おかしなふたり 連載291〜300

このページのイラスト:おおゆきさん

第291回(2003年07月03日)
「あ・・・あ・・・」
 可愛そうに顔面蒼白になってガタガタ震えている翔。
 完全にトラウマものである。
 そして・・・。
「さ・・・とり・・・」
 ぺったんこになってしまった下腹部のこの感覚・・・。
 そう、歩(あゆみ)はこの瞬間、つま先から頭のてっぺんまで、そして身体の中身や機能まで完全に「女」になってしまったのだ!

 何度となく体験してきたけども、やっぱり「女になってしまう」のは複雑な気分である。戻れなかったらどうする積りなんだ!!
 歩(あゆみ)はちらちらと目配せする。
 “もういいだろう?”という意思表示である。
 一応この変身劇も「コンビプレー」なのだから、こちらが勝手に終わらせる訳にはいかない。
 と、聡(さとり)は、翔に見えない様にバチッ!!とウィンクして親指を立ててくる。
 「まかせて!」と小さく言った。
「あらあら!まーだ反省してないみたいね!」
「・・・え?」
「そんな悪い子には・・・ブラジャーしてもらっちゃうわよ!」
 と、言うが早いがTシャツの内側に出現したワイヤーがアンダバストを締め上げ、背中でプチっ!とホックが止まる。
「・・・っあぁ!」
 ゾクッ!と軽くのけぞる美少女・歩(あゆみ)。


第292回(2003年07月04日)
「ああ・・ああ・・あああ・・・・・」
 翔の声は正に“思わず出てしまった”それだった。
 相当の恐怖を感じていないとこんな声は出ない。
 歩(あゆみ)も本能的にそれは分かった。
 てゆーか今自分が体験している現象そのものだって、慣れていなかったら恐怖そのものである。
「ふふふ。ちょっとは反省したみたいね!」
 まだ芝居を続けている聡(さとり)。
「でもまだ許さないわ!パンティー履いちゃいなさいっ!」
「・・・あ・・・ああっ!」
 しゅしゅしゅっと面積を縮めていくガラパン。
 素肌に吸い付くように密着し、つるっとした表面に置き換わっていく・・・。
 しかも、今回はとりわけその“面積”が小さかった。
 前の一部分しか隠してないみたいだ。身体の横部分の生地が殆ど無い・・・てゆーかこれって・・・ひもが一本だけ!?
 も、もしかして・・・こ、これは「ひもパン」だあっ!



第293回(2003年07月05日)
「でもって仕上げよ!」
 そこからの変化はまさに“一気呵成”だった。
 何の変哲も無い白っぽいシャツは、見る間に鮮やかな朱色に変わっていく。
 Tシャツの袖はぐぐぐ・・・と縮んでいき、ノースリーブになってしまう。



「うわ・・・あ・・・」
 これまで色々と“女装”させられてきた歩(あゆみ)だが、各種制服にメイド衣装、そしてウェディングドレス。せいぜい体操服にブルマと、実は「露出度が上がる」変身はそれほどさせられてこなかったので、これには面食らっていた。
 肩から先が完全に露出した。
 やっぱり美しい女性の肌は、少し露出度が上がっただけで“ドキッ!”としてしまう。
 目の前で困った顔をしている翔(しょう)も間違いなくそう感じているはずである。
 ましてやこの陽気で軽く汗ばんだ肌が、美しい髪の間に露出するのである。その健康的な肉体美は、いい年をした大人の男でもたやすく篭絡する色気をみなぎらせていた。
 ・・・もちろん、わきの下は綺麗に処理してある。
 聡(さとり)の仕事はソツが無い。

 ノースリーブになった袖とは裏腹に、首回りは生地の量を増やし、くるりと包み込んでしまう。
「・・・ん・・・」
 ちょっぴり苦しくなっただけなのに相変わらず悩ましい歩(あゆみ)。


第294回(2003年07月06日)
 なんというか、この「窮屈な感じ」というのはなんとも微妙な感じである。考えてみれば女性の衣装というのはこの「窮屈な感じ」と、妙に「解放された感じ」の波状攻撃みたいなものである。
 ブラジャーの拘束感ときたら、さながら拷問道具である。
 お腹の上のあたりを締め付けられる息苦しさは・・・幸か不幸かもうかなり慣れてしまったが・・・たまったもんじゃない。生粋の女の子であっても初めてつけた時の違和感はかなりのものだと聞いた事がある。
 それでいて、下半身には下着しか身に付けていないかの様なスカートの開放感・・・。
 いや、“開放感”ったって解放しすぎである。

