おかしなふたり 連載391〜400

第391回(2003年10月11日)
 とるものもとりあえず、とにかく奥のドアに駆け寄る。
 重い・・・何て重いドアなんだ・・・。
 でも鍵が開いていたのは幸いである。
 もしもここで鍵を開け忘れていた、なんて話になったらオーバーオールとOLの制服のあいのこみたいな変な格好でさっきの撮影スタジオに飛び込まなくてはならなくなる所だ。
 それにしても・・・、まさか中に入ったら録音スタジオだけに、沢山の人が作業中、とかそんなこと無いよな・・・。
 さっきのキザ男が一緒について来やしないかとドキドキだったのだが、無事にドアを閉めることが出来た。
 7月の陽気にも関わらず半地下のこの部屋はひんやりと涼しい。
 そこでこんなにドキドキして汗をかいているのだから何をやってるんだか。
 変化は続いていた。
「ああっ!」
 着ている服を女物に変えられるのはいつものことだったのだが、やはりインパクトはある。
 紺色だったそのオーバーオールが殆どピンク色に変わっている。
 ・・・さっきのキザ男にはこれを見られたのかな・・・。
 などと考えている暇も無く、すっぱりピンク色に変わってしまい。その材質も薄手のそれに変わっていた。
 歩(あゆみ)はちょっとホッとした。
 どちらかと言うとこの色が可愛いと思っていたからだ。
 ・・・って別に“いつかは着てみたい”とか思ってたわけじゃないからな!


第392回(2003年10月12日)
 変形は続いた。
 いつもの変身と違ってもう女の身体にはなっていて下着も完備しているのが違うところだろうか。
 オーバーオールが上下にセパレートした。
 ズボンに当たる部分はしゅるしゅると丈が短くなって行く。
「あ・・・あ・・・」
 当然ながらそんなことをされれば長ズボンに隠されて安心していた素脚が露出されてきてしまう。
 思わず両足をぴたりと密着した。
 それとタイミングを合わせるかの様に、ズボン状に両足を仕切っていた記事が消滅し、脚同士の素肌が直接触れ合った。
「ひゃっ!」
 ひんやりと冷えた空気に、内股にかいた汗が冷たい。
 強固に、堅牢にガードされていた下半身が一気に開放されてしまったかの様だった。
 これまででも最も劇的なズボンからスカートへの変貌劇だった。
 思わず自分の下半身を見る。
 変化はもう殆ど最終段階だった。
 膝丈のミニスカートが綺麗に形作られている。
 ピンク色のオーバーオールという奇妙な姿の少女は、下半身だけが脚線美も露なミニスカートという、女の子にも関わらず女装しているみたいな事態に陥っていた。
「うわっ!」
 男の子だけに、ぴったり吸い付く素脚の感触を嫌って無理矢理話していた脚が、ぐい!と力任せに一緒にされたみたいだった。
「な、何だ!?」
 簡単だった。
 スカートが、単なるミニスカートから細い細いタイトスカートへと変貌していたのだ!


第393回(2003年10月13日)
 オーバーオールに存在した金具部分が消滅して薄く広がっていた。
 そしていつの間にかTシャツの生地が光沢を放たんばかりのつるつるの材質に変わっているではないか!
「こ・・・これは・・・」
 思わず指先でしゅるっと撫でる。
 その指先も心なしか先ほどの少女っぽい造形ではなくて、白魚のような淑女のそれになっている・・・様に見えた。
 さ、聡(さとり)の奴・・・まさか身体まで“大人の女”にしてないだろうな・・・。
 首元がすうっと涼しくなる。
「あ・・・」
 これが・・・これがブラウス・・・。
 気がつくとその身体を触っている手そのものを覆っている部分の材質もすべすべになっている。
 体型を隠していたオーバーオールに比べてタイトスカートにブラウスといういでたちは、その華奢なプロポーションを浮き上がらせていた。
 ほんの少しだけ厚く感じられる背中と腕以外の部分。
 見ると、オーバーオールの上半身だった部分が、スカートと同じピンク色のベストとなって纏われていた!
「あ・・・」
 歩(あゆみ)はぽっ!と頬を染めた。
 主観始点で見下ろす自らの身体は、これまでに経験したことの無いものだった。
 ほっそりとしたOLの制服に身を包んだその女体は、まさしく“綺麗なお姉さん”という雰囲気だったのだ!

