TS関係のオススメ本11-09
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「けんぷファー〈2〉」 (2006年・築地俊彦・メディアファクトリー) |
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けんぷファー〈2〉 (MF文庫J) |
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04-06 「けんぷファー@」(レビューはこちら) |
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前作のレビューが2006年12月10日(日)ですので、約2年ぶりの続きということになります。 お待たせしてしまって申し訳ありません。 でもってこの僅か2年のうちにこのシリーズは実に8巻を刊行する大人気となっており、漫画化すら成し遂げられているのですから、ある意味一番の出世頭と申せましょう。 |
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ともあれ、やっと時間が取れたので久しぶりに1巻を読み返して見ました。 …これはひどい。 あ、いやこれは別に悪口ではありません。いや、悪口か。詳しくは後述。 登場人物をおさらいしておきましょう。 |
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まずは瀬能ナツル(せのう・なつる)。 |
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本編の主人公で、突如「けんぷファー」に任命されてしまいます。 理由は全く分からないのですが、とにかく「けんぷファー適性」が高かったために、「男である」という致命的なはずの悪条件を、変身のたびに性転換するという荒業でクリアさせられて押し付けられます。 沙倉楓(さくら・かえで)。 |
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ヒロイン役ですな。勿論一般人。 美嶋紅音(みしま・あかね) |
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ある意味一番の問題児。 図書委員でメガネっ子と言えばお分かりになるでしょうが、そういうキャラです。普段は。 彼女も「けんぷファー」の一員で、不随意の変身体質を持ちます。 それはいいんですが、変身すると性格が豹変し、英語で言う「4文字言葉」を乱発するド下品キャラに。 う〜ん、そうだなあ。「コードギアス」のナナリーが「ブラック・ラグーン」のレビィに変身する感じと言えば分かってもらえるでしょうか? 三郷雫(さんごう・しずく) |
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女性の生徒会長にして楓の幼馴染み。 でもって影で権力を握る「敵方」けんぷファーの一人。 生徒会長ったって単なる生徒代表ではなくて、教師の一部すら配下に置き、学校を裏から支配する影の番町。というか、一番の黒幕とでも言うべき腹黒い存在。 生徒のクセに教師よりも権力があるなんて「魁!男塾」の三号生みたいなもんですな。 |
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第1巻より。目が覚めて変身していることに初めて気付くシーン。 |
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「TS作品」のジャンルでいう「少年魔法少女もの」に関しては「ナイトウィザードヴァリアブルウィッチ 2巻」(レビューはこちら)のレビューで書いたのですが、とにかく「TSもの」のいいところを総取りしたような素晴らしいジャンルです。 2007年あたりから、ライトノベルやら漫画やらにどこかしらTS要素を持つ作品が物凄い勢いでリリースされるようになってまいりまして、現在もその記録は継続中なんだとか。 そのトップ集団にあり、好調に続巻しているのがこの「けんぷファー」シリーズ。 大まかなストーリーだけ説明すると、「『仮面ライダー』の変わりに女性体の『けんぷファー』に変身して悪を退治する役割を押し付けられた男の子の物語」ということで、一言で済んでしまいます。 前回紹介した第一巻は、本人(ナツル)とパートナー(紅音)、憧れの存在(楓)と敵(雫)が一通り顔を見せたところまでで終了。 そして今回は本格的に「けんぷファーの特性」の紹介と、特殊な学校そのものの設定の掘り下げ、ナツルの二重生活の確立と、謎の黒幕の印象付け…と実に美しい配置具合。 次のレビューで紹介する予定の第3巻の冒頭においては、ややこしくなってきた人間関係の整理を本文中できっちり行ってくれるというのですから至れり尽くせりではありませんか。 ちなみに引用した人物紹介のイラストはこの2巻の冒頭に折り込みで入っていたものです。 |
