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TS関係のオススメ本04-09


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真城 悠


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不思議の国の少年アリス(1993〜1995年・小林瑞代・新書館)

 「少年」と言う言葉の響きにはとても不思議なものがあります。「少女」ともまた違う独特の透明感とでも言いますか。
 何故か海外にファンの多い「少年ナイフ」なんてメンバーは全員女性です。アニメファンなら誰でも知っている歌手活動もしている声優・坂本真綾のアルバムにも「少年アリス」という一枚がありました。というかそもそも「少年アリス」という「アリスを男の子にした」小説があります。
 そしてここにまた女性作家にして鬼才・小林瑞代氏の放つ不条理TS漫画の奇作不思議の国の少年アリスをご紹介します。

 実は案外少女漫画というのは「女装・性転換」がありふれた世界です。
 精神的にマッチョでなくてはならない!と気張っている(?)少年漫画に比べて「女性的であること」に寛容な土壌がそう為さしめるのでしょうか。
 そんな訳で真城が中学・高校生の時代にはこの分野の嚆矢である白泉社の「サウス」「ウィングス」といった月刊漫画誌を常にチェックするのは当然のことでした(「ウィングス」からはその後「プリンセス・プリンセス」などのTS系の名作も生まれています)。
 そこで発見したのがこの不思議の国の少年アリスでした。

 TS漫画などと一言で言ってもその内容は千差万別であることはこちらにいらっしゃるお客様には釈迦に説法でしょう。
 この「アリス」はジャンル分けするならば「
不条理系TS漫画」にでもなるでしょうね。
 一番最初に掲載されたエピソードでは「アリス」という名前を持つ少年がうさみみをつけた格好いい男性(←この辺が少女誌)を追いかける内に不思議な世界に迷い込んでしまい…という「ありがち漫画」の域は出ていませんでした。

第一話冒頭のアリスくん。後半に比べると完全に別人なほど男っぽかった(^^;;です。

 その名前から王子の花嫁候補であると人違いされたアリスは翌日の結婚式に備えて大量のドレスを準備した部屋に押し込められます。
 …ここで私だったら魔物みたいな召使に無理矢理ドレスを着せられて「これが…オレ?」とかやってしまうところですが、そこは不条理漫画なので一味違います。
 大変積極的(?)なアリス君は自らドレスに袖を通してメイクまでしてふんぞり返ります。

自ら女装して誇らしげにしているアリスくん。

 その後本当に花嫁にされそうになってお城を逃げ出し、「本物の」アリスに出会います。

 どうにか元の世界に戻れるものの、ドレス姿のまんまでしかもアリスまで引き連れて来てしまった…というベタなオチ。

 この一作で終わっていたならば特にどうと言う事も無いのですが、その後も断続的に発表され続けることになります。
 何故わざわざ「不条理」と言うかといえば、「押しかけ女房」パターンならぬ「押しかけ二枚目男」というドタバタギャグ漫画になっていくから。 
 それぞれのエピソードは
連続しているようで連続しておらず、その都度ムチャクチャになって終わったりするのに、次の回では何事も無かったかのようにまた最初から…となるから。
 アリスは回を重ねるごとに純粋な男の子なのにそのキャラ造形は
明らかに女の子になって行き、王子と「嫌よ嫌よも好きの内」みたいなグダグダの関係が徐々に強まっていきます。
 登場キャラは段々“美少女然”としたアリスを少女であると疑わなくなっていき、アリスの方も最初は嫌がっていた(?)女装すら胸躍らせる始末。
 全体を貫くストーリーもテーマもなく、同じところをぐるぐる回るようにして徐々に深みにはまっていく様な
いいしれぬ怖さを感じさせる漫画なのです(真城主観)。

 ちなみに、アリスが余りにも美少女然とした外観を持ち、女装もしながら王子と恋愛関係になるでもなく女性化するでもないどっちつかずの展開にイライラしていたTSファンとやおいファンのリクエストに答えたのかこんなエピソードがありました。

