TS関係のオススメ本04-04


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真城 悠


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ボクの初体験(2003年・弓月光・集英社文庫)

 先日テレビで「世界一受けたい授業」観てたんですけど、子供が好き嫌いが多いことが多いのは「未知の味」に対して無意識に警戒するために、味覚が「マズイ!」と判断させることで毒物(の危険性がある食物)を摂取することを回避しているんだそうです。
 大人になって味覚が変わり、子供の頃には食べられなかったものが食べられる様になるのは、経験を積んで安全を確認出来たからだというんですね。
 確かに私は未だに漬物とか紫蘇は苦手なんですけど食べられる様になったものは多いですからね。

 何でそんな話をいきなりするかといいますと、昔は私この漫画が苦手だったんですね(^^;;。
 「2003年」発行になってますが、これはあくまでもこの文庫版の発行年度であって、旧コミックス版はもっともっと古いんです。何と連載は
1975年!開始。実に31年前なんです。
 …これはかなりの古さ。ウチの読者さまにあっては
生まれていない方もいらっしゃるのでは?
 ちなみにこの年にあった主な出来事やヒットしたものとしては、

ザ・ピーナッツが引退表明。
伝説のロックバンド、キャロルが解散。
佐藤栄作元首相死去。
「メカゴジラの逆襲」公開
昭和枯れすゝき(さくらと一郎)
シクラメンのかほり(布施明)
港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ(ダウン・タウン・ブギウギ・バンド)
(Wikipediaより)

 …というところ。何かもう昭和は遠くなりにけりという感じです(何じゃそりゃ)。

 作者はこれまたかなりのビッグネーム、弓月光先生。
 男性なのに少女漫画畑で活躍されていた方で、性別不詳の名前から女性説が根強かったらしいですが間違いなく男性です。
 現在は少女誌から青年誌に活躍の舞台を移してなお現役バリバリでいらっしゃいます。
 こういうメジャーな作家さんというのは「意識」というか
「センス」が「TSもの」では無いことが多く、であるからこそメジャーであるという悲しい法則が当てはまります(;´Д⊂・・・。

 実際、
「濃厚なTSものが読みたいっ!!」という意識で前のめりになっている時に読んでも消化不良を起こすでしょうが、そうした意識が一巡し、落ち着いたところで鑑賞する体勢が整ったところで読めばかなり楽しめます(^^

 経年による味覚の変化の話をしたのはその為で、紹介の為に読み直してみるとかなり楽しく読めたので意外だったんです。
 私が発見したのはまだ確か中学生の頃で、当時の感想は
「ふ〜ん、こんなもんかな」程度だったからです。

 ところがその影響力は下手すると「らんま」に匹敵します。
 先日紹介した人格転移の殺人の作者の西澤保彦氏は執筆動機をこのボクの初体験に触発されたとはっきり書いていますし、らんま1/2」にインスパイアされたと思われがちなふたば君チェンジも作者のあろひろし先生はこの作品の名前をまず挙げていらっしゃいます。
 どっかでプロ野球選手のインタビューか何かでも読んだ覚えがありますし、何しろ歴史のある(?)漫画にて何より作者の先生がバリバリの現役ということで、必ずしもメジャーとは言い切れないこの漫画も「あの作者の幻の作品!」ということで脚光を浴びる機会も多くなります。

 確かに改めて読むと面白いですからこの人気は納得。
 ただ、何故昔の私にはピンと来ず、今になって読むと面白さが納得できたのか?
 推測なのですが、当時の私はTSものに意識が前のめりになる余りに「理想のTSものとはかくあらねばならない!」と過剰に思い込んでいて
視野狭窄していたと思うんですねf(^^;;。
 それなりにいい年こいて部屋中埋もれるほどTS漫画や小説を読み倒した今になると、そうガツガツしていないので力が抜けて楽しめるんではないかと…。

 つまり、まだガツガツしている人にはちょっと物足りない可能性があります。
 ってことで紹介。
 

 主人公の超純情少年・英太郎は女子にからかわれ、なんと
ショックの余り自殺してしまいます。
 この
勢いだけのギャグみたいなノリで崖から飛び降りるところは社会情勢が喧(かまびす)しい昨今には冷静に見られませんなΣ(゜Д゜)。

言わずと知れた弓月美少女になった英太郎くん。普通にしているだけでカワイイですね( *´∀`)

 ところが目覚めてみると見たことの無い美少女の姿に!
 何とマッドサイエンティストの手によって
脳移植されていたのです!