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前巻の復習。ナツルのけんぷファー能力は「魔法(ツアウバー)」。 この他には紅音(あかね)の「銃(ゲヴエアー)」と雫(しずく)の「剣(シュヴェアト)」があります。 「ジョジョ」の「幽波紋(スタンド)」とか「幽遊★白書」の「領域(テリトリー)」とか、「スクライド」の「アルター」みたいなもんですね。 |
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ということで、ストーリーそのものはそれほど複雑なものではないです。 勿論、その筆運びは見事の一言。 恐らく1巻と合わせてここまででテレビアニメならば3〜4話というところでしょうか。 もうひたすら「オススメ」と言っておけばいいんですが、ここはこの「けんぷファー」にしか見られない特徴をご紹介しましょう。 まず何と言ってもその地の文のCOOLさ! これはもう既存のライトノベルの中では際立っています。 小粋なアメリカンジョークみたいなエッジの効いた表現がバシバシ飛び交います。 ボケツッコミみたいな地の文ということで言えば「涼宮ハルヒ」シリーズが有名ですが、それとも違います。 最近読んだ感覚で言うと何と言っても漫画「ブラック・ラグーン」が最も短絡的に思い浮かびます。 |
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なので、ライトノベルというよりは「翻訳小説」のノリです。いやホントに。 ウチで紹介したTS作品の中でも異彩を放っていると思うのが海外翻訳作品群。 特に読みにくかったであろうのが以下の三作品です。 01-06 「悪徳なんかこわくない」(レビューはこちら) 01-08 「ファイナルジェンダー―神々の翼に乗って」(レビューはこちら) 06-05 「彼が彼女になったわけ」(レビューはこちら) 個人的には何かにつけてTSっぽい作品を書きたがっている(様にしか見えない)ハインライン御大はそれほどでも無いんですけど、「ファイナルジェンダー」のガードナーとか「彼が彼女〜」のディビッド・トーマスとかは地の文で過剰に照れている感じがして…ちと読みにくかったですね。 素直な地の文が無いんだもん。あんたがた普通に何がどうしたと書けないのかと。 ちなみに紹介文でも書いてますけど「悪徳〜」を書いた「3大SF作家」の一人、ロバート・A・ハインラインはSF史上最高の問題作「宇宙の戦士」の作者でもあります。「スターシップ・トルゥーパーズ」の原作ですね。 要するにこれで「右翼」だと罵られた訳です。そういうマッチョ志向と思われていた人がSFとはいえ性転換小説を書くんだから分からんもんです。 …このノリなんですよ。「けんぷファー」ってのは。 ちなみに「ブラック・ラグーン」の広江 礼威さんは「浴びるように読んできた海外の冒険小説を漫画で再現したかった」とおっしゃっていて、「なるほど!」と膝を打ったものです。 |
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恐らく「けんぷファー」作者の築地さんも似たような境遇だったのでしょう。だったことにします。 なので、この「けんぷファー」シリーズってモチーフこそ女々しい様に感じられますがトーンが実にマッチョなんですよ。 何と言うか女装だろうが女性化だろうが何が起こっても突き放して達観してる感じなんですよ。分かってもらえるかなあ? マイ・フェイバリットの「まるでシンデレラボーイ」(レビューはこちら)は女装シチュエーションに耽溺しすぎて暴走する感じ。「フレックス キッド」(レビューはこちら)はただひたすら可愛らしくて「ぽわ〜ん」としちゃう感じ。 個人的に大注目作の「桜ish 1―推定魔法少女 」(レビューはこちら)は青臭いほどの青春小説だし、「魔法少年マジョーリアン」(レビューはこちら)は形を変えた私小説。 では、「けんぷファー」シリーズは? …誤解を恐れずに言えば馬鹿にしてる感じなんですよねえ…。ああ、誤解されるなこりゃ。 何と言うか「意図的な悪趣味」がそこかしこに。 |
