こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。 報酬ですか? いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。 さて、今回のお客様は…… 華代ちゃんシリーズ(番外編)
『女装の麗人』 作者:天爛 *「華代ちゃん」シリーズの詳細については http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.htmlを参照して下さい *「華代ちゃんシリーズ・番外編」の詳細については http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan02.htmを参照して下さい 夕涼みの公園で噴水横のベンチに腰を掛け、ため息をついている人物がいた。 デニムのパンツにGジャンという地味な服装な上に帽子を目深に被り顔が見えないようにしてはいるか、見る人が見れば、いやよほど見る目がない限り美人だとひと目で分かるだろう。 もし帽子の下のそのアンニョイな表情が見えれば、世の半数以上の男が声を掛けずにいられなくなるだろう。 事実、この一時間だけで片手では数え切れないほど男からナンパされていた。数えるのが面倒だから数えていなかったが、もしかしたら両手でも足りないかもしれない。だが、そんな彼にも悩みがある。 そう、『彼女』ではなく『彼』なのだ。 遺伝子学的XY、精神的にも男。あってないではなく、なくてある。戸籍上でも間違いなく男なのだ。しかし、しかしである。彼はよく女に間違われるのだ。 100人いて75人が『女』といい、15人が少し悩んだ後『引っ掛けかと思ったけど絶対に女』という。そして残り10人のうち9人が『ホントは女じゃないの?』と言い、最後の一人が『どこからどう見ても男だ』という。もちろん最後の一人=彼だ。 もうわかっただろう。そう、彼の悩みは女に見られてしまうことだった。 とかく今日は特に最悪の日だった。 例えば、汗水流して手に入れたバイト代で買った男物の服を、母親が勝手に返品してきた挙句に戻ってきたお金で変わりに彼用の女物を買って来た。 母親曰く、「だって、そっちの方が似合うでしょ?」だそうだ。 いつもの事である。そう、こんな事は過去に何度もあった事だからもう慣れた。彼にとって途轍もなく不本意な事であったが。まあ、そんな些細な事は今更どうでもいい。 問題はラブレターを貰ったことだ。男からではない。男からのラブレター何ぞ掃いて捨てるにはチリトリがいくつあっても足りないほど貰った。男からでなければ、もちろん女からである。 生まれて始めて貰った女の子からのラブレター。嬉しくないはずがない。が、最大の爆弾はまさにそれだった。 どきどきして目を落としたラブレターの一行目。 『先輩の事が大好きです。どうか私のお姉さまになってください』 吹いた。脇から覗き見ていた悪友が。 しかも「そっかそっか。ユキちゃん、全然男になびかないと思ったらそっちの趣味があったんだ。……だが、百合もまたよし」と寛大な態度を取ってくれたもんだから、鳩尾にお礼をしてやったのは言うまでもない。 ちなみに彼の名は『ユキ』でなく『由紀(よしひろ)』である。まあ、前者で呼ぶほうが圧倒的多数で、後者で呼ぶ人物は絶滅危惧種並みにいないが。 ともかく、始めて貰った異性からのラブレターが同性愛(と書いて百合の園と読む)への誘いだったのだ。極めつけに、その続きには男に対してのネガティブな意見がこれでもかと書かれた上で、『お姉さまの身体の事は知っております。私、お姉さまが女に戻る為ならなんでもします。だからどうか付き合ってください』と締められていた。たまった物じゃない。 「はぁ」 今日何度目かの大きなため息をついた。 「あの、おねえさん。もしかしてお悩み事があるんですか?」 いつの間にか目の前に立っていた少女に、ぶっきら棒に「まあな」とだけ返す。自分が男だと主張するのも疲れてきていた。 「じゃあ、ちょうど良かった。私、セールスレディーなんです」 はぁ? そんな表情を彼は浮かべる。 「あっ、お代は頂いておりません。みなさんの喜ぶ笑顔が何よりの報酬なので」 そう言いながら少女はポシェットから一枚の紙切れを取り出し、彼に差し出す。 『ココロとカラダの悩み、お受けします 真城 華代』 「そうなんですか」 気がつけば少女に打ち明けていた。 「おねえさんは性別が間違われるのが嫌なわけですね」 少女自身が性別を間違えてるとはなんとなく突っ込めなかった。 