TS関係のオススメ本07-04
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「奥 浩哉短編集 2 -黒-」(1999年・奥浩哉・集英社) | ||||||||
短編集「変」シリーズはヤングジャンプに連載。 様々な状況における「不思議な話」を、一人の人間が描いているとは到底信じられない多彩な画風で展開し続け、1991年より単行本の刊行がスタートします。 第3巻までがさまざまなオムニバスになります。 序盤に短期連載されていた「鈴木君と佐藤君」シリーズが徐々に中心となって行き、英語風に言えばキャンプな(ゲイっぽいコメディ、みたいな意味)展開でだらだらと続く長期連載となりました。絵柄も初期の超写実的な画風は影を潜め、意図的に簡略した可愛らしいものに統一されていきます。 後にタイトルを「Hen」に変えて今度は序盤でも展開された女の子同士のコメディとしても長期の連載を全うします。 その後、奥浩哉先生はハードバイオレンスSF不条理長編「GANTZ(ガンツ)」をスタートさせ、大ブレイクします。恐らく現在の読者にはアニメ化もされたこちらの方が有名でしょう。 そして手に入りにくくなっていた初期の「変」シリーズから幾つかの作品を抜き出して再編集したのが短編集「奥 浩哉短編集 1 -赤- 」と「奥 浩哉短編集 2 -黒-」ということになります。 なんでもありの不条理短編を描くんならTSでしょう(断言)。 「変」と言えばこの頃文庫本にまとまって再販されている「鈴木君と佐藤君」が代名詞みたいになっていますが、個人的には初期の短編郡も傑作揃いだと思っています。 まず「粘膜感染する奇病」という韻を踏んだみたいなキャッチーな「性転換病」(“症状”くらいがいいかも)が登場する「変」があります。 その後、画風を明るくして「へん」というタイトルで同一テーマを描き直されるんですね。よほどこのシチュエーションが気に入られた模様(^^。 その両方の作品が収録されているのがこの「黒」です。更に一時的に女の子の精霊(?)を精神憑依させ、養分を補給してあげる宿主の男の子を描いた「宿」が忘れ難いですね。 これまた陰湿ないじめの描写が丹念に行なわれており、それを乗り越えてほんの少しだけ成長する少年の姿が爽やかです。 今回は非常に珍しい試みですが、2回に分けてご紹介しましょう。 まず、先に描かれた「変」の方から。こちらは画風が非常に写実的で雰囲気もどこか薄気味悪いために私は勝手に「ダーク版」と呼んだりしています。もう一方は「ライト版」ね。 ジュースを買いに来る主人公。そこで出会った謎の美女に誘われ、同衾してしまいます。 |
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ところがこの日を境に、主人公の肉体に変化が起こり始めます。 |
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起きてみると脛(すね)毛がごっそり抜け落ちている!女性化にこの表現は案外珍しいもの そして胸が乳房の様に膨らみ始める… |
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性転換漫画によくある展開ですが、何と言っても絵柄が物凄く写実的なので迫力満点です。 「上手い絵」というだけでは無いんですよ。「上手い絵」ということで言えば「3レボリューション」とか物凄く「上手い」です。それだけではなくて「写実的」なのですね。 TSファンならば一度は考えるのが「朝起きたら女になっていた」(アウェイクニング・キャプサイズ)展開ですが、その「変化していく過程を定点観測カメラで観察するように描写する」というのはかなり斬新な試みなのではないでしょうか。 いや、やろうったって出来ないというのが正直なところ。写真を陰影をつけて描き写したかのような描写力を誇る奥先生だからこそ出来る力技です。 |
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遂に来た!完全に女の肉体に変化していく描写! |
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これは「目の前でムクムク変わる」というのではなく、「細胞(?)が置き換わっている」描写とでも言うべきものであり、目に見えて変わってはいますがかなり趣がことなります。 「萌え」描写という訳にはいかないんですが、これだけ真に迫った内容を持ちつつハードエロとかに行かないのが素晴らしい。 |
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これだけ男だらけの環境の中に女(の肉体)一人なんだから当然こうなるよね |
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更に、所謂(いわゆる)普通のTS漫画では余り見られない描写が幾つもあって興味深いです。 まず、自分を女性化させた謎の女に会いに行き、「他人に感染させることで治癒する「粘膜感染する奇病」」が原因で今の自分は性転換してしまっていることを突き止めます。 |