 この辺の「鏡を見てうっとり」系の場面は殆ど全てが名場面なのでスキャンしているとキリが無いです(^^;;。
 ただ、この辺りから「ちょっと普通のTS漫画と違う?」感じがし始めます。
 それはキャラの顔が余りにも大胆に崩れること。
 論より証拠、見ていただきましょう。TS漫画の目玉である「これが…オレ?」シーンでもこんな具合。

ちなみに矢印の文字は「なんというメンクイ・バカ!」と書いてあります。そういう問題か?

 この崩れ方ってのは弓月漫画では普通なんでしょうけど、美少女TS漫画ではちょっと珍しいのではないでしょうか…。
 更に興味深いのは、「自爆」ならぬ
「TS版ノリツッコミ」みたいなことをかますんですね。

誰にも見られていないのに我に帰って自らを叱咤する英太郎くん

 TSジャンキーだとこういうシーンって中途半端に感じたりするんですが、
免疫の無い一般の方にはこれでもかなりの威力なんですよ。お分かりかな?

 ちなみにストーリーの方も説明しておきましょう。
 英太郎くんはマッドサイエンティスト人浦博士の若くして亡くなった奥さん、春奈の身体に移植されるんですが、人浦博士の目的は「愛する奥さんを生き返らせる」ことでした。脳が変わっていればそれは人格が違うってことなんですが、そこは
深く考えていなかったみたいです。
 英太郎は自らの身体が活動が可能になるまでの三ヶ月の間、その身体のまま過ごす羽目になります。
 そして、何と英太郎は自らを死に追い込んだ「美女連盟」に復讐する為に17歳の肉体を利用して元の学校に女子生徒として潜入して
復讐を誓います

邪悪な笑みを見せる春奈(中身・英太郎)。こんなにアクティブな被TSキャラというのは珍しい?

 私なんかはこういう「(多少狭い範囲ながら)一般にも人気のあるTS漫画」を読む際には、「どの辺が非TSファンに受けてTSファンに受けないのかな?」と考えながら読むんですけど、恐らくTSファンはその状況とか環境に非常に執着するんですけど、非TSファンは
「受け入れつつも拘泥しない」という鑑賞スタンスを維持出来るからなんじゃないかな?と。
 私なんてこんな魅力的なシチュエーションを見せ付けられたらそれだけでお腹一杯で興奮して眠れないんですけど、カタギ(?)の皆さんは「ふ〜ん、女の子になっちゃったんだね。それで?」と冷静に見られるんですね。う〜ん、ある意味羨ましい。

 お馴染みの弓月ギャグをちりばめつつ、「脳移植あり」の世界観でのハチャメチャな展開が待っています。
 美女連盟の筆頭で英太郎をいじめぬいていた冴木みちる(女子)はその中で瀕死の重傷を負って、臨時に英太郎の肉体に脳移植されたりしちゃいます。

やっぱり基本は「ある」「ない」ですな(*^^*

 その後みちるは元の英太郎よりよっぽど男らしく振舞ったり、元の身体に戻れたと思ったらまた英太郎の身体に移植されたりとやりたい放題。

 そんな中でも人浦博士は中々英太郎の脳を元の身体に戻そうとしません。
 理由は簡単で、そのまま脳が女性ホルモンの影響を受けて女性化し、春奈の人格そのままでは無くてもそのままの姿を持った女性として定着することを狙っているからです。
 事実、後半では
不随意に女性的な言動や仕草が頻出するようになり、その都度ひっぱたかれないと元に戻れません(←ここが吹っ切れているところ)。