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実は一巻でもちらっとだけ出てますが、基本的には2巻からの新登場キャラの近堂水琴(こんどう・みこと)。 |
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例えば「魔法少女もの」では無くてはならない「マスコット」。 「魔法の天使 クリーミィマミ」のネガとポジなんて代表ですね。 |
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BEST COLLECTION 魔法の天使クリィーミーマミ ポスターの下にいる猫(?)っぽいのがネガとポジ。 魔法少女にはこうしたマスコットがいなくてはならないと法律にも書いてあります(嘘 |
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なので、「魔法少女もの」のパロディ的存在である「少年魔法少女もの」の多くもその点にオマージュを捧げていて、ちゃんと「マスコットキャラ」がいたりするんですよこれが。 「おと×まほ」(レビューはこちら)のモエルなんかが典型。 |
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ドラマCD おと×まほ この右下の猫がモエル。可愛いでしょ? |
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ところがこの「けんぷファー」に登場するのは、「臓物アニマル」という人形シリーズ。 …えー誤植ではありません。 「ハラキリトラ」とか「セップククロウサギ」とか「クシザシネズミ」といった臓物のはみ出した壮絶な死に様をさらしたゾンビみたいな人形が「マスコットキャラ」なんですよ。 こいつらが口をきいて「けんぷファーとは何か?」みたいなことを導いてくれたりします。 それも「キャスト交代前のしずちゃんみたいなしゃがれ声」でです。 これは「オマージュ」ですか? 明らかに「嫌がらせ」です(ある意味褒めているので本気で怒ってる訳じゃないので宜しくお願いします)。 しかも「性転換後」のナツルは何故か声は男のままという仕様。 可愛らしくなった自分にナルシシズムすら感じさせてくれません。 |
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今回の巻で大騒動を引き起こす張本人のますみん。 |
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「少年魔法少女もの」に関する一般的な説明は「ナイトウィザード」の項を読んでもらうとして、実はこの「けんぷファー」シリーズには地味に画期的な面があります。 それは「敵が人間」であるということ。 |
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「ナイトウィザードヴァリアブルウィッチ 2巻」(レビューはこちら) |
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実は「少年魔法少女もの」で案外見過ごされていたのが「敵の設定」です。 「おと×まほ」(レビューはこちら)にしても「桜ish 1―推定魔法少女 」(レビューはこちら)にしても、「魔法少年マジョーリアン」(レビューはこちら)や「シュヴァリエ」(レビューはこちら)にしてもそして「ブロッケンブラッド」(レビューはこちら)にしても「敵」というのは「この世のものではない異形の怪物」や「侵略を企てる宇宙生命体」「同じく魔法を使う一族」などでした。 これって何かの構図に似てませんか? そう、それまで「何とか帝国の怪獣」や「地球侵略を企てる悪の宇宙人」などという「敵」が設定されていた「スーパーロボットアニメ」に対抗する「人間の軍隊が敵」という新機軸を打ち出した「機動戦士ガンダム」という構図なんです。 |
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実はこのレビューを書いている時点では筆者はこの2巻までしか読み進めていませんので、「モデレーター」の正体については何も知りません。 ただ、「当面の敵」として三郷雫が立ちふさがっていることは間違いない訳です。 2巻を読んでみると分かりますが、ナツルと紅音(あかね)は常にこの「敵幹部」にいいようにあしらわれ、手のひらの上で弄ばれているんですね。 |
