TS関係のオススメ本09
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「X+Y」(1981年(発表年)・萩尾望都・各社刊) | ||||||||
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さて、萩尾望都先生のTS作品と言えば何と言っても「11人いる!」でしょう。 |
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11人いる! (小学館文庫) |
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おおまかなストーリーはこんな感じです(Wikipediaより)。 「宇宙大学の入試最終テストの試験会場、外部との接触を絶たれた宇宙船を舞台に、宇宙のさまざまな国からやって来た11人の受験生が、疑心暗鬼のなかで反目しつつ、友情と恋を培うさまを描く。発表当時の少女漫画では稀な、本格的なSFだと衝撃を与えた。緻密な設定と魅力的な登場人物、緊張感のある構成は完成度が高く、これ以降の多くの漫画が参考にしているほど影響力も高い。また「11人いる!」という題名も評価が高い。」 萩尾先生の漫画って本当にムチャクチャSFマインドが高いんですよ。 とにかくオススメなので是非。 ちなみに何度も映像化されていて、そちらの方が有名でしょう。 |
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押しも押されもせぬスター声優のお一人、神谷明さんの「若い」声が存分に堪能できるアニメだったりします。当時まだ新人だった神谷さんは「手術室へ行け!」の台詞が言えずに、「オペ・ルームに行け!」と台本を変更してもらったそうです(爆)。 絵柄が異常に「濃い」ので男の子にはちょっと辛いかも。 この当時にこれを劇場アニメにしたスタッフの英断に拍手!名作です。 |
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簡単に言うと、「本来10人しかいてはならないのに11人いるが、余計なのがいるけど誰なのか?」という疑心暗鬼ものです。 いやースリリングだこと。これってやっぱり「遊星からの物体X」の原作であるジョン・キャンベル・ジュニアの「影が行く」かなあ。 |
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この作品がTSファンの間で名高いのは何と言っても「フロル」の存在(Wikipediaより)。 「フロルベリチェリ・フロル(フロル) 星系未所属のヴェネ出身。雌雄未分化の完全体。ヴェネでは二次性徴期に入った時点で初めて分化するが、長子のみ男となれる法制になっている。末子であるため、合格したら特例として男になる事を認めるという条件を受けて宇宙大学を受験。女性的な風貌で、当初マン(男性)チームだと思っていた皆を驚かせる上に、しゃべる星間用語はべらんめえ調。自身が女性視される事を殊に嫌悪している。 」 この「ある年代になったらどちらかの性を選ぶ(それまではどちらでもない)」という設定がこの作品が元祖であるのかどうかは不勉強にして知らないのですが、その後に大きな影響を与えたのは間違いないでしょう。 少女漫画において、思春期の自らの女性性に嫌悪している読者の少女たちにはフロルはカリスマ的な人気を得た様です。 …TSファンとしても見かけが少女にしか見えず、精神は完全に男性で、それでいて最後には自ら女性を選ぶ…というのは何ともロマンチックではありませんか。いやあ、素晴らしい。 ちなみに、続編(「続・11人いる! 東の地平・西の永遠」)と番外編(「スペース ストリート」)が存在します。 このコラムで取り上げた“大物”漫画家の先生としては手塚治虫先生に次ぐビッグネームでしょう。 恐らく漫画ファンであろうこちらの読者さまには『釈迦に説法』でしょうから、簡単な略歴と代表作の広告だけ張っておきますのでそちらを参照してください(Wikipediaより)。 萩尾望都(はぎお・もと) 「現在の少女漫画の方向性を確立したと言われる「24年組」を代表する少女漫画家。出発点で「漫画の神様」手塚治虫のダイナミックなストーリー性と、当時の最も新しい少女漫画であった矢代まさこの「ようこシリーズ」のこまやかな日常描写・清新なエロティシズム・作風の幅広さ、そして前衛漫画家岡田史子のシュールさに多大な影響を受けた。以後、めきめきと頭角を現わし、SFからラブコメディ、サイコ・サスペンスまで手がける幅広い作風、明瞭なストーリー性と詩的感性に起因する独特の世界観を提供。同人誌即売会の草分け「コミックマーケット」の母体となった漫画批評集団「迷宮」は萩尾望都ファンクラブ色が強く、コミックマーケット開催にも大きな影響を与えたといえる。」 |
