TS関係のオススメ本04-08


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真城 悠


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IDOL 僕は美少女アイドル!?―デビュー編
(2006年・七海樹里・集英社コバルト文庫)

 皆さん小説を読む際にどこから読みます?
 真城はやっぱり「後書きから読む派」でした。だって小説一冊読みきるのはそれなりに大変だけど、あとがきならすぐに読めるので(^^;;。
 ところがある時期から完全に「前から順に読む」派に転向していました。
 わが国の「あとがき」はあとがきから先に読む読者が多いことを考慮してネタバレに相当することは書かないのが暗黙の了解になっているそうですが、やっぱり全て読んでから作者の一言とか作品の背景とか読みたいですもん。極論すればネタバレあり解説が付いていた方がついさっき読んだ感動(?)を分かち合うことも出来るというものです。
 大体本編を読んでからどうせまた「あとがき」読むんですから二度手間です。
 だったら前から順に読んだ方がいいだろうと。

 この「IDOL 僕は美少女アイドル!?―デビュー編」を読んでいて、感じたのがとにかく細かいディティールが圧倒的にリアルなこと。えぐい位に。
 読み終わってあとがきに到達して納得。
 何と現役の放送作家さんですよ。
 そりゃあれだけ描写がリアルになる訳ですわ。

 ちなみに帯には何故かお笑いコンビ「スピードワゴン」の小沢さんの推薦文が載っていたりするんですが、多分これも馴染みのタレントさんにお願いしたんでしょ。
「小沢ちゃ〜ん!今度本出すんで推薦文書いてよ。印税使ってザギンでグーフーおごるからさあ」とか何とか言って(推測)。

実話を匂わせる手法は上手いですね。もしかしてあの子が?

 主人公の平田直人くんは高校の卒業祝い飲み会のバツゲームで女装させられて街に放り出されます。
 …ん?ちょっと待て。飲み会?

 主人公って18歳ですよ?高校の卒業祝いですよ?

 …このあたりが凡百の女装アイドルものと違うところ。だって高校生が飲み会やるのに何のフォローもなし。「でも飲み物はジュースだけだった」とか書いてないんだもん。高校生なら居酒屋位行くでしょ?

奥に立っているのがオカマのマネージャーで手前が豪腕社長。
絵柄はこんなんですがその行動力は“本物”の迫力

 筋立てそのものは単純です。
 バツゲームとして女装させられた主人公の少年が渋谷109の館内マップを取りに行くことになるのですが、そこで芸能プロの社長自らスカウトされてしまい、実は男だと言い出せないままにオーディションに受かって女の子のアイドルタレントとしてとんとん拍子にスターになって行きます。
 ところが途中でマネージャーと社長に「実は男です」と打ち明けるものの、もう引き返せないのでどうにか男であることを隠しながら芸能活動をするしかない…という具合。

強引にスカウトされてしまう直人くん。( *´∀`)カワイイ!

 とにかく細かいディティールが本当に真に迫っています。
 CM撮影するんですが、
流石は本職。いかにもありそうなシチュエーションばかり。
 何しろあとがきによると「年齢詐称しているタレント」を見ていて、「もしも
性別詐称タレント」がいたらどんなことになるかな?と考えたのが発端だそうですから。
 ですから「もしもこんなことが実際に起こったらどうなるのだろうか?」という
現役の業界関係者によるシミュレーション小説になっているんです。
 こりゃあリアルなはずだわ。
 ローティーンの女の子が読む夢みたいなうわっつらの“芸能界もの”とは一線を画していてあたりまえです。

CM撮影現場でスポンサーのエロオヤジにからまれる直人くん。生臭いところもしっかりリアル

 業界ってところは本当に人間関係によって成り立っていて、ドラマでも事務所の社長が「ちょっとベッドシーン減らしてくんない?」とか“上のほう”に電話したりすると早速
脚本は改ざんされます。流石は豪腕社長。


 この小説の読みどころは、いざ社長までが自分がスカウトしたアイドルタレントの雛が実は男だったと社長に判明してからの
怒涛(どとう)の展開です。

 最悪の事態が判明し、しかも引き返せないとなったらやることは?
 そんなの
隠蔽工作に決まってます。
 まず、ベッドシーンのある相手の男のタレントの
スキャンダルをでっちあげて週刊誌にタレこみますΣ(゜Д゜)!!
 この騒動に乗じて脚本を改ざんさせ、ベッドシーンの前にドラマの中で死ぬ設定にして難を逃れようとするんですね。

