「サバイバル・ゲーム」
作・真城 悠
1.

 この頃は妙な趣向が流行るものだ。

「おい、手塚治虫を知ってるか?」

 目の前の「男」はそう言った。

「はあ…」

 俺は気の無い返事をするしかなかった。

「何だよ?知らねえのか?」

 「男」は続ける。

「世代じゃないので」

「ドラえもんとか観てたろ?」

「え?でもあれって藤子不二夫じゃあ…」

「だからさあ!その藤子不二夫の師匠だよ!手塚治虫がいなけりゃ日本の漫画もアニメも何もありゃしないんだ。俺に言わせりゃ坂本竜馬並に歴史を変えた人物だよ」

「はあ…」

 この状況下でそんな薀蓄に意味があるとはとても思えない。

「でも、手塚治虫の漫画とか読んだ事無いんですよ」

「まあ、確かにそうかも知れん。ごく一部を除いては今読んでも面白さが古さを押しのける傑作となるとそれほど無いからな。それに活動期間こそ長いが実は“全盛期”がそれほど長かった訳でも無い」

「はあ…」

「その手塚治虫が苦手としていたのが何だか分かるか?」

「いえ…」

 正直、手塚治虫と言う名前は知っているものの「鉄腕アトム」とか「ブラック・ジャック」という名前は知っているがそれ以上の知識は何も無い。そんな風に畳み掛けられても本当に困るのだ。

「スポーツ漫画だ」

「はあ…」

「手塚治虫にとって脅威だったのは劇画じゃない。スポーツ漫画の台頭さ」

「…」

 何か段々返事をするのも億劫(おっくう)になってきた。

「相槌でもいいから何か喋りな。話し続けてないと体力が持たないぜ」

「…黙ってじっとしている方がいいんじゃないですか?」

「いや、そうでもない。いいから「はあ」とか「へえ」とか言ってろ」

「はあ…」

 狙ったわけでは無いが自然とそうなってしまった。

「どうして手塚治虫はスポーツ漫画が苦手だったと思う?」

「…スポーツに興味が無かったんじゃないですか?」

「確かにその通り。有名な西部ライオンズのマスコットキャラ・レオのデザインもしているが、上がってきたイラストは全てバットの構えもグラブを嵌めている手もばらばらで統一されておらず、仕方が無いから「裏焼き」してあわせざるを得なかったと言われている。間違いなく昭和の成人男子にしてはスポーツには興味は無い方だ。だが、問題は何故興味が無いかだ」

「…その話、関係あるんですか?今の状況に?」

「全く無い訳じゃない。少なくとも退屈凌(しの)ぎにはなる。そうだろ?」

 そう言われてみればそうなのかも知れない。
 そうとでも思わなくちゃやってられないとも言える。

 何せ俺とこの目の前の男は、今やそうではないからだ。

 今、我々男二人組は、その肉体を女に性転換された上、純白のウェディング・ドレスを着た状態で佇んでいるからだ。




 どうしてこんな事になったのかの説明は難しい。
 俺は平凡なサラリーマンに過ぎなかった。

 しかし、ある夜飛び込んできた大学時代の先輩に無理矢理借金の連帯保証人にさせられてしまったのだ。
 人並みに成人向け…いやらしいほうの意味ではなく、内容がサラリーマン向けってことね…の漫画も読む俺は、その手の金融うんちく漫画みたいなものも読んでいたから「連帯保証人」とか「手形」というのがどれほどヤバイものかは聞きかじっていた積りだ。

 その手のものは人間関係を破綻させても構わないから絶対に断れ、とハウトゥ本は書いている。

 だが、実際に目の前で土下座され「絶対に迷惑は掛けないから!」と泣きわめかれた上で断ることが出来る人間がどれだけいるだろうか。
 事実、その手のハウトゥ本を書いている人間ですら一度引っかかったからそう書いているのであり、とある闇金漫画で有名な漫画家などは、自ら描く漫画に似ず情に負けて有名になった後で連帯保証人となってしまい、まんまとトラブルに見舞われているという。

 酷い話だが、さっさと自己破産してしまった張本人がのほほんと暮らしており、連帯保証人となった側の人間が毎日激しい追い込みにさらされているなんて話もある。

 そこまで知っていながら結局口約束に乗って連帯保証人の判を付いたのは僕のミスだろう。間違いなく。

 何しろ先輩はその翌日に夜逃げをしたのだ。
 無論、借金の全てを俺に押し付ける形で。

 踏み倒すことが目的だとしか思えない。
 どうやら大学時代に面識があった人間ほぼ全員に同じことをやらかしているらしく、「気をつけろ」とか「尋ねてきても絶対に入り口を開けるな」みたいな情報網すら回り始めていた矢先の出来事だ。
 こちとら社会人だから一歩も外に出ないという訳にはいかない。帰宅際を狙われた形である。

 押し付けられた借金は判明している被害者全員を合計すると億にも届かんとする金額となる見込みで、既に「被害者の会」も立ち上がり始めているという。

 政府が適当にやっている貸付事業と違って「街金」(まちきん)と呼ばれる貸付業者の回収ノウハウは凄まじいものがある。
 要するに、多重債務をするような人間の返済能力など最初から全くあてにしていないのだ。

 付けさせた連帯保証人から回収すること“だけ”を目的としていると考えていい。或いは担保に提供させた家や土地などを取り上げることを最初から狙っている。月々金利をつけての返済振込みなどには全く期待していないのだ。