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フィクションにおける「スーパーパワー」は劇中で唯一であることが非常に多いです。 例えば「仮面ライダー」はもともと敵方の「ショッカー」という組織の改造人間ですが、逃走してショッカーと戦っているので、言ってみればあの世界で行われているのは「ショッカーの科学力」同士の対戦ということになります。 |
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他にも「タイガーマスク」がありますね。 「タイガーマスク」は「虎の穴」出身のレスラーで、組織を裏切った為に「虎の穴」で修行を積んだレスラーに付けねらわれることになります。 |
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「伝説巨神イデオン」、「砲神エクザクソン」や「超時空要塞マクロス」などでは、地球型の超兵器というのは結局宇宙から降ってきたものを研究して人間が使っているに過ぎません。 そうした意味では「新世紀エヴァンゲリオン」もそうですね。 |
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既存の「魔法少女もの」と「変身ヒーロー」もの、そして嬉し恥ずかしのなんちゃって女装・女性化願望を振りかけたパロディの局地みたいな存在の「少年魔法少女もの」ですが、残念ながら「敵」の設定については既存の概念からは踏み出せていなかった様です。 要するに「魔法少女同士の戦い」がこの「けんぷファー」なのですね。 恐らくここ2〜3年(この原稿の執筆は2008年10月4日(土))の内に発売された「少年魔法少女もの」でこの構図を取っているのはこの作品だけでしょう。 恐らくこの路線を切り開いたのは映画にもなった「バトル・ロワイヤル」です。 |
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中学生のクラスメートが最後の一人になるまで殺しあうことを強制されるという衝撃的なストーリーは、映画化された際にその残虐描写の過激さから国会議員による禁止運動まで巻き起こす騒動に発展しました。 確かにマシンガンで蜂の巣にされて血しぶきを吹き上げながらゴロゴロと転がる可愛らしい制服の女子高生のビジュアルイメージは強烈なんですが、実は結構感動的な佳作だったりもします。 食わず嫌いの人は見て見ましょう。 個人的には魅力的ではあるけども、決して「キャラクターへの愛着」を主軸とする「漫画・アニメ」の文法には馴染まないと思っていたので(これについてはまた書きます)すが、何故かこのテーマに惹かれたのか、「バトル・ロワイヤル路線」とでも言うべき作品が続々と生み出されていくことになります。 個人的に大変残念だと思っているのが、何度でも書きますが「舞-HiME」。 |
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前半は笑いあり涙あり、そして爽快感ありの傑作で、「こりゃ久しぶりに面白いアニメが現れたな!」と非常に嬉しく思っていたのですが、何と後半では「バトル・ロワイヤル」ばりにお互いを殺しあわされる運命に突入。 それも死ぬのは自分ではなくて人質の方だというのですから後味の悪さは最高級。 個人的にはこの後味の悪さは「GONIN」に匹敵すると思います。 |
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また、最近では総理大臣のお気に入りということで矢鱈(やたら)にメディアに名前の出る「ローゼンメイデン」ですが、実はこれも「バトル・ロワイヤル路線」だということは案外知られていない気がします。 |
