TS関係のオススメ本09-09
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「リバーシブル」 (1990年〜1991年・前田 治行・小川 英・内山 まもる・スコラ ) |
||||
このTSブックレビューが始まったのが忘れもしない去年(2006年)の11月5日なのですが、それ以来「この作品は是非とも紹介したい」というイチオシ作品が幾つかありました。 勿論、大半は紹介できたのですがその時に丁度見つからず、それでいて試験の日程が迫ってきていたために紹介出来ないまま時間が過ぎてしまった作品があります。 それがこの「リバーシブル」です。 「女装モノ」なので厳密に言うならば当ホームページでは「非該当作品」ということになりますが、「機能としての女装は性転換と同じかそれ以上の意味がある」という管理人の方針の元、同列に扱わせてもらっています。 ちなみに「TSもの」ではタイトルも重要。というか作者のセンスの見せ所となります。 工夫の跡が見られるものを列記しますとこんな感じ。 「おれがあいつであいつがおれで」 「どっちがどっち」 「ふたば君チェンジ」 「らんま1/2」 「そのまんまXX」(18禁) 「Switch (1991) 」(切り替え、みたいな意味) 「オレの愛するアタシ」 他にもありますがこんなもんでしょう。要するに何かが「入れ替わった」とか「変化した」ということを匂わせるタイトルになっているのですね。 結構強引なのもありますが、「そのまんまXX」なんてのはかなりセンスがいいタイトルだと思います。残念ながら18禁該当なので当ホームページでは扱えません。気になる方は探してみてください。 その意味ではこの「リバーシブル」は「裏表どちらでも使える」という意味ですから、正に主人公が女装することによって「男女を使い分ける」様が表現されているというわけ。む〜ん。 そろそろ「タイトルだけで分からせる」には単語が足らなくなって来ていると思います。これからどんなタイトルが登場するのでしょうか? さて、この「リバーシブル」ですが、これまで紹介してきた作品群の中でもこと「物語の完成度」という意味では屈指のレベルの高さを誇ります。 恐らくTSとか女装ものの漫画などに免疫の無い方が読んでも違和感無く楽しむことが出来ると思います。 発表されたのは1990年。 原作者はともかく作画担当の内山まもる先生の名前はどこかで聞いたことがあるな…と思ったらなんと「小学○年生」などの「学年誌」において「リトル巨人くん」を連載されていた方でした。 |
||||
|
||||
ある年代の子供はみんなこの漫画を読んでいたものです。あ、「ミラクルジャイアンツ童夢くん」ではないのでお間違えないよう。 ちなみに「ウルトラマン」シリーズのコミカライズでウルトラブームの一翼を担った先生でもあります。 恐らくこの漫画が原因で巨人ファンになった子供も多かったんじゃないか…と思うと先祖代々中日ドラゴンズファンの私などは悔しくてたまらんのですが、それはともかくとても印象深い漫画でした。いや〜懐かしい。 私が小学生の頃の話ですから、1990年の段階ではかなりのベテランの先生です。 読んでみて納得。これは面白いです。 全3巻とコンパクトなのですが、中身が濃密なので要約することが出来ません。 全ての要素が伏線となっており、この面白さを体験してもらうには実際に読んでもらうしかないのですが、どうにかその「要素」を抽出してみます。 主人公の大日向準(おおひなた・じゅん)は証券会社に務めていたのですが、ヤクザの老婆に強引な運用を持ちかけられ、結果として任された資金を全て使ってしまいます。 |
||||
*この「きんたまつけとるだに!」みたいに「男だろ!」的な台詞はTS(性転換)や女装を扱った漫画などでは効果的に使われることが多いです。 |
||||
それを「勝手に貯金を使い込んだ」と誤解されて命を狙われる破目になってしまいます。 |
||||
命を狙われた準は仕方なく証券会社を辞め、女装して別人になりすまして都内に潜伏せざるを得なくなります。 ここで彼が考えた方法…それがしがない貿易会社のOLとして生活するという道でした。 |
||||
この物語においては、この様に「追い込まれて女装する必然性」があるということなんですね。 多くの場合「潜入ミッション」の様に「女装という選択肢を取らざるを得ない」場合や、「プリンセス・プリンセス」の様に「規則で決まっているので」といった物語上の要請もあります。 この場合は「ヤクザから逃れるため」です。 ヤクザの追求は非常に執拗なので下手に地元に帰ることも出来ません。 この「命を狙われるヤクザから逃れるための潜伏活動」というのが物語の縦軸の一つです。この漫画では幾つものストーリーが同時進行し、しかもそれぞれが有機的にからまって解きほぐされ、新たな展開を迎えることを繰り返すダイナミックなものとなっています。 「ヤクザの追求を逃れるために女装して働く」というのは余りにも突飛というか非現実的な話なのですが、そこは漫画です。 彼の唯一の先天的な特技がこの「女性に変装しても違和感の無い美貌」でした。 これまで紹介してきたTS系のお話は、「18禁なし」に限定したために発表メディアが「少年漫画」や「ライトノベル」、「アニメ」などに偏り気味でした。 ですのでどうしても「変身後の姿」の傾向としては「可愛らしい」女の子となることが多かったのですが、今回の主人公は見事に「大人の女」に化けることに成功しています。 別に過剰にセクシーだったりということではありません。 これはもうグダグダ説明するよりも実際に絵を見て頂くのが一番早いでしょう。 以下のコマの「小林理恵」は全て主人公が女装した姿です。 |
||||