 よくテレビのニュース番組に、やくざ顔負けの怒鳴り声で借金の返済を迫る金融業者の電話を録音したものが放送されたりする。実はあれで怒鳴られているのは「連帯保証人」なのである。
 「そんな借金をするからいけない」みたいな奇麗事を言う人がいるが、理不尽な追い込みを掛けられているのは借金した本人ではなかったりするのだ。酷い話である。正に「天災」に等しい。

 そこのあなた、「頑として連帯保証人署名は断るべし」って自分に降りかかっても言えるかな?言えないだろうなあ。
 例えていうなら「連帯保証人署名を持ってきた人間を殺してでも追い返す」覚悟が無いと無理なんだよ。申し込んでくる相手だって必死、切羽詰ってるんだから「そういうのは無理だから」とすげなく言っただけで引っ込んでなんてくれないのさ。

 そんなこんなで僕の身に覚えの無い借金を返済する生活が始まらざるを得なかった。
 被害者の会にも一応登録はしたけど、余り成果が期待できるとも思えない。
 逃走している本人を発見できたとしても今の自分たちに降りかかった借金が棒引きになるわけでもあるまい。
 借金は複利計算によって膨大な金額に膨れ上がり、遂に毎月の返済金額を追い抜いてしまった。
 つまり、一生働き続けても元金は全く減らず、増えて行くばかりなのである。

 こんなの馬鹿馬鹿しくて払える訳が無い。
 弁護士にも相談したけど、連帯保証人契約そのものは何の問題も無いし、金利も法定金利を守っているから対抗するには自己破産くらいしか手段が無いけど、今の会社に勤めているとその収入で自己破産が認められるわけが無いらしい。
 つまり、会社を辞めて、一切の財産がなくなる状態になれば認められるって話だ。
 自己破産とか生活保護が簡単に受けられるみたいなことがまことしやかにマスコミに載るけど、あれはあれでかなりのリスクを背負うのである。
 貯金も実質的に出来ないし、権利もかなり制限される。

 追い込まれて後が無い、リアルなホームレスみたいな人にはその程度のリスクは屁みたいなもんだろうけど、失うものがある人間には気軽に手を出せるものじゃないのだ。
 生憎(あいにく)親もとっくにリタイアして年金暮らし。蓄えもゼロじゃないけど全額吐き出させても借金の半分にもならない。仮にそれをやらせても利子に充当されて元本は三割減くらい。
 それで今の収入でどうにか元本を増やさない様に出来るぎりぎりの生活が送れるかどうかってくらい。要は焼け石に水、八方塞(はっぽうふさがり)ってことだ。

 しかも、ここまでの知識を得るのに弁護士に相談した金額だけで10万円も掛かっている。あいつらは死肉にたかるハイエナみたいな連中だ。何しろそれで全て解決したってんならともかく「何やっても無駄です」ということが分かっただけなんだから。

 ところがこの業者が妙なことを言い出した。
 一発逆転の秘策があるというのである。

 もうあからさまにうさんくさい話だ。
 それこそ海外に身売りされて臓器を摘出されるんじゃないかってなもんだ。

 しかし、担当の話によると回収する側としても大勢に借金を分散させているのはリスクが多いばかりで余りうまくないというのだ。
 そういえば聞いたことがある。
 あの電話口で「死ね」だの「死亡生命保険で返済しろ」だの「臓器を売れ」だのと怒鳴っている鬼みたいな業者ですら回収できない貸付金が結構あるというのだ。
 信じられない話だが、まあお金を借りに来る人ってのはお金に困っているから借りに来る訳で、誰しもが全額を利子までつけて綺麗に返済してくれるなら苦労は無い訳だ。

 銀行の借金審査の厳しさを皮肉って「銀行というところは、『借金が必要ない』ことを証明出来ればお金を貸してくれるところだ」と言ったりする。
 要はそれほど慎重だということだ。
 或いは街金みたいに確実な担保を取るとか連帯保証人から取り立てることを考えるなどだろう。

 非情な様に見えるが、政府肝いりで実施される「中小零細企業を相手にした担保を必要としない慈悲深い貸付制度」はほぼ間違いなく焦げ付きによって頓挫するか、審査の甘さに漬け込んだ犯罪集団の食い物にされて終わる。歴史が証明しているのだ。

 話がそれたが、街金側が「確実に返済させる」ために色々とアイデアを練るのはそれこそ「企業努力」という訳で充分ありえる話である。

 そんなこんなで僕たちはとある場所に集められた。
 そして突然次のことを言われたのだ。

『これから朝まで生き残ることが出来れば借金を大幅に減額しても良い』

と。

 棒引きじゃなくて「減額」ってのがいやらしい。
 他の債務者の事は知らないが、少なくとも僕に関して言えば最初に借りた金額はほぼ返しきっている。今も苦しんでいるのは複利で膨れ上がった利子によるものだ。
 つまり、このわけの分からんイベントを仕掛ける側にしてみれば、もう「元は取って」いるとも言える。
 だが、「事業」である以上「利益」を出さなくてはならない。
 事務所を構え、従業員を雇っている以上、「金貸し」にも「経費」が掛かるのだ。
 だからこそのこのイベントなのだろう。

「おい」

 僕は突如その男に声を掛けられた。

「…」

 咄嗟に返事が出来なかった。
 それはそうだ。
 深夜にこのうさんくさい郊外の廃屋みたいなところに集められて、借金減額のための道楽みたいなものに付き合わされるというシチュエーションである。

