TS関係のオススメ本02-05
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「アーサー王子乱行記」(1998年〜1999年・弓原 望・集英社) |
一昨年(おととし)辺りから、表紙にアニメ風のイラストを施したローティーン向け(?)の一連の小説を「ライトノベル」と呼ぶ風潮が起こり始めました。 確かにこれといった呼称が無かったので分類するには何らかの名前を付ける必要があったのでしょう。ちなみに真城が中学・高校生辺りの頃にはこういうのは代表的なレーベルの名前を取って「コバルト文庫」とか「15(いちご)文庫」(15歳位の少女が好んで読むので)なんて呼ばれていた記憶があります。 それはともかく、ジャンル名として「ライトノベル」が定着する時代の狭間(はざま)に産み落とされたTSの名作(迷作)があります。 それが今回紹介する「アーサー王子乱行記」です。 「アーサー王」といえば言わずと知れた伝説上の英雄。その実在から発祥までちゃんと調べれば論文の一つも書けようというほど奥深いのですが、大雑把に設定を借りただけです。まあ「水戸黄門」と「ダイオージャ」みたいなもんです。 「アーサー王」と言えば中心に英雄であるアーサーがいて、魔術師マーリンがいて、円卓の騎士であるランスロットたちがいて…となるのですが、この作品においてはアーサーは性格が最悪の美男子(?)であり、マーリンは「メイド型アンドロイド」(ちなみに「アキバ系」による狂乱のメイドバブルがやってくる前の小説です)となっており、そして…ランスロットは何かと言うと女装させられる美少年となっていたのでした。 アシモフや田中芳樹あたりを思わせる「銀河帝国」を舞台とし、アーサー王伝説を下敷きに「失われた銀河回廊」を捜し求めて壮大な冒険活劇(スペースオペラ)が展開する…と書くと凄く壮大なSF超大作だと思うでしょ? 実際、「この夏のアニメ超大作」の宣伝文句です、と言われたらワクワクして胸が高鳴りそうな設定です。 …が、美少年ランス君が自国を乗っ取ろうとしたアーサーの身辺に女装して忍び込んで暗殺を謀るが失敗したあたりからおかしくなってきます(ん?)。 はっきり言いますが、このシリーズの「アーサー王子乱行記」というタイトルは「看板に偽りあり」です。 正しくは「ランス君女装&性転換紀行」です!! アーサーのサディスティックな性格から捕獲されてしまった哀れなランス君はメイドとして女装して身の回りの世話をさせられることになるんです。 文章だけ読むとなんだかヘビィな展開に思えますが、挿絵イラストを見ていただくとこんな感じです。 |
いろんな意味でこのシリーズを象徴する挿絵。(後ろのマーリンが可愛いな( *´∀`)) |
内容は腹がはちきれるほど爆笑できるSFコメディなので陰湿さは…ちょっとだけ…微塵も無いです(日本語変換機能にバグ発生!)。 というか、このシリーズはぶっちゃけ毎回趣向をこらしてランス君に女装やTSを仕掛けまくるお話なのです! 第二巻では女子高へと潜入ミッションとなるんですが、アーサーは教師役に納まっているのに、ランス君はマーリンともども生徒として潜入させられます。 |
元・御曹司もこんな目に遭わされています |
…っていうかこうなると「ためにする女装」という感じです。作者はよく分かっていらっしゃる(えー。 ちなみにこの第二巻では、マッドサイエンティストの気まぐれで、本当に女の身体に性転換されてしまったりします。 |
起きたら身体を女性に手術されていた!きゃー |
第三巻ではアイドルの身代わりをさせられることになるんですが、皮肉な事に徹頭徹尾演出を凝らして「萌え」(当時はそんな言い方は一般的ではありませんが)させているだけに、この三巻では本当に性転換させられてしまう二巻よりよっぽど萌えられるというのが素晴らしいです。やっぱり演出の勝利かなと。 |
誰もいないのを見計らって鏡に向かってキメ!…この後見つかって修羅場に… |
とにかく全編通した破壊的ギャグが面白すぎて私は窒息するほど笑いました。てゆーか何故この作品が大ヒットしてテレビアニメが放送だ、劇場版だという話にならないのでしょうか?各局のプロデューサーの目は節穴ばっかりです。つかやっぱみんなTS嫌いなの? 今は鬼のようにあらゆる「ライトノベル」がアニメ化されているんだから今こそチャンスだと思うんですが。 これまで紹介した作品の内いくつかは、「TS描写」や「展開」に主観とか願望とかが入り込みすぎているものも多かったんですが、この作品に関してはかなり突き放して「ギャグの素材」として扱えていますね。でもきっちり「萌え」部分は抑えており、全体として非常にレベルが高く仕上がっていると思います。 作者の弓原望氏はてっきり女性だと思っていたのですが実は男性でした。別作品も結構ありますが(夢中になって真城は殆(ほとん)ど買い揃えました(^^)、かなりの「SF者」です。 とても残念ですがメインストリームとは言い難く、今では入手困難な作品も多い模様。う〜ん。 ちなみに第四巻ではランス君は遂にバニーガールの格好をさせられてその姿を全銀河に中継されたりするんです。 |
