TS関係のオススメ本10-02
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「桜ish 1―推定魔法少女 (1) 」 (一 肇・2007年・角川スニーカー文庫) |
ちょっと予定を変えましてこちらの作品を先にご紹介。 「桜ish(チェリッシュ)−推定魔法少女−」です。 設定は「魔法少女に変身させられる運命を背負わされた少年」という、もう聞き飽きた、と言いたくなる展開。 しかし、…これはなかなかの拾いモノですぞ。 大度城(おどき)学園に通う佐倉恭一くんは、ある日「学園七不思議」を探索するべくクラスメートと連れ立って深夜の学校に忍び込みます。 ところがそこで、一緒に来ていたクラスのお調子者土屋耕介が闇に飲み込まれてしまいます。 クラスメートが行方不明になってしまうという異常事態に、幼馴染みの水野ひなたも動転するのですが、なんと耕介は翌日普通に学校に来ています。 ところが…彼は見かけこそ普通ですが、恐ろしい秘密を持つ「怪物」となっていたのです。 そして、平和な日常生活は一転して現実とも非現実ともつかない悪夢に変貌していくのです。 クラスメートが行方不明になり、戻ってきたら異形の怪物になっていたお話といえば綾辻行人原作ゲームの「Yakata」の漫画化「Yakata (1)」を思い出しますね。第一話でクラスメートが(秘密)になっちゃうところなんて本当に気色悪いですよ!そこそこ年齢が行った段階で読んだので何とかなりましたけど、子供の頃だったらトラウマものでした。 これに限らず、「平和な学園の風景が一転地獄絵図になる」という物語は案外多いです。「日常の崩壊」ってやっぱり甘美な破滅の誘惑があるじゃないですか。 個人的に思い出すのは「ウイングマン」のラスト間際とか、矢鱈(やたら)ゲリラやらテロリストに襲撃される難儀な学園が舞台の「JESUS」とか、「学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEAD 」なんかもありますね。 皆さんも考えませんでした?高校生の頃とか、学園がそのまま異次元にかっ飛んで行って別世界に閉じ込められたりしたらどうなるかな?とか。あ、それは別の漫画か。 この所「セカイ系」なる言葉が持て囃されています。 明確な定義が難しいのですが、とりあえずWikipediaによると次のような解釈を取るそうです(改行引用者)。 「セカイ系は「主人公(ぼく)とヒロイン(きみ)を中心とした小さな関係性(「きみとぼく」)の問題が、具体的な中間項を挟むことなく、『世界の危機』『この世の終わり』など、抽象的な大問題に直結する作品群のこと」と定義される場合があり、代表作として新海誠のアニメ「ほしのこえ」、高橋しんのマンガ「最終兵器彼女」、秋山瑞人の小説『イリヤの空、UFOの夏』の3作があげられる。 「世界の危機」とは地球規模あるいは宇宙規模の最終戦争や、UFOによる地球侵略戦争などを指し、「具体的な中間項を挟むことなく」とは国家や国際機関、社会やそれに関わる人々がほとんど描写されることなく、主人公たちの行為や危機感がそのまま「世界の危機」にシンクロして描かれることを指す。」 この最後の「主人公たちの行為や危機感がそのまま「世界の危機」にシンクロして描かれる」というのが「セカイ系」の定義であるならば、この「桜ish 1―推定魔法少女」は私がこれまで読んできたどのライトノベルよりもド直球で「セカイ系」です。 概(おおむ)ね予想はつくかと思うんですが、私は子供の頃はひねくれもので、図工の時間に「自由に空想で絵を描いていい」なんて課題を出された日にゃあ、そりゃあもうカオスなのを描いてたもんです。 今でこそ「残酷アニメ」云々と余計なことを言って舌禍事件めいたことを起こしてしまったりもしてますが、刺激を求めてゾンビの絵を描いたりと自分が一番やんちゃでした。 眉をひそめていた若くて美人の美術の先生ごめんなさい…m(_ _)m。 話を戻します。 耕介の謎の失踪事件と、翌朝の復帰事件。そして直後に現れる謎の女。 その女は訳の分からないことばかり言います。 この辺りから目に見えて世界が狂い始めます。 脳内に響く謎の言葉に導かれて地下室に行く恭一。 そこで現れる謎の人物たち |