 毎度の如くグダグダの恋愛(?)模様を繰り広げる二人ですが、この回に於いては「王国の科学力」によって寝ている間にアリスを性転換してしまいます。

寝ている間に性転換されていたアリスくん。
第二巻収録エピソードでは貴重?な本当の性転換場面

 ここで終わっていればいいのですが、いきなり舞台は未来にかっ飛んでしまい、こんな衝撃展開に。
 女性化したアリスはそのまま王子の伴侶となり、大量の子供を設けますが
全く老けず王子は先に死んでしまいます。

…少なくとも100年程度は経っちゃったみたい。

 …
何ですかこれは?
 「戻れない」TSもので最後の最後に待っているのは多分
おばあさんになった主人公ということになると思うのですが、流石に妊娠・出産までは描いても「老衰死」まで描くTSは稀。そもそもTSものなんて現実逃避の為に読むんですから、老衰なんて現実味溢れすぎている話は見たくありませよ。
 ところがそれを「老けない」という奇妙奇天烈な展開にしてしまうのが小林節。
 そりゃある意味理想だけども過去の自分を知る唯一の人間であろう王子まで死んでしまって
たった一人未来の世界に不老不死かつ美少女の姿で永遠に取り残されるというのは「浦島太郎」並のバッドエンドです。

 …
「不条理TS漫画」と読んだ理由がお分かりになりましたか?
 この
「わけ分からん感じ」が楽しめない方は「アリス」は辛いですよ(^^;;。

 しかも、これだけムチャクチャやっておきながら
次の号ではまた何事も無かったかのようにアリスと王子のドタバタが始まります
 もう
頭がおかしくなりそうです(褒めてます)。

 結局いつからこの不条理輪廻が始まっていつ終わるのかも分からないまま断続的な連載も途切れて単行本は二冊で止まっています…が、続きがあったとしても「相変わらず」なんだろうなあ…というところ。

 しかし!
 この作品にも
恐るべき輝きを見せた瞬間がありました。
 それが第一巻のラストに収録されたエピソード(巻末には別作品が収録されているので、これが第一巻の最後の「アリス」)。
 私が読んできた
「破滅型TS」物語の中でも屈指の作品ですので、「破滅型」が好きな方には必見。逆に「伊介」みたいな能天気ものや「フレックス・キッド」みたいなほのぼの作品が好きな方にはオススメ出来ませんのであしからず。


 相変わらず女装した状態で不思議な世界に取り残されているアリス。
 そこで遭遇した「狼」は何故かアリスに「紅茶を飲む」様に矢鱈(やたら)と強要してきます。


嚥下(えんげ)した瞬間の狼の不気味な笑み

 その回は最後で現実世界に帰って来ることが出来たのですが、
悪夢の次の回への伏線だったのです。さあ!ここからですよ!

 「目が覚めたら女になっていた」作品は沢山ありますが、大抵は自分の部屋のベッドで目覚めます。
 ところがなんと、荒廃し、怪物が徘徊する悪夢の様な異世界において目覚めるという
「考えられる限り最も過酷」な導入から始まります。

いきなり女の身体で、しかも全裸で怪物に襲われているところで気が付くアリスΣ(゜Д゜)!!
近くには死体が大量に転がってます

 突然現れた王子に助けられるものの、アリスは自分の状況を何一つ把握することが出来ません。

何時(いつ)からこの世界にいるかも分からず、何故自分が女になっているのかも分からない…
これ以上最悪の状況があるでしょうか?

直接の描写は無いんですが、匂わせるだけで十分強烈


この「いつ頃からこんなに狂ったんだ?」がたまりません。正に悪夢。不条理ものの真骨頂

 どうにか王子の庇護の元に身を寄せることに成功するものの、か弱い女として、王子に嫁ぐ以外の選択肢が全く無い過酷な状況に追い込まれます。
 実はこれが掲載されたのは比較的連載初期で、最初の単行本が編集される際に書き下ろされて挿入された一編だったりします。
 ですから後期(第二巻)のなよっとした美少女越えて
「美幼女」みたいなアリではなく、比較的しっかりした「少年」アリスが前提。それだけにこの過酷な運命はコタエます。