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個性的なドール(人形)たちが大挙して登場する物語だけに、当然キャラクター人気は高い訳ですが、その彼女たちも「アリスゲーム」を律儀に遂行するのであれば最後の一体になるまでお互いに殺しあう運命にあります。 実際、アニメの第二期のラストでは何体ものドールが死亡しているんです。 私は仕事が忙しくてそれほどアニメを観る方ではないのですが、「バトル・ロワイヤル路線」を持つ作品は特撮まで含めるとかなりの数に登るそうです。 正直、ちっとも魅力的だと思わないのですが、どうしてそんなに重宝されるのか分かりません。 要するにこの「けんぷファー」シリーズは従来の「少年魔法少女もの」が持っていた「魔法少女もの」「変身ヒーローもの」の要素に加えて、「ガンダム要素」と「バトル・ロワイヤル路線」まで加えた侮れない作品である…と言いたかったのです。 先ほど「敵が人間」と書きましたが、「おと×まほ」(レビューはこちら)や「魔法少年マジョーリアン」(レビューはこちら)の様に、「うがー」としか言わない「怪獣」みたいなのだけではなくて、一応「知能」を持ち、人間と会話を交わせるレベルの「知的生命体」が敵となる構造を「少年魔法少女もの」でも取ったことはあります。 ま、「ブロッケンブラッド」(レビューはこちら)は敵がアホばかりなので論外として(ヒドイ)、「ナイトウィザードヴァリアブルウィッチ」(レビューはこちら)などは確かに「人間」でこそないものの、間違いなく「知的生命体」が敵です。 ただ、この場合であっても敵が「人間なのか人間でないのか?」というのは決定的な要素です。 「機動戦士ガンダム」の敵が「ジオン軍」でなくて「ジオン星人」だったらどうだったか?は考えるまでも無いですよね? 今やダイエット成金である自称「オタキング」岡田斗司夫氏は、「「世界征服」は可能か?」の中で、余りにも知能がかけ離れた相手には「征服−被征服」関係は成立しない、とおっしゃってます。 |
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どういうことかというと、例えば人間は「犬」に対して圧倒的に優位に立っています。 ですが、ならば「人類は犬を征服した」と言えるか? 言えなくも無いですが、そんなことを言っても無意味ですよね? 「征服−被征服」関係というのは、きわめて近い知能を持つ存在、或いは全く同じ種族同士でなくては成立しないんです。 漫画「北斗の拳」のどの時期までを「面白かった」と呼ぶのかは人によってかなり隔たりがあります |
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大半の読者は「ラオウを倒すまで」とお答えになるでしょう。 私は実はその前、トキが登場した辺りまでなんですね。ラオウ戦になっちゃうともう駄目。 要するに「北斗神拳同士」の戦いになった瞬間にケンシロウが物語の中の唯一のスーパーパワーではなくなって「互角の戦い」が繰り広げられる様になるからなんです。 あ、ジャギは雑魚でかつ「勧善懲悪的に正しい悪役」なのでOKです(ヒドイ)。 つまり、「勧善懲悪の悪者退治」の構図が「仲間内の殺し合い」になっちゃった段階でちょっと嫌だったんですね。 勿論、当時はそんな言葉はありませんが「バトル・ロワイヤル路線」の雰囲気が嫌だった訳です。 「けんぷファー」とは一体何なのかは、第2巻まででは明らかにされません。 ですが、「赤い腕輪」と「青い腕輪」の陣営に分かれて殺し合いをせざるを得ない…というところまでは間違いなさそうです。 そして、ナツル・紅音(あかね)は青い腕輪陣営。そして雫(しずく)は赤い腕輪陣営です。 |
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「けんぷファー」の素質が目覚める基準は全くランダムで、好んでどちらかの陣営として覚醒出来る訳ではありません。 当然「目覚めて」しまったからにはそこからは同じ「けんぷファー」同士で殺し合い、修羅の道に突入する…いや、させられることになります。 便宜上「少年魔法少女もの」とは書いてきたのですが、能天気な「きゃぴきゃぴ怪獣退治」路線とは一線を画す殺伐度合いで、何か別の呼称を用いるべきだったのかも知れません。 確かに紅音(あかね)の変身後の口汚さはヒドイんですが、それ以外にも全編に漂う殺伐とした雰囲気はこの「構造」そのものに由来していたと思われます。 それでいてモノローグはハードボイルド小説みたいな翻訳調。しかもパンク。 作品にただよう雰囲気としては紹介したことのある「キリサキ」(レビューはこちら)が近いものがあるかもしれません。 |
