり笑うその少女。

「悩みねえ…」

 と言って微笑む手島チーフ。これなら内規にも抵触しない。

「悩みを聞いてくれるのね?」

 と、田辺。

「いえ、違います」

「そうなの?」

「「解決」して差し上げます」

 お互いの顔を見回して軽く噴出す美しきスチュワーデスたち。

「な、何がおかしいんですかあ!?」

「何でも聞いてくれるの?」

「まあ…基本的にはそうです」

「すぐに解決してくれるんだ?」

「ええ。今すぐにでもね」

 聞いていた手島だが、そこで口を挟む。

「そうなんだ。じゃあ…」

 

 

 

「おい、にいちゃんよお」

「お目覚めですか?」

 余裕の態度で文庫本から視線を移してくる辻。

「あんまり格好つけてんじゃねえぞ」

 からんできている。そういう態度だった。

「周りのお客さんの迷惑になります」

「うるせえや!」

「あんたの様なお客がいるから…?」

 辻は何やら身体に妙な感覚を覚えた。

「…ん?…?」

「何だよ?あんちゃん」

「い、いや…その…」

 辻は見ているものが信じられなかった。

「あ、あああ…」

 自分の胸が、まるで女性の様にむくむくと膨らんで来ているのである。

「おお!」

 声を上げる酔っ払い。

「な、何だ!?」

 変化はそれに留まらなかった。

 髪がするすると伸びてくる。逞しかった肩幅が見る見る狭まり、なで肩になる。筋肉質だった身体はふっくらと柔らかい、女性的なフォルムに変わる。

「一体…何が…起こったん…だ?」

 ストレートのロングヘアに囲まれたその顔は上品な美人のそれとなる。目の前でその指先がぐぐぐ、と白魚の様に美しく変わって行く。

「て、手が…」

 下半身も同様だった。臀部が張り出し、大胆なヒップラインを形成する。ズボンの上からでも分かるその脚線美。下腹部のものは縮小し、その腰は蜂の様にくびれる。

「に、にいちゃん…あんた…」

 そして、変化は次の段階に入った。

 ゆるゆるのトランクスがぴっちりと下腹部を押さえ込んでくる。その下腹部の寂しさ。

「う…」

 シャツの形が変わり、その乳房を掴み、そのまま背中で繋ぎとめられる。

「あっ…」

 服の色が紺色に変わって行く。その生地には細い縦縞が刻まれ、上品なスーツへと変化する。ズボンの生地は繋がって一本となり、タイトスカートへ移行する。

「ふ、服…まで…」

 大胆に開いた胸元にしゅるり、とお洒落なスカーフが巻かれる。

「あ…こ、これ…は…」

 その姿を表した脚にストッキングが被せられていく。髪がひとりでにアップされ、その顔にメイクが施される。

「あ…ああ…」

 辻は見事なスチュワーデスとなってしまった。

「そ、そんな…」

このイラストはオーダーメイドCOMによって製作されました。クリエイターの鬼邪太郎さんに感謝!

 はあはあ、と興奮した吐息がスチュワーデスとなった辻の顔に掛かってくる。

 反射的に振りかえるとそこにはあおの酔っ払いが目を血走らせている。

「え、ええのお…」

「や、止めてください!僕は男ですよ!」

 しかしその凛々しく、美しい声では全く説得力が無かった。

「なあ〜に、言っとるだ!こんないい身体してよお」

 と言って辻のふくよかな胸をむにむにともんでくる。

「あっ!や、やめ…止めてください!」

 必死に抵抗するスチュワーデス姿の女性となった辻。隣でその超常的な光景を見ながら固まっている一般客。

 生真面目にシートベルトを付けていたところに持ってきて、慣れないタイトスカートに身動きのままならない辻に覆い被さる酔っ払い。その手は腰やおしりを撫でまわしている。

「ああっ!や、やめ!…て…あ、ああっ!いやああ!」

 

 

 

 後ろの方を振りかえって「うるさいわねえ」という顔をする母親。

「ママあ」

 呼ばれて振りかえる。

「身体がヘンだよおー」

「ん?どうしたのケンちゃん…!!」

 息を呑む母親。その目の前で子供の脚がぐんぐん伸びて行くではないか。

「け、ケン…ちゃん?」

 脚だけではない。全身が、その小さな服がはちきれんばかりに成長しているのだ。しかもその豊かな乳房、豊満なヒップと大人の女性へと変化しているのだ!

「わー、おねえちゃんになっちゃうよお」

 しかし、そう言う頃にはすっかり「おねえちゃん」になってしまっている。

「あ、あなたあ!」

 恐慌をきたし、反対側に座っていた父親に声をかける母親。しかし、そこでも母親は信じられないものを見ることになる。

「きゃあああー!」

 そこには若い女性となった夫の服が、スチュワーデスのそれに変化していく真っ最中の光景が展開していたのだ。

「こ、これは…?」

「あ、あなたああー!」

 また反対側を振りかえる母親。

 予想はしていたが、そこにはスチュワーデスの制服に身を包んだかつての息子がいた。そして、自身の服もまた客室乗務員の制服姿へと変わって行く最中だった…

 

 

 

「き、機長…」

「ん?どうしたね副機長」

「そ、その…胸…は?」

「ん?」

 言われて見下ろす機長。

「ああ!?」

 程なくして、コクピットには二人のスチュワーデスが座っていた。

 

 

 

「お、お前…何だその格好…」

「お、お前…こそ…」

 お互いにスチュワーデスになってしまったビジネスマン二人。

 

 

 

「う…」

 何やら身体に異常を感じる酔っ払い。

 茫然自失になりかけていたスチュワーデス姿の辻がそれを凝視する。

「おおお!な、何だあ?」

 そう、その酔っ払いもまた若く、美しいスチュワーデスとなってしまったのだ。

 今だ!と辻は思った。シートベルトを外し、乱れたスカーフをむしりとるとめくれあがったスカートをちょい、と直して立ち上がる。

「こ、これ…は?」

 見渡す限り、五百席の全てにスチュワーデスが座っていたのだった…

 

 

 

 いやあ、最近はたちの悪いお客さんが多くて困りますね。でもこの華代ちゃんにお任せを!みんなスチュワーデスさんみたいにお行儀良くしてあげましてよ。

 報われないサービス業の方の味方、この真城華代に清き一票を!なんちて。それではまた!