 主人公のアリスは遂に折れ、女として王子に傅(かしず)く運命を受け入れます。

 この「父さん母さんごめん」が泣かせます。
 これまでの「戻れない」TSものというのは両親の存在は曖昧にぼかされているものが多かったのですが、もしも本当に「女になる」ことを了承せざるを得ないことになったら
まずこう思うと思うんですよ。
 
「これまで男として育ててもらったのにゴメン…」と。

 注目すべきは話の流れからみて何度と無く王子とは半ば強引に性交渉を持たされていること。
 つまり、彼の「男性としてのアイデンティティ」というのは「女性としての性交渉」によっては
失われていなかったということです。
 
それが「精神的に折れる」瞬間を描いたのがこの作品の画期的なところ。いつもは馬鹿ばかりやっている王子たちも不真面目なところが一切無いマジモード全開です。

 
結婚式を明日に控え、暗雲垂れ込める遠景でこの不気味極まりない短編は終わります

 
…スゲエ…
 というのがまず第一の感想でしたね。
 
これほどダークで陰鬱なTS漫画は読んだことがありませんでした。
 いや、あったのかも知れないけどそれはバッドエンドありありで特にストーリー展開とか考えていないアダルトTS漫画とかで、特に論評とかに値するものではありません。
 紛れも無い少女雑誌に連載されている“ちゃんとした”漫画でここまで過酷な方向に急激に舵を切ったというのは、
「サザエさん」見ていたら無差別連続殺人が始まったみたいなショックです。
 しかも、ここではストーリーや舞台仕立てが全て「望まない性転換」
のみならず、その後の「女としての過酷な運命」を演出されるために配置され、演出されているのです。
 身体…肉体が女性になるだけでは「女になった」とは言えません。もうグダグダ説明しなくても分かってもらえますよね?

 そして!…ここが一番大事なのですが、
「耽美(たんび)と頽廃(たいはい)」になっていること。
 これほど過酷な運命でありながら、読者の心の奥底に
「…でもちょっと体験してみたいかも…」と思わせてしまう禁断の領域への扉を開いている点です。

 そしてこの先のアリスの運命が
平坦なものであるはずはありません。翌日には結婚式ですが、祝福に包まれているはずの純白のウェディングドレスが既にどす黒く血に染まって見えます(真城ビジョン)。


 …これが掲載されている第一巻を読んだ時、まだ季刊誌「サウス」は存続しており(2003年に廃刊)、「アリス」は毎回掲載されていました。
 このエピソードを読んだ後、
次の「サウス」の発売を私がどれだけ楽しみに待ったか分かっていただけるでしょうか!?

 この続きのエピソードが読める…。
 本当に指折り数えて待つとはこのことか。
 しかし…既にお持ちの方はご存知の通り、このエピソードの続きは結局掲載されることは無く、
いつものドタバタギャグが始まったのでした。
 …そういう漫画だということは薄々知っていたのですが、もう腰砕けでした。

 あのまま続けば
「孤高の破滅型TS漫画」の地位を確固としたものにしたのは間違いないでしょう。
 しかし、今読んでもこの一編はかなりの破壊力を持っていることは間違いありません。
 個人的にはこの1エピソードを読むためにだけ購入する価値ありと断じてしまいましょう。


 今だから言えることなんですが、この小林瑞代先生って真城が生涯2回だけ「ファンレター」書いたお一人の方なんですよ(^^;;。
 まさか「あの続き書いてくれ」とは書かなかったんですけど、「こういうの(TS漫画)好きだからこれからも頑張って下さい!」と書いたのは覚えています。電子メールなんてものが登場する遥か以前のこと。
 ワープロじゃなくて手書きだったかも知れない。う〜ん。

 恐らく一般の漫画ファンにはせいぜい「迷作」扱いでしょうが、我々TSファンにはある意味至高の二冊。
 まだ新刊が手に入るので、未読の方はこの機会に是非!2006.12.13.Wed.

*リンクを張らせてもらっている文庫版第二巻にはこれまで単行本未収録だった数編も収録されているみたいです。グダグダになった後なのでそんなに印象は変わらないと思いますが、単行本をお持ちの方も気が向いたら是非!
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