TS関係のオススメ本03-05
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「エクスカリバー」 (旧版1997年・巣田祐里子・新声社/新版2004年・角川書店) |
今は亡き「新声社」による「ゲーム原作の漫画」ばかりを集めた「コミックゲーメスト」に連載されていたファンタジーRPGを下敷きにした作品。 今回紹介するにあたって調べて初めて知ったのですが、何と2004年に版元を変えて再販されていました。ちなみにこの表紙は当然旧版です(^^。 この「コミックゲーメスト」雑誌コードがまだ無い増刊号扱いの「準備号」で18禁ネタの大乱舞をやらかして大顰蹙を買いました。しかも「いやらしい」とか「エロ」ならばまだともかくひたすら下品路線だったのが大問題。純真な(?)ゲーム少年たちの夢を叩き潰した罪は大きいのではないかと。 晴れて雑誌コードを取得して新創刊した時には、とにかくTSネタばかりの素晴らしい漫画雑誌に変貌していました(*^^*。 連載漫画で女への変身能力を持つ探偵ものがあったりと「連載漫画」は元より、読者投稿コーナーにまで、運動会の応援合戦でドレスを着て踊っていたら転んで腕を骨折し、そのまま病院に運ばれたとかを誇らしげに掲載しているのが素晴らしかったです(爆) ま、それはともかく「エクスカリバー」です。 主人公のお姫様、アサヒは魔物に攻め滅ぼされた隣国の婚約者にして王子のジュノンを探して旅をしています。ところが… |
いきなり衝撃の登場。ちなみに獣人族の余興で性転換されたんだそうです。 そして父も兄も全員同じ運命を辿ったとか…。Σ(゜Д゜*)ド、ドンナメニアッタンダロウ… ちなみにこれが元の姿。こんなイケメンも今や美女の姿に… |
何と魔族の魔法で女の姿に変えられていたのです! 実はTS作品というのは一口にTS作品といっても本当に様々な傾向があります。ま、考えてみれば当たり前で、とんこつラーメンもしょうゆラーメンも塩ラーメンも味噌ラーメンも全部いっしょくたにラーメンと呼んでいる様なもの。 では、この「エクスカリバー」はどういった傾向のTS漫画なのでしょうか? これまでの作品と一番違うのは作者が女性であるということ。 本来「TS」が「性転換」という意味ですから、男性が女性になる話ばかりではなくてその逆もあるはずですが、一般的には男性が女性になる物語をそう呼ぶことが多いです。 そして、この場合は女性が、「女性になる男性」を描いていることになります。ここが最大のポイント。 何しろ作者自身が生まれつき女性ですから、「女性への憧れ」なんてものがあるはずがありません。 では作者の方はどの様なスタンスで描いていくことになるのでしょうか? これは実は結構難しい問題です。 女性の手による「男→女」のTS漫画で最も有名なのは当然「らんま1/2」ということになるでしょう。 では「らんま1/2」はTSファンたちに全面的に好評を持って受け入れられたのでしょうか? そんなことは無いことはウチの読者さまにおかれましては当然お分かりですね(^^。 確かに最早「国民作」とすら言ってもいい大人気漫画で、夕方5時代にあのおっぱい出まくりアニメが放送されていた偉業を達成し、何より「TS作品」そのものの知名度も大きく押し上げました。 反面、どう逆立ちしても「欲望を掬(すく)い上げる」構造を取りにくく、何と9年に渡る長期連載でどうしても展開がマンネリ化して行きました。後半は増えに増えまくったレギュラーキャラが跋扈する「スケールダウンした「うる星やつら」」となり、高橋留美子先生の持ち味である「不条理展開」によってヒドイ目に遭わされる主人公たち…という展開に読んでいてかなりストレスが溜まった思い出があります。 高橋留美子先生のスゴイところは「男性がこういう展開に弱い」ということを見分ける“嗅覚”みたいなものを備えていたことです。そうで無ければ少年誌でこれだけの年数に渡って活躍出来るはずもありません。 ですから私の分析では「らんま」も「男性読者は『男の子が女の子になってしまう』漫画には必ず食いつくはずだ」というカンによって導き出されたと思っています。この手のTSネタはその前の連載である「うる星やつら」にも沢山あります。 とある知人は「らんま」を読んでいて「こいつ(高橋留美子先生のこと)って男みたいだな」といみじくもつぶやきました。実に鋭い分析です。 避けて通れないのでその内「らんま」もやりますけど、女性作家が「女性化した男性キャラクターを描く場合」にありがちな現象があります。 それは「可愛らしいマスコットとして愛玩する」様に描写すること。 …心当たりありません? 何しろ「こういう風になりたい!」とは…少しは思うかもしれないけど、男性のそれとは全く意味が違うでしょう。 私が「らんま」で一番違和感を感じたのが、各巻の表紙や各話の扉絵などでさも嬉しそうに女装して可愛らしいポーズでカメラ目線を決めているカットが多数存在すること。 当時はせいぜい中学生くらい(連載開始当初)だったと記憶しているのですが、基本的には嫌がっているはずなのにこのショットは一体どういうシチュエーションなのか?とかなり疑問に感じました。 いや、そんなに深刻に考える問題じゃないことは分かってるんです。そして男性作家が描いたTS作品にもこういう構図は幾らもあります(ちなみに「ふたば君チェンジ」や「まるでシンデレラボーイ」には沢山あるけど「めたもる伊介」には皆無。