「住民基本台帳ネット」

名無しさん@お腹いっぱい さんより  

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 平成14年8月5日、その日僕はT市の戸籍課の窓口の前に立っていた。
 突然の人事異動でこの街にある支店に転勤してきたのだ。
 窓口には綺麗な女子職員が座っていて、親切に現住所変更の申請の仕方を教えてくれる。
 申請書を提出すると、その受付の女性はテキパキとPCのキーを叩き始めた。
 そういえば今日から全国の住民台帳はすべてネットワークで接続されたのだよだな。
 今までなら戸籍の写しを持参しなければならなかったのが、今日からはすべてネットワークで照合できるからすぐに現住所の変更ができる。
 細く綺麗な白い指がコンピューターのキーを叩いてゆく。少しセクシーな感覚がした。
「あの、お客様・・・」
 女子職員は美しい顔に少し困った表情を浮かべ僕の方を見た。
「ええと、お名前は西島礼様ですよね?」
「はい」何か申請書に間違いがあったのか僕は不安げに答えた。
「あのう、失礼ですが男性ですよね?」
「え!?」
「戸籍台帳を照合したら性別は女性になってますよ」
 いいかげんにしてくれ。また入力ミスかい。
 僕は怒って受付の女性に苦情を言った。
 しかしその女性は一人では対応しかねるらしく「上司と相談いたします」と言って奥に行ったままなかなか出てこない。
 30分以上も待たされたあげく上司の人と一緒に受付の女性が戻ってきた。
 その上司の人も綺麗な女性だった。
「まことにすみません。受付が新人のためまだ慣れておりませんで」
 美人の上司は丁寧に頭を下げ
「なにしろ、まだ女性になりたてですので・・・」と不思議なことを言った。
「この書類にご署名、ご捺印お願いいたします。」
 そしてピンク色の書類を僕に差し出した。
 修正希望申請書
 その書類にはそう書いてあった。
 やっとこれで間違いが訂正できる。余分な手間取らせやがって・・・これだからお役所仕事は・・・僕はぶつぶつ言いながら書類に自分の氏名を記入しハンコを押した。
「はい、確かに。それではこちらの部屋にどうぞ・・・」
 え、戸籍の修正だろ。なんでまたこれ以上僕が、それも別の部屋で待たされなければならないんだ!
「いえ。最新の機械を導入いたしましたので処置はすぐ済みます。また専門の担当医も配置されておりますのでご心配ありません。」

 上役の女性は僕を上役の女性をはじめ6人以上の多くの人達が無理やり僕を別室に引っ張っていく。
「おい!何をするんだ!」
 僕は大声で叫びながら抵抗しようとしたが多勢に無勢。ずるずる別室に引きずられてゆく。不思議なことに僕を引きずっている職員はなぜか全員若い女性ばかりだった。
 先程の受付の女性職員は何事もなかったように受付に戻り、別の客の対応をしていた。
 別室には女医と思われる白衣を着た美くしい女性が待ち構えていて、不思議なカプセルが配置してあり、僕は無理やりそのカプセルの中に押し込まれた。女医がカプセルのボタンを押すと扉が閉まり僕は閉じ込められた。
 突然変な音楽が流れ出し僕は気を失った。

 目が覚めると少しスース−する。それもそのはず、僕は何も身に付けていなかった。
 だけど少し変だぞ。少し太ったのか体全体が少し丸みを帯びたような気がする。
 肌も白くすべすべして、まるで女の人の肌のようだ・・・
 僕は自分のなにげなく胸に手をやりギョッとした。丸く豊かに膨らんでいる!
 揉むと痺れるような感覚が全身に走った。
 手を離すと白く形の良い豊満な双丘が目に入ってきた。その頂上には少し大きめのピンク色の干葡萄のようなものが尖ったように膨らんでいるのが目に入ってきた。
 これって、女のひとの乳房じゃないのか?
 僕がうろたえていると、カプセルの蓋が開き上部から大きな板が下りてきた。
 そこには髪の長いグラマーな美女が全裸で写っていた。
 透き通るように白く、肌目細かくなめらかな柔肌。はちきれんばかりに膨らんだ美しく豊満な乳房。
 すらりと伸びた脚線美、大きなバストとは対照的にウエストはキュッと良く締り、それでいて太腿から大きな豊満なお尻にかけては官能的なヒップラインを描いている。
 美女は細く長い柳眉を吊り上げ、植えたように長い睫毛をしばだかせ、驚いたような顔をしている。鼻筋の通った、理知的な美しい顔には不安げな表情が浮かび、潤んだ大きな瞳には涙があふれそうだ。
 僕はその美女に駆け寄ろうとして、思い切り版にぶつかった。
 ああ、痛え。
 僕が頭をさするとなぜか、板に写った美女も頭をさすり美しい表情をゆがめ痛そうな顔をしている。その痛みによりその板がよく磨き込まれた鏡であり、その美女は僕自身であることを我が身、我が女体をもっていやというほど思い知らされた。
「気をつけて下さい。性が変化した瞬間。動転したあまり突飛な行動に及び怪我される方が後を断ちませんんから・・もっとも、わたしの場合もそうでしたけれども・・・せっかく美しい女性になれたのですから、ご自分の体を大切になさって下さいね。」
 美人の女医が僕の方を見てくすくす笑っている。

「おい、これはどういうことだ」
 僕は怒ってその女医に言った。
「あら、ご存知なかったんですか。住民基本台帳ネットワーク法が施行されると同時に自動適正性判別法が施行されたんでよ。ネットワークサーバーの中にある適正性判別ソフトがその人の性格、経歴から見て適正な性別を判断し戸籍台帳の性別を修正するのですよ。
 この日のために最新のバイオテクノロジジーを駆使して染色体単位まで性転換可能な自動性転換装置が開発されまして、各自治体に大量に配置されたのですよ。この装置はその中の1つで、遺伝子を組替えることによりあなたを肉体的に完全女性に変身させることが可能な訳です。台帳の性別が男性から女性に変わっていたのは、あなたの過去の生活の記録をたどることにより、今後あなたは女性として生きていく方が適正だとコンピューターが判断したためでしょうね。かくいうわたしも、試験稼動の時、性を転換した方が適正と判断されましてね、その時は無理やりでしたが男性から女性に変身されられました。その時はかなり嫌がりましたが今となっては女性になれて本当によかったと思ってます。
 そういえばあなたの応対をした女性職員達も元は皆男性ですよ。わたしと同じ様にネットの試験稼動時に性を転換した方が適正と判断されまして女性に変身されられたようですね。
 ああ、すみません、この器械肉体的には何の問題なく男性から女性に変身されられるのですが、逆、つまり女性から男性へ変身させることはできないのですよね。あともう1つの欠点として、施術時に衣服を消滅させてしまうのですよね。わたしみたいに裸で施術を受けた時は何の問題もないのですけど・・。ご心配ありません。ちゃんと換えの衣服は用意してあります。あと新しい職場には確認をとっておきました。あなたを支店の女子社員として登録済みだそうです。よかったですね。」
 なにが良かったのかわからない。部屋に用意された、それもブラジャー、パンティー、スリップ等下着からパンスト、ワンピースにいたるまで、新しい女体にぴったり合うようにあつらえられた女性用の衣服を身に付け、ピンクのピンヒールハイヒールをはいて僕はとぼとぼと市役所を出た。
 これからこの見知らぬ街で女性としての僕の新しい人生が始まる。
 暑い真夏の日の出来事だった。