 それほどちぐはぐな女性物の衣装。
 今回はそこに、「首回りを覆う」オプションまで追加された!
 実は歩(あゆみ)は中学時代は学ランのある学校に行っていた。
 あの襟カラーのことを考えると今でもゾッとする。
 暑苦しいわ息苦しいわ、まさに拷問であった。

 今回のそれは、学ランの襟カラーとは大分違う。
 ふんわりと優しい生地で包み込んでくる。
 歩(あゆみ)は自らの首までもが、ざらざらした育ち盛りの男子校生の肌ではなく、きめ細かい女性のそれになり、のどぼとけも消滅しているからであろうか、首回りを覆っている生地の内側に、着せられた憶えのある女性物の下着特有の“柔らかくてすべすべした感じ”を受けていたのだった・・・。


第295回(2003年07月07日)
 薄っぺらかったTシャツが二枚重ね以上の厚みをもつ生地に変化していく。
 それと同時にその表面には金色の刺繍がうねり、表面には赤い光沢が増していく。
「あ・・・ああ・・・」



 何時の間にか長ズボンのベルトの固い感覚は消滅し、身体全体が1つの長いトンネルに包まれていた。
 少しだけ脚を動かしてみる。
 しゅつっ!
「・・・っ!」
 まただ。
 またスカートを履かされている・・・、しかもこれは・・・ワンピーススカートだ!
「お・・・っさ・・・ん・・・」
 せめてもの強がりなのか、毒舌を吐く翔だったが、目の前で展開する余りにも大胆な変身劇に言葉が続かない。
 身体を包む一本の筒が、上半身から次第に引き締まり、その美しいプロポーションを包み込んでいく。


「ううーん、お兄ちゃん。流石に綺麗な身体してるわね!」
 ・・・ってお前がやったんだろうが!
「ちょっと立って見ましょうか」
「え?」
 これまでに聞いた事の無い台詞だった。


第296回(2003年07月08日)
「う・・・あ・・あああっ!」
 歩(あゆみ)の身体が意思に反して勝手に立ち上がる。
 思わずその場からずざざっ!と後ずさってしまう翔。
 立ち上がった歩(あゆみ)の身体には、今や原形を留めていないTシャツと長ズボンが。一本の筒となってまとわりついている。
 ツンと上を向いた形のいい乳房と、きゅうっと引き締まったウェストに続いて豊満なヒップにかけてその生地のまとわりつきは続く。
 ガタガタと震え続ける翔。トラウマどころかこの場でショック死するのでは無いか。
 靴下も履いていなかったのに、その歩(あゆみ)のその足にはどこからともなく真紅のハイヒールが現われ、きゅん!とお尻を突き上げたポーズで立つことを強制される。
「あ・・・あ・・・」
 抵抗できない歩(あゆみ)。
 僅かに足首が外に現われた瞬間、全身が真紅に染まることに成功した。
 ことここに至って歩(あゆみ)にも状況が理解出来た。
「さあ!一気に仕上げよ!」
 その瞬間、さっき翔親子が来る前の城嶋家の家族の会話を思い出していた。
『今日は中華でも食べに行こうか』


第297回(2003年07月09日)
 金色に見える縁取りの細いロングスカートに“ぱかあっ!”と切れ目が出現する。
 その切れ目は身体の両脇に二箇所あった。
「・・・?」
 そのヘンな感触に思わず覗き込んでしまう歩(あゆみ)。
 それと同時だった。
 すぱあーーーっ!と物凄い勢いでその裂け目が切れ上がってくる。
「わああっ!」
「やっぱ“これ”が決め手よねっ!」
 もうウィンクとかしている聡(さとり)。
 膝の高さを越えて更に攻め上がる裂け目。だが、その勢いは留まる所を知らない。
「ちょ、ちょっと!ちょっとお!」
 思わず可愛らしい仕草でスカートの裂け目を隠しちゃいそうになる歩(あゆみ)。
「今日は丈は長いけどその分大胆バージョンよっ!」
 ふとももを越えて、普通ならパンツが見える高さになり、更にもう「腰」の真横あたりまでスリットが入った!



「あ・・・ああ・・・」
 は、恥ずかしい・・・。
 ちょっと脚を動かしただけで大胆に露出する脚線美状態である。
 そ、そうか・・・だから「ひもパン」なんだ・・・。
 歩(あゆみ)はヘンなところで感心していた。
 ともあれ、「チャイナドレス」は完成してしまった!