「まあな」 なんでこんな見ず知らずの少女に話してしまったのか不思議に思う反面、少女に話す事で多少なりともすっきりしたのだから話してよかったとも思う。 「ん〜、でも、なんで何でしょう。あたしが見る限り間違われるとは思えないんですけど……」 間違えてる張本人がいけしゃあしゃあとそう言う。 「そ、そうだろ? 間違うなんておかしいよなっ」 少女自身が間違えていると言うことはついぞ忘れて、始めての賛同者に浮かれる彼。 少女は暫くそんな彼をまじまじと見つめていたが、不意に手をポンッと打つと、さもそれが正解だとばかりに言い放ったのだ。 「そっか、服ですよ。その服がいけないんです。その服の所為で間違われるんです。間違いありません」 「そ、そうなのか? でも、持っている中でこれが一番まとも ―― 」 「大丈夫。全部ひっくるめてあたしがなんとかしちゃいます」 「えっ?」 彼が困惑しているのもどこ吹く風。少女は一人で話を進める。 「じゃあ、取り合えずその服ですね。では、目を閉じてください」 「あっ、うん」 何が何だがわからず、流されるままに目を閉じる。 「ん〜、どんなのかいいかなぁ。どれも似合いそうで迷うなぁ。あっ、そうだ。これもいいかも。うん。これにしちゃおう」 少女はなにやらぶつぶつ言ったと思ったらその後暫く沈黙を保った。 彼が不安になって口を開こうとした瞬間、少女の声が再び聞こえた。 「出来ました。やっぱりとっても似合ってますよ。ほら、見てください」 目を開くと少女がうまく描けた絵を見せびらかすような表情で噴水の水面を指差していた。 促されるままに水面に目を移すと、そこには少女とお揃いの白い帽子を被り、お揃いの白いブラウスを着、お揃いの白いスカートを穿いた、彼と同年代ぐらいの女性がいた。 惜しむべくは胸が悲しいほどに無い事だか、それを補って余りある魅力を持っている。事実、彼も思わず口説こうと口を開きかけた。 が、すぐにはっとする。そう、それは水面に映る彼自身の姿なのだ。 「……これが、おれ?」 彼は呆然と立ち尽くす。 「はい、とてもお似合いですよ♪ 他の服も袖を通したら順次変わっていくんで楽しみにしててくださいね♪」 そう言い残し、立ち尽くしている彼を置いて次の仕事を求めて少女は去っていった。 彼が正気を取り戻したのはそれから暫くあと。見知らぬ男に声を掛けられたからだ。 「ねぇねぇ、彼女〜、もしかして一人? 良ければこれからお茶でもしない?」 もちろん彼に付き合う気もなければ、そんな心の余裕もない。 だから、声を掛けてきた男を無視し、大急ぎで家に帰った。 「いつまでもこんな姿でいられるかっ」 道中だけでこれまでの被ナンバ記録(もちろん男性から)を更新した彼は、家に着くとすぐに階段を駆け上り自室に潜り込んだ。 それを見咎めた母親がやっとその気になったのかと密かに喜んでいたのは言うまでもない。 さて、自室に飛び込んだ彼は、すぐに着ていた服を脱ぎ捨てた。 思わずうな垂れる。下着まで女物になっていたのだから当然である。 だが、少しほっとした。体は男のままだったから。 下着姿でも男特有のあのふくらみが目立たなかったから、もしやと思ったがどうやら思い過ごしだったようだ。心から安堵した。 が、甘かった。彼は聞き漏らしていたのだ。少女が最後に残したあの言葉を。 ――残りの服も袖を通したら順次変わっていくんで楽しみにしててくださいね♪ 彼はダンスからなるべく男に見える風な服を取り出し着替えた。が、袖を通した途端、女物になってしまったではないか。その後、何着か着替え直したが、結果は同じ。着る服着る服、すべて女物になっていく。 これは大丈夫だろうと海パンまで穿いて見たが、見事にパレオ付きワンピース水着に。学校指定の水着でさえ同じく学校指定の女子用水着になってしまった。そしてもう言う必要もないかもしれないが、下半身の違和感は誰がどう見ても感じられなかった。 そして、翌日…… 「ユキちゃん、似合ってるぜ?」 「由紀(ゆき)っていうなっ」 紺のブレザーを身に纏った女装の麗人(?)がいた。 今回はちょっと不思議な依頼でしたね。 私、あんな綺麗なおねえさんを男の人と間違える人がいるなんて今でも信じられません。でも、もう大丈夫。 おねえさんにお似合いの誰がどう見ても女の人に見える服を用意したんでもう男の人に見間違えられる事は絶対にありませんよ。 えっ、おねえさんじゃなくて、おにいさんだったんですか? ……またまたぁ、そんな嘘には誤魔化されませんよ。お洋服変えてあげたとき物凄く感動して立ち尽くしていたじゃないですか。だから、絶対におねえさんです。間違いありません。 それではまたどこかでお会いできるときを楽しみにしてます。 |