TS関係のオススメ本06-05
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「彼が彼女になったわけ」 (1996年・デイヴィッド・トーマス・角川文庫) |
活字中毒は長旅をしたりする時に最も恐怖するのが「読むものが無くなったらどうしよう」ということだったりします。 これがコミケ帰りとかなら問題ないんですよ。読むもの沢山あるしね。ちなみに真城はほぼ評論系の同人誌しか買わないので、表紙も地味なのが多く、中身も字ばっかりなので雑踏の中で読んでいても安心なのでその点は一応お断りを(*^^*;;。 以前に約一週間のアメリカ旅行をした時には古本屋で1冊100円の本を大量に買い込んで読んだ端から旅先で捨て続けるという暴挙を刊行していました。その時には雑誌を除いて1週間で21冊を読み倒したのでした。…だって飛行機の時間長いんだもん。 閑話休題。 最近はその習性を逆手にとって(?)法律のテキストしか持ち歩かないなどの荒業もあったりするんですが、ここにTSファンかつ田舎者という属性が加わると余計にややこしいことになります。 要するに折角旅行したのならば大きな本屋に行って、しかもTS系の本を買いたいなあと思ってしまうのですね。 名古屋の親戚の所に旅行に行った時のこと、知り合いなんて誰もおらずに向こうの壁も見えない大きな本屋(そんなもの地元にはありませんから)にそれだけで興奮しつつ、またTS系の新作出てないかなあ…と放浪しているといかにもなタイトルの小説が出ているではないですか。 そんなこんなで偶然発見した一冊がこの「彼が彼女になったわけ」でした。 結果的に言えばこれは大当たり。ストーリーを書評から引用しましょう(改行及び文字強調引用者)。 ***** 抜歯の手術で入院したブラッドリーが、麻酔から覚めると…なんと患者取り違えによって性転換手術をされていた! 25歳の平凡な男だった彼が、世界中のマスコミに追いかけられるは、男に襲われるはの大椿事。 男でもなく女でもないブラッドリーに、金儲けを企む族が群がる。 さらに、頼みのガールフレンドの気持ちまで、恋から好意へ…。 次々に降りかかる珍事件を乗り越え、彼はプライドと愛を取りもどすことができるのか!? 彼の人生の選択と幸福の条件とは?ヨーロッパ中を哀しさとおかしさに沸かせた大逆転ストーリー。 ***** こ、これは怖いです…。 医療ミス、医療過誤が日々報道されている昨今、手術患者取り違えの例も決して少なくありません。 そこでよりにもよって性転換手術ですよ! 「目が覚めたら女になっていた」(アウェイクニング・キャプサイズ)というパターンはTSファンならばもうパターンは出尽くしたんではないかと思うほど読んでいる訳ですが、外科手術による性転換を全く望まない人間に仕掛けるという極悪な展開ってのは結構珍しいのではないでしょうか。 TSファンが外科手術による性転換が嫌いなのは大抵本人が望んで行うものだから。 何度も言いますが、そういう方ってのは性同一障害の方なのであって、つまり精神的には完全に女性です。女性が女性になっても面白いことも何にも無いでしょ? 嫌がってる奴を無理矢理性転換するから楽しいんですよ(鬼)! 味わいとしては「キックアウト・ラヴァーズ」に似ています。 女性に性転換させられてしまった主人公が本当に色々苦労して現実に対応していく苦労物語。 違うのは彼の性転換手術が医療ミスであることがイギリスの国中に知れ渡り、マスコミの寵児になってしまうこと。 あちらで大衆紙「Sun」がどの様なイメージで見られているのかが非常によく分かります(^^。 実際には生殖器を手術した程度では漫画の様な美人になることは無いのでしょうが、その辺りは綿密な取材と調査によって「いかにもありそう」なディティールを持って語られます。 病院の過失ですので、精神的なカウンセリングを含めたアフターフォローが完璧なのもポイント。 