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前置きが長くなりましたが、今回紹介するのが「一角獣種シリーズ」と呼ばれている一連の中篇連作。 amazon広告のタイトルだと分かりにくいんですが、小学館の「萩尾望都作品集」第二期の17巻目「A−A’」に収録されています。 ぶっちゃけた話、私はどうしても「ドラえもん」を始めとした少年漫画読みだったもので、ある時期から無理して少女漫画を読む様になったものの、余りにも「文法」そのものが違うので戸惑うことしきりでした。 慣れるまではどうしてもストーリーを追いにくいと思います。 コツとしては、過剰に登場人物に感情移入するよりも「小説を読む様に」大所高所から読むこと。少年漫画は右脳を使うけど、少女漫画は左脳を使う感じです(分かってもらえますよね(^^?)。 更にSFマインドが凄いので、あえて言うならば萩尾先生のSF漫画を読む場合は、海外の翻訳SFを読む腹積もりだと丁度いい感じなんじゃないかと思います。はい。 *ここから先に該当作の説明になりますが、ネタバレを避けたい方は飛ばしてください。 さて、この「一角獣種シリーズ」とはどんな話なのか? 簡単に言うと非常に感情の起伏に乏しい「一角獣種」をめぐる人間模様です。 物語の中心にいる「一角獣種」そのものではなく、その周辺で振り回される人間達の物語…ということになりましょうか。 必然的に人間にとっての「感情」そのものへの思索に富む、奥深い物語となります。 さて、物語が一気にTSっぽくなる(爆)のが、「X+Y」(エックス・プラス・ワイ)。 TSファンだとこれはピンと来ますよね(^^。「3レボリューション」でも使われましたし、何と言っても「性染色体」の記号ですから。 主人公…ということになるであろう、タクトは一角獣種らしく感情の起伏に乏しく、あてがわれた女性(女の子は小学生くらいからこういう漫画読んでるのか…そりゃ野郎は恋愛面じゃかなわんわ)に対しても淡白なまま。 |
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恋愛感情ではなく、打算でしかパートナーを選べない女。左が主人公(?)のタクト |
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彼は火星のテラフォーミングをするための研究をするチームの一人として送り込まれるんですが、ある日重大な事実が判明します。 |
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この物語では一貫して遺伝子状態の「XX」という表現で説明します。 一流のSFがそうであるように、性別とは認識ではなく遺伝子の状態を指すに過ぎない…という割り切りこいうことでしょう。 |
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ところがそれを聞かされてもタクトは全く動じません。むしろ周囲があたふたしてしまうばかり。 |
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今回はカットしてますが、ウォルフ管だミュラー管だと当たり前の様に専門用語のオンパレード。 今後TSものを書く時には用語の参考にすべき筆頭文献かも知れません |
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普通、TS漫画的に言えばこれはマイナスポイントです。 何しろ本人がまったくうろたえないんだから。 |
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*個人的な感想で恐縮ですが、私はこの世話焼きのアンアン博士(黒髪の女性ね)のキャラが大好きです(^^。 マーベットさんに似てるからかな?でも人妻…orz。 |
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しかし、この漫画の最大のポイントはそこではありません。 もう少し話を前に進めましょう。 実はこの物語はハードSFの舞台を利用したちょっとしたミステリ仕立てになっています。 SFミステリなんてアジモフみたいです(^^。 ワクワクするじゃありませんか。 |
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古典とも言えるSF小説ではありますが、このキャラの立ちっぷりはむしろ現在のライトノベルの感覚と言ってもいいくらい。ラノベ読み慣れた読者なら問題なく面白いですよ!オススメ。 |
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タクトの体質がある時点から女性化するものであることが確定的になったので、保護者であるムーンサルト博士に接触してそれを承諾してもらうことにします。 ところが、そのムーンサルト博士について調べてみるとどうも妙なことばかり分かってきます。 |
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この時代でもマリリン・モンローはメジャーみたいです |
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折角見つかった写真が見事な女装写真ってのはどうなんでしょう…と思いきやこれがムチャクチャ重大な伏線。しっかり覚えておいて下さいね! |
