おかしなふたり 連載251〜260

第251回(2003.5.24.)
 女子トイレの中の風景は・・・新鮮だった。
 当たり前なのだが、所謂「小」便器が無い。
 全てが個室なのである。
 なんとも物足りない。不完全に見えてしまうのだ。これじゃあ「大」に入るしか無いじゃないか!・・・その通りである。
 えーとその・・・ドアが開いている所に入ればいいんだよね・・・?
 当然ながらドアには締まっている物も開いているものもある。
 内側に向かって開くタイプのそのドアは、中から閉めて鍵を掛けることによって密室になる。
 健全な男子校生・・・今は違うけど・・・である歩(あゆみ)は、トイレの個室になんかそれほど頓着して来なかった。
 それも当然で、男子が個室に入るというのはそれはすなわち「大」をするというのと同義なので、心情的に憚られるのだ。


第252回(2003.5.25.)
 迷っていても仕方が無いので、スリッパをその場に脱ぎ、トイレに備え付けになっているスリッパに履き替える。
 ちなみにこの「校内履き」は、歩(あゆみ)たちが通う高校では、トイレにでも使われそうなものを普通の廊下で使用していた。トイレでは木製の下駄タイプのものを使っている。
 ふと足元を見てみると、ご丁寧にもそのスリッパまでがピンク色の女子用になっている。うーん。これは男に戻ったらちゃんと青に戻るんだろうか?こっちは聡(さとり)を男にする時にスリッパの色なんて意識しなかったけどな・・・。
 もともと念じるだけで相手を性転換するのみならず服までまるっきり変えてしまう能力に合理的な理論を求めても仕方が無いのだが。
 ともあれその場にピンク色のスリッパを脱ぎ捨てて、トイレのスリッパをつっかける歩(あゆみ)。
 トイレ独特の匂いが、陽気に舞い上がって鼻腔を刺激する。
 なんというか、掃除に使っている洗剤みたいな匂いである。
 男の時にもさんざん経験しているはずのこの匂いが、女子高生に変えられてトイレに飛び込んだ今のたちの悪い冗談みたいな非現実的体験を後押ししていた。


第253回(2003.5.26.)
 ドアの内側に入ってドアを閉める。
 今回は用を足しに入ったのでは無いので、便器が邪魔である。
 大きく便器をまたぐ形で仁王立ちになる。
 うう・・・これから上半身はだかにならなきゃいけないのか・・・。
 自宅でさんざん女にされて女装させられたけど、その時にもこんな目には遭わなかったぞ・・・。
 とはいっても“必殺ブラ外し!”をやったのは今回は聡(さとり)では無かったけど。
 な、なんだか胸がドキドキするなあ・・・。
 女装なんて毎日やってるのに・・・誤解を招くモノローグだけど事実なんだから仕方が無い・・・自分で脱ぐとなると・・・。


第254回(2003.5.27.)
 周囲の物音が気になる。
 これだけ聞こえるってことは自分がだすがさごそ言う音も全部聞こえちゃってるんじゃ・・・。
 何だか被害妄想というか、わけわからん領域に入っちゃってるけど、これが女子の感慨なのだろうか?
 確かに聞き耳を立てていれば隣で何をやってるのかはひょっとしたら分かるのかも知れないけど、そんな女子はいないって。


第255回(2003.5.28.)
 ぬ、脱いだ服ってどこに置けばいいんだろう・・・。
 周囲を見回す女子高生・歩(あゆみ)。“文字通り”の妹譲りのショートカットが揺れる。可愛い。
 ブラジャーのホックなんて留めたことが無いし・・・。当たり前なんだけど周囲には何も物を置く場所など無い。ここは更衣室では無いのである。
 ・・・ん?待てよ。何も全部脱ぎ捨てる必要は無い。その、上半身のシャツの前をはだけて背中に手を差し入れてそこで嵌め直せばいいだけじゃないか。
 じょ、上半身をはだけて・・・。
 想像しただけてかあっとなってしまった。
 て、でもそんなことをしたらおっぱいの先っちょがブラウスの内側にこすれて・・・。
 倒れそうだった。