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ただ、そうした中でも狙ってか偶然か「TS的」に非常に「そそる」構図を現出させているんですね。 「可逆」(元に戻ることが出来る)のTSものにおいては「変身のきっかけ」は非常に大事です。 一言で言うと「随意」か「不随意」か。 要するに「女に性転換しようと思って性転換できる」のか「女に性転換したくなくても勝手にしてしまう」のか。 何だかんだ言っても「可逆」TSものの代表作である「らんま1/2」(レビューはこちら)は基本的には「不随意」です。 「水を掛けられる」と勝手に変身してしまうのですから。 無論、自分で水をかぶることで「随意変身」に近いことは出来ますが、劇中では「水を掛けられて性転換したくないのにしてしまう」場面の方がずっと多く、効果的に使われてきたことは書くまでも無いでしょう。 非常にやってしまいがちなのが「性的にドキドキすると女の子に性転換してしまう」というトリガー。 私が確認しているだけでも、 「ふたば君チェンジ」(レビューはこちら) 「フレックス キッド」(レビューはこちら) 「ナイトウィザード ヴァリアブルウィッチ」(レビューはこちら) の3作品が存在しています。 決して「悪い」訳では無いのですが、この方式だと「随意・不随意」でドラマを作るのが難しいんですよ。 実際「ヴァリアブルウィッチ」では主人公の竜之介くんは「不随意」で使っているのに、おじいちゃんは完全に「随意」で使いこなしています。 変身ヒーローが自由に変身出来ないなんてのは困ったもんなんですが(爆)、そこはただの「変身ヒーローもの」では無いので。 ちなみに、「少年魔法少女もの」では無いのですが、可逆変身のトリガーとして「紅茶を飲む」という変り種が「成城紅茶館の事情」(レビューはこちら)。 |
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「おしっこをすると戻る」ので、戻るタイミングが不随意…という非常にユニークな作品でした。 ところが恐ろしいことに「敵が人間」であるこの「けんぷファー」ではその「コントロール権」を「敵の親玉」が握っているという構図になっているのです! 第1巻において、ナツル&紅音(あかね)は死闘の末に雫(しずく)と痛みわけ、その戦闘に於いて人質となった楓(かえで)を巻き込まず、これからも手を出さないことを約束させます。 敵なので聞く義理は無いのですが、冷戦時代のホットラインみたいな「戦時下の約束事」みたいなものでしょう。 |
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この、第1巻における「実は生徒会長がけんぷファーで、しかも敵方であるのみならず、幹部クラスらしい」という事実が小出しにされていく下りは本当に圧巻で、読み返した際にも背筋がゾクゾクしてしまいました(*^^*。 |
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そこまではいいんですが、雫(しずく)は、その気になればいつでもナツル程度の「けんぷファー」覚醒度合いしかない人間を殺すことが出来る立場。 それでいて現実にも絶大な権力を持つ生徒会長です。 東西冷戦時代の「ベルリンの壁」のごとく男子と女子を隔絶させる構造を持つ特殊な学園において、変身前も後も生殺与奪の権利を握られた状態のナツルは影に日向にとじわじわといびられることになるわけです。う〜ん。 突如日常生活において目の前に現れ、「いつでも殺せるぞ」という雰囲気をただよわせながら軽口を叩いては颯爽(さっそう)と立ち去るその挙動…。 何とも寒々とした心境に心が苛(さいな)まれます。 こういうのを「気持ちいい」と感じる人が本物のマゾビストなんでしょうね。私には無理です。…でもちょっと気持ちよかったり…(えー。 「けんぷファー」への変身トリガーは基本的に近くに別のけんぷファーがいる場合です。 しかし、最終的には自分の意思で制御出来る様になるとのこと。 問題は、そうなる直前の時期には「不随意に変身してしまう」時期を乗り越えなくてはなりません。 この第2巻においてはナツルは正にその段階です。 …ところが、もう一つ変身トリガーがあったんです。 それは「明らかに自分よりもレベルの高いけんぷファーによる操作」です。 …はい、もうお分かりですね。 そうなんです。 雫(しずく)はナツルが望もうが望むまいが、強制的に「けんぷファー」に変身させることが出来るんです。 つまり、圧倒的優位の立場にある雫が、嫌がるナツルを強引に女に性転換させ、セーラー服を着せることが出来るってことなんですよ! |
