TS関係のオススメ本02-10
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「Mr.Clice」(ミスタークリス)(1989年〜・秋元治・集英社) |
実は「女性への性転換願望」というのは「超人願望」と表裏一体です。 真城は小学生くらいの頃に…そりゃもう女の子になっては見たかったんですが、それと同じくらい「空を飛んでみたい」という願望がありました。 流石に「うる星やつら」のラムちゃんに直接憧れはしなかったものの、「鉄腕アトム」が空を飛ぶのには本当に憧れましたね。お陰で空を飛ぶ夢を随分見たもんです。え?TSの夢はって? …それを語り始めると一冊の本になるのでとりあえずスルー。 しかし、「超人願望」ってのは間違いなくある訳です。 「ウルトラマン」や「仮面ライダー」が人気があるのも「強くなって怪獣(怪人)をやっつけるんだ!」という願望を投影しているからでしょう。 ならば「TS」だって同じです。 え?女になってしまったんでは「か弱く」なるから「超人」とは正反対じゃないかって? ちっちっち、日本じゃあ二番だ!…じゃなくて違いますね。実は「強さ」というのは何も肉体的な強さのみならず「優越感が得られること」そのものをも指しているんですよ。そこには実は「美しさ」「可愛らしさ」といった価値観も当然含まれるのです。 皆さんも「美男美女」がどれだけ世の中を渡っていくのに得かなんて当然知っているでしょ? ですからTS作品の多くの主人公は「女の子になっちゃった自分」を恥じ入ったりうろたえたりしつつも、どこか誇らしげなんですよ。 ところが中には「性転換したことで本当に超人化する」作品も存在します。 「アストロ!乙女塾!」のコラムでも「女装すると超人化」といったコラムがありますが、本当にこの世界では「TSすると超人化」というのはごく当然の常識…とまでは言いませんが、特に珍しいことではないんですね。 そんな作品の筆頭がこの「ミスタークリス」です。 この絵柄を見てお分かりの通り、「こち亀」で名高い秋元治先生による書き下ろしによる中篇集という少しだけ変わった形式。 私は海外ドラマはそんなに詳しくないのですが、「0011ナポレオンソロ」「スパイ大作戦」などが下敷きになっている模様。全体の章立ての形式などは明らかに「ゴルゴ13」にオマージュを捧げています。 主人公の繰巣陣(くりす・じん)は一流のスパイ・エージェントだったのですがとある事故をきっかけに若くして亡くなった女性テニスプレイヤーの身体に脳を移植されてしまいます。 そこからその女の肉体と男の精神を駆っての痛快スパイ・アクションが始まる…という筋立て。 作者の秋元先生は元々、「週刊誌で連載を持ちつつ、月刊誌で読みきりを描いてこそ一流漫画家」みたいな思い込みがあったとのことで以前からそのミリタリー趣味を最大限活かせる形式を探していたみたいです。 そこでスパイアクションを描くのですがそこにTSを絡めた…と。 本家「こち亀」にも麻里愛(あさと・あい=まりあ)というTSキャラが出てくるのですが、ハインライン御大なんかと違って作者自身のTS願望とか、或いはフェチ的なこだわりみたいなものは余り感じられません。 何しろ描写が恐ろしく淡白で、余り感情が上下しないんですよね。例えば初めて自らの肉体に気付く一連のシークエンスはこんな感じ。 |
…淡白でしょ?下手すりゃ女性作家が描いたんじゃないの?と思うほどの素っ気無さ。この対象に過剰にのめりこまない冷静さが長期連載を可能なさしめているのかも知れません。 そして、元々強かったクリスはサイボーグ強化され、更に恐るべき強さを手に入れます。 |
漫画やアニメで「強い人」というのは「ただ強い」というだけでは駄目で「圧倒的に」強くなくてはいけません。 とんでもなく物凄いことをあっさりとやってのけた上に平気な顔をしているからいいのであって、現実の世界の様に分相応のことを必死になってどうにかこなせる…それも何度も失敗しながら…というのは格好よく無いのです。 フィクションってのは現実逃避なのですから、せめて漫画読んでいる間だけは自己陶酔に酔いたいではありませんか。 その結果生まれてくるのがこうした「超人」たち。 それこそ格闘技漫画で見上げるような筋肉が岩のように盛り上がった大男と、貧相な小男が出てきたらもう勝敗は見えてますね。 