 するするとスカートの中で素脚をこすり合わせる。
 ゾクゾクゾクっ!とした。
 下半身の衣類がズボン状であった時には途中でせき止められていた下着がスカートとなって開放されたのを期に垂れ下がり、ふともも辺りまで均等にやって来ている。
 そのつるつるしてすべすべの感触もさることながら、スカートの内側の裏地までもがそうした生地で覆われており、動かした拍子にそれが脚を撫でたのだ。


第394回(2003年10月14日)
 ちょっときょろきょろと周囲を見回してしまう。
 流石にいつも変身時に身の回りにあった鏡はここには無い。
 まあ、大体自分の格好の見当はつく。こうして見下ろすことも出来るしね。
 しかし・・・今までで一番大人っぽい格好かも知れない。
 まあ、この間ウェディングドレスを着たことは着たんだけどあれは年齢不詳の衣装と言えないこともない。
 そして“術者”である聡(さとり)の趣味もあって、これまでの変身は殆ど女子高生の制服ばかりだった。ピンクハウスとかもあったが・・・そういえばチャイナドレスもあったな・・・。
 ということで大人っぽい格好は初めてでは無いんだけど、やっぱりOLの制服というのは独特の凛々しさがある。
 ・・・髪の長さはそのまんまみたいだな・・・。
 流石に聡(さとり)も少しは物を考えている。この上髪の毛の長さまで変わったのでは怪しいどころの話ではないからな。
 そういえば・・・メイクとかはしてるんだろうか?
 まあ、ぐずぐずしていても仕方が無い。
 こんなアホらしいことはさっさと終わらせるに限る。
 ここまで付き合ってやれば流石にちょっとは性転換&女装をしばらく免除してもらえるかも知れない。
 ・・・単にレパートリーが増えただけのような気もするが。


第395回(2003年10月15日)
 重いドアをぐい、と引っ張る。
 この格好で他人の前に出るのは顔から火が出そうなほど恥ずかしいのだが、もうやけくそである。
 さっきまでは長いズボン姿だったんだけど、今じゃあ膝丈のスカートだもんなあ・・・。
 それにしてもなんて窮屈なスカートだろう。大股になることも出来ないじゃないか。
 これまで着た事がある衣装・・・制服のミニスカートはプリーツが入っていて幾らでも開いたし、そもそもちょっと上半身を屈めても見えちゃいそうなミニスカートである。行動の自由は保障付きだ。セーラー服も同様。こっちのスカートも長いけど問題ない。ピンクハウスなんて体型を隠すほどゆるゆるだし、ウェディングドレスのスカートなんてその大きさがウリみたいなもんだ。チャイナドレスは確かに細いんだけど、横にぱっくりスリットが口を開けていた。・・・というより身体の前後に“垂れ幕”を垂らしたごとくだったのだ。
 その意味でこれまでで最も行動を制限するスタイルと言えるかも知れない。
 不思議なもので、こうやって制限されると無闇に動かしたくなってくる。普段は動かすことが出来るからといってそんなに動かさないのにね。やっぱり「選択の余地がある」というのが精神的な余裕になっているのか。
 少し手前に引っ張って開きかけたドアから手を離す。
 そして・・・今やOLとなった歩(あゆみ)はドアが自重で閉まりきるのを確認すると、思わぬ行動に出た!


第396回(2003年10月16日)
 ごくりと唾を飲み込む。
 そして何と・・・思いっきりガニ股のポーズをしたのだ!
 “ビンッ!”とタイトスカートが張り詰めてそれ以上広がることが出来なくなる。
 おお・・・本当にこれ以上ガニ股になれないぞ・・・。
 そのポーズは出来ればこの世の誰にも見せたくないほど間抜けなものだった。
 すぐに広げていた脚を戻す。
 うう、本当にタイトなスカートだよお・・・。
 何をやってんだか分からないが、ちょっとやってみたかったのだ。
 それにしてもこれまでの衣装に比べても心理的に何とも窮屈というか、改まる感じがする。
 予測だけども、学校の制服というのはまだまだ自由の象徴でもある。私服類に至っては言うまでも無い。
 チャイナドレスは・・・私服なんだか制服なんだかよく分からないし、ウェディングドレスは状況が特殊すぎて一般性が無い。
 その意味では、「全員が同じ格好をしている」制服で最もフォーマル度が高いのが“社会人”でありながら制服であるのが何ともねじれている。
 ま、ともかく今出来ることと言えばこのくらいだ。
 今度と言う今度はドアを開けて廊下に出た。
 何故か目をつぶってしっかりドアまで閉める。