第256回(2003.5.29.)
 と、ととととととととととととにかくだ。
 ぶ、ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶらうすのボタンを・・・。
 お、おおおおおちつけおちけつおちつけ。
 でも、よく考えたらこれって誰もない状況で女体を鑑賞するチャンスなんでは・・・?
 そうなのだ。
 この不思議な力によるお互いの性転換は、それぞれの完全コントロール下にある。
 だからいざ女の子になって女装させられたらそれは全て妹に見張られているのだ。だから聡(さとり)の知らない所でじっくりと自分の身体を鑑賞・・・なんてことは思いも寄らなかったのだ。
 そして、この間の帰宅途中の電車の中で遠隔操作でウェディングドレス姿にされるというトラブルを経験して以来、「常にお互いの監視下でしか絶対に変身させあわない」という『協定』が成立にするに至る。
 これでもう歩(あゆみ)は、衆人環視の中で予測不能の性転換&女装をさせられるリスクを回避すると同時に女の子になってしまった自分の身体を誰にも邪魔されずに観察する機会をも完全に喪失してしまったのである。

 ・・・だが、ここに思わぬチャンスが到来した。


第257回(2003年05月30日)
 この突然の入れ替わりと、勢いで決定したそのままの学園生活である。
 これは「お互いの監視下で無い性転換&異性装状態を持続する」という、二人の間の紳士協定を明らかに踏み越えるイレギュラーな事態である。
 ・・・ということは、少なくともしばらくの間はお互いに放ったらかしのまま、この姿のまんまということだ。何しろ迂闊に別の姿にしちゃったり、ましてや元に戻したりしたら・・・大変な事になる。
 電車に乗り合わせていた程度の人たちならいいのかも知れないが・・・ってそれも駄目だけど・・・クラスメートやなんかにこの変身体質がバレたら一大事である。
 じゃ、じゃあ今こそチャンスということに・・・。
 歩(あゆみ)はゆるゆるブラジャーの上にのしかかっているブラウスのボタンに手を掛けた!


第258回(2003年05月31日)
 唐突に聡(さとり)は思いついた。
「あ、そーだ」
「・・・何?」
 教室中の注目を集めまくっている中でまた何か言うんじゃないかと恭子はドキドキものだった。
 でも、そんなに悪い気分じゃないかも・・・。
 元々歩(あゆみ)ちゃんって悪くないとか思ってたし・・・。
「あ、いや何でも無い。うん」
 相変わらずにこにこなのだが、今日の・・・というか今の歩(あゆみ)は何を考えているのか良く分からないところがある。
 でもって、その歩(あゆみ)の中身は今は妹の聡(さとり)なのである。
 当然ながら聡(さとり)は約束を思い出していた。
 それは「お互いのコントロールを離れた所では変身させない」というものだった。
 つまり、こうしている間に勝手に相手を元に戻したり、他の姿に変身させたりしないということだ。
 とはいうものの、先日の「電車の中でウェディングドレス」事件の様に特に変身させようと思わなくても、強く考えたりすると変身してしまうということは充分ある話なのだ。
 ということは・・・、今この瞬間にお兄ちゃんがちゃんと(?)女子高生スタイルなのかどうかは保証の限りではないことになってしまう。
 それはマズイ。
 どーしよーかなーと聡(さとり)は思った。


第259回(2003年06月01日)
 それは結構大きな問題だった。
 何しろ今お兄ちゃんがどんな格好なのか分からないのである。

 ・・・まあ、普通に考えればさっきの格好してるだろう。ウチの制服だ。
 それに特に別のことを考えていた訳でも無い。きょーこちゃんと話していたんだし。それこそ今度はどこの制服着せようかな〜とか考えていた訳では無い。
 だから十中八九大丈夫なんだけど、まあメインテナンスしとこうかな。
 ちょっぴり意地悪っぽく微笑んだ聡(さとり)だった。


第260回(2003年06月02日)
 そーかー、女子の胸についてるリボンってこんな構造になってたのか。
 歩(あゆみ)は妙な事に感心していた。
 女子の胸元を飾っている蝶ネクタイ・・・では無いんだけどあのリボンについてこれまでそれほど感心を寄せた事は無かった。何しろまさか自分が身にまとうことになるとは思っていなかったから。
 毎日の様に着せられたり、この間などは起きたらこの制服姿だったりしたんだけど、・・・そこから脱ぐ事になったのは今度が初めてなのだ。
 知らなかった・・・。
 歩(あゆみ)はリボンをびよん、と引っ張ってみた。
 白くて細いゴムが首の回りを一周している。そしてその正面に赤いリボンがひっついているのだ。
 ふーん、こんな風になってるんだ。
 何と言うか、こんないい加減なものなんだ、と思った。別にいい加減という訳でも無いんだろうけど、歩(あゆみ)はあのリボン状の部分も男性のネクタイの様に女子は毎日きちんと結んでいると思っていたのだ。
 それが固定式でゴムにくくりつけてあるというのだから何だか拍子抜けである。
 ま、いーけどね。別に。
 歩(あゆみ)はリボンを少し引っ張って、手を離した。
 はちん、と首元に赤いリボンが当たる。