…どうです?言いたいことが分かっていただけたでしょうか? 非常に魅力的な「綺麗なお姉さん」に化けていることがお分かりでしょう。 言うまでもなく、「細くなる」女装というのは物理的に不可能です。ですので、この「魅力的な女装姿」がこの漫画ほぼ唯一にして最大の「嘘」ということになります。 それにしてもこうしてみると女性の身体それぞれのパーツの持つ「記号」としての強さが印象付けられますね。 主人公は潜伏先として住まいを「女性専用マンション」とし、日常も全て女性として過ごします。なるほどこれならば簡単には見つからないでしょう。 つまり、プライベートでも仕事上でも完全に一日中女として過ごしているわけです。 しかし、彼の「女装」は必要に迫られて行なっている「生きるための手段」ですから彼には女装趣味は全く無いし、四六時中女装していることで性的アイデンティティは一切の揺らぎも見せません。 |
||||
自室に一人でいるんだからこんなカッコウしている必然性は無いんですが…(*^^*。 |
||||
もう一つの物語の軸が、同じマンションに引っ越してきた美女・中田裕子さんの存在。 |
||||
今回は裕子さんにスポットを当てられなかったのでキャプチャ少な目ですが、とても魅力的な女性です |
||||
余りにも魅力的(…と彼が感じた)な彼女をどうにかして自分のものにしようと孤軍奮闘します。 とはいえ、自分は必要に迫られて仕方なく女装生活を送っているわけで、しかもそのパーソナリティ(人格)状態で大の仲良しになってしまっているので事態は限りなく深刻にして困難となります。 |
||||
実は結構何度かある下着からの女装シーン。 「大人の男」の女装ものなので「可愛らしく」は全くなっていません。 小さくて読みにくいのですが、作者自身の「あ〜気持ち悪い」のツッコミあり。 そういえば「シティハンター」でも似たようなシチュエーションがあった気が。 |
||||
最初に読んだ時には正直、「何故そんなことに一生懸命になるのかな?」と不思議で仕方がありませんでした。 そりゃ魅力的な女性にアタックしたい気持ちは分かるのですが、何しろ「それどころではない」シチュエーションが目白押しなのです。そんなことやってる場合じゃないだろと。 まるで地雷原の中を歩いている最中に手に持ったコップから紅茶がこぼれないかを心配しているみたいな話です。 ただそれは読者をハラハラと心配させる絶妙なバランスを保たせるシチュエーションです。 読者は常にギリギリで危ない橋を渡り続ける準をやきもきして見続けさせられるのです(^^。 特にこの漫画が優れているのはやっぱりストーリーの「語り口」の巧みさと演出手腕でしょう。 例えば彼が女装しての潜伏生活を送らなければならなくなる説明は全て「回想場面」で語られます。 |
||||
第一話においては殆ど最初から最後まで「小林理恵」(変装後の名前)としてのOL生活が描かれます。 なので読者としては「これは何の話なの?」と思わざるを得ないのですが、なんと第一話の一番最後のコマでカツラを脱いで、「実は男だった」と暴露して終わってしまいます。 |
||||
実に見事な導入部。 もしもこれを、彼がこの生活に突入するまでを時系列でリアルタイムに描いたらかなりかったるい展開になったことは間違いないでしょう。 前にも書いたのですが、この「とりあえずストーリーの先の部分を描いてしまって、少し物語が進んだら最初の部分を回想で説明する」というのはアイザック・アジモフの師匠、SF作家にして名編集者のジョン・キャンベル・ジュニアが新人作家にアドバイスするテクニックだったりします。 |
||||
|
||||
とても応用力が高くて使えるので「導入部が書けない」と思っていらっしゃる方は試してみてはどうでしょうか。 優れた物語が常にそうであるように、この漫画では情報が二重、三重に入り乱れます。 安全であるはずのオンボロ貿易会社の取引先はなんと命を狙われていたヤクザだったのです! |
||||
これだけでもかなり絶体絶命のシチュエーションですが、何しろ彼は変装すればかなりの美女ですからどうにか正体に勘付かれずに済みます。 ただ、「美女に化けている」ために命を狙われていたはずのヤクザに一目惚れされてしまい、なんと「貞操を守る」ために日々四苦八苦する破目に陥ります。 |
||||
果たして大日向準はこの絶体絶命のシチュエーションから無事に脱することが出来るのでしょうか? 性別を偽って暮らしている先で同居人の裕子さんとの愛は実るのか!? 段々面白くなってきたでしょ? ただ、ここまでは単なる「お膳立て」です。舞台が整っただけ。ここでどの様に躍らせてやるかに作者の手腕が問われます。 実はここからが一番難しいのですね。 それこそ「とあるきっかけで性転換してしまう(けどすぐ戻る)体質になった主人公」と「それを取り巻く人たち」というところまで設定は出来てもそれをどの様に動かすかとなると、ハタと止まってしまうんですね。 何しろこういう物語を紡ごうと思う動機の大半が「刺激」を求めてのことですので、「男が女に変化する」とかの「一番刺激的な部分を描く」ことを達成してしまうと途端に何をしていいのか分からなくなっちゃうんですね。 こういうところで具体例を出すのは気が引けるんですが「ふたば君チェンジ!」なんて後半は明らかに迷走していました。果てはわけの分からん妄想SFの世界にまでかっ飛んでしまいます。お姉さんやガールフレンドが男になってしまう展開ももう蛇足というか何と言うか…。 |
||||
|
||||
18禁になってしまうのでここで紹介できないのが残念なのですが「そのまんまXX」も後半はグダグダ。 煩悩系女装漫画の一つの到達点でもある「まるでシンデレラ・ボーイ」も、1巻最後のドレス女装以降は明らかにテンションが落ちてしまいます。それでも大好きですが(^^。 |
||||
渾身のレビューは→ |