彼らも一様に何を言っているのか分かりません。 ただ、昨日の晩に行方不明になったクラスメートの土屋耕介の身に何か異常事態が起こったことだけは間違い無さそうです。 こうして説明していても、全部が夢の中の様に現実感が無いと思いますが、正にそういう小説なのです。 ですが、これはこれでいいんです。 恭一自身がしつこくモノローグするように、まるで全てが夢の中であるかのような描写なのですから。 学校の地下に存在した(?)謎の巨大回廊から抜け出した恭一ですが、そこはもう異次元でした。 舞台こそ地下室に入る前の学校の校舎ですが、そこいら中に血まみれの腕や脚が転がっている酸鼻を極める惨状だったのです! それだけならばまだしも、生徒達は薄笑いを浮かべながら死体…いや、人体のパーツを掻き分けるように歩き、特にこれといった反応をしないのです!! こ、これは一体何が起こったというのか!?!? 突如現れた謎の魔法少女たちに制止されながらも教室に入ってみると、そこにはあの行方不明になった状態から生還した土屋耕介が! 彼はクラスメート全員を殺害し、死屍累々となった教室の真ん中に机を積み上げた祭壇を作り、選別して生かしておいた学園指折りの美少女たちをはべらせてハーレムを築いていたのです!! …これは…何ともはや凄まじいイメージの奔流ではありませんか。 これまでだったら私は余りいい反応をしなかったと思います。 ゾンビ映画やスプラッタ映画などにはそこそこ耐性があるものの、こういう無辜の一般人を無差別に犠牲にする系統のお話には激しく拒否反応を示してきましたから。 実は…誤解を恐れずに言ってしまうと…とても心地よかったです。 別に残虐趣味がある訳ではありません。クラスメートを切り刻みたいと思っていた訳でもない。 しかし、何と言うか甘美なる破滅の快感というか、日常生活に何の不満もなくても「世の中メチャクチャになってしまえばいい!」と思い込む子供の頃の感覚とでも言うべきものが見事に反映されているんですよね。 「ライトノベル」なるものは漫画と同じで分かりやすいだけの「劣化版の本」みたいなイメージをもたれている向きもあるのですが、読者層の中心である若い子供達の潜在意識とでも言うべきモノを見事にすくい上げているからこそ支持されるのだと思います。 少なくとも私が中学・高校時代にこの「桜ish」に出会ったら余りのシンクロぶりに夢中になっていたことと思います。 幸か不幸かこのシークエンスは一枚のイラストもついていないのですが(賢明な判断でしょう)、「能天気な少年魔法少女もの」だと思っていた読者の度肝を抜く核弾頭みたいなものです。 ここまでは書いてしまっても構わないと思いますので書きますが、大方の読者の予想通り、この悪夢みたいなイメージは現実ではありません。 土屋耕介の願望の世界です。 はい、もうお分かりですね。 どんなメカニズムなのか、この物語内においては毎回犠牲者となる人間の思い込みが「宇宙刑事ギャバン」でいう「マクー空間」みたいなものを作り出すんですね。 一応先ほどの「悪の幹部」の方々(?)の説明するメカニズム云々はあるんですが、要するに一番大事なのは「人の心」なんですね。 恐らく「ライトノベル」を余り読んだ事の無い方がこの「桜ish」を読んでまず思うのは主人公のうじうじ具合が「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジ君そっくり、ということでしょう。 しかしそれは短絡というもの。 彼は明らかに自我の不安定な「よくいる」高校生そのものを象徴したキャラです。だって学校の地下室から帰って来りゃ学園中が死体だらけになってるんですから。まだまだ現実と非現実の区別があやふやではないですか。(そのまんまの意味で誤解している訳ではありません。文意を汲み取っていただければと) この辺りについてはもうグダグダ書きません(^^。 「敵組織」めいたものの存在や、幹部たちの行動原理も描かれるんですが、この辺なんて、ちょっとした思い込みからまるで「この世の全てを理解した」と誤解してしまう若気の至りを婉曲的に描いてるんじゃないか?とかそれこそ若くも無いのに若気の至りで思い込んだりするんですが。 ともあれ、恭一くんは魔法少女に変身させられます。 後書きによると、元はゲームの企画として書き下ろされたらしく、本来は(^^;;これがメインなのでかなり燃える描写になっています。 ここはそのまんまお見せしましょう。 |
いいでしょ?(*^^* 肉体が男の子から女の子に変身する物語は、そりゃもう星の数ほどあるわけですが、それをどの様に表現するのかは正に研究に次ぐ研究の積み重ねの上に成り立っています。 この「桜ish」で非常に特徴的なのは、「一人称小説」でありながら(セカイ系が一人称でないわけがありません)、なんと変身時の一人称が「わたし」と女性のものになってしまうことです。 これは余り見たことがありません。 何しろ、基本的には文字で情報を伝えるしかない「小説」でこれをやってしまっては、一番大事な「自我」が消失してしまうではありませんか。 この「性転換してすぐに女言葉」という現象は、過去に多くのTSファンが猛反発してきたポイントです。 しかし…個人的にはこの「モノローグまで女性化」は、この作品に関しては「あり」ですね。 というのも、自我は死んでおらず「思考する際の表現」が女性化してしまう…という、表現が難しいんですが「精神の強制女装」(強制性転換ではない)という感じなのですよ。 先日ご紹介した「魔法少年マジョーリアン」(レビューは |