 もしもアメリカあたりの自主制作映画ならば充分これはホラーな状況だ。
 部屋に通された人間が猟奇殺人犯かジェイソンだのフレディだのレザーフェイスみたいなお化けにチェーンソーで切り刻まれていても違和感が無い。
 そんな状況で、同じ「参加者」側の人間とはいえ声を掛けられて「よお!あんたも元気か!」みたいに返せるわけが無い。

「どうした?口が無いのか?」

「…何ですかあんたは」

 やっと口が利けたがこの程度。実に迷惑そうに言うしかない。

「俺と組まねえか?」

「はぁ?」

 完全にペテン師の物言いである。
 こんなところで共闘を持ちかけてくる人間なんぞ100%詐欺師だ。
 さもなければ誇大妄想狂か…いずれにせよ係わり合いになってもロクなことはあるまい。
 僕は無視することにした。

「知ってるか?このゲームはペアで行われるんだぜ?」

「…そうなんですか?」

 思わず聞き返してしまった。これでは相手のペースである。
 そこから何を話したのかは余り覚えていない。
 大半が上の空だったからだ。

 ただ、「生き残り」といってもリアルに生き死にが掛かっているわけではなく、危なくなったらドクターストップすると言う話だった。
 だが逆にその説明が不安を助長した。
 ドクターが待機するほど危険ということであるとも言える。

 会場に集められた人間達のオーラは淀み切っており、生気が全くない。そもそもお互いに面識すらない。
 「対戦」形式で1回戦は行われるとの説明があった。
 まずは2人一組のペアで3チームが対戦し、1チームが勝ち抜けとなる。2回戦以降はその時に説明するという。

 話の流れでおれたちは組むことになった。
 何だかもうヤケクソだった。
 仮にこいつの誘いを断っても誰かと組めるとは思えない。

「お前、オレを信用してないだろ?」

 男は言った。

「いきなり信用なんて出来ませんよ」

 至極当然の返しだと思う。

「ま、そうだろう。だが、おいらにとってもメリットがあるんだ。一人よりも二人の知恵の方が役に立つ。ペアの生存率を上げるにはもってこいさ」

 もうどうでもよかった。

 その後1回戦を戦うことになる6人は別の場所に案内された。
 くじ引きで順番を決めるというのだ。
 何の順番なんだかサッパリ分からない。だが、我々のチームはどうやら一くじを引いたらしい。

 カタログが手渡された。
 それを開いてみた俺は目を疑った。
 そこには三種類の衣装の写真があったのである。

「…これは…?」

「ふふん、想定どおり。勝ったな」

「何の話です?」

「目の前を見ろよ。あれが何に見える?」

「…冷蔵庫ですね」

「その通り。だったら答えは決まってるだろ」

 写真にはエスキモーみたいにもこもこのダウンジャケットの男性が映っている。
 もう一枚はスーツにネクタイというサラリーマンスタイル。
 そして…もう一枚はなんと純白のウェディングドレス姿の花嫁だった。

 誰が考えても分かるのは、目の前の業務用冷蔵庫の中に閉じ込められてのサバイバルレースだ。
 最も長時間中にいることが出来たペアが勝利…というところだろう。

 一番くじを引くことが出来たのはラッキーとしか言い様が無い。誰が見ても答えはわかりきっている。

「じゃあ、申告するぞ」

「よろしく」

「決まったかね」

 全身黒尽くめの男が抑揚の無い声で言った。

 男は自信満々で言い放った。

「3番で」


「3番…3番って…えええええっ!?」

 その後の狂態は書くのも恥ずかしい。
 よりによってペアを持ちかけてきた男は「純白のウェディングドレス」を選択したのである。
 全く話にならない、ありえない選択である。

 黒服が有無を言わさずに別室に案内してくる。
 直後に起こったことを信じてもらえるとはとても思えない。
 我々の身体がムクムクと変形を始めたのだ。

 それほど広くも無かった肩幅が縮み、乳首を中心に乳房が残る。
 ウェストは細く引き締まり、ヒップが突き出した。
 男性器は身体の内側に向かって消えて行き、表面の無駄毛が全て落ちる。
 ぐんぐんと柔らかい髪が伸びて肩を越えた。
 節くれだっていた手も、白魚のようなそれとなった。
 確認出来なかったが、顔もどうやら似たような変化を遂げたらしい。

 何より、目の前の謎の男がまるでグラビアアイドルみたいな、基本的にはスリムなんだけど付くべきところにはしっかり肉の付いた美女に変貌を遂げていたのである。それでいて目元などにどことなく面影があるのが憎たらしい。

 我々二人はあっというまに肉体的には女性へと性転換してしまったのだ!


