『恐怖の大王』葦辺 勉(88年・遊出版)



 いかにも八十年代的なタイトルで、当時からしてみれば近未来(99年)が舞台となっている。

 ストーリーは『恐怖の大王』というのは、一部の人間に与えられてしまった特殊能力である、という設定、ということに一応なってはいるが、結局はSEXシーンを展開するための前振りである。
 東京を思わせる大都会で、奇妙な事件が連続で発生していた。
 何の前ぶれも無く人間が忽然と失踪するのである。それと同時に深夜の辻レイプ事件も多発するようになる。

 主人公の刑事・山中は親しかった友人がやはり失踪したことから事件と関わるようになる。
 その内、毎日のように起こる辻レイプ事件と失踪事件に関連があり、それを上層部が必死に隠蔽しているらしい、という事が解って来る。
 全世界的に多発してきているというその事件。遂に国家的な特殊部隊が組織され、本格的な調査が開始されたが、国民に真相は徹底的に伏せられた。

 山中は暴行にあった女性が決まって精神錯乱状態と診断されていることに疑問を抱く。
 その女性たちがその後どうなったのか調べてみると、民事裁判が起こされている件は一件も無く、それどころか保護されている女性で本名が判明した例すら一件も無く、全員とある隔離施設に収容されているというのである。
 山中の努力の甲斐なくその女性たちとの面会は果たせなかった。その間にも犠牲者は一人、また一人と増え続けるながらも、情報操作が効いたのか、大きなパニックには至らない日々が続いていた。

 ある日、ついにその均衡が破られる。
 連続強姦魔として指名手配されている男が現行犯逮捕された。その男は派出所で警官の制服を着た女性を襲っている所を逮捕されたのだった。
 そのホームレスとおぼしき男は、本部の 『特殊部隊の到着を待て!』という警告を無視する形で行われた尋問の最中、悠々と警察署を脱出して市外に消えた。そしてその後には一人の刑事が姿を消している替わりに暴行されたばかりのバニーガール姿の妙齢の美女と、記録係の替わりに暴行された婦人警官の制服の若い女性がいるばかりだった。
 ことここに至って事態は明白だった。
 犯人は何らかの方法で男性を女性に性転換させ、その上で暴行する、という事を繰り返していたのだ。しかも、何らかの方法で相手を催眠状態にして操る能力も身につけているらしく、犠牲者の多くは非・日常的な服装で乱暴されたものが多い事も判明した。
 特殊部隊の中には既にその犠牲となっている者もおり、一応の対策が講じられていたが、女性化された者への再性転換策も含めて対策は後手後手に回っていた。
 何せ相手を女性化出来るので、いざ逮捕されそうになっても逆にその相手を女性化し、暴行してしまうので一向に捕まらない。

 事件の発生位置、時期、分布等から分析しても、“犯人”は一人、また一人とその数を増やしていることも判明。しかもこれは全世界的な現象であると言う。このまま“犯人”をのさばらせては男女の人口比のバランスが崩れかねない。確かに命にかかわる実害こそ無いが、突然の性転換は精神的に大きな影響を及ぼす。しかも暴行を受けた元・男性の殆どがその性交渉によって妊娠しているという事実もその混乱に拍車を掛けた。
 “接触した男性を全て女性に性転換させる”というその犯人は、遂に通勤電車の車両全員を女性にするという暴挙に出た。山中は遂に犯人を射殺し、本部に運搬する。しかし、直属の上司に触られたその瞬間、山中の身体は女性化してしまう・・・。
 身に付けた覚えすら無い女性物のなまめかしい下着をはがされながら必死に抵抗する女性となってしまった山中。あらゆる部位が敏感になってしまった女体を弄ばれながら、その上司によって昨日の夜、突然自分にこの能力が付与されていた事実を聞かされる。そして快感に全身を震わせながら、所内中に転がっている暴行されたであろう女性たちに気付くのだった・・・ 。

 世界は破滅に向かいつつあった・・・ 。

 物語は唐突にここで終わっている。
 一応、自然界にも固体数に応じて群れの中の一匹が性転換を起こす事例を引いて、“自然界のしっぺ返し”みたいな教訓的な事を書いてはある。性描写としては普通。

 注*この文章は「存在しない本の書評」というフィクションです。よってこの小説は実在しません。
 作者も出版社も架空です。実在の人物・団体には何の関連もありません。


雑多な小説トップに戻る