TS関係のオススメ本12-03


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真城 悠


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とぅ うぃっち せる!
(2009年・一色銀河・電撃文庫)
とぅ うぃっち せる! (電撃文庫)
とぅ うぃっち せる! (電撃文庫)

 TS作品はかなりの数を読んで来ている訳ですが、やっぱり評価が高くなるのは「新機軸」を打ち出している作品ですね。
 「かなり面白いらしい」という評判を聞いて注文して購入、読んでみたのですがなるほどこれは面白い。何しろ切り口が斬新なのです。

 問題ですが上記の表紙を見て「TS作品です」と言われてどんな展開を予想しますか?

 幼女みたいな女の子と、背後に寄り添う女子高生風の美少女コンビ。
 となると男女入れ替わりではなさそう。男女入れ替わりなら表紙には入れ替わる方の男も登場しているものですからね。
 ならば変身でもなさそう。憑依…とも思えないし、では何なのか?
 ヒントになりそうなのが開いて一枚目の口絵。


 表紙のちょっとだけ絵柄の違うバージョン。
 いいですねえこういう遊び心。

 まずは人間関係のご紹介。


 非の打ち所の無いクラスのマドンナの「黒瀬川さくら」といつもひっついているちんちくりんだけど金髪ハーフの「美鈴川エステル」。

 そこにからむのが主人公たち。というか主人公。


 ごく平凡な外見の「小林遼平」くんが主人公。他にもエステルの母親とかも出てきますが本筋にそれほど大きくからむわけではないので省略。

 誰からのアタックも受け付けない鉄壁の美少女「黒瀬川さくら」にあこがれる主人公の遼平とドスケベ(この作品ではひどいオタク)の悪友…というのはまあよく見る構図(ちなみに「登場人物」として重度のオタクが登場する物語というのはこの頃本当に増えてきましたが触れだすと脱線がひどくなるので省略)。

 もう一度構図を復習。

主人公:
小林遼平  →(好意)→  黒瀬川さくら

 &美鈴川エステル(おまけ)


 ここで何らかのTSトラブルが起こるとすると…最も考えられるのは遼平とさくらの入れ替わりでしょう。
 ではこの「美鈴川エステル」という少女はこの関係にどうからむのでしょうか?


極度の対人恐怖症で、ボールが転がってきただけでもオロオロあたふたしてしまうエステル。

 遼平の意中の人、黒瀬川さくらはいつもこの美鈴川エステルにぴったり張り付いていて付かず離れずなのです。それこそ保護者みたいに。

 …んんん?余り見たことの無い構図です。

 ここで展開をばらしてしまいますと、深夜の校舎にさくらとエステルがいるのを目ざとく見つけた遼平が後を追うと、そこでなんと異形の怪物「スライム」に襲撃され、死亡してしまいます。

 え?死亡?

 そうなんです。いきなり主人公が死んでしまうのです。
 いきなり主人公が死んでしまうお話といえば人気の「灼眼のシャナ」がありましたね。

灼眼のシャナ (電撃文庫)
灼眼のシャナ (電撃文庫) 高橋 弥七郎

おすすめ平均
stars買って失敗
stars萌えとかじゃなく普通に面白い
stars読めば読むほど面白くなる作品
stars良作
starsいとうのいぢのイラストはいいけど

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 そろそろお分かりかと思います。
 そして主人公は肉体的には死んでしまったので、その魂を「黒瀬川さくら」の身体に定着させたのですね。
 そう!正解は「精神同居もの」でした。

 「あこがれのあの子」になってしまうTS展開というのは非常においしいですね。
 何しろ男女のお話なので、相手の人格に深く入り込んでしまうことで思わぬ人間関係が暴きだされる…なんて展開も期待できそうです。

 ちなみにそうした展開で正に「人間関係の地獄」を見せてくれた作品といえば何と言っても

ふたりめの蘭子」(レビューはこちら

 でしょう。また、お互いの人間関係が入り乱れてどろどろする作品ということになると

パパとムスメの7日間」(レビューはこちら
オレの愛するアタシ」(レビューはこちら

 などの「入れ替わり」作品のお手の物です。

 ところが、
ここからが新しいんです。


 まず、この「美鈴川エステル」はそのまんまの意味で「魔法少女」です。
 変身してマスコットキャラを引きつれ、魔法のステッキを振りかざすタイプではなく、「魔術」を使う女の子なのですね。
 …ま、この辺はライトノベルなのでいいでしょう。

 では「黒瀬川さくら」は一体どういう関係なのでしょうか?