 その後の展開も速かった。
 どこからとも無く現れた「黒子」の扮装をした性別不詳の軍団が群がってきて、瞬く間に俺たちの服を脱がせた。
 何らかの精神的な操作をされていたのか、半ば強力するかのように棒立ちに近い状態で脱がされ、全裸となった。
 それに見とれる間も与えられずに、ワンピースの水着を頑丈にしたみたいな下着に胸から下の身体を締め付けられる。
 自分の乳房に見とれている時間すらなかった。
 ふとももまであるストッキングを履かされ、腰の釣りひもみたいなのに吊り下げられる。

 何処(どこ)からとも無く出現した、掛け布団みたいな大量の光沢のある生地の衣類を広げられ「足を通せ」と目配せされる。
 確かに真ん中には穴があいていて、その下の床には白く踵(かかと)の高い靴が見えている。
 逆らえないので真っ白なストッキングで染まったその細い足を筒状の穴に入れ、そこにおいてある靴に押し込む。
 窮屈な靴につま先から押し込められ、高いままの踵(かかと)に落ち着く。
 ほぼ同時に左右に構えた黒子が「掛け布団」を持ち上げる。

 ざざあっ!という衣擦れの音と共に重量感のある生地の塊(かたまり)が立ち上がり、身体を覆って行く。

「ああ…」

 としか言えなかった。
 瞬く間に腰にまで到達したその生地の固まり。
 両手を目の前に出現した部分に通す様に促され、仕方なく両手を突っ込んだ。
 黒子がそれをフォローしてくれて、綺麗に両手を通し終えると胸の全面にパーツが密着する。
 同時に肩の部分にサッカーボールほどにも感じられる丸っこい部分が装着る様な形になった。
 これがウェディングドレス独特の「パフスリーブ」と呼ばれる肩の部分を丸く膨らませる装飾であることに気が付くのはもう少し後である。

「あ…」

 どんなに鈍いオレでも徐々に「花嫁」にされていることくらい分かる。
 この部屋には鏡が無かったのだが、目に入る視界には変わり果てた自らの花嫁姿が広がっているのだから。
 黒子は素早く手首のホックを留め、手首を完全にカバーして手の甲まで回りこんだドレス生地の一番さきっぽにあるゴムの輪に中指を通した。これで手の部分は完全にOKだ。
 なるほどこうやって固定していたのか。

 同時に背中のファスナーがじじじっ!と上げられ、細いウェストを締め付ける様に身体にドレスの残りの部分を密着させた。

「っ!!!」

 背中は首よりも遥かに低い位置までしか着ておらず、うなじ部分は完全に露出して背中の一部が見えている状態である。
 そういえば前面、胸元も一般的な男の衣類に比べると大きく開いており、空気がひんやりと当たって涼しい。いや、寒いというか頼りない。
 ウェストを始めとして身体のあちこちが緊縛されているかのごとき窮屈な衣装なのに、部分部分は妙に生地が足らずに解放…というか放置されているように感じる。
 まっこと女の服というのは不可解だ。

 もう抵抗する気も無かった。
 あっという間に髪の毛がまとめられ、手早くネックレスにイヤリングが装着させられ、そしてメイクが施され、仕上げに薄く透き通るウェディングヴェールが付けられた。

 手には花束をアレンジしたウェディングヴーケが握らされ、黒子達が並んで一礼したと思ったらもう立ち去っていた。

 そこには輝くように美しい純白の花嫁が二人たたずんでいたのである。

「…いや、それにしたって」

 目の前の男…今は肉体的には女だけど…が初めてヴーケから片手を離して制止してきた。

「まあ待ちな。言いたいことは分かる。どうしてあのエスキモーみたいな格好を選ばなかったかってことだろ?」

「いや…というか」

「あの三択を見せられれば誰だって一番暖かそうなあの格好を選ぶ。当然だ。しかも今回はくじ引き方式。つまり、優先順位があるってことだ。一番である俺たちがどれかを選べば残りのチームはそれを選べなくなると考えられる」

「だったら…!」

「まあ待ちなって。これは簡単な引っ掛け問題だよ」

「はぁ!?」

「俺はこの勝負、単に寒さを我慢するんじゃなくて、その状態で朝まで起きていられるかを競うゲームだと見てる。だから暖かすぎるあの格好はアウトなのさ」

 まあ、引っ掛けというところまでは同意してもいい。確かに余りにも迷いが無さ過ぎておいらですら怪しいと思わないことも無い。

「次にあのサラリーマン風の格好だ。普通に考えればくじで一番を引いた奴は一も二も無くエスキモー風の格好を選ぶことになる。そして頭のいい奴ならひっかけを見抜く。となると残りのどちらを選ぶかだ」

「…」

 もう黙って説明を聞くことにした。今さら遅いわけだし。

「まあ、普通に考えればとてもじゃないがこっちは選ばん」

「だろうね」

 多少口調に嫌味を混ぜたつもりだ。

「特に今回はチームが全員男だけに益々これはない」

「そうだね」

「だが、二つの理由でこっちしかない」

「聞きたいね」

 聞きたいのだけは本心だった。

「まず、あのサラリーマン風の格好は一見すると半裸や薄着に比べてマシに見えるが、あれはクールビズだ。つまり通気性がよく、非常に快適なんだよ」

「はあ…」

「だから防寒性は必ずしもいいとは言えない。むしろ悪い部類だ」

 そりゃこんな極限状態までは想定していないだろう。

「しかも写真は革靴じゃなくてスニーカーだった。その意味でも最悪だ。地面から体温…つまり体力を奪われる」

「つまり消去法ってこと?」

「それもある。だが、仮にそれなりの厚着だったとしてもおいらはこっちを選んだね」

 といって軽くスカートを叩く。

「しかも男は膀胱…要するに金玉だな…を体外に露出してる。これは主に冷却作用を期待している訳だが、お陰で体表面積が20%も大きくなってしまった上に猛烈に冷えやすくなった」

「…つまり、その点でも男は不利だと」

「その通り!」

 びしいっ!と人を指して来る花嫁。
 これで生まれつきの女ならば可愛らしいのだが…。

「更に言えばこの格好だな」

 といって片手でスカートを軽く摘み上げる。
 まるで「お転婆な花嫁さん」という風情である。

「これが何か?」

「ウェディング・ドレスに使われているサテンという生地はとにかく通気性が最悪で物凄く熱が篭(こも)るんだ」

「はあ…」

「春先や秋口、下手すると冬に行われる結婚式や披露宴ですら花嫁はすぐに汗だくになるほど熱が篭(こも)る。夏にいたってはこんな格好はダイエットスーツみたいにびしょびしょになるのさ」

「まさか…それも選んだ理由!?」

「当然だ」

 何と言うことだ。そこまで計算していたというのか!?