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女になっちゃってる主人公に手荒な歓迎。あの誘ってきた美女がこのおっさん どうも「相手にうつすと直る」というのも何となくの経験則みたいですね 確かに滅多に出来そうも無い体験ですが… |
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その後が振るっていて、急に美少女になってしまった同じ寮生たちにちやほやされるものの、「性交渉すると性転換してしまう」と分かった途端に冷めてしまう同級生達。 この辺リアルだよなあ、と思いますね。 |
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一転して男を誘い始める主人公。強引にやろうとしていたくせに引き上げる面々 |
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手軽(?)に戻れるとはいえ、同級生の男と男女の立場で性交渉をして女になり、戻るには今度は女の立場で男に組み敷かれて…という試練には流石に興味本位で立ち向かう訳にはいかないんですよ。ええ。 しかも名乗りを上げると言う事は「自分には性転換願望があるぞ!」と宣言しているようなものですから、益々言い出しにくい。 とはいうものの、こうしたTS作品群が決して無視できない規模で存在するのはそうした大衆の欲望を掬い上げているのは間違いないのです。 …実はこの漫画にはそれを余りにも的確に衝いて表現してしまっているコマと台詞があるんです。 それがこれ。 |
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…余りの実も蓋も無さに絶句もの。 しかし、世の99%の男性はこう思ってますよ。ええ。 これを言ってるのが女の子みたいな美少年とかではなくて、ごく普通のむっさい「野郎」なのがポイント。 更にこの後、遂に志願者が現れます。 |
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実はこの美男子のモテ男に女性化願望があったというのも「ダーク編」の面目躍如。(彼は一時の欲求ではないらしく、戻る気が無い様にみえます。もしも男性と結ばれることを願っているのだとしたら性交渉の度にお互いの性別が入れ替わることになりますが…閑話休題) ところがそれを制止して鳥合くんはこう言うのですね。 |
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そ、そこまで欲望に忠実なことを言いますか!! |
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ここまで描いて見せたならばもう天晴(あっぱ)れ。 かくして実家に顔を出して妹をからかったり色々やった挙句望みを適えてやることにします。 鳥合くんは元に戻れたのでしょうか? …こういう書き方をする時点で何となくバレている気がしますが、その辺りも含めて実に不条理に何が何だか分からない混沌のまま物語はぶっつりと終わってしまいます。 この宙ぶらりんで何とも消化不良な不思議な感じが初期の魅力。 きっとあなたもラストのコマで「???」と大量のハテナが浮かんだままになることでしょう。 ただ、実はこの短編集、雑誌掲載の時にのみ存在した「ラストのページ」が復刻しているんです。 これは旧大判コミックスには存在しなかったものですので、旧大判コミックスをお持ちの方も要注目ですよ! 流石にこれを載せてしまうのは礼を欠くと思われますので遠慮しますが、確かにあると無いとでは読後感がまるで異なりますので、単行本収録の際にカットしたのも頷けます。 個人的には不条理好きの立場からは無いバージョンもありだと思うのですが、あるバージョンも負けない位好きですね(^^。 どういうラストなのかは実際に読んで確かめてください。 ヒントは岡本かの子の「秋の夜語り」かな。 ということで「ダーク編」終わり。明日は「ライト編」こと「へん」のレビューです。いやあ、この両方が読めるってのはお得ですよ。大判だとバラバラだもん。個人的には表題作「黒」もかなり好き。 2007.01.11.Thu. |
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もう一冊の方。
佐藤藍子が男の子の「佐藤くん」を演じたドラマがこれ。もうDVDになってます
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「奥 浩哉短編集 2 -黒-」(1999年・奥浩哉・集英社) |
