TS関係のオススメ本12-05
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「アンシーズ―刀侠戦姫血風録」 (200年・宮沢 周・集英社スーパーダッシュ文庫) |
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第8回スーパーダッシュ小説新人賞・佳作受賞作にして見事なまでのTS作品。 そして、TS界隈ではお仲間が商業作品デビューを果たしたということでこれまた大いなる話題になっておりました。 実は申し訳ないんですが、私はこの宮沢さんについて余り存じておりませんでした…。 ですので、その辺のことは全く書けないので、とにかく内容について。 これがムチャクチャ面白いんですよ! それこそ内容を知りたくなくて、面白いTS作品が読みたい方はこんなところ読んでないですぐ買うべし!ですわ。 しかしまあ、そこで放り出したんではあんまりなので若干の解説おば。 |
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掴みはバッチリ!カラー口絵には物騒な道具を持っておりますな。 |
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のっけから「謎の美少女」に「お前、童貞か?」と声を掛けられる場面からスタート。 主人公は勿論、読者も完全に置いてけぼりなんですが、考える間も無く凄まじいバトルが目の前で展開。 この業界(?)では定番になりつつある物凄く口の悪い美少女に怒鳴り上げられながら突如回想シーンに突入。 転校生である主人公が校内を案内してもらい、パソコンなどが置いてある「情報処理教室」でまったりしている内に寝てしまい、気が付くともう放課後。周囲には誰もいない。 薄暗くなってきたので帰ろうか…と考えているところに突如扉を破って美少女がなだれ込んできて、そして冒頭のシーンにつながる…と。 これは凄い! まるで映画を見ているみたいな「映像的」な導入部。 ここまで最初の6ページくらいですよ! |
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高千穂遥氏はそれでも自分は活字世代だとおっしゃってます。 |
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「映像的」ってのは何も会話中心だとか、漫画・アニメの小説化ってことだけじゃなくて「見ている映像を活字にしているみたい」というか、センスが映像的ってことがあるんですねえ。 ある程度内容を割りますが、主人公の木之崎トモはここで戦闘に巻き込まれ、先ほどなだれ込んできた金髪碧眼の美少女ヒカルに導かれるまま「アンシーズ」として覚醒させられる破目になります。 ちょっとシチュエーションが違いますが、これは「突如襲撃された」少年がその場にあったロボットに乗り込む破目になるという「機動戦士ガンダム」で使われたお馴染みのパターンのTS版アレンジということが出来るでしょう。 |
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あ、面白さは私なんぞが書くまでもないので義務教育だと思って見ましょう。 |
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この形式はファンタジーの「異世界もの」でも基本的な狙いは同じです。 主人公が丸っきりの部外者なので、その登場人物にあれこれ説明することで、同時に読者に対する説明にもなっている訳です。 個人的にはロボットアニメが余りにも便利なのでこの形式ばかり使うのはどうかと思っておりますが、優れているのは確か。 ちなみに「聖戦士ダンバイン」ではこの要素が両方使われています。 つまり「主人公がいきなりロボットに乗せられる」「主人公が突如異世界に召還される」ですね。 |
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この「アンシーズ」はTSジャンルの中でも「変身もの」に属します。 ただ、ここでいう「変身」は「変身・入れ替わり・憑依」という分類ではなくて、単独の「変身ヒーロー型変身」とでも言うべきものですね。 一応提唱しておきます。 何しろこの頃は「少年魔法少女もの」というジャンルがあり、しかもそれが「悪を倒す」タイプ 01-07 「シュヴァリエ」(レビューはこちら) 10-01 「魔法少年マジョーリアン」(レビューはこちら) 10-02 「桜ish 1―推定魔法少女 」1巻・2巻(レビューはこちら) 10-05 「ナイトウィザード ヴァリアブルウィッチ 1巻」(レビューはこちら) 10-06 「おと×まほ」(レビューはこちら) 11-07 「ブロッケンブラッド」(レビューはこちら) と、「お互いに戦う」タイプに細分化したので、これも区別しなくてはならないからです。 04-06 「けんぷファー@」(レビューはこちら) そして「アンシーズ」は「お互いに戦う」タイプに属します。 しかもある程度の組織をバックに行われるものなので、導き手に解説されなければなりません これは古風な「朝起きたら」タイプとは大分違います。 この仕組みをどうやって説明するかというのはアクション演出の腕の見せ所なんですね。 |
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個人的にベスト1映画である「ターミネーター」においては、シュワルツェネガー演じるターミネーターがショットガンをぶっ放し、店を破壊し、車を暴走させてえらいことになりながらひたすら追いかけてくるその真っ最中にカイル・リースがサラ・コナーに「あいつはターミネーターで」みたいなことを解説する場面があります。 見ている側は、シラフでこんなこと言われても「はぁ?」と言う感じでしょうが、大カーチェイスの真っ最中なので「いいから前見て運転して!」と思いつつひたすら聞くしかありません。 全くお見事なもの。 それで設定が頭に入らざるを得ない訳です。 これと同じことが「アンシーズ」では行われている訳ですね。 突如無人の教室になだれこんできた謎の美少女、彼女が行っているらしい謎の戦闘に巻き込まれ、あたふたしながらその構図を畳み掛ける様に説明される! その間にもガラスが砕け散り、粉塵が舞い上がる!! 全くもってお見事! しかも、最初の変身が「抜刀!」と発音しながら剣を抜くアクションというのですからこりゃ燃えるでしょ! 全く憎らしいほどツボを押さえてくれますよ! 銃器もいいんですが、やっぱり「剣」というのは独特の爽快感がありますからね! |