「単純に生地が多いというだけでも勝利ポイントだが、何しろ通気性が最悪ですぐに熱が篭(こも)る。つまり、熱が逃げににくい…ということは体温が下がりにくいということでもある」

 花嫁がスカートの中でカツカツ!とウェディングシューズの踵(かかと)を鳴らした。

「スニーカーのサラリーマンと違ってこちらはエナメルのハイヒールだ。伸縮性はないし通気性も最悪だが、熱を通しにくい上に足の裏がかなり浮いているからそれもまた勝因だな」

 確かに氷のように冷え切った床にぺったんこのスニーカーでは冷たさが這い上がってきそうだ。

「そしてこのデザインさ」

 花嫁が誇らしげにパフスリーブを触る。

「デザインって…ドレスの?」

 自分の口から「ドレス」という単語が出るのが無性に恥ずかしかった。しかも今は正にそのドレスを身に纏っているのである。

「ああそうだ。元々は宗教的な衣装で、悪魔から身を守る為になるべく皮膚を隠すのが慣わしなんだが、この頃はこんなロボットアニメみたいに肩を大きくするパフスリーブは流行らないのさ」

「ロボットアニメねえ…」

 確かに物々しいのは確かだ。コテコテの“花嫁さん”という雰囲気は充分出るんだが。

「元々「肩の部分を大きく、太くする」のは「腕を細く見せる」ための工夫なんだそうだ。そもそもドレスの大きく広がったスカートも、ウェストを細く見せるための工夫から始まったからな。ともかく、最近のウェディングドレスはデザインがどんどんシンプルになってきていて、パフスリーブどころかオフショルダー…つまり、肩もむき出しになった様なデザインが主流なんだ。こういう、昔ながらの“お姫様”みたいなデザインはダサいってことらしい。嘆かわしいことだ。まあ、結婚年齢が高齢化しているのも原因なんだろうが」

 そういえばワイドショーで芸能人の結婚式みたいなので、ごくごくシンプルなドレスを見た覚えが何となくある。
 
「それこそ胸から上が全部むき出しというドレスのスカートが長いだけのキャミソールみたいなウェディングドレスばかりさ。まー確かに今おれらが着てるみたいなコッテコテのウェディングドレスが似合うのは二十代半ばくらいが限界だろうな。子供っぽくもあるし」

「…そうなんだ」

「ああ。しかもこんな風にドレスから直接繋がった長袖なんて、針金みたいに細い女でも動きが制限されるほど窮屈だ。腕を上げてみ?」

 少し腕を上げてみたが、確かに身体にまで生地を引っ張る感覚が伝わってくる。ぐるぐる回すなんてとても出来そうに無い。そして手首のホックがはじけそうになっている。

「…詳しいね」

 そんなこと考えた事も無い。

「少しその業界にいたことがあるんでね」

「結婚業界?」

「ま、そんなところだ」

「結婚するのが仕事なの?」

「おいおいしっかりしてくれよ。幾らでも仕事なんてあるんだぜ?男女のマッチングから始まって結婚式や披露宴のための手配、それこそドレスを始めとしたレンタル衣装ショップ…食事だって作ってるコックがいるし、新婚旅行のための旅行会社だって結婚産業の一部門だ」

 ま、確かにそうだ。男が多少ウェディングドレスや婚礼事情に詳しいからって即、変態な訳でもあるまい。
 ただ、そうは言っても余り一般的な事例では無いだろう。ごく普通の男がつらつらと「この頃のウェディングドレス事情やら流行のデザイン」を話し始めたら多少“引かれる”ことは覚悟すべきだとは思うが。

「話を戻すが、ともかく上半身を完全に多い尽くした上に長袖のパフスリーブ…とこれだけ露出度の低いドレスは今じゃ貴重品だ。流石に肌は隠れている面積が多いほど防寒性は高いからな」

 ま、それは流石に分かるが…。

「でも、首周りはあいてるよ」

「流石にそれは仕方が無い。でも、胸から上…肩ごと腕全部丸出しのドレスよりずっとマシだろ?」

「…確かに」

「まあ、そんなこんなで総合的に考えてあの3つの中で選ぶならウェディングドレス一択さ。本当に性転換までしてくるとは意外といえば意外だったがね」

「え…」

 そこの確信は無かったってことか!?ということは単に女装させられる場合だったとしてもこれを選んだってのか!?

