TS関係のオススメ本12-04


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真城 悠


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けんぷファー 第3巻
(2007年・築地敏彦・メディアファクトリーMF文庫)
けんぷファー〈3〉 (MF文庫J)
けんぷファー〈3〉 (MF文庫J)

 2009年秋シーズンに遂にアニメ化を果たす人気ライトノベルシリーズ「けんぷファー」。
 実は当サイトが資金繰りに苦しんだ挙句に手を出したアフェリエイトでほぼ最初に広告を張らせてもらったのがこの「けんぷファー」の第1巻だったりします。いやあ、懐かしい。

 その後も何と「約3ヶ月に1冊」というハイペースで刊行され、既に10巻を突破している訳ですが、当サイトではなんとやっと3巻のレビュー。奥付を見てみるとなんと2007年3月発行!いやあ、お待たせしてしまった皆さん本当に申し訳ございません。

 そんなこんなで「けんぷファー」の第3巻です。
 いきなり3巻のレビューだけ読もうって方はそういらっしゃらないとは思うんですが、一応既刊のリンクを下に。


04-06
けんぷファー@」(レビューはこちら
11-09 「けんぷファー〈2〉(レビューはこちら


 発売当初はこの所本当に増えてきた「少年魔法少女もの」だとばかり思ってたんですが、必ずしもそうでもありませんでした。

 「少年魔法少女もの」というのは
「何らかの理由で男の子が『魔法少女』の役割を負わされる」ファンタジーもののことで、「変身理由」を強引ながら説明することが出来ますし、ある程度の不随意変身も許容範囲、何より「可逆」ものに付いて回る「どういう基準で変身したり戻ったりするのか」と「元に戻れないという恐怖感の希薄さ」が綺麗に払拭されるという素晴らしい形式です。

ナイトウィザード ヴァリアブルウィッチ 1巻 (マジキューコミックス)
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エンターブレイン 2007-10-25
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「少年魔法少女もの」ということになるともう数が多すぎて混乱気味なのですが、「一つだけ薦めるとしたら」これでしょう。
(レビューはこちら
「少年魔法少女もの」の醍醐味が殆(ほとん)ど全部詰まっています。性転換体質を持つ一族であるおじいさんのチャイナドレス美女姿は必見!第二巻(レビューはこちら)での主人公の普段着のロングスカートの可愛らしさを見よ!

 更には「ウルトラマン」に始まる「変身ヒーローもの」の醍醐味も併せ持つために、「正体を隠さなくてはならない」というお馴染みの展開まで盛り込めるという素晴らしさ。
 もっと言えば、「性転換」についてまわる「超人願望」をも満たす非常に優れた形式で、この所新たに構想されるTSものでは、かなりの割合でこの「少年魔法少女もの」の要素が取り入れられていると言っても過言ではないのです。

 ところが、この「けんぷファー」シリーズはかなりの変化球。

 主人公の「瀬能ナツル」は確かに不随意に性転換&女装はしてしまいますが、「悪を倒す」という訳では必ずしもありません。
 というか、前2巻においては「どうして自分たちがけんぷファーにされたのか?」という理由すら不明なままです。


折り込みイラスト。女装に恥らう瀬能ナツルさん(中身は男)。実際はかなりのビッグサイズ!

 「少年魔法少女もの」で「変身仲間」が「自分以外が全員女の子」の場合

10-06 おと×まほ(レビューはこちら

 と、「男の子の集団が全員性転換して少女姿で戦う」場合

10-01 「魔法少年マジョーリアン(レビューはこちら
10-02 「桜ish 1―推定魔法少女 」1巻・2巻(レビューはこちら

 で、醍醐味が違うんですが、この「けんぷファー」シリーズは「変身したもの同士」が戦わされるというシチュエーション。
 けんぷファー以外の「戦うべき存在」は登場しません。

 これは「仮面ライダー同士の戦い」がメインになっているみたいなものです。

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 ではこの巻の読みどころはどの辺なのでしょうか?