第298回(2003年07月10日)
 翔(しょう)の心臓ははちきれそうだった。
 身体の中で太鼓を叩いているかのような凄まじい動悸。
 口から心臓が飛び出しそうだった。
 人間が目の前で異形のものに変えられていく恐怖・・・だがここで変えられたのがおとぎ話の様に動物だったり石像だったりすればよかったのだろうが(?)、そうでは無かった。
 “へぼいお兄さん”は、“綺麗なお姉さん”に変えられてしまったのだ!
「さ・・・とり・・・」
 その声も今は可愛らしい。
 こうして見ると真ん中に大きく膨らんだ「腰」の部分の丸っこさが強烈である。
 そしてそこから伸びた脚が長いスカート脇のスリットからちらちらと見えて・・・。
「あー、はいはい“おしおき”なんだから最後までやらないとね。そーれっ!」
 腰まで伸びていた長い髪がするするするっと生き物の様に勝手に纏まっていき、「おだんご」状態に結ばれていく。



「わあ・・・ああ・・・」
 その動きに恐れおののき、またも声が漏れてしまう翔。
「あふ・・・あ・・・」
 まつ毛が次第に重くなり、その瞼には濃いアイシャドウが乗っていく。唇をぬるりと真紅のルージュが撫でる。



「・・・っあ!」
 頬をほのかな紅が飾り、追い討ちを掛ける様に耳にはイヤリングが飾られる。
 変化はまだ終わらなかった。


第299回(2003年07月11日)
 その爪は照りを放つ真紅に彩られていく。
「はい!でーきた!」
「あ・・・あ・・・」
 そこにいたのは先ほどまでのどこにでもいる育ち盛りの平凡な男子高校生では無かった。
 抜群のプロポーションを妖艶なチャイナドレスに押し包んだ楚々とした美女がそこにいたのである。
「はい!これでおしおき完了よ!お兄ちゃん、これからは粗相をしたりしちゃ駄目よ!もしも同じ事をしたら容赦なくまた女の子にしちゃうからね!」
 歩(あゆみ)には聡(さとり)の言葉が半分くらいしか届いていなかった。
 これまで聡(さとり)以外の人間に見られる形で性転換されたのは・・・やはり電車の中で花嫁姿にされたのが一番衝撃的だったのだが、こうしていつも性転換されている部屋に外部の人間を引き入れたのは初めてで、これはこれで中々刺激的である。
 身体を少し動かしただけでいつもの「女の身体の感触」がする。
 今日はしかも長いスカートでありながら大胆なスリットの入ったチャイナドレスである。
 不思議なもので、いつも着せられている高校の女子の制服などは脚が殆ど見えている訳で、それに比べれば露出度は非常に低いはずだ。にも関わらず隠している領域がずっと多いはずのこのチャイナドレスの方がずっといやらしいのは何故なのだろうか。
 重いまつ毛の下から覗く視線の中に、それは飛び込んできていた。
 言うまでも無くこの趣味のために一回の女子高生がなけなしの小遣いをかき集めて購入した全身鏡、「姿見」である。




第300回(2003年07月12日)
 ドキドキしつつも見てみたい様な見たくないような複雑な心境が喚起される。
 見ると翔の様子は変わらない。これ以上は無いであろう心理的ショックを受けている。
「お兄ちゃん!反省したかな?」
「あ・・・はい。ゴメンなさい」
 適当に調子を合わせておく。
 厚く塗られた口紅が何とも暑苦しい。
 軽く頭を下げたことで耳元でイヤリングがちりちりと鳴って鬱陶しい。
「よし、じゃあ今日はこの辺で勘弁してあげるわ」
 何とか許して貰ったらしい。
「じゃ、ちょっとあたしは自然が呼んでるから」
「え・・・あの・・・ちょっと・・・」
 “自然が呼んでいる”というのは「聡(さとり)語」の1つで、要は「トイレに行って来る」という意味なのである。
 聡(さとり)は翔に聞こえない様に小さく言った。
「大丈夫だって。すぐに戻してあげるから」
「でも・・・」
「何よ?男と二人っきりで不安なの?」
 完全に楽しんでいるコメントだった。
「じゃねー」
 次の瞬間にはもうドアが閉じられていた。
 女にされ、チャイナドレス姿に装わされた歩(あゆみ)は翔とたった二人で部屋に取り残されたのだった。

*連載300回達成!
 皆さんのお陰です。感謝!