「あんたの言いたいことは分かるよ。でも通気性の悪さはガチだからさ。仮に性転換させられなくても選ぶのは変わらない」

「いやその…」

 自分で自分の表情を確認できたわけじゃないが、折角の可愛らしさを相当損ねるほどにドン引きしていたことだろう。

「残りのチームの動向が分からんけど、そろそろサラリーマン組はギブアップかドクターストップじゃねえの?」

「…」

 確かに可能性はある。
 認めたく無いが確かにこの衣装は妙に暑い。
 ひんやりした床なのにスカートの中に熱気が篭っているみたいで、それが身体に伝染してほかほかと暖かい。
 なるべく意識ないようにしている乳房もどことなく暖かい気がする。

 この有様でこれだけ暖かいどころか下手をすると「暑い」と感じるってことは、真夏にこんな格好をしたら余りの暑さにへたり込んでしまうかも知れない。

「エスキモー組はどうかな?」

「分からんけど、仮に一騎打ちになって向こうが寝オチしたとしてもそれでこちらが即勝ちになるとは限らない」

「どうして!?」

「他にも沢山のチームがあちこちで対決してる。この組が全滅しても誰かが勝ちあがればいいって訳だ」

「なんてこった…」

「所謂(いわゆる)「足切り」がある可能性がある。他のチームが全滅したとしても、最低数時間は耐えないと勝利にはならない方式だ」

「でも…確信は無いんだよね?」

「無い…が、一応経験者として言わせて貰えばその程度のことはしてくる」

「け、経験者!?」

「ああ。言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!」

「そうかい。まあそういうことなんでよろしくな」

 道理で妙に詳しい上に多少のことではうろたえないはずだ。

「ついでに言っておくと第一ラウンドが終われば俺たちの身体は元に戻る」

「そりゃ何よりだ」

 皮肉たっぷりに言った。
 恐らくそういうことなんだろう。でなけりゃこいつがこんなに落ち着いているもんか。

「どうやらこの大会の主催者は遺伝子をいじくって性別を変えることは出来るらしいんだが、それ以上のことは難しいらしい」

「というと?」

「年齢は多少若く出来るが、年寄りにしたり、何より人間以外のサルやその他の獣にしたりすることも出来ない」

「冗談じゃないよ!」

「だから出来ないから安心しろって」

 そう言われても安心なんか出来るかっての。

「ただ、逆に言うと性転換はお手の物だから二回戦以降も油断するなよ」

「ちょ!ま…!!」

 何てことだ!勝ち上がったから男に戻れてハッピー!とは行かないってこと!?

「衣装は下着含めて完備だからその点は安心していい」

 もう突っ込む気にもなれない。

「…流石に冷えてきたな」

「そうだね」

 保温性にすぐれた女性の肉体を得、通気性が悪く露出度の低いウェディングドレスに身を包んでいるという好条件ながら、長時間巨大冷蔵庫に閉じ込められるのはかなりの肉体的負担となるのは言うまでも無い。

「仕方が無い。最終手段だ」

 とういうと、目の前の花嫁が衣擦れの音を響かせつつスカートを引きずって近寄ってきた。

「お、おい!…何を…」

「簡単だよ。人肌で暖め合うんだ」

「な、何を言ってるんだ!」

「この環境ではむしろ当然のことだ。というか始まってからすぐにやっててもおかしくないくらいさ」

「せ、折角着てるのに脱がなくても…」

「…?ああ、そういう誤解か」

「…!?」

「心配するな。人肌ったってドレスのまま抱き合うだけだよ」

「なっ…!」

「スカート部分に比べれば上半身の生地は薄いからしっかり密着させれば体温は伝わる。抱き合って胴体と腕の体温を保有しあおう。これで更に持つから」

「そ…そんな…」

「そんなに真っ青になる様なことじゃないぞ?冬の雪山で遭難しかかったシチュエーションじゃあ寝袋の中で素っ裸の男同士で抱き合って朝まで暖を取る位は当たり前だ。着衣の上からなんだから相当ハードル低いぜ?」

「だって…お、男同士で…」

 目の前の花嫁が悪戯(いたずら)っぽく笑った。

「いや、今は“女同士”だよ」

「お、おしっこしたいんだけど…」

「絶対に駄目だ。小便に含まれる体温がごっそり体外に排出されて余計に下がる。男の時だって立ちションの後にはブルっと来るだろ?辛いだろうが我慢だ。それにもしもそれで身体の一部でも濡れれば忽(たちま)ち気化熱で猛烈に冷えることになる。そんなにすぐに膀胱炎になったりしないから我慢するんだ」

「で、でも…」

 逃げようと身を引きかけたところ、手をつかまれた。

「あっ…」

 思わずヴーケが落下する。

「そうだな。ヴーケは邪魔かも知れない」

 次の瞬間には抱きしめられていた。

「…っ!」

「お互いの顔を交差させる形でな。くれぐれも息が掛かり過ぎないように。息に含まれる水分が肌に当たりすぎるとその部分に付着して気化熱を奪うから」

 純白のウェディングドレスに身を包んだ可憐な花嫁二人が抱きしめあい、上半身を密着させてお互いの顔を交差させている。

「…あ…」

 つるつるの光沢を放つウェディングドレスの上半身の生地同士が密着し、うっすらと相手方の体温が感じられる。
 目の前に少しだけほつれた相手の髪が垂れ下がり、イヤリングが視界に入る。
 ドレスそのものが放つ石鹸みたいな匂いと、相手のお化粧…香水だろうか…と体温の混じったにおいが至近距離で鼻腔をくすぐる。

「動かないで。じっとして」

 耳が至近距離のためか、ささやくような小さな声だった。
 お互いのドレスのスカートがぶつかり合い、聞き取れないほどの衣擦れの音が耳を包み込む。

「…うん」

 そういうしかなかった。

 ついさっきまでむさい男二人組みだった俺たちは、目を見張るほどの美女に性転換させられ、純白のウェディングドレスに身を包み、綺麗にメイクされて肉体的には完全に「花嫁さん」となり、そして誰もいない空間で花嫁同士で抱きしめあっていた。

