おかしなふたり 連載61〜70

第61回(2002.11.1.)
 歩(あゆみ)はぎゅうっ!と目をつぶった。
 もうそれしかしようがなかったのだ。
 ・・・長い時間だった。
 一体この間に何秒が経過したのであろうか。
 その声はすぐに降って来た。
「・・・なーんちゃってね!」
 すぐに全身をすりすりと触られる感触がする。
「はい!これでオッケー!」
 ・・・へ?
 ばふっ!という音。
「じゃあさ!ボクの方も適当に戻しておいてよね!」
 瞳を開けた時には、少年・聡(さとり)は部屋を出て行ってしまっていた。
 そして・・・身体の方は元に戻っていた。

 ・・・ほんのちょっぴりがっかり・・・なーんてことは無いからね!な、無いったら無いんだってば!

 一応聡(さとり)が元に戻るイメージはしておいたけど・・・どうなったんだろうか?
 その日の朝の朝食時には、もう何事も無かったかのようだった。
 あえて変わったことがあったと言えば、いつも寝坊気味の聡(さとり)がさっさと起きて着替えまで済ませていたこと位だろうか。
 そしてこの日から元々愛想の良かったわが妹は、よりこちらを可愛がる・・・というか、見た目だけはより“仲の良い兄妹”になったのだった・・・。


第62回(2002.11.2.)
 現実にこの日から数日は、完全に歩(あゆみ)は聡(さとり)のおもちゃ状態だった。
 一応聡(さとり)の方も気を使ってか、変身後にキスしたり押し倒したりはもうしなくなっていた・・・だが“可愛い物好き”なのは相変わらずなので抱きしめたくて仕方が無いらしい・・・。
 こっちは意地なので、これが始まったら絶対に聡(さとり)を男にしないように頑張った。
 何と言うか有象無象の圧力は感じるのだが、もう絶対に男になんかしてやんない!というものだった。
 何しろ聡(さとり)は歩(あゆみ)と違って「男の子になる」のを完全に楽しんでいる様子なのだ。つまりまるっきり「お返し」の意味が無い。
 しかも「男女入れ替わり」状態になった時の無邪気な「いたずら」が恐くて・・・

「はい!目ぇ開けて!」
「・・・あ・・・」

 そこには“ボレロ”と呼ばれる制服に身を包んだ美少女がたたずんでいた・・・


イラスト おおゆきさん

「お、お前・・・これって・・・」
「うん。思わず買っちゃった」
 それは「姿見」と呼ばれる全身鏡であった。
「“買っちゃった”ってお前・・・」
 歩(あゆみ)はファッションに詳しい方では無いが、それにしても1万円以下で買える様なものじゃないことは分かる。
「折角だもんね!」
 “初めて尽くし”のここ数日の締めくくりに“初めて女の子になっちゃった自分の姿を鏡で見る”体験が書き加えられた。
 これが・・・これが・・・おれ・・・?
 凛々しく、清潔感溢れる制服姿の美少女がそこにはいた。
 ほんのちょっぴりその胸の奥に誇らしげな優越感が芽生えていたのを、歩(あゆみ)は気が付かないフリをしていた・・・。


第63回(2002.11.3.)
 聡(さとり)は、「制服図鑑」みたいなものを買い込んで「研究」を始めているらしかった。
 恐らく16歳の女子高生の妹を持つ年子の兄貴としては、日本でも最もその部屋に入れてもらっていると思う。
 そしてその目から見て、何だかそういう・・・その言ってみれば「マニアっぽい」・・・文献が増えてきた気がするんだけど・・・。
 元々仲の良い兄妹なのだが、このところの接し方はまるで“姉妹”みたいだった。
 いとこに“姉妹”がいるので分かるのだが、もう“分身”の様である。聞いた話では私服はもとより時には制服を、更には下着すら共有していたりするらしい。
 それは男にはちょっと想像しにくい皮膚感覚というか距離だった。
 ひょっとして・・・聡(さとり)はそういう「お姉さん」が欲しかったのかも知れない。
 というか、あの可愛がられ方は「妹」をいじっているみたい・・・というか実際の妹でもあんなに着せ替え人形状態にはならないとは思うのだが・・・。
 確かに「大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるの!」という言葉を真に受けて「おままごと」に付き合っていた頃に比べれば兄妹に距離は出ていた。
 しかしそれは必然だと思うのだが・・・。
 ともあれ、歩(あゆみ)は毎日の様に「新作」のモデルにされていたのだった。