間違いなく小さい方が勝ちます。 わが国の武術に言う「柔よく剛を制する」という奴で、ぶっちゃけ柔道漫画の「Yawara!」なんてこんな展開ばっかりです(爆)。つまり、「あんなに弱そうなのに」勝つという味付けなのです。 この路線を極限まで推し進めるとどうなるかと言うと「外観は美少女なのに恐ろしく強い」という正に“マンガ”としか言いようの無い設定が出来上がってしまう訳です。 正直アクセント程度ならばともかくこういう「美しければ強い」的なお約束が蔓延すると流石にちょっと…と思わないことも無いですな。特定の作品名を挙げるのは何ですが藤沢とおる氏の「ROSE HIP ZERO」とか、もう当たり前みたいに元・美少女テロリストがいい年こいたおっさん刑事を尻目にミニスカート翻しながら大活躍ですよ。 こういうのを読んでいると男性読者は男でごめんなさいと言うしかないですよ。 話がそれましたが、果たして女ざかりの肉体という美貌と鉄壁の防御力と怪力、攻撃力を兼ね備える「地上最強にして最高」の存在となったクリスは益々大活躍。 |
反動の少ないG11とはいえ1キロ先を1倍スコープで狙うクリス 蜂の巣になりそうな銃撃の嵐を食らっても全く平気 |
一応毎回「男に戻せ!」と叫びつつも結局は戻れない…という定番のオチが繰り返されるのですが、正に「嬉し恥ずかし」「痛し痒し」で、男性機能が無いことを除けば正に「言う事なし」状態。 だって、女性の最大の弱点の一つである「肉体的なひ弱さ」といったデメリットが欠片(かけら)も無いんですから。 ちなみに、秋元氏には強烈なTS願望やフェチ的なこだわりは感じられないと書きましたがそれでも「美しさの優越感をひけらかす」描写は幾つかあります。 実は…うちの読者さんに(生まれつきの)女性がどの程度いるのか分からないのですが(核爆)…男性の「どうせ自分がなるんだったらの理想の女性像」ってのがありましてね、無意識にでしょうがそれを体現するキャラになっているんですよクリスって。 それは「自分では特に意識もしていないのだけど、自然に美しさが滲み出ちゃって困るなあ」状態ってことなんですよ! ちなみにこの描写は「TS願望」が筆を握って描いたに等しい「まるでシンデレラボーイ」にも散見され…てゆーかそんな描写ばっかり。 何しろ「基本的には嫌がっている」建前になっているので、自ら「どう?オレって可愛いでしょ?」とは言いにくい。だから「ふん…本当はこんな格好したくないけど…し、仕方なくやってるんだ!え?綺麗?そんなの知るか!生まれつきだからしょうがないだろ!オレは男なんだから…べ、別に女として容姿を褒められたって嬉しくもなんとも無いんだからな!」と言いたくて言いたくてたまらんのですよ!分かってもらえるかなあ、この気持ち…。 …ってこれって今流行のツンデレですね。書いていて気が付いたけど。普通のオタクはツンデレの女の子に憧れるけど、TSファンはツンデレっ娘になりたがるのが最大の違いでしょう…orz。 勿論、現実にはそんなことは無理なので漫画や小説、アニメでそれを疑似体験する訳です。 秋元先生がどの程度意識していたかはともかく、この「ミスタークリス」はそうした感情を自然と抱かせるには絶好のビジュアル作品になっているんですね(^^。 ではここで「クリスのコスプレ・ギャラリー」と参りましょう。 |
どれも「任務だから仕方なく」です。 本人は最早自分が女装していることすら意識せず、あくまでも「プロ意識」で行なっている…というのがミソ。 上記一番左なんて着心地が良さそうで何とも言えない味があるでは無いですか!でも本人は特に意識するでもなく…。…そう、そこがいいんですね(^^。 これって女装を仕事にしていつつ、それに特に思いいれも無く淡々とこなしている旅芸人一座の女形(おやま)の小学生の少年とか中学生の少年とかを見た時の「こいつら大人だなあ…」といった嫉妬にも似た感情と言えるでしょうか(相変わらず例えが分かりにくい上に長いです…orz)。 ですからこれらの衣装に粘着しているところは全く無いので、そういう意味で期待して読むと若干肩透かしを食いますが、それでもこの「クールな女装(?)」はなかなかいい味を出しています。 ただ、その淡白ぶりが若干不満になることも無いわけではありません。 というのはこんな衣装まで着ている |