この差が分かるかな(^^?)。 しかし、論理的に納得がいかなかったんですよ。らんまは女になってしまう体質を嫌がっていたのではなかったのか?事実劇中でも嫌がっているし、女装だって追い込まれない限りはやらない。何より「水を掛けられる」という完全に外因で性転換してしまうという道具立ての設定に成功したお陰で、「不随意に性転換させられる」という状況を生み出せています(ちなみに「水を掛けられることで性転換する」ために、その後着替えを兼ねた「入浴シーン」への必然性が生まれ、元に戻ると同時に読者サービスも行えるという奇跡の様な巡り合わせを成し遂げています。「国民作」の二つ名は伊達ではありません)。 では何故らんまは表紙やポスターでそんな可愛らしい衣装を着て可愛らしい“女の子みたいな”科をつくっているのか? これはもう半ば喜んでいるとしか思えず、実際らんまが「薄味」と感じてしまうTSファンが少なくない原因ともなっています。 ですがこれは実は鑑賞法が間違っています。 あれはあくまでもイメージショットであって、高橋留美子先生は「女乱馬」を「下級生の可愛い男の子を女装させる」かの様におもちゃにしていたに過ぎないのです。 そう、女性(作家)の特権(?)に「男の子を女装(女への性転換)させて楽しむ」というのがあるんです。あなたの周りにもいませんでしたか?下級生の男子に無理矢理女子の制服着せて楽しんでいた女生徒が。私の周囲には沢山いましたよ? つまり、この漫画におけるTSはそういう願望によって描かれていると見るのが穏当で、男性が煩悩を刺激される訳が無いんです。 |
右の人物がジュノン王子(現・姫)。ちなみに左上でセクシーなボディラインでぺこぺこしてるのもそう |
このシチュエーションは、「あらたまった席」に出席する際のシチュエーション。 これは男性作家ならばこれだけで1エピソードこしらえられるほどの美味しい状況です。 どういうことかといいますと、公式の席に出席するには当然「正装」しなくてはなりません。ここまでいいですね? しかし、ジュノン王子は今はその肉体が女性のものになってしまっています。 肉体が女性である以上、「正装」というのはドレスのことです。 自分は男なのに、肉体が女であるというだけで女性として着飾らなくてはならないこの屈辱的で恥辱的な状況に追い込まれたこの葛藤!正に「追い込まれたシチュエーション」です。 もう、文句なしの萌え場面です。 「これが…私!?」場面にしてもよし、周囲のとりまきがドレス姿で現れたジュノン王子(の変わり果てた姿)の美しさにため息をつくもよし、幾らでも料理出来る美味しすぎる素材です。 ところが、女性である作者はそうしたことには一切興味が無く、なんと主人公のアサヒ姫がペアルックになれて喜ぶというギャグ場面にしてしまいました。それも見開きどころかたったの一コマのみ。 先述した通り、違う価値観で描かれていることが分かっていても、正直この漫画を読んでいて感じるのは勿体無いということ。 例えば次の場面。 |
このウェイトレスさん誰だと思います? はい、ジュノン王子(現・姫)です。 女の身体にされたまま自らの国を取り戻す孤独な旅を続ける王子は、アルバイトで日銭を稼がなくてはならないので、こうして自ら働いているのです(!!)。 もうすっかり女が板についてきたこの感じはどうでしょう! かつては台所仕事などしたことも無かったであろう身分卑しからぬ王子様が、よりにもよって女の身体にされた上、可愛らしい制服に身を包んで客商売の下働きの小娘に身をやつしているのです。 何だか髪型まで可愛らしくなってますが(!!)、すっかり制服に身を包み、鏡に向かって髪型を整えた瞬間、その自らの姿に涙するとか、はたまた逆に誰もいないのを見計らって自分でちょっとスカートをめくってみて、誰かが来て慌てて職場に飛び出していくとか本当に、幾らでも幾らでもTS的に膨らませられるシチュエーションです。 しかも、お尻まで触られています。 にも関わらずこのページだけで終わってしまうんですよアルバイト場面。う〜ん(^^::。 絵柄だけを見ればかなり可愛らしいのですが、TSものとして見た場合、煩悩を刺激されることが全く無いこの漫画。女性作家がさも当たり前の様にTSを使うとこうなってしまうという例を見た思いですね(^^。 これと比べてしまうとあのドライな「めたもる伊介」でも「ああ、男性作家の作品だなあ」という気がします(^^。 では「普通の漫画としての評価はどうか?」ということですが、私にはよく分からないです…。スミマセン。 何しろ展開…というか粗筋の論理というか脈絡が物凄い駆け足で進んで行ってしまい、よほど漫画慣れしている人で無いと粗筋も把握できないでしょう。 とはいえ、復刻されたのは伊達ではありません。むしろ過剰に思い入れすぎる男性読者の生理から離れて、より軽やかに割り切ってTSを使うその軽やかなノリを楽しむのが正解でしょう(^^。 恐らく女性読者諸氏は「わあっ!ジュノンちゃん可愛いっ!」とか言って楽しめるのでしょう。きっと(*^^*。 忘れちゃならない「らんま」だって女性人気はかなりあったんですよ。 という訳でコテコテの男性読者にとっては「異文化コミュニケーション」みたいなTS漫画です。 2006.11.29.Thu. |
こちら←前の作品へ 次の作品へ→こちら |