が、この部分だけはちょっと後味が悪かったです。何故かと言うと必然性が無いから。 メイドの格好とか女子高生の格好とかアイドルの格好とかどれも「理由がある」(無理はあるけど)から許されるのであって、「女装の為の女装」は物語のギミックとして美しくないんですね。まあ、ギャグ小説を本気で考証しても仕方ない気はするのですが。何故ぬけ作先生は銃で撃たれても死なないの? 最終第五巻。 「ライトノベル」って最初の内はコメディタッチでも途中からどんどんシリアス度合いを増していくことってありますよね?TSには全く関係ないけど絶対その内紹介したい「フルメタル・パニック」とか。 この「アーサー王子乱行記」も、幸か不幸かその路線を辿ります。マーリンの恐るべき秘密とか、無敵の傍若無人ぶりを誇っていたアーサーの思わぬ凋落と辛い運命とか(大分違うけど、物語の機能としては「北斗の拳」のケンシロウと同じなので、「圧倒的に強い」存在で無いと面白くないんです)、犠牲者の多さに第五巻では精神的にへこむことも多々。 コメディがどんどんシリアスになっていくのは作者は結構満足かもしれませんが、実は読者にとっては結構苦痛だったりします。「ただ笑わせるだけでは深みが無い」と思うのかもしれませんが、基本的には「楽しむため」に読むので、所謂(いわゆる)「鬱展開」はスパイス程度にしておいた方がいいと思いましたね。特にこの最終巻では。 だって、普通に考えたら絶対にマーリンとアーサーの仲の修復は不可能ですもん。というか、みんな揃って女装させたりこきつかったりといった「あの楽しかった日々」はもう戻ってこないよなあ…という寒々とした感慨しか浮かばない偉い事になってしまってますから。 しかし…それらを全てぶっちぎってラストシーン(に至ってすら女装させられているランス君…orz)は何だかんだで感動モノでした。「こんなご都合主義あるか!」と涙ながらに叫んびつつ感激に打ち震える…というところでしょうか。 正に「大冒険」が見事に完結し、ひょっとして苦しいながらも楽しいあの日々が帰ってくるのかも知れない…ああ、生きていて良かった…という正に大団円。 最後は物語を収束させるので精一杯、駆け足の上多少の強引さと何よりラストの「ありえない」はずだったハッピーエンドで締めくくられます。 しかし、それでも収まるべきところに収まってくれた手腕に拍手! そんなこんなでページ数だけで言うとこれまで紹介した小説の中では最大規模。ライトノベルとはいえ全五巻です。 しかし…これは是非読んで頂きたい! 「女装萌え」「性転換萌え」はまず保障付き!それを目当てに読んでもまず期待は裏切られません! 絵柄がとにかく可愛らしく、表紙の女装ランス君に「ピン」と来た方ならばまずOK! そして…とにかくぶち切れたギャグセンスの余りのハチャメチャさに目が点…。決して何かを飲みながら読むとか禁止!思いっきり噴きますよ!終盤に突入するまでとにかく爆笑の嵐。何度も窒息しそうになりました。 更に「SF者」である弓原氏の細かいこだわりのある宇宙描写も必見。これは単発の別作品「ヴァージン・システム」辺りで脇役のメカニックが延々語ったりしているので一聴の価値あり。 あと、「あとがき」がマジで面白いんですよ奥さん!(←こんな感じ)。 私なんぞ途中から「あとがきが楽しみで」買っていたみたいなもんです。延々アニメのパロディで訳の分からんを語り始めたり(パトラッシュ、なんだかボクとても眠いんだ…)、捏造アンケートを突如発表し読み上げたかと思うといきなりバラしてばっくれたりとやりたい放題なんですが何か? とりとめ無くなってるんですけど、私としてはこんなに面白い小説が半ば放置同然にされて話題にもなっていないのが悔しくてたまらんのですよ!確かにTSはからみますが、これだけ面白ければ話題になって当然だと思うんだけどなあ…TSファンって価値観とか感性がマイノリティなのかなあ…。 個人的には「猫も杓子もライトノベルをアニメ化」の嵐の中にあって、是非ともこの作品のアニメは見てみたい!出来れば「○都アニメーション」とかの制作で!(無謀すぎ)。 それもテレビシリーズとかOAVとかケチくさいこと言わずに、劇場アニメ化しましょう!第一作目とか第二作目とかはシリアス趣味が程よくブレンドされて二時間に収まりそうな尺だし、娯楽超大作としての風格を備えていて絶好だと思うんですけど…。 案の定品切れ起こしてますが、そこは我らが味方のマーケットプレイスがあるので読んだ事の無い方は是非!2006.11.18.Sun. |