 最初に読んだ時は物凄くスピード感のあるハイテンションギャグ漫画が
たまたまTSがらみという程度の認識だったのですが、改めて読み返してみると登場人物がみんな善人ばかりのしみじみいい漫画です。
 みちるにしても
実は英太郎が好きだからいじめていたということが明らかになりますし、あれだけ春奈が擬似的に生き返ることを切望していた人浦博士も亡くなった春奈の幽霊に説得されて「元に戻してあげる」ことを決意します。
 人浦博士と春奈の馴れ初めのくだりは不覚にも
目頭が熱くなりました。この辺りは必見なので是非。

 このまま英太郎とみちるが元の身体に戻った場合、春奈だけが脳が死亡してしまっているため、真の意味での復活はならないのですが、何と「後継者」を用意することで綺麗な収束を迎えることになります。
 何と春奈の身体である英太郎は
妊娠するんですね。

こんな重大な事態でもあくまでギャグ調なのは流石
今は男の身体に入っているとはいえ女子が他人の妊娠をひ〜ひ〜笑います

 あ、勿論英太郎は人浦博士とも英太郎の身体に入ったみちるとも性交渉した訳ではありません。
 冷凍保存されていた春奈の死体が既に妊娠状態だったんですね。
 TSもので入れ替わり期間が長くなると生理とかは描かれるのは珍しくないのですが、妊娠・出産というのは流石に珍しいです。
 男性作家の手による女性へのTSものにおいては、どうしても
女体を興味本位でいじくりまわすことが多くなります。別に直接いじってなくてもある意味「おもちゃ」にしているのは変わりませんからね。
 そこで最後の最後で妊娠・出産を描き、それまでの贖罪とする例がままあります。ちなみにオレの愛するアタシ」なんかはその典型。映画の「Switch (1991)」も完全にこれですね。

 
そこは弓月先生ですから、妊娠・出産を巡るシチュエーションも
全部ドタバタギャグで乗り切ります

幾ら美少女になれるからってこれは過酷な運命。そしてちゃっかり追い討ちをかけるみちる

母乳を出す為の母親講習会に出席して乳首を引っ張られる英太郎。無邪気は罪

 最後には春奈の身代わりとも言える新たなる生命…赤ん坊…を得た人浦博士に無事に英太郎とみちるの身体に戻った二人が結ばれる…という絵に描いた様な「全員が幸せになる」エンディング。
 やっぱり女の子になった男の子は最後に元に戻れるという展開がしっくり来ますね。いや、そのまんまはそのまんまもいいんですけど、そればっかりじゃね(*^^*。
 とにかく、ギャグで顔が崩れまくるものの、全編
弓月美少女になった英太郎の大活躍が描かれ続けるのが物凄く美味しいです(*^^*。
 文庫本で全2巻とコンパクトにまとまっていますし、30年前に既にこれが描かれていたという歴史を感じつつ鑑賞するには格好の素材でしょう。

 もしも問題があるとしたら、
フェチ要素が全く欠落していることくらい。実は「脳で萌える」とか今まで散々言ってきたんですけど、ほんの少しだけフェチ要素が入っていることでぴりりと引き立つんですね。あれこれ書いていてやっと分かりました。これなら「エロはいらない」と断言できます(*^^*。
 何しろ文庫で再販されており、新品もあるので入手は楽勝。この機会に是非どうぞ(^^。

 ラストのコマを引用してもいいのですけど、そこは流石にレビューにおいては礼を失するでしょう。
 そこで最後に、完全に身体に引っ張られて脳まで女性化したことで絶望していたみちるに全てを告白する、エンディング一歩手前の感動的な場面を紹介してお別れです。2006.12.08.Fri.
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