いきなり序盤でバニー。当然「着る葛藤」とか一切無し!(;´Д⊂…。 |
のに、それがかなり序盤のエピソードでいきなり出て来て、しかもあっさり流されちゃう。別にそんなにバニー好きではないのですが(説得力無いな…orz)、もう少しフェチ的に拘ってもバチは当たらないでしょう。 流石に網タイツに脚を通す場面とか、バニーコートの背中のホックを留めるシチュエーションを延々描写しろとかは言わないけども、もう少しこう…ね(爆)。 そんなこんなである意味とてもクールなTS漫画です。これまで何例も紹介してきたいい意味で自己撞着した作品群とは一線を画していると言えるでしょう。 しかし!だからと言って萌えられないということは決して無く、むしろそのクールな姿態の裏側を想像し、今や女性として振る舞うことも女装する事も仕事と割り切ってこなすプロの仕事を楽しむのも一興。 それにそっち方面の魅力を殆ど紹介していませんが、スパイアクションとしてもなかなか読ませます。 幕間に好きな銃器のコラムが入ってきたり、あきらかに描きたかったであろう素材。個人的にお気に入りなのは「F-14」の姿が見えたことで「空母が応援に来てくれた」ことを察する場面。 漫画ファンにとって「F-14」と言えば「エリア88」のミッキーの愛機だったり、「超時空要塞マクロス」のバルキリーの原型だったり(どうでもいいですがこのおもちゃは米兵の皆さんに大人気だったとか)、映画「トップ・ガン」の主役機だったりでしょう。実際、余りにも格好いいので無意味に色んなところで使われてますがあれは本来艦載機で、空母の周囲を飛んで偵察する任務が本来の使い方。あれを砂漠の真ん中で運用していたミッキーの方が少数派なんですよ! ですから「F-14」の登場から「空母が近くにいる!」ことを察するというのは正に理に適っており、この辺りはミリタリーマニアである秋元先生の真骨頂を見た思いです。こち亀のギャグやTSだけじゃ無いんですよ! 組織「ハンター」並に設定がいい加減な組織なのですが、局長やコメディリリーフにしか見えないベラマッチャにもちゃんと見せ場があってその辺は正にプロの仕事。う〜ん、これでクリスが本気でハニートラップを使えれば正に無敵なんですが…。 ということでクールでドライ、からっとしていて後味のいい…ってビールのコマーシャルみたいだな…娯楽作品。しかもTS。素晴らしい。 今も断続的に連載が続いていることもあってかなり手に入りやすく、オススメしておきましょう。小さな版型のコミックスなので値段が手頃なのも高評価。 では私がこの漫画で一番好きな場面をご紹介。 クリスだってプライベートで旅行したりするんですが、何しろ肉体が美女になっているので「プライベートでも女装」をしていなくてはなりません。仕方ないよねそりゃ。 ですからよそ行きの一張羅で着飾って駅に降り立つとこんな具合になります。 |
女の肉体に脳を移植されるという不幸(?)に見舞われつつ結構楽しんでいるクリスさん |
…一見何てことの無い場面ですが、これにはグッと来ましたねえ。 だってプライベートですよ? 誰に強制されるでもなくこの服とか靴とか(多分)ストッキングとか、(当然)下着とかを着てやってきている訳です。どうですかこのオシャレ具合!特に足元とか靴の形とかもう完全に「大人の女」ですよ! 部屋に入って寛(くつろ)いでも当然コートの下は女物ですから部屋着も当然スカートにブラウスです。 |
もう抵抗無く窮屈そうな靴も脱がずにスカートで脚を組んでくつろいでいるクリスさん 更にこの後レストランに行くのに新調したドレスを着ていくことになります。う〜ん |
これって寛(くつろ)げるんでしょうか? 脳移植されたスパイの経験は無いんですが、私なら個室に鍵を掛けてパジャマとかゆったりしたズボンで過ごすと思うなあ。女装はいいよもう。四六時中やってんだし。 これはそれこそ「長期間やっていて女に自然と馴染んできた」ことを想像するには絶好の場面です。 こういう楽しみ方が随所で出来るのが素晴らしいですね(^^。 「何気ない仕草が可愛くなってしまう」という、文章だけ読んでいると「受け身」だけども実際には「プラスポイントの獲得」でしかない“何気ない可愛い仕草”のコマを紹介して今回はお別れです。 この他にも名場面は数限りなくありますが、それはコミックスでどうぞ。2006.11.24.Fri. |