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これまで数々の「変身トリガー」を観てきましたが、まさか「敵にコントロールを握られている」なんて凶悪な仕掛けがあったとは思いも寄りませんでした。 普通は「殺し合いを前提とした敵味方」という間柄であるならば、さっさと殺してしまえばいいのですが、どうやら雫(しずく)はナツル達を何らかの形で利用しようとしている節があります。 まさか1巻での紳士協定を律儀に守っている訳でもないでしょう。 つまり、社会的にも物理的にも「生かさず殺さず」の状態とされたナツルは、よりによって敵意を持っている相手の都合で望むと望まざるとに関わらず女へと性転換させられ、女装させられる立場に置かれてしまっている…ということになります。 これは…ちょっと「Mっ気」のある方にはたまらないシチュエーションを持つ恐るべきライトノベルと言うことが出来るのではないでしょうか。 ちなみにここで「変身トリガーを握っている」のがこちらも女の三郷雫(しずく)であるという事実のバランスについて。 元々「けんぷファー」という存在が女性しかいないので、雫(しずく)が女なのは当たり前ではあるんですが、これが男だったら…と思うとかなり生々しいでしょ? 敵方の男に「ふん…とりあえず今日は女になっておくがよい」とか言われた瞬間に身体が女に性転換して着ている服がセーラー服になっちゃったりした上「ふ…そのスカート…なかなか似合っているぞ(ニヤリ )」とか言われちゃう話って…それはそれでいいかも(えー。 というのは嘘で「生々し過ぎる」ことになるでしょうね。 別に「受身の性にされた」ことで「その後」まで連想させることもありますが、「性転換させる」側が男であるならば「男の心理」「男の生理」が分かる訳です。「女にされる」ことの意味も分かる訳です。 そのまま家に帰ったら何するであろうこととか(察してください)。 その意味で術者が女であることはある程度の良識の担保を効かせているということでもあると思います。 ちなみに「男を女にする」立場を女の子とする物語はこの原稿を書いている筆者もその構造の有用性には早くから注目して長編小説を書いたりもしています。兄を性転換できる妹の話とか。ちょっと宣伝。 ま、「男が男を女にする」お話としては20年近く前にアニメ放送された「幸福押し売り! ピントはずれの青い鳥!!」(レビューはこちら)があったりするんですけどね…恐ろしや恐ろしや。 舞台となる「星鉄学園」は一応共学校ではあるんですが、元・女子高だった頃の名残で入り口で男女が別々とされ、同じ敷地内にありながらそれぞれが男子校・女子高の様な様相を呈しています。 「変身した後のナツル」を目撃した生徒に対してのフォローということで、絶大な権力を持つ雫(しずく)は、各種手続きに生徒手帳まで偽造して「瀬能ナツル」という女子生徒の存在をでっちあげ、強引にナツルに男女二重生活を強要します。 |
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女子部に「も」通わされる破目になったナツルは新聞部のますみんの策略でレズ疑惑を掛けられるオモチャ状態に…。つくづく作者は読者をいたぶるのがお好きな様で…。 |
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む〜んこれは…。 「TS作品」の醍醐味と言えば「望まざる生活を強要され、それをどう耐え抜くか」にあると思うんですが、舞台立てとしては見事の一言です。 変身体質を得てから「女生徒」として学園生活を送らされる作品としては「ふたば君チェンジ」(レビューはこちら)、そして「能瀬くんは大迷惑Jr.編」(レビューはこちら)などがあります。 しかし、実は「何が何でも避けることが出来ない状況」であったか?というと残念ながらそうとも言い切れないところが。 しかし、この「けんぷファー」ではそれはありません。 何と言っても、嫌だと言おうが何だろうが強引な生徒会長様がちょいと操作すれば身体は女に性転換し、着ている制服は女子のセーラー服になっちゃうんだから。男子の校舎の側になんて行けないんですよ。 しかもそれでいて戻るときはランダムで不随意なんだからもうイジメです(褒めてます)。 |
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美人な上にレズ疑惑も相俟って「そっち系」の女子たちに大人気になってしまい、おっぱいを揉まれたりスカートをめくられたりともみくちゃにされるナツルさん(精神は男)。誰ですか!「うらやましい」とか言ってるのは! 声は男のままなんですが、「ハスキーで格好いい」ことになってます。 |