第64回(2002.11.4.)
「どお?可愛いでしょ?」
「まあ・・・そう・・・かな」
 くるりとその場で回転する歩(あゆみ)。
 スカートがふわりと広がる。
「きゃー!もー!可愛いー(><)っ!」
 聡(さとり)はおおはしゃぎである。
 今日もまた、どこだかの有名女子高の制服を着せられているのだった。
 歩(あゆみ)に言わせれば、どれもこれもよく似ている・・・というのは最初のうちだけで、もう両手でも足りないほど色々な学校の制服を・・・勿論全部女子の・・・着せられた経験から、細かい所が微妙に違うらしい、という所は何となく気が付くあたりまでは達していた。
 「制服マニア」から最も遠かった男子高校生をそこまでにしたのだから、聡(さとり)の洗脳政策も大成功・・・という訳では無く、それは制服自体の魅力であっただろう。
 その多様さ、意匠の見事さをもう“身をもって”思い知らされていたのだ。
 実は・・・歩(あゆみ)は毎日の様に、性転換した後の自分の姿を見せられていたのだが、制服1つでその雰囲気ががらりと変わることに感嘆の溜め息を漏らすこと多々だった。
 “可愛い物好き”で、実はクラスの女子にも一目置かれているらしいこの妹が、変身させた後の姿が元から「可愛い」のは当たり前すぎるほど当たり前なのだが、それでも尚その「鏡の国の男装の女の子」はやはり「素材」なのだった。
 時に大胆に、ある時には可愛らしさを最大限に強調する“制服”はまさに変身アイテムだった。
 こう言っちゃ何だが、これなら本人の容姿に少々難があっても魅力が何割か増しになるだろう。また「ユニ(単一の)フォーム(形)」という性質から、同じ格好の人間が大勢集っている効果も見逃せないだろう。
 最初の内こそスカートをめくったり胸をむにむに揉んできたりした聡(さとり)だったが、最近はひたすらその制服(とそのモデル)を鑑賞することに勤めているのだった。


第65回(2002.11.5.)
 そうした日常がしばらく続いた後のことだった。思い出すのもおぞましい。それはとあるウィークデイのことだった・・・。

 その日はテストの影響で早く帰宅することが出来た。
 電車に乗って揺られている歩(あゆみ)。
 車内はそれほど混んでおらず、あちこちにまばらに空席があった。
 だが歩(あゆみ)は何となく座らずにつり革につかまっていた。

 そんな時のことである。



イラスト おおゆきさん

第66回(2002.11.6.)
 歩(あゆみ)は何の気なしに窓の外を眺めていた。
 それにしても・・・
 未だに歩(あゆみ)には毎日の様に自分の身に降りかかっている事態を客観視出来ないでいた。
 この車内にも何人か女子高生っぽいのが乗ってるけど・・・。
 このどこにでもいそうな何の変哲もないごく普通の男子校生が、都内の主要なデザインの制服は殆ど制覇・・・着たことがある、なんて誰が信じてくれるだろう。それも女子の。
 なんだかまた胸がドキドキしてきた。
 胸がドキドキ・・・
 そうなのだ。
 「制服を着せられる」と言ったって、よくある女系家族の末っ子いじり、とかではないのである。