 その光景は若干の背徳を感じさせ、そしてとても美しかった。

 どうしてこんなことになってしまったんだろうか。

 その状態で立ったままどれくらいを過ごしたのだろうか。
 薄れ行く意識の中で係員による勝利宣言を聞いた。


4.
 その後も余り明確な記憶が無い。
 だが、ドレスを脱がせて貰ったことだけは覚えている。
 主催者側にしてもこれだけの立派なドレスともなると貴重品ということなのか、丁寧にしかしスピーディに脱がされた。
 イヤリングやネックレス、ウェディングヴェールなどの装飾品も綺麗に外された。

 あちらにしてみれば当然の回収対象である下着の一枚に至るまで全部脱がされると、最初にこの会場にやってきた時の野暮ったく男臭いいつもの格好にさせられていた。
 無論、全身は代わり映えしない男のそれに戻されていた。

 これが、「一回戦突破」の顛末である。


5.
「…それで?説明を聞きたいんだけど」

「もうそろそろお前も分かるんじゃないか?」

「それでも一応ね」

 俺は腕を組んでいた。
 一転して全てむき出しになった腕は、胸の部分の白銀にきらめくつるつるの光沢を放つ衣装に触れ、二の腕にはさわさわと羽根がくすぐってきた。

 視界の向こうにはビキニパンツ一丁の筋肉男が二人いる。何故か妙に態度が自身なさげだ。
 それも無理は無い。ついさっきまで彼らは女だったんだから。

 それに比べてこっちは…白銀のチュチュに身を包んだ可憐なバレリーナ姿だった。
 もちろん、肉体的には細身のダンサーの女性にまたしても性転換されている。

「バレリーナの肉体ってのは脂肪分がかなりそぎ落とされた筋肉の固まりだ。下手な運動選手…アスリートよりも運動性能が高い」

「それで?」

「それでいながら食事制限などで極限まで体重を落としている。パートナーにリフト(持ち上げ)をしてもらう関係でね。だからこんなに痩せている」

 誇らしげにぺたんこな胸を張るバレリーナ。

「当然ながらバレエの衣装…今俺たちが着ているクラシック・チュチュだな…は着たまま激しい運動をすることを前提に設計されているから物凄く頑丈でそれでいて柔軟性に富んでいる」

 まあ…多分そうなんだろうな。
 飛んだり跳ねたりするもんな。

「唯一の欠点といえば視界が悪いことで、特にクラシック・チュチュともなると腰から下が全く見えない。足元に十円玉が落ちていても全く分からないだろう」

 これも“着てみて”分かった。自分の腰から真横に重力に逆らって広がるスカートは足元を完全に覆い隠してしまっている。

「ただ、今回はビーチバレー対決だ。足元の心配はないし、見える必要も無い」

 そうなのである。今度はビーチバレー対決となり、こいつはよりによってバレリーナを選びやがったのだ。
 当然見る間に細身の女になってしまい、黒子にバレリーナにされた。
 ドギツイくらいに濃い舞台メイクが厚ぼったい。

「でも、相手はどうなるんだよ」

 分厚い鉄板でもひん曲げそうなマッチョマンである。

「相手にならんよ」

「…そうかな」

 こちらは運動能力にはすぐれているかも知れないが、折れそうに華奢な小娘である。

「サッカーやバスケットボールみたいに直接接触のある球技ならともかく、ビーチバレーは相手のコートに入らない。それにあの身体はボディビルダーのそれだ。運動能力は皆無。筋肉が大きすぎて機敏に動けない。体重も度外視だから重苦しい」

「…確かに機敏には動けそうに無いけど、腕力は無視できないだろ…」

 至極当然と思われる疑問を口にした。
 鳥の鳴くような綺麗な女声がうっとうしい。

「ひょっとしてスパイクとかのことを言ってんの?そりゃある程度はやるだろ。でもたまにしか炸裂しないスパイクなんて取らせとけ。こちらは持久力と瞬発力の固まりだよ?相手は運動性を無視した見た目だけの筋肉だ。重いものを持ち上げることは出来ても動く目標を的確に狙うなんて器用なことは難しい。そもそも窓拭き一枚するだけで息が上がるほど持久力が無いんだ」

「ホントに?」

「まあ、それは少々大袈裟だが、筋肉ばかりで体脂肪率が低いから身体にエネルギーを蓄えることが出来ない。一流のボディビルダーは一日5〜6食に分けて補給するのが常識だ」

 それは知らなかった。

「そこに持ってくるとこちらは女だ。体質的に筋肉がつきにくいからそこまで体脂肪率が低くなることがほぼ無い」

「…そうなんだ」

「その上舞台の上で1時間も2時間も踊るための練習してるんだよ?ビーチバレーの1〜2試合なんて楽勝だね」

 ぐいっ!とウィンクしてガッツポーズをするバレリーナ。可愛いのがむかつく。つーか練習なんてしてないだろ。バレリーナにされはしたけども。

 しかしまあ、やるしかない。
 俺はコートに入って構えた。
 そこには露出したバレリーナの背中のホックと、前傾姿勢になったことで丸見えになっているスカートの下のパンツ部分が見せ付けられていたのだった。
 それがさっきまで偉そうに講釈していたバレリーナのものなのだから世も末だ。