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「ホモだったの?」ってこれほどストレートな台詞はちょっと読んだことがありません。流石は少女漫画 *まじめなホモってのがイマイチ分かったようで分からんのですが、この世界では性的なモラルはかなり寛容みたいです。 つーか近未来・遠未来関わらず未来世界は大抵性別に関してはおおらかになっていくものみたいです。その手の活字SFは沢山ありすぎて一々挙げられないです(^^;;。 |
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俄(にわか)に物語がきな臭くなって来ました。 本人が見事な女装を披露していたのは…まあ、いいとしてもその後ホモとして男性を妻に娶(めと)っており、その妻(男性)は自殺。 ということはタクトは一体誰の子供なのか!?!?! もうしびれる様な素晴らしさではありませんか。 この謎に迫るだけで2時間の映画が完成しそうです。 さて、物語は決してこれだけで進む訳ではありません。 個人的に「SFマインド」が感じられるところを何箇所か抜粋しますので、その雰囲気に酔って下さいませ。 |
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*これが劇中で披露される火星のテラフォーミング(地球化)のディティールの説明の一部分。凄いでしょ? 実際にどれ位科学的に正しいか?ってのはそれほど重要じゃありません。 何というかこれ位「説得力がありそうに見える」情報で満たすことが今どきのSFアニメとかで出来てるのか?ってのが言いたいんですよ。 「本格的武力衝突」とかそれっぽい用語使って満足してんじゃねーよと。 これ位やってくれれば、少なくとも私みたいにスレたのでも「参りました」と余計なツッコミ入れる気も無くすでしょ? これですよこれ。 |
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偏見で悪いんだけど、やっぱり女性の漫画家って頭がいいからSF漫画描ける人ってレベルが天井知らずに高いですよね(^^。男が馬鹿だと言ってるみたいですが、…少なくとも主流の「少年漫画」はこんなに頭使わないもん。 もお最高。 「OZ」とか読んだ時も思ったけど。女性作家の方がSF漫画には向いてる気がしました。 |
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*この「ESP」ってのはこの世界では「エスパー」の代わりに用いられている用語です。「エクストラ・センソリー・パーセプション」の頭文字で、要するに「超感覚」つまりは「超能力」そのものを意味する単語ですが、同時に「超能力者」も意味しているみたいです。 こういう言葉の選び方のセンスがいいとそれだけで読み甲斐があります(^^。 よく「テレパシーを使える人」を「テレパシスト」とか言ってるアニメとかありますけど、そこは「テレパス」とか言って欲しいなあと(うるさい視聴者だな)。「予言者」じゃなくて「プレコグ」とかセンスのある造語を待望しておるのです(^^。 |
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*この辺りの描写とかもう圧巻どころではないですよ。 「3.9年に一度近づく」ことそのものは調べれば分かりますが、それをこんな風にドラマに使えるとは…。 こういう「何をどうやっても絶対適わないな」という思いにさせてくれる作品ってたまりませんよね。 |
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このエスパーの「モリ」は直前に収録されている「A−A’」(表題作ですね)において一角獣種の女性の恋人を亡くしています。 そのために、ユニセックスな容貌を持つタクトにどうしても惹かれてしまい、遂に告白してしまいます。 |
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このあたりは流石にやおいジャンルの先駆者の萩尾先生(^^。巧みに混ぜてくるではありませんか。この辺も当時の(今もか)女性読者のハートを鷲掴みです。 TSファンは必ずしもホモ好きではないのですが、読者としてタクトがこれから女性化することは知っているので非常に美味しい展開と従えられます。 さて、この「X+Y」は前後編ですがどちらも中篇なので早くもクライマックス。全ての秘密を知るムーンサルト博士の登場です。 ここでなんとタクトは「しょっちゅう性転換を起こす遺伝的体質」であることが暴露されます。 |
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ここから先の驚愕すべき真相は、ダイジェストでお送りしたのでは魅力が伝わらないのですが、かといって「ネタ晴らし」をノーカットで掲載してしまうのもレビューとしてはやりすぎでしょう。 物凄く悩むのですが、一番大事なところだけ絵を引用してそれ以外を文字で解説します。 |
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*本当に根っから理系の先生らしく、ここでも遺伝子についての用語の薀蓄がとうとうと…。 自慢じゃありませんが私なんぞ劇中のTSをここまで考えて書いたことなんてありません(爆) |
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ムーンサルト博士は過去に偶然「性転換薬」の製造に成功します。 |
