「学校へ行く!」

作・真城 悠

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 会場に響き渡る拍手。

 脂ぎった司会者が声を張り上げる。

「はい!それでは次のコーナーはこちら!」

 ぱっ!と画面が切り替わる。

「世の中の乱れた学生を許しておけない奴がいた」

 との文字の表示とナレーション。盛り上がる会場。

 

 むしゃむしゃと夕食を食べながら画面に見入っている平凡な家族。

 

 TV画面の中で、「校則違反」と称して街を行き交う人々の中から、特に非常識な格好をした若者を呼びとめている。その中には俗に「山姥」と呼ばれる真っ黒な顔に白く染めた髪、ピエロの様な目の回りを白く塗ったメイクの女子高生が登場する。

 

「おいおい、なんだよその面は」

「ひどいわねえ」

 画面に向かってのツッコミの絶えない家庭。

 

 何人かに声をかけたものの、断られ続けているのだろう次から次へと声をかけている。

 と、極め付けの一人を捕まえる。

「きみきみ、何かねこれは」

 アイドルタレントがあきれて声をかける。

「うお、おう」

 「パンク」と書いてあるあちこち破れた服に、ズボンをだらしなくずらして穿いているためにはみ出した下着。日本人とは思えないボサボサ髪の色、黒いというより汚らしいその肌。何より凄いのが鼻からじゃらじゃらと吊り下げられたアクセサリー類である。それは耳と繋がったチェーンやら釣りのルアーなんか混じっていたりして全く脈絡が無い。

 余りの酷さに引きまくっている一般家庭。

「これは君、自分で格好いいと思ってるのかね」

 おどけて聞くタレント。

「うお、いいんじゃないすか」

 なにやら虚無的で虚ろな反応。表情はだらしなくへらへらにやけているが、その目の色が濁っている。

「それじゃあ、髪、切ってくれますか?」

「はあ、いいすよ」

 別の場所に連れて行かれるパンク。

 

「しかしひどいなー」

「あんなのが街を歩いてんのか」

 

 別の場所で、大掛かりなセットの前に立っているタレント二人。もう暗くなっており、その周りに大勢のギャラリーが集まっている。

「いやー凄かったですねえ」

「何だったんでしょうか」

 ひとしきりパンクの服装の話に花が咲く。

「はいそれでは変身後の顔を見たい人」

 ギャラリーから何人か手が上がる。一人の女の子が指名される。

「はいそれでは登場していただきましょう!カーテン、オープン!」

 さっきまでパンク風の格好をしていた人物が後ろ姿で登場する。

 学生らしい黒い革靴に清潔な白いソックス。膝下5センチまであるプリーツスカートに純白のブラウス。その背中に少し掛かる程度のセミロングの髪。

 おおーという声。

 

 箸が止まる家庭。

「……?」

 

 変身後の目の前に、目をつぶったまま連れて行かれる観衆の一人。

「3,2,1、どうぞ!」

 目を開ける女の子。

 大きく目を見開く。

「え…!(小さく)うそー…」

「どうですか?」

「す、凄く可愛いです…」

 呆然としたままの彼女を観客の中に返すタレント。

 

「…何か…変…じゃん…?」

「そ、そうね…」

 

「はい、それでは振り向いていただきましょう!いいですか皆さん!5、4、3、2、1、どうぞー!」

 振り向く制服。

 ため息の漏れる会場。

 そこにはえくぼもまぶしい美少女が清楚な制服に身を包んで嬉しそうに立っていたのである。

 

 かたん、と箸を取り落とす多くの家庭。

 

「どうですか、変身してみて」

「えー、嬉しいです」

 何だか口調まで別人の様である。

 画面下に比較のための写真が映し出される。そこにはやはり鼻からルアーをぶら下げた不気味な男が映っている。

 

「…な、何だこれ?」

「男…だったよね…?」

 

 白い歯の笑顔を振り撒きながら軽く手を振ったりして会場を後にする制服姿の女の子。

 カメラがスタジオに戻る。

 脂ぎった司会者が驚いている。

「いやー、あんなに変わっちゃうんだねー」

 ゲストからも感嘆の声が漏れる。

 

「いや…そういう問題じゃ無いんだけど…」

 

 ひとしきり褒めた後、司会者はまるで編集されたかのように強引に話題を打ちきる。

「はい!それじゃ次のコーナーはこちら!」

 視聴者の疑問を置き去りにしたまま番組は進行していくのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 どうも。真城です。

 これは読む人が読めばお分かりの通り、TBS系で放送中のバラエティ番組「学校へ行こう!」の一コーナーのパロディです。

 街で声を掛けた非常識な格好の若者を、まあ常識的な服装にするという名物コーナーです。本当にがらっと変わるのであきれます。

 中でも面白いのは不良然としたカップルを、いかにも優等生姿にするバージョン。この時に「ごたーいめーん」と、「変身」したお互いの姿を確認させる、というシチュエーションは格別。1回、伊達眼鏡を掛けさせられた女の子が「取ってみてよ」と言われて取るとむちゃくちゃ可愛かったり。さっきまでの山姥面は一体何だったのか?とにかく、「変身」の楽しさに溢れたコーナーと申せましょう。

 ところがある週、カップルが調達出来なかったのか男二人組みが登場しました。その時に思いついたのがこのお話です(笑)。

 何せ、これまではお互いに相手の新たな魅力を発見したカップルが仲良く手を繋いで去る、みたいなのを見慣れていたので二人目が登場したとき…あらぬ期待をしたのですがそんなことがあるはずがありませんね。それはそれで面白いでしょうけど番組が違います(爆)。

 でも男同士での「ごたいめーん」はなんだかだったなあ…番組スタッフに話し掛ける華代ちゃん…とか。

 ということで今回はこれで失礼します。

 

最新版解説

 件の「ハードボイルド教師・GO!森田」というコーナーが消滅してからかなり経ちますが、当時とはかなり違っているところが多いです。

 その後「ガチンコ!」「ガキバラ帝国2000」など、同様の素人参加番組は増えてきたのですが、どうにも「やらせ」臭いんですな。特に「ガチンコ!」が実はやらせらしいというのはかなり広く噂されているらしいです。「やらせ」は言い過ぎでも「演出」の名の元に「分かりやすい」方向に映像を操作するのは普通のことですから。

 そんな訳で以前よりも純粋な目で見られなくなっております(^^。まあ、不条理TS度はそれなりにあると思われるので再録しました。