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TS関係のオススメ本05-10


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真城 悠


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ふたりめの蘭子(1993年・さかいともこ・白泉社)

 真城が脚本家志望で映画の専門学校に通っていたことがあるのは以前にもどっかで書いたんですが、その時に幾つか「脚本化したい作品」みたいなメモを同級生(といっても年齢は遥かに上ですが)に見られたことがあります。

 実はその中に「ふたりめの蘭子」も入っていました。

 どうやら同級生は恩田陸さんの「六番目の小夜子」と勘違いしたみたいで「へえ、いい趣味してるねえ」みたいなことを言われたのを思い出します。
 何故「脚本化しよう」とまで思ったのかは今回のレビューをお読みになって頂ければお分かりになるかもしれません。

 
「異色元気サスペンス」という謎のあおり文句を持つこの「ふたりめの蘭子」は憑依系のTSミステリなのですが、いろんな意味で注目の一作と言えるでしょう。
 
 主人公の高岡卓(たかおか・たく)はコンビニに夜食を買いに行った際、クラスメートの和宮蘭子(かずみや・らんこ)が河に身を投げたのを発見し、助け出そうと飛び込みます。
 ところがなんと卓はそこで
溺死してしまいます

この時に一応会話めいたものはありました。後の伏線にもなってます

 はい、何となく推測が付きましたね(^^。そうなんです。
 ベッドの上で気が付くと卓の意識は助けようとした
和宮女子の身体の中に入っていたのです。
 では元の身体は?
 勿論溺死して
とっくに火葬されてしまっています。

 これは一応形式的には「憑依」になるんですけど、魂が「玉突き事故」みたいに押し出された結果、和宮女子の意識はどこかに行ってしまい(後述)、自分の意識は和宮女子に入ってしまい、そして自分の身体は死んでしまっているのです。
 元の和宮女子の意識がどこにも存在しない以上、これは「性転換」と変わらず、更に「他人になる」という過酷な運命です。
 しかもこれが「入れ替わり」ですと、実は「相方」がいるんですよ。
 確かにみっともないけども、「お互いに入れ替わってしまって異性の身体を押し付けられているという立場の戦友」がいる様なものなんです。
 ところが入れ替わった相手の意識も自分の肉体も既に消滅してしまっており、“絶対に”元に戻ることが出来ないという所謂(いわゆる)「不可逆」状態であるのみならず、
この世にたった一人残されてしまったこの孤独。

 入れ替わりに気付いた直後の描写こそ一瞬マンガちっくになるものの、ここから
恐ろしい展開が幕を開けます

 以前に「人格転移の殺人」をご紹介しましたが、あれはTSを「人格の入れ替わりによる物理的な位置関係」みたいなものをギミックとして利用したミステリでした。
 ところが切り口はまだあったんですよ。
 それが
「人間関係」を絡める方法論

 よく考えてみて下さい。
 他人の人格になるってことは
その人間の最もプライベートな部分にまでずかずか入り込んでいく様なものです。部屋に盗撮カメラを仕掛けるどころの話ではありません。本人になっちゃってるんです。

 自分の実家に和宮女子の身体でお見舞いに行った時、母親になじられます。それはそうでしょう。だってこの馬鹿女(今は本人なんだけど)を助けようとして愛する息子は死んでしまったのですから。

 私はこういう状況になった時に「自分ならほとぶりが冷めるまで学校休むよなあ」と書いた事がありますが、流石にこうなってしまったら
観念して学校に通うしかないかもしれません。だって戻れる可能性は100%ありません

 一応女として五体満足である以上、社会復帰を模索しようとするのにそれほど抵抗はありません。
 といってもそれはせいぜい「学生として」程度であって、「将来男と結婚するためにも今のうち学校に行くぞ!」というものではありません。どうすればいいのか全く分からんけどとりあえず学校くらい行かなきゃなあ…という感じでしょうか。

 自分の席に花瓶が置かれている状況に「女子生徒」として登校せざるを得ない卓くん。
 この物語の主要登場人物は親友で同級生の水野俊(みずの・しゅん)、その兄の圭(けい)、そして後輩の村瀬冬夜(むらせ・とうや)がいます。

 卓はこの後輩の村瀬にだけは真相を打ち明けます。
 和宮蘭子の姿で「実はオレってこの間溺死した高岡卓なんだ」なんて話しかけるんですから
「頭がどうかしている」と思われるのは必至なんですが、「高岡卓でしか知らない秘密」を打ち明けることでどうにか信用を取り付けます。

村瀬の長髪には幼少時のトラウマがあります。そのハードな物語は番外編に収録

 卓くんは後輩を使ってまで何をしようというのでしょう?
 それは
「何故和宮女子は自殺したのか?」という真相を突き止めようと独自の調査を開始するんですね。
 つまり、かなりの変形ですが一種のミステリ仕立てになっているのです。ぶっちゃけかなり魅力的な舞台仕立てです。
 
アドベンチャーゲームでこれをやったらヒットするのでは?

 先ほど「プライベートに踏み込む」と言う様な話をしました。
 「上手いなあ」と思ったのが、
自室で謎の記述(日記というか詩みたいなもの)をしたためてあるノートを発見したこと。
 内容は当然書いた本人しか分からない訳ですが、こんなものを見ることが出来るのも本人になっちゃっているから。

 ゲームの
「バイオハザード」ってやったことあります?
 あの中で
徐々に狂っていく自分の感慨を書きとめた「日記」を発見して読むことが出来る下りがあります。スティーブン・キングの小説などでも多用されるホラーの手法ですね。こ、これは怖い…

 同時に和宮女子の両親が
「記憶が無くなっていて良かった」みたいなことをしんみり話し合っている場面に遭遇する卓くん。
 
な、何じゃこれは!?一体和宮女史に何が起こったのでしょう!?