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実は言うまでも無く、肉体が女になっただけでは「TSの醍醐味」を体験しつくしたとは言いがたいんですね。 「社会的に女としての生活」まで強要されて初めて「醍醐味」と言えるのではあるまいか。 73ページの雫(しずく)の「瀬能君、女子部に来なさい」という台詞は痺れましたねえ。 色々と思惑はある訳ですが、要は「ちょっと女子生徒として生活してもらうわよ(はぁと)」という恐ろしくサディスティックな一言な訳ですよ! 著者が男性だけあって、ここは男性読者のハートを打ち抜いてきます。 偽造したIDカードを眺めていての会話(77ページ)。 ***** 「名前が瀬能ナツルのままだ」 「変えた方がいい? きっとくすぐったくなるわよ」 ***** うおーっ!! もう説明不要でしょう! |
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女子部への謎の美人転校生「瀬能ナツル」のことで学園(特に女子部)の話題は持ちきり! 何とガチレズだった楓(かえで)は女ナツルに夢中! その余波で追求を受ける男ナツル。 |
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「魔法少年マジョーリアン」(レビューはこちら)でも全く同じ構図があったんですが、作中の女登場人物が「変身後(女)」の主人公に惚れてしまって、人間関係がよりややこしくなる…というのはこちらでも健在。 それが男の時に好きだったキャラだったり…というのは「入れ替わり」なのでちょっと違いますが「どう男女!?」(レビューはこちら)でもあった構図ですね。 迷走する人間関係の誤解と邪推は頂点を極め、遂には男のナツルと女のナツルが「付き合っている」という噂まで流れ始め、益々混沌状態に。 元の人物との「二重生活」を行き来する醍醐味は「変身ヒーロー」ものに特有の感覚です。 最近ですとこれを有効に使った作品として何と言っても「コードギアス 反逆のルルーシュ」を上げずにはいられないでしょう。 |
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ルルーシュは別に「変身」している訳では無いんですが…いや、ある意味「ゼロ」に変身しているとも言えるのか…、「二重生活もの」としては代表作と言ってもいいでしょう。 シリアスな戦闘場面と、能天気な学園生活のコントラストがこの作品を傑作にしているのは指摘するまでもありません。 この「けんぷファー」もまた、「男と女」の両方の立場で学園生活を送らざるを得ず、その合間にシリアスな戦闘と殺し合い、能天気な恋愛模様が交互に訪れます。 雫(しずく)の真の目的とは何か?「モデレーター」とは何者なのか?そもそも「けんぷファー」とは一体何なのか? 第2巻が終わっても全貌が明かされないどころか謎は益々深まっているのにこの面白さ! これはもうオススメするしかありませんね! 2008.10.04.Sat. |
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*追記* 近作は発売からかなり経ってのレビュー掲載となってしまいました。 力作・傑作であることは分かっていたのですが、それ故に中途半端に取り組むことを潔しとしなかった為に、去年の内に掲載する積もりだったものが今まで伸びてしまったのです。申し訳ございません。 そんな私をシアンさんが「とにかく面白いから是非レビューを掲載して欲しい!」と粘り強くメール等々で訴えて下さいました。 正直、直前に掲載した「ヴァリアブルウィッチ」の後3週間もお待たせすることになってしまったのですが、その間別の作品を「箸休め」に執筆することも考えましたが、何とかこの作品を優先しようと何度も読み返して取り組みました。 拙い文章ですが、シアンさんの熱心なススメが無ければぐうたらな私は到底完成させることは出来なかったと思います。 本当に有り難うございました。 |
真城 悠の個人的総合ランキング 1位「能瀬くんは大迷惑Jr.編」(レビューはこちら) 2位「続・革命の日」(レビューはこちら) 3位「僕と彼女の×××」(レビューはこちら) 4位「3レボリューション」(レビューはこちら) 5位「ローゼンクロイツ―仮面の貴婦人」(レビューはこちら) 6位「月の子」(レビューはこちら) 7位「放浪息子」 *ベスト1と2は不動ですが残りは大激戦状態!甲乙付けがたいです! |
マーケットプレイス無しで手に入るオススメ物件(^^。 05-03 「3レボリューション」(レビューはこちら) 10-05 「ナイトウィザード ヴァリアブルウィッチ 1巻」 (レビューはこちら) 01-07 「シュヴァリエ」(レビューはこちら) |