 メイクや衣装関係者には専属契約をして
念書を書かせて秘密厳守。
 そもそもの発端である王様ゲームの参加者を全員突き止めて
口封じに掛かります。

 ここは原文をそのまま引用しましょう。(103頁。文字強調引用者)


「あとな、こいつの王様ゲームに一緒に参加してた奴らの名前聞いて、全員の口封じをきっちりしとけ。
親に借金あるなら現金バラ蒔いてもいいし、本人や兄弟の就職斡旋でも進学でも何でもいいから言うこと聞いて来い。その上で念書作って、実印もらって来い!

 …あのー、これって
コバルト文庫ですよね?
 しかもこれだけでは終わらず、この豪腕社長は、バレない内に処理しようと、直人くんに
外科手術による性転換を強要してきます。
 この「とりあえず話を聞くだけ」で社長とマネージャーを引き連れて病院に行く場面の「見てきた様」なリアルさには
背筋が寒くなりました

 流石はお医者さん、後ろでがなりたてる社長を無視してあくまで「本人の意思確認」をします。
 当然そんな無茶をいきなり同意しろと言われても無理な話ですから拒否の返事をするんですが、その瞬間に悪態をついて出て行く社長。
 …
いるよねこういう人
 きっと作者の放送作家さんは現場で嫌というほど
我がまま放題の逆ギレ業界人を見てきたんでしょう。

 どうにか最悪の事態は避けられたんですが、それは舞い上がった社長が芸能界入りさせる時に親の承諾書を取るのを忘れるというチョンボをしたからだったんですね。
 もし承諾書があったら…
芸能界って怖いところです。

この笑顔が男の子です。…素質はあったみたい

 平井かえでこと平田直人くんはどうやら「タレントとしての天性の才能」はあったみたいで、嫌々ながらではあるものの、節々にそうした片鱗を見せます。
 また、スキャンダルを通して母親といさかいを起こしたりする内、引っ込み思案だった彼が徐々に自分を表現することが出来るようになっていく…という成長物語の側面もあり。
女装アイドル小説だけどね(爆)。

撮影現場でのひとコマ。可愛いですけど事務所方針で
露出度の高い服はご法度。水着なんて言語道断(そりゃな)

 男の姿で自分の部屋に入るところを激写されて「熱愛発覚!」とやられるとか、芸能関係者の場合、引越しも信頼できる業者に頼まないと
そこから住所の情報が漏れるとか正に業界人で無いと書けない裏ネタが満載

 これは
コバルト文庫の表紙に騙されてはなりません。トンでもない骨太の小説ですよ!
 男はアレですけど、女の子(姿の男の子)はとても可愛いイラストですし、これはもうオススメに決まってますよ。
これは凄いです。
 何しろ見ながらでも分かる素材を普段から作っている放送作家さんの筆です。220ページと頁数は少ないものの文字数が結構詰まっているこの小説が本当にスイスイ読めてしまいます。

 巻数表示も無いし、いざこれから!というところで終わっているのでちょっと安心したんです。
 だって社長は何か厄介ごとがあるとすぐに「なあ、女にならねー?」と言ってきます。絶対狙ってるよ!
 でもここでお話が終われば彼の受難もこれまで。「どうにか頑張りました」という「めでたしめでたし」で安心することが出来るじゃないですか。
 が、よく見るとタイトルには
「デビュー編」の文字が…。
 …どうやら彼にはまだまだ安住の日は訪れないみたいです。
 これはこれから先の展開も目が離せないですね。続巻が出たら迷わずゲットですわ!未読の方は是非!
 …っていうか本職の放送作家さんなんだからドラマ化の企画にして持ち込んでくれないかなあ…。かえでを演じるのは本当の女の子のタレントで構わないから(*^^*…。
 とにかく続きが楽しみな一冊。
2006.12.12.Tue.

*とにかくこの表紙が惜しい…ったって仕方ないんですけどね。私ならばハードカバーの単行本は無理でも新書にして、表紙は写真を使ってもらう様にお願いしたいですね。本文に入ってくる挿絵はこのままでいいから。
 ソフトフォーカスを掛けて鼻から下のアイドル風の写真の表紙なんてそそられませんか(*^^*?
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