 同時に和宮女子の死亡が
自殺ではなくて事故扱いとされていることもここで判明。何と両親が目撃者に現金を握らせて事実を握りつぶしていたんですね。ぎゃー。

 村瀬とふたりで生前の和宮女史についての調査が進みますが自殺を選ぶ様には感じられず、謎は深まるばかり。

*結果的に卓を殺してしまったことをなじられる和宮女史の立場の卓くん。彼にもこんな女の子がいたんですね。

 そして、…途中で村瀬くんは実に恐ろしい指摘をしてくるんですね。
 何と、今自分は和宮蘭子女史の身体に入り込んだ高岡卓の精神だと思い込んでいるけども、それは混乱した精神が作り出した妄想に過ぎず、
実際には和宮女史が「自分は高岡卓である」と思い込んでいるだけなのではないか?…というんですね。 
 これでは
まるでパラノイア系SFみたいです。これほど恐ろしいTS小説ってのは初めてかもしれません。いやーフィリップ・K・ディック好きにはたまらんものがあります。

 *ここから先は物語の核心部分に触れます。私は「犯人は誰だ」式のミステリではないので読んでもTS的な鑑賞という意味では問題ないと思っていますけど、気にする方の為に警告です。
 真相を知りたくない方は飛ばして読んでください。


 部活動において「高岡卓」時代に相克のあった水野俊と会話する内、彼が部活動に来なくなった理由なども判明して来ます。
 ただ、これって水野は「和宮蘭子」に話している積もりなのであって、卓本人ではないんですよね。
 実にお見事で
「入れ替わり」を活かすならここまでやってもらいたい

 両親は卓くんを病院に連れて行こうとします。これは「おれがあいつであいつがおれで」でも精神病院に叩き込まれそうになる下りがあることからそっちかな?と思いきや違います。
 
妊娠検査なんですね。

 …そろそろお分かりですね。
 和宮蘭子女史は
「性的に乱暴」されて、そのショックで入水自殺を図ったんです。

 …何だか
偉い事になってきました。主人公の卓くんは英雄的な人命救助をするつもりで、そんな原因で自暴自棄になっている女を救おうとして間抜けにも自分が死んでしまっていたんですね。
 では下手人は誰なのでしょうか?
 あの後輩の村瀬か?もしかして親友だと思っていた水野か?それとも…?
 何しろ卓くんは下手人の記憶がありませんから、
愚かにもそいつと密室で差し向かいになってしまうんですね。

 犯人からしてみれば正に好都合。
 ここで犯人が全てをぶちまけて和宮蘭子に襲い掛かってくる下りは
本当に背筋が冷たくなりました
 よく「ひ弱な女の肉体」云々言いますが、正に貞操の危機、生命の危機です。
 「人間関係に特化したTSによる状況利用」の威力を見せ付けてくれる圧倒的なまでの迫力。これは凄いです。
 面白そうでしょ?結末は読んでのお楽しみ。

 実は全部で三篇が収録されており、この二編目に至って和宮蘭子の肉体になっている高岡卓くんは何物かに命を狙われます。
 実はその正体は、肉体から弾き出された和宮女史の魂の入った少年(!)。
 元々「汚れた身体」を嫌って自殺したんですから元の身体に未練は無く、新しい身体になったのをいい事に人生をやり直そうとしたのはいいけど、自分の肉体が生きていることを知って…殺そうとするんですね。
 こ、怖い…。しかも
殺害方法が陰険なのばっかり…


 この他にも注目ポイントは本当に沢山あります。
 女子更衣室での着替えの情景とかは女性の作者自らの経験に基づいて書けるので
説得力は抜群(そりゃな)。生理当日の皮膚感覚に訴えかける描写なんて男性作家にはまず不可能。
 何でも生理日当日の感慨というのは「掌(てのひら)にいちごを一杯のせた状態で一メートル下に向かって飛び降りろと言われたみたいなもの」らしいですよ?

 他にも唸るほど
「上手い」と思わせる場面が頻出
 挙動などから「和宮蘭子の中身は高岡卓なのではないか?」と感づいた女子が
それをネタに脅迫してきて、卓くんはその女子の頬をひっぱたく(!)という修羅場に。ど、ドロドロ!?

 村瀬すら結果的にモテモテに近い卓の今の状況が面白くないらしく、「あんたが今、女だってのはどういうことなのか考えたことあるのか?」(大意)と組み敷こうとしやがります。

 個人的にこの小説のポイントが凄く高いのは、「自分を女として認める」事に関して
ちゃんと真剣に向き合い、葛藤しているから。
 結果として今の自分には、「男としての心理的な「砦」は崩せない」と諦めるんですが、結果的に憎からず思うことになってしまう水野俊とそういうことになるというのだろうか…?というところで終わります。

 あとがきにて作者さんがいかにも続きがある様なことを書いているので、この後しばらく「花丸」をチェックし続けましたよ。何年にも渡って。ええ。
 何かWeb上で発表されたこともあるみたいなミニ情報も入ったのですが真城は未読です。

 とにかく、「TSによる人間関係の変化」を使って展開してみせた物語としてはかなりの力作。
 これまたマーケットプレイスで入手可能。レビューを読んで面白そうと思った方は是非!
2006.12.24.Sun.
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