知人に化粧させられて見違える様に美しくなった自分に「これが…おれ?」状態になったり、男にナンパされたりする辺りのお約束を踏まえているのもポイント高し。 特にこうした作品では不可欠の「男性側と女性側の両方から見て立場の違いを実感」するシチュエーションがとても沢山あるので、TS小説書いたりなんかする方は膝を何度も叩くことになるでしょう。 勿論、「萌え」よりも社会的な現実に照らしたアプローチを目指した作品なので、議論を呼びそうな下りもあり、訳者によって注意が加えられていたりします。 例えば主人公のブラッドリーは最初こそ自暴自棄になるのですが、ある瞬間から前向きに「どうせならちゃんと(?)女になってやる!」と決意して努力を開始するのですが、カウンセラーの先生は 「本来ならば性転換手術をする男性というのはあなた位に覚悟の座った人でないとするべきではない。精神的な安易な逃げ道として性転換手術を選んだ結果、逆に精神的に追い詰められて自殺してしまう人もいる」 (大意)といった事を言ったりするのです。 なるほどこれは議論を呼びそうな下りです。 基本的に女性への性転換はデメリットであるはずです。何しろ主人公は男性としてこれまで生きてきたのですから。 先ほどのナンパの下りも、実は元・男だったことが相手にばれて散々に殴打されるという悲惨な結末が待っています。 和製漫画のTSものにはTSによるメリットしかない作品も多いのですが、この「彼が彼女になったわけ」はどちらとも判断しにくい作品です。 彼は確かに悲惨な境遇になったことは間違いないのですが、反面有名人にもなっているんですね。 彼(女)はマスコミの寵児となったことで大金持ちになってしまうのです。…この辺りは日本人の作家と感性が違うところ。そして…とてもありそうな話です。 …もうお分かりですね。 彼は男の時には平凡な一市民だったのに、女性への外科手術を強要されたという被害者として有名人となり、そして富豪になってしまったんです。 これは男の時のままがいいのか、女になってしまうという代償を支払って手に入れた今の境遇の方がいいのか悩んでしまうのも無理は無いでしょう。 その有り余るお金を使っての“ささやかな贅沢”を楽しむ毎日から、以前の“平凡な男でしかない自分”を想像することが難しくなっていきます。 しかし…お決まりの「裁判」の過程、いや最終局面で余りにも意外などんでん返しによって彼(女)の今の境遇についての作者の結論がたたきつけられます。 余りの迫力と、そして真に迫った演説、そして「美しい存在となったひょっとして幸福かも知れない自分」という(TSファンの想像の中の自分にも共通する)立場への鋭すぎる言及によってハッと目を覚まさせられるのです。 とにかく、必要な要素は殆ど全部満たしているとても水準の高い小説です。 amazonの書評を読む限りは女性読者も納得するほどの描写らしいのでこれは活字に抵抗の無いTSファンは必読の一冊と言いきっていいでしょう。 結末も甘くは無いもののどこかに救いのあるビターテイストのものとなっており、決して読後感は悪くありません。 それなりに売れたのかこの手の書籍にしては珍しく在庫が多めに残っているみたいなのでこの機会に是非どうぞ!2007.01.02.Tue. |
*アメリカ映画とか見てますと何かと言うと相手への罵倒語として「このオカマ野郎!」と言うんですよね。ああいうマッチョな世界観では過剰なほど「男性性」が崇められるのでしょう。それは反面「去勢への恐怖」があるということでもあり、その辺りがとても興味深いですな。 ちなみにこの作品は「少年少女文庫」でお馴染みの八重洲一成さんによる秀逸な評が「八重洲メディアリサーチ」内に存在します。上のほうの「作品リスト」内の「小説」部門の「海外」部門の更に一番下のほうにあります。 結末を割ってしまっているのですが、是非とも併せてお読み下さい。 |
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