 なんと、彼女は
人間ではありません

 魔術が伝わる一家の血を引くエステルによって作り出された「使い魔」なのです。
 今でこそ人間の姿をしていますが、
元は拾われてきたネコでした。

 このくだりを読んだ時には私は「なるほど!」と膝を打ちましたね。
 つまり、「黒瀬川さくら」は
人間としての背景を全く持たない存在なのです。

 まず「あこがれのクラスのマドンナ」が実は人間ではない…という衝撃の事実暴露があり、かつ「精神同居」でありながら、相手の事情を(ほぼ)斟酌する必要が無いのです。
 これはかなり上手いアイデアです。


さくらの肉体(?)に押し込められた形になった遼平はそのまんま学園生活を送る羽目に…。
屈託無く机の下に落ちたものを拾おうとしてスカートをのぞかれそうになる場面…( ;´Д`)ハァハァ。

 「精神同居もの」というのはどうしても「元の肉体所有者」である女性人格と呉越同舟になってしまうので、その分窮屈になりがちなんです。

 例えば

悪徳なんかこわくない」(レビューはこちら

 では始終「女装(?)をしている」ことをからかわれたりしますし、妊娠すりゃしたで「この孕み女」なんて悪態を衝かれたりも。
 寂しくはないでしょうが、それにしてもこんな生活が一生続くと思うとノイローゼになりそうです。
 そうそう、精神同居ものの佳作といえば

ソウル・オブ・サラマンドラ」(レビューはこちら

 もありましたね。
 こうなると「女としてのプライベート」なんて味わいようがありません。何しろ自分の身体の裸すら自由に拝ませてもらえないんですから。
 正にプライベート…つまりはエゴのぶつかり合い。こりゃギスギスもしますよ。


 ところがこの「黒瀬川さくら」は言ってみれば「召使」として作られた人格ですので人間様に対して大きく出たりはまずしません。
 そして、「黒瀬川さくら」の家族に対して縁起をしたりする必要も無し。家族も何も実家すら無い(エステルの屋敷に住み込み)んですから。

 そうなんです。「精神同居もの」という体裁をとりながら、その
「社会性」をごっそりそぎ落としたギミックなんですよ。こうなるともう「変身」にすら近い。
 それでいて従順な女性人格を従えて(?)いるんですからある意味天国ではありませんか。


それでもお約束は抑えています。TS作品ではお馴染みの「目隠し入浴」場面ですよ!
精神同居から入れ替わりまで、TS作品で幅広く使われるシチュエーションです。
…しかし、このイラストだけ見るとかなり背徳的ですね。

 ところがこの「とぅ うぃっち せる!」の斬新なところはここだけに留まりません。

 実はこういう物語では当然「遼平」が主人公となりそうなんですが、実際には全編を通して「美鈴川エステル」の成長物語なんですね。
 つまり、実質的な主役はあの年齢不相応にチビの対人恐怖症少女、美鈴川エステルなんです。

 では主人公は?
 それはもう「サポート役」なんですよ。
 「黒瀬川さくら」となった彼は美鈴川邸でメイド衣装を着せられたりしながらも、結果的にエステルを影に日向に盛り立てて行くことになります。

 実際、遼平は主人公っぽく見えつつもキャラとしての奥行きはちょっと物足りないものがあります。
 平凡な男子生徒の一人でしかなかった彼が優等生女子である「黒瀬川さくら」を演じなくてはならないのに、特に苦労した様子も無く流暢に女言葉を使いこなしたりしています。
 何より、「突如行方不明になった」はずなのに彼の実家を含めた事情が殆(ほとん)ど描写されていません。
 一番の問題は、これら「大事件」を通しても彼の人格が影響を受けてなんらかの変化…或いは成長を遂げた形跡が無いこと。

 それも道理で、彼は紛れもなく「脇役」なんですよ。極論すればシャーロック・ホームズにおけるワトソン先生みたいなもの。そりゃ狂言回しに徹するでしょ。


ライバルの魔法少女と戦っている場面…なんですが何ともスウィートな世界ですな( *´∀`)…。

 遼平が死亡してしまったのは、魔法が未熟なエステルが迂闊(うかつ)に召還した形になったスライムに串刺しにされてしまったから。

 彼女たちにも「ライバル」がいて、「魔法少女」…この言い方は誤解を招くので、仮に「魔術少女」とでもしておきましょう…同士の抗争などもあったりします。

 その戦いの中で徐々に自分の中のトラウマを克服し、精神的にたくましくなっていくエステルの姿が描かれます。


 そして…遂にやってくるのですよ「ラスたち」が!
 「ラスたち」というのは業界用語で「ラストの立ち回り」のこと。
 最後の最後で大いに盛り上げてくれるのですよ!