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動物実験を経て、自分で服用してみると20日ほどでグラマーな女性に変化することが出来ました。 この薬は一時的な効き目しかないので、せいぜい仮装パーティで写真を撮る程度しか出来なかったのですが、同僚のマーブルにばれてしまいます。 |
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ここです! 私が主張したかったのはここ! TS漫画、TS小説を読む醍醐味といえば何と言っても「疑似体験」。 これですよ! それには如何(いか)に魅力的な舞台を用意してもらうか、これに尽きます。 実際にマーブルが被害に遭っている場面というのはこの過去を大急ぎで振り返るダイジェストの説明コマ一つしかありませんが、これぞ正に「突然の望まない性転換」でなくて何ですか! ここでその日の朝の大騒動とかを目一杯想像してこそTSファンたるもの。 そして…この軽はずみに行なわれた実験によって、彼らの人生は完全に狂ってしまうことになります。 なぜならば…。 |
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Σ(゜Д゜)!! |
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そして彼らにはこういう運命が待っているのです。 |
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…凄いでしょ? さらっと書いてありますけど、かつての男友達、悪友と男女となって結婚するという物語はよくありますが、この場合元々二人とも同性愛関係でも性同一性障害でもなく、純粋に肉体のみに引きずられて結ばれることになるのです。 直接描いてあるのはたった1コマではありますが、数限りないドラマを想起させる最高の舞台立てです。 この魅力的なご婦人の横顔見て下さいよ! ついでに若くて二枚目だった時代のムーンサルト博士も! いやー、この一連の流れを何百回読み返したでしょうか。 私くらいのベテランになると(ギャグとして書いているのでよろしく)、情報としてはこれだけで充分。後は妄想をお任せ下さいってなもんです。 いざ全てを観念するまでの紆余曲折。 男女となって同居しながらのあれこれ。 体型が違うので、一時凌(しの)ぎとは言え、必然的に買わなくてはならない女物の下着や普段着…。 そのショッピングやら何やら…。 ホンの数日ならばともかく、数ヶ月以上も女の身体のままであることの葛藤。 そしていざ観念してから、結婚するまでの煩悶。 恐らく二人だけでひっそり行なわれたに違いないのですが、結婚式において純白のウェディングドレスに袖を通す時の感慨…。 もお、「妄想だけでご飯3杯はいける」格好の燃料ではありませんか。 自慢じゃありませんが、私はこの漫画のお陰で数時間を遥かに越える妄想の映画みたいなのを観られましたよ。ええ。全部脳内妄想ですが(核爆)。安上がりな体質です。 |
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当然この子供がタクトです |
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この物語はこの後ももう少し続きますが、TSレビューとしてはここまでで充分でしょう。序盤の方で振られた謎の全てが論理的に綺麗に説明できたことがお分かりでしょう。恐ろしいほどの構成力です。もう人間業とも思えない。 その後、元・同僚にして男の親友でありそして妻となり、タクトの母となったマーブルは資料によると「自殺」とはなっていたけども、実際にはどうなったのか? そして「性転換薬」を服用した女体から生まれ、不随意に性転換を繰り返す体質として成長しているタクトはこれからどうなってしまうのか? 何よりモリときちんと結ばれるのか? それは実際に手にして確かめてみてください。 私なんぞがこれ以上グダグダ言うことは何もありません。 巨匠の筆致に読者冥利に尽きながら浸る幸せに酔いしれるのみ。 ラストのコマを眺めながら、彼ら彼女らに幸多かれと望まずにはいられない、幸せな漫画です。 こんな物凄い作品が20年以上前に発表されていたというのだからわが国の漫画文化の奥深さはブラックホール級です。いやホントに。 いやー、月並みで申し訳ないんだけど…これから読む人が羨ましいなあ。 煩悩を直接刺激するタイプのTS漫画ではないので、「少年漫画」を読みなれていた読者にはその淡白な筆致がちょっと物足らないかもしれません。 ここで大事なのは「物語」であり、「情景」であり、「運命」なのですね。「ディティール」では無いんです。む〜ん、説明が難しいなあ。 それこそおっぱいもみもみ、いや〜ん!みたいなのを期待されると肩透かしを食います。 これは「グラフィック・ノベル」…絵の付いた小説…であると考えて脳をフル回転させて読みましょう(^^。 順位付けするのは難しいのですが、正反対の属性である「まるでシンデレラボーイ」と同じ位私は好きですよ。ということでかなりオススメ。 2007.10.10.Wed. |
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