第67回(2002.11.7.)
 よく「小さい頃は姉にスカート履かされてた」とか、「中学生になったら従姉妹にセーラー服を着せられた」なんて話があるが、今ここにこうしてつり革につかまって電車に揺られている男子校生、城嶋 歩(じょうしま・あゆみ)は、高校2年生にもなってそういった“被害”に見舞われているのだ。
 それも姉では無く妹の手によって。
 え?そんなの嫌がって暴れれば済むんじゃないのかって?
 それがそういう訳にはいかないのである。
 そもそも「女装させられる」というのがちょっと違うのだ。
 馬鹿馬鹿しい話だが、兄である歩(あゆみ)を妹である聡(さとり)は「性転換させる」ことが出来るのである。
 その上着ている服を念じるだけで自由自在に・・・何故か女物にだけ・・・変えることが出来るのだ。
 信じられない?
 そりゃそうだ。こうして回想していても自分で信じられないのだから。
 しかし・・・
 この胸に残るドキドキの下の乳房の感覚・・・そしてそれを押さえつけるブラジャーの拘束感・・・。


第68回(2002.11.8.)
 それがまざまざと蘇ってくる。
 そして・・・
 部屋に置かれた大きな姿見・・・等身大の、全身が映る鏡・・・に映し出された清楚な制服に身を包んだ美少女姿の自分・・・
 何度思い出しても事実なのである。
 恐らく今夜もまた制服のモデルにされるのだろう。もう関東圏内の有名無名の女子高生の制服は着尽くした感がある。
 ・・・って何て恐ろしいことを独白しているのか。
 でも事実なんだから仕方が無い。
 こんなことは当の女子高生にだって無理だろう。
 勿論制服マニアなんかにも無理だ。よほどの資産家でない限り破産してしまう。
 この特異な能力は兄妹どちらにも備わっていて、お互いを性転換&異性装させることが出来る。
 それも念じるだけで目の前でむくむくと変わっていくのである。
 ある日突然自覚されたこの能力は、もう生活の一部となっていた。

 さて、今夜は一体どんな格好をさせられるのか・・・
 昨日の晩には学校の制服関係は殆ど制覇したのでアルバイト関係に移行する。なんて言っていたな・・・。

 その時だった。


第69回(2002.11.9.)
「・・・?」
 瞬時に冷や汗が出てきた。
 これは・・・。
 いつもの感覚に感じられるんだけど・・・。
 背筋に冷たい物が流れ落ちる。
 こ、これは・・・これはいつものあの感覚じゃないか!
 パニックになりそうだった。
 まさか衆人環視の電車の中で大声を上げるわけにもいかない。
 慌てて周囲を見渡す。
 あちこちがまばらに開いている程度のゆるめの乗車率だ。
 何しろ今日はテストで午後に入る頃には学校から帰ってきているのである。いくら東京から神奈川に向かう路線といえどもこの真昼間にはそこまでの混雑は無い。
 しかしそれにしても無人という訳では無い。
 こ、こんなところで・・・せ、性転換・・・お、女になっちゃうなんて!
 胸の先っちょがうずいてきた。


第70回(2002.11.10.)
 どうしてよいのか途方に暮れていた。
 どうしたら?どうしたらいいんだろう?
 これまでさんざん性転換させられたり女装させられたり胸を揉まれたりスカートめくられたり抱きしめられたりキスされたり押し倒されたり・・・って考えるだけでも散々だな・・・させられてきたけど、それもみんな聡(さとり)の部屋の中や、自分の部屋の中だけだった。
 つまり密室だったのだ。
 その恥ずかしい姿を・・・聡(さとり)が言う様に、どこに出しても恥ずかしくない美少女であったとしても・・・他人に見られたことなんて一回も無いのに・・・。
 ツンと上を向いた形のいい乳首がむくむくと服を内側から持ち上げていく・・・。


「・・・あ・・・あ・・・」
 歩(あゆみ)は必死にその声を押し殺した。
 誰にも・・・誰にも気付かれて無いよな?
 歩(あゆみ)だって都会で十何年も育ってきているのである、電車に乗り合わせただけの他人にそれほど興味を抱く物なのかどうなのか位は承知している。でも・・・
 つり革から手を離し、ゆっくりと手に持った鞄を床に置く。
 その乳房の重さが上下に揺られる。
「・・・あ・・・」