 正にエンターテインメント作品の王道の構成!お見事です!
 ちなみにスタジオジブリの映画作品の多くは「前半で世界観になじませ」て、ラストに一気に盛り上げる構造にちゃんとなってます。
 面白いわけですよ。

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 学校において先日出現させてしまった「スライム」が今度は大量発生。
 学校中を飲み込む勢いで大繁殖。幸い、実体化の度合いがそれほど高くないらしく、串刺しにされたり溶かされて食べられた犠牲者こそいませんが、それでも関係者がのきなみ気を失っており、なお増殖中という大ピンチ。

 まだまだ未熟なエステルとさくら(遼平)はもちろんのこと、ライバルたちも総結集して戦いに挑みます!全部エステルが招いた事態なんじゃ…というツッコミは禁止。


学校の危機を救う為にみんな走れ!半透明で背後にいるように見えるのはさくらの人格のイメージね。

 いや〜やっぱり学園を舞台にした戦いっていいですねえ。
 個人的に学園舞台の変身ヒーローの戦いって言うと「ウイングマン」が印象に残っていたりします。

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 TSもので言うと近年の力作である

桜ish 1―推定魔法少女 」1巻・2巻(レビューはこちら

 の作者の「一 肇」さんは「暗黒青春もの」とでも言うべき作風が持ち味。
 同時に(必然的に)「セカイ系」なので学園が舞台になるったって、イメージの世界に巻き込まれて実際に死屍累々…とかえらいことになっちゃうんですが、流石にこの「とぅ うぃっち せる!」ではそんなことにはなりません。

 もちろん、同じ学園を舞台した戦いったって

けんぷファー@」(レビューはこちら

 みたいにハードボイルドかつハードコアでパンクな有様になることもありません。
 一応ライバルとして抗争めいたこともしていたキャラもみんな力を貸してくれますからね。つまり、「真の悪人」が誰もいないみたいな状態。

 「敵」の設定としては

魔法少年マジョーリアン」(レビューはこちら
ナイトウィザード ヴァリアブルウィッチ 1巻(レビューはこちら

 みたいに「特定の悪の勢力が使い魔を操ってくる」ものでもなし。
 一番似ているのが

10-06 「おと×まほ」(レビューはこちら

 の「自然発生する不特定多数」の敵、方式でしょうか。
一種の災害救助みたいなもんです。
 そういえば、いい意味での能天気さはおと×まほを思わせるものがあります。

 そしておと×まほ」と違うのは、主人公(ということにします)のエステルの人間的成長が描かれること。
 そしてこの魔法を駆使した校舎での大量のスライムとの戦いは大迫力!

 かなり読み応えがありますよ!


この場面は涙なしには読めません…(;´Д⊂…。

 シリーズものにはシリーズもののいいところもある訳ですが、単発ものには単発もののいいところもあります。
 それはいい意味でキャラクターを過酷な運命に突き落とすことが出来ること。

 危うい状態で現世に魂をしばりつけることに成功していた「遼平」は過酷な戦いの果てに自らを犠牲にせざるを得なくなります。

 なるほどこう展開するのか…と思わず納得。
 読み始めた時にはエキセントリックな言動に漫画ちっくな展開に入り込みにくかったのですが、キャラクターにも愛着が沸いてきたところで人間的成長を交えてのラストの立ち回り。
 そして抜群の読後感。哀しくも爽やかな幕切れ。

 いや、こりゃ面白いわ。全くライトノベル侮るべからずですな。正しくエンターテインメントの王道ですよ!
 個人的には全く新機軸を打ち出したTS趣向と、「脇役を主役に据える」形になった構造の斬新さと見事さに拍手!です。

 え?殆(ほとん)ど内容を書いちまってるじゃねーかって?
 大丈夫。
 誰もが予想できそうでできない、衝撃…笑撃(?)…の結末が待っていますから。

 このラストの衝撃ぶりは個人的には

ファイナルジェンダー―神々の翼に乗って(レビューはこちら

 や

キリサキ」(レビューはこちら

 に匹敵するかも?

 個人的にかなり好きなバランスです(^^。続編は…敢えて書かない方がいいんじゃないかなあと。
 確かにライバルとか魅力的過ぎる母親の設定とかあれだけ振っておいて勿体無い気もするけど、それを大胆に使い捨てるのがいいんじゃないかと。

 ともかくオススメ。是非どうぞ。

2009.05.17.Sun.
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本家:「真城の城」 http://kayochan.com


ブログ「真城の居間
http://white.ap.teacup.com/mashiroyuh/






真城 悠の個人的総合ランキング

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 7位「放浪息子」

*ベスト1と2は不動ですが残りは大激戦状態!甲乙付けがたいです!

 マーケットプレイス無しで手に入るオススメ物件(^^。

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10-05 「ナイトウィザード ヴァリアブルウィッチ 1巻
(レビューはこちら


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