第397回(2003年10月17日)
 自然と足元を見てしまう。
 これは・・・よく観るとスニーカーがパンプスになっている。
 芸の細かい奴だなあ。
 と、妹に感心する兄。
 振り返ると!
 そこにはさっきのキザ男が目をまん丸にして驚いているではないか!
「・・・!あ、あの・・・」
 歩(あゆみ)も危うく大声を出すところだった。
 誰もいないと思っていたところに人がいた時の衝撃というのは独特のものがある。
「あ・・・いやその・・・。すいません」
 何を謝っているのか。
 手でお礼をする感じで目の前を横切る。
 ま、確かに驚くだろうな、とは思う。
 さっきまで性別不詳のオーバーオール少女だったのがあっという間に楚々としたOLになって出てきたのだから。
 待てよ・・・。
 歩(あゆみ)は思った。
 何しろ歩(あゆみ)は女物の服を“着替えた”ことが無い。
 服の方で勝手に(?)変形してしまうので“着る”手間がいらないのである。であるから着る時の苦労といったものが分からない。
 よく考えたらオーバーオールを全部脱いでこのOLルックになるのにしては時間が短すぎたんじゃないのか・・・?
 それは女物をしょっちゅう着てはいても、“着替えた”体験が皆無という歩(あゆみ)ならではの意識だった。
 ま、そんなことを考えていても仕方が無い。
 今度は写真スタジオの方の重いドアを開くOL。
 キザ男は目の前の距離数十センチの突然現れたOLがかすかに放つ芳香に酔っていた。


第398回(2003年10月18日)
 重い重い扉を開けて写真スタジオになった部屋に入る。
 その時だった!
「っ!!」
「!!!っ!」
 目の前で2人の女性がびっくりしている・・・。と思ったら一人は男だった。
「お兄ちゃん!・・・じゃなくってお姉ちゃん!」
 眉間がぴくぴくする歩(あゆみ)。
「っ!さっきの子なの!?」
 恵(めぐみ)さんがビックリしている。
「は、はあ・・・」
 やっぱり雰囲気がかなり違うからなあ・・・。
 と、鏡を見ることが出来ない歩(あゆみ)は自らの凛々しく、かつピンク色と白の制服が醸し出す何ともいえない可愛らしさに気が付いていないのだった。
「うん!丁度いいわ。イメージぴったり!」
「よかった!ピンクでよかったんですね」
「え?うん。そうなのよ」
 ギリギリセーフか。
 気が大きいほうではない歩(あゆみ)は、背後で展開されている写真撮影クルーにこの大騒ぎが邪魔になっていないかそっちの方が期になって仕方が無い。
「それにしても可愛い・・・」
 自分でやっときながら少年になっている聡(さとり)がこっちをうっとりと見つめている。


第399回(2003年10月19日)
 そ、そんなにじろじろ見つめられると・・・ちょっとその気になっちゃうよな・・・。
 ふと視線を下げると、ピンク色のベストに見ているだけでもやもやした気分になりそうな白いブラウスが可愛らしい。
 そして元々細身の歩(あゆみ)の身体から考えても驚くほど細い、折れそうな体躯の上に乗った乳房がその制服を持ち上げている・・・。
 耳元に被る髪の毛の暑苦しさにも段々慣れてきてしまった。
 うーん、これはもう客観的には完全に女だよなあ・・・。
 大きなお尻にぺったんこで、お尻が比率として大きくなっているので男の時には考えられないほど広いスカートの前がいやがおうにも今の自分の体型を教えてくれる。
「うーん、セクハラしちゃうぞ!」
 という声が聞こえてきたと同時にお尻を“さわさわさわ〜っ!”と生暖かい感触がなぞっていった。
「きゃああああっ!!」
 背筋がゾゾゾゾゾ〜っ!として思わず飛び上がった。
 聡(さとり)の奴が思いっきりそのキュートなお尻を撫で回したのだっ!!!


第400回(2003年10月20日)
「おい!静かにしろよ!」
 ステージの方から怒声が飛ぶ。
「あっ!すみませーん!」
 恵(めぐみ)が機先を制して謝る。
 がるるるる・・・と獣・・・というより怒った子猫みたいな歩(あゆみ)が聡(さとり)を睨み付ける。
 首をすくめて恐縮している聡(さとり)珍しいこともあるもんだ。
 やっぱり他人に怒鳴りつけられるのは応える。
 ・・・かと思いきや楽しそうにウィンクして舌を出している。
「ごめんなさい」
 と、あくまで楽しそうに恵(めぐみ)に対して小声で言う。
「でもやっぱりOLと言えばセクハラだと思って」
 どんな認識だ。