 実は「人間関係」とか「新たなる事実」という側面においてはほぼ進展無しなんです。

 次々に新しい魔法少女が登場する おと×まほ 2(レビューはこちら)シリーズとはちょっと違います。


本文が始まった瞬間にナツルの独白(モノローグ)で「書いてみな」と読者に指示される人物相関図。
非常に分かりやすくまとまってますね。ナツルと紅音が2つあるのがポイント。

 発売直後の帯(現在は「アニメ化!」一色です(*^^*)にもあるとおり、この巻の見所は「ミスコン」ですよ。

 本エピソードでもう基本設定の説明が済んでるので、ストーリーがサクサク進みます。

 ベルリンの壁のように隔てられている学園の男女部門の学園祭を同日に開催しようと画策する生徒会長の雫。


未だ「男女部門両方に通わされる」という二重生活を強いられているナツル。
この「同じ学園を男女部門に分ける」形式の優秀さはあめのちはれ 1(レビューはこちら)で書いた通り。
でもって、男女両方で学園祭の実行委員に選ばれるという嫌がらせみたいな展開に。

 全体通して構造はかなりシンプル。
 この3巻全体で学園祭と、そこに付随するミスコンのみに絞り込まれています。
 仮にアニメ化するとしたら、1話か、或いは前後編の2話がせいぜいでしょう。
 いや、別に悪いとかそういう話じゃなくて「この巻に関しては見所はストーリーではない」ということです。

 では何か?そりゃ「ディティール」ですよ!
 女子部に出入りするナツルが女の子にボディタッチ含む「過剰なスキンシップ」の犠牲になります。

 もう、慣れてきた感じですがこれはたまりませんね。

 学園祭においては『メイドのようなもの喫茶』も開催されるため、ナツルはミスコンとメイドのウェイトレスまでさせられる破目に…。


今回はイラストの入り方も絶妙な上にかなりの枚数!このポイントは高いですねえ。

 ちなみに雫とナツルの関係にも微妙な変化があり、そこに紅音がからんで更に複雑なことになっています。
 更に沙倉楓の百合具合がかなり偉いことになっていて、読者によってはドン引きかも?


服装が出場者の自主性に任されているミスコンにおいてなんと花嫁衣裳で登場する沙倉さん。
これで何を狙っているかは…読んでのお楽しみ。

 本筋には進展無しとは書いたんですが、結構伏線めいたものは撒いています。
 これまでも「意外な人物が実は魔法少女」みたいな展開は読んできましたが、こちらもそれがありそう。

 ミスコンでのすったもんだとかあれこれありますが、これに関しては詳しく書かないので本編をどうぞ。華麗なアクションとハプニングをエンターテインメントに仕上げる「バックステージもの」の醍醐味もあります。
 これは筆がノリノリですね。


ミスコン舞台上の見せ場。この露出度の低いメイド衣装にロングスカートがたまらんですねえ… ( *´∀`)…。

 今回の最大の見所は何と言ってもこの「メイドのようなもの喫茶」の一連の場面ですよ!

 いつもツルんでる男子部のアホどもが「綺麗な女ナツル」を見に来て騒いでいる場面もいいんですが、何と言っても外部のお客さんも来るイベントだけに「中学生の男の子」に接客する場面!!

 余りにも素晴らしいのでこの辺りを引用しましょう(改行・文字強調引用者)。

*******

「お待たせしました、ご主人様」
 テーブルにおしぼりとコップを置く。座っているのは、中学生らしき男の子だった。頭は坊主にしており、純朴そうな体育会系だ。

 職権を半分千切る。中学生は何も言わないが、俺の身体を食い入るように見つめていた。

 まあ、気になるよな。この服は肩がむき出しで、胸を強調するように絞り込んである。スカート部は非常に短く、背中ががばっと開いていた。脚はブーツではなくタイツにヒール。

(中略)

「お、お姉さん」
 中学生がたどたどしく言う。

(中略)

 女と話すのに慣れていないのか、顔が真っ赤だ。
(中略)
 彼はそれだけ言うと、そのまま店を飛び出して、走り去ってしまった。

 日ごろ同級生の女の子と話したことがないんだろう。俺もそうだったから気持ちは良く分かる。だが、今の心境は複雑。
こうして年下を騙していくのか

*******

 はい、お分かりですね。
 
学園三大美少女としてブイブイ言わせる破目になったナツルくんは、心ならずも「憧れのお姉さん」として振舞うことになってしまったんですねえ。


 ナツルは女装したりすることでアイデンティティが揺らぐタイプではないので動揺は少ないんですけど、これはかなり魅力的なシチュエーション!

 そんなこんなでこれからの展開も楽しみな「けんぷファー」シリーズ。
 こうした「1エピソード」めいた一冊にも見所がてんこ盛り!これは外れの無いシリーズですな!

2009.09.27.Sun.
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