 試合が開始された。

続かない















あとがき
 恐らく漫画「カイジ」辺りからの流れだと思うのですが、勝手に独自ルールを設定した上で登場人物たちが一種の「ゲーム」を強要されるというシチュエーションの作品が登場してきました。
 漫画で言うと「ライアーゲーム」「零(ぜろ)」などはその最たるものですし、映画だと「CUBE」や「ソウ」などがそれに当たるでしょう。
 個人的には所謂(いわゆる)「スポーツもの」と根は同じだと思うのですが、「勝負」だったり「ゲーム」だったりするそれに「薀蓄(うんちく)」が開示される作品もまた結構な割合で存在しています。

 ツイッター騒動でその名を知った「嘘喰い」という漫画があるのですが、これはかなり面白かったですね。
 何も知らない一般人が謎の男にそそのかされて生き死にまで掛かったゲームを強要される…というもので、主人公自身がゲームの達人と言う訳では無いあたりが興味深かったです。

 アマチュアですが長年に渡って性転換されたり女装させられたりする小説を書いていたりすると「いらん知識」が貯まってきたりします。本当に何の役にも立たない上に本当かどうかも怪しい知識の数々が。
 ですが、シチュエーションの設定の仕方によっては「薀蓄勝負漫画」みたいなことが出来るんじゃないかな?ということは考えていたのです。
 それが「嘘喰い」を読んだことで完全に吹っ切れました。

 ということで書いて見たのがこの「サバイバル・ゲーム」です。
 完全に思いつきだけの一発オチみたいなお話ですね。
 要するにウェディングドレスは物凄く通気性が悪いので、少し暑いだけで汗だくになるほど体温が貯まる構造である…というのを知識として知っていたので、それならば「冷蔵庫の中に閉じ込められて長時間耐える勝負」の際に、「性転換してウェディングドレスを着る」選択肢を意図的に選ぶ事が出来るならば勝利に近づくんじゃないか!?
 …と思いついたわけです。

 思いつくもなにも、そんなムチャクチャなシチュエーションがあるわけがありません。
 ですが、私の脳内のワールドでは男が見る間にムクムクと女性に性転換したり戻ったりは割と普通です(爆)。
 一般的に流通まではしていない模様ですが、「あるところにはある」と言う感じですね。

 男二人組みが勝負の度にお互いに美女に性転換して、その勝負に一見合っていなさそうで最も適した衣装を着て勝負を勝ち抜いて行く…という設定な訳です。
 流石にすぐにネタ切れになりそうです。週刊連載は無理でしょうね。

 この後の展開としては…そうだなあ、限定無人島サバイバル対決で、普通の水着などに対して何故か真っ黒なセーラー服を選び、襟を立てて遠くの人の声を聴いたり、分厚い生地のスカートの形状を利用して飲み水を運んだり…とか。
 バニーガールの衣装を選択して今度は「暑さに耐える」勝負に勝ったりとか。あの衣装ってかなり寒いらしいので。
 女子高生の制服を選んでまたサバイバルを強要させられ、プラスチックの名札についていた針を利用して魚を採ったり、リボンを利用して目印にしたり…。別に何でも良さそうですが。

 二人とも性転換するばかりが能じゃないので、謎の男だけが性転換してカップル状態でデート勝負に挑まされたり、逆に主人公だけが性転換して逆カップル状態で社交ダンスにチャレンジさせられたり…と、必ず性転換・女装が絡む試合展開に。
 そしてほぼ毎回「謎の男」はよりによって女性物の衣装を選ぶ訳です。

 長い勝負の間には「明らかに女性状態でないと切り抜けられそうもない」場面に何故かここぞとばかりに女性化も女装もせずに切り抜ける場面もあったりして。

 更にはレギュラーキャラも増えてきて「お間抜け男ペア」は何故か選択肢を間違えて(?)女装はしているけど女性化はしないオプションを選択してしまって笑いものになったり、毎回男に変身して勝負を勝ち抜く女性ペアとの共闘では、全員が女になって力をあわせたり、全員が男になってこれまた力をあわせたり、はたまたお互いに性別が逆転した状態でペアになって一時的にチームを組み変えて危機を突破し、また解散する中で友情が育まれたり…。

 というか彼らは何故、誰によって戦わされているんでしょうか?
 まあ、その辺りの疑問は同種の「ゲーム」系漫画では必ず付きまとう疑問ですけどね。

 ともあれ、私が思いついた妄想にはこういうのもありましたよ、というお話です。
 正直私のアホな思いつきには賛同者が全くいません。
 大好きな「集団性転換パニック」とかもTS物の中でも人気が無いし…。

 マイナーな妄想趣味だということは分かっていたんですが、広いインターネット世界でも下手するとたった一人の孤独な趣味だとまでは思っていませんでした。
 数百人が暮らす宇宙船の着替え転送装置が壊れて、全員がたった一種類の女性物の衣装を着ることを強制される破目になる…という筋立ての「BUG」シリーズは私の十年越しの念願適ってほぼ全ての場面にオリジナルの挿絵をつけてもらうことが出来るところまでやってきたのですが、反応は皆無。
 アホらしくて面白いと思うのですが。

 しかしまあ、別にそれでもいいと思っています。
 要するに「自分の読みたい作品が無いなら自分で書いてしまえ」というのがそもそもの動機です。誰かに反応してもらいたくて書いている訳ではありませんので。反応してもらえればそりゃ嬉しいですが、英語版の掲示板には荒らし寸前の否定的な意見書き込みもあったそうなので、このまま社会の隅っこでひっそりと活動して行こうと思います。
 有難うございました。