今回は「ライト版」と読んでいる「へん」をご紹介。 どちらも「奥 浩哉短編集 2 -黒-」に収録されています。 掲載順は「へん」→「変」となっており、発表・掲載順とは逆になっています。 ダーク版こと「変」は本当に連載1回分のみを使った不条理短編なのですが、「へん」の方は連載4回分に及び、旧装丁の大判コミック第三巻の大半を占めています。 多彩な絵柄を駆使することが出来る奥先生ですが、今回はかなり可愛らしい画風にシフトしています。 実は今回読み返してみて「それでも結構写実的だな」と改めて感じました。 後の「鈴木君と佐藤君」は回を追うごとに線がシンプルになっていく感じがしていたのですが、正に実感できます。 |
「変」と同じシチュエーションですが、被害者と加害者が二人組みに、更にジュースの買出しが 悪友たちの使い走りというところも違います。登場人物が格段に増えているのが特徴 |
「変」の主人公も同じ名前の「鳥合(とりあい)」くんですが、あちらは本当に「短編の名前も覚えてもらえない主人公」という感じで特に感情移入出来るキャラではありませんでしたが、今回の鳥合くんは性交渉に慎重です。 |
当然誘ってくる美女。彼(女)にしてみればそろそろ戻りたいしねえ(爆) |
太っている彼は結局同衾に及び、性交渉の果てに性転換してしまうのですが、鳥合くんは掌(てのひら)を切った傷口を舐められるという形で感染させられます。これでもうつってしまうというのが新解釈といえば新解釈。 |
この「女になってしまい、その声を悪友に“かわい〜”と言われる」という シチュエーションは18禁コミックの「女の子?」にもそっくりな場面があります |
何故「ライト版」になるにあたって犠牲者が二人になったかといえば、それは二人を対比させるためでしょう。 もう一人の肥満体の彼は性転換はするものの、それで美少女になるわけではなく、オペラ歌手みたいな肥満体のまま(ぶっちゃけブスってことね)肉体の機能だけが女性のものになっているだけどいう考えうる限り最悪の性転換状態。 ところがもう一方の鳥合くんは正に理想の美少女姿なのですから何をか況(いわん)や。 |
てゆーか普通に教室のマスコットではないですか。同級生にはいなかったけど、 こういう存在って結構いるらしいですよ |
更に「仲間」がいるということは心理的不安をかなり軽減します。 たった一人で孤独に悩んでいた「変」とはかなり違います。実はデビュー作である「変」がシミュレーション性に傾いていたのに比べ、意図的に「お約束」を押さえに行くのがかなりの違い。 |
色欲に狂った悪友に襲われそうになるのも「変」の再現。 「目が異常」ってのがリアルだなあ 実はこの「なんちゃって乱暴被害」と「女って何て力が無いんだ」モノローグは TS漫画の定番シーン。ページ数が無いこともあって「変」にはありませんでした |
勿論無事に逃れた鳥合くんは原因を探りに冒頭で出会った美女二人の家を探し当てます。 |
出ました!「粘膜感染する奇病」!デジャブですな |
ここで原理説明。 「他人にうつせば直る(らしい)」ことが分かれば気分は楽なもの。それにしてもこのにーちゃんもよくあんなに調子こいて女言葉とか使ってたよな。妹とそっくりになっていた、というフリンジもあり。 |
奥先生の描く女の子は異常なほど巨乳なことが多いです。この「へん」が発表された後 編集部において「巨乳好き」とからかわれ続けたそうです。 でもそれは編集者の照れ隠しだと思うなあ(*^^* |
元になった作品の「変」においてはこの後すぐに不条理なラストに一直線なのですが、4倍のページ数を誇る「へん」においては女になった後の学園生活まで描かれます。 |
当然女子には疎(うと)まれます。同じ目に遭うTSキャラも結構いますよ |
色々あるんだけどこの「へん」は確かに読みやすいです。意図的にお約束を押さえに行っているので、「定番」シーンのつるべ打ち。目新しいことは何も無いんだけど、その分安心して楽しめます(*^^*。 |
今度は女装もちゃんとこなします!こてこてのセーラー服!導き役がいるのも「変」との違い いつの間にか女子にもすっかり馴染んで着替えにスクール水着ですよ! |
不条理なのをいいことに(?)なんといつの間にか能天気TSになっていたのでした。 全寮制みたいだから両親の存在が希薄なのはいいとしても、これだけ普通に女子として過ごしているのを知られないってのは無理があると思うけどなあ。カリキュラムだって男子と女子じゃあ完全に一緒という訳にはいかないんだし。 |
あれだけ能天気に過ごしている様でいて実はちゃんと考えている鳥合くん |
間に色んな人物が入って回り道はしたんですが、ラストも「変」に良く似た経路を辿ります。 結局こういう「こういうシチュエーションってどうだろう?」という手探りで欲望をシミュレーション的に描いた作品ってのは「で、結局どうなりたいのか?」という答えを見出すことが出来るかどうかが鍵になると思いましたねえ。 同じ「何も解決していない何が何だか分からないラスト」ではあるんだけど、後味が悪くないのは面白いですね。 ま、不条理には違いないのでこういうのを読みなれてない方には「え?これで終わり!?」と思われてしまうかもしれませんが、是非この宙ぶらりん感覚を楽しんで欲しいですね(*^^*。 2007.01.12.Fri. |
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