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この騒動の最中(さなか)、遂に主人公は最初の変身を果たすのですが、当然余りにも突飛な出来事に事態を正確に把握できません。 鏡も無い状況で自分の姿を確認することも困難。 身体感覚が変わったことも分かるし、声の様子がおかしいので盛んにセキをする…。 読者には大体何が起こったのかは予想が付くんですが、本人にだけは分からない…。 この「一番最初に自分が“変身”してしまったことを自覚する」場面というのは大変難しく、逆に作家の腕の見せ所でもあります。 これは「朝起きたら」パターンの作品ですが、 06-06 「僕を殺した女」(レビューはこちら) などはかなり頑張って正面から受け止め、延々2ページを使って描写しました。 また、 03-01 「神変武闘女賊伝」(レビューはこちら) みたいにその場面そのものをスキップしてしまう(書かないことで逆に想像させる)などの手もあります。 ここの処理を間違うと興ざめなのですが、今作に於いては「生命の危機の場面なので、自分が性転換&女装していることにこだわってる場合じゃない」という処理で乗り切ったわけです。いや、乗り切ったというか実際にはこの場面ではまだ自覚症状は足らないんですがね。 実に説得力のある論理で、私もいつかは使おうと思っていた…というと負け惜しみみたいになってしまいますが、とにかく素晴らしいです。 |
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そして恐ろしい事実が明らかに。 「抜刀」というのはズバリ「男性自身」を変形(?)させる形で武器として使うことだったんですね。 だから、「変身」に伴って性転換してしまう…というわけ。 いや、男性自身を外しただけじゃあ去勢された男性になるだけで女性になるわけではないんじゃあ…とかいうのは禁止! これまで数多くの「変身」設定を見てきましたが、こんなユニークな方法論は初めて見ました。 |
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カラー口絵に収録されている最初の情報処理教室での大立ち回り ちなみにこの衣装にも「製作者」がいたりします。ちょっと「カードキャプターさくら」に似てる? |
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しかも、この変身の方法論だと当然「リスク」があります。 戦いの途中でこの「武器」が破損したりしてしまうと、それは「男性自身の喪失」になってしまうので、男性に戻れなくなる…つまり、そのまま女になってしまうということを意味するのです! この「リスク」の設定の仕方ってのは実は「可逆」ものにおいては非常に難しいところです。 実はこれまで紹介してきた「少年魔法少女もの」も実はリスクはあることはありました。 10-02 「桜ish 1―推定魔法少女 」1巻・2巻(レビューはこちら) 10-06 「おと×まほ」(レビューはこちら) なんかは一応「契約を破ると女の子になって戻れない」とかなんですが、正直読者もそんなの忘れてるんじゃないか状態(爆)。 一応随意変身は出来るみたいなんですが、「戦闘」行為そのものがここまでハイリスクというのも凄いです。 元々「同属同士が戦う」物語というのは「バトル・ロワイヤル」を出すまでも無く後味が悪くなりがち。 |
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実際「けんぷファー」は同属同士の戦いなので、かなり雰囲気が殺伐としています。これはこれで味わい深いもんですが。 というか、私が見るところでは「少年魔法少女もの」で同属同士が戦うのは「けんぷファー」が初めてだと思います。 それまでは「共闘」路線が多かったですからね。 皆さんお気づきでしょうか? そう、この「アンシーズ」は少女に性転換後の少年同士が戦うという路線においての初めての作品なのです! 何しろある程度状況を把握し始めた状態で、「男子校のはずなのにわらわら出て来る女の子たち」を訝しがり始め、「もしかして…この女の子たちって全員男なんじゃあ…」と思い至るあたりは正に絶品です。 というか、これは「集団性転換」ものなんでは?パニックでこそないけど。 いやあ、これだけでもムチャクチャ嬉しい!! 不条理短編でもない限り「集団性転換もの」なんてそう無いんですよ。 |
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これを超える規模はちょっと無いでしょう。ちなみに「パニック」にはなってません。何故「集団性転換」が起こっているのにパニックになっていないのか?それは読んでのお楽しみ。(レビューはこちら) |
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「男の子同士が集団で性転換する」物語の醍醐味が味わえる作品ということでいうと、 10-02 「桜ish 1―推定魔法少女 」1巻・2巻(レビューはこちら) があります。詳しくは上記リンクからどうぞ。 そして、このジャンル(?)の決定版といえば 12-01 「あめのちはれ 1」(レビューはこちら) ということになるでしょう。 詳しくは上記リンクを読んでもらうとして、「自分ひとりだけ」が性転換するタイプのTSものとはかなり味わいが違うものです。 問題は、彼らが一体何のために戦っているのか?ということなんですが、どうやらこの男子校のみに存在する特殊な陣取り合戦みたいな抗争がある模様。 いやあ…これで命とか男が掛かってなかったら是非とも参加させてもらいたい楽しい学校ですね。 脱線続きますが、性転換現象が起こったことを他人が“必然的に”知っている形式となりますと、そこにはそれを軸にした「人間関係」が発生します。 これがまた面白いわけですよ。 「入れ替わりもの」ですと、多くの場合は入れ替わった2人以外はそれを知らないので、周囲の誤解に負けず…とか、或いはどうやってそれをごまかしきるか…といったところが読みどころになります。 |
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女性化した男性を、その変身トリガーを握る…要するに状況を俯瞰(ふかん)して楽しんでいる作品となりますと、決定版はこれでしょう。 12-02 「トランス・ヴィーナス (1)」(レビューはこちら) ところが、この「アンシーズ」では全員が「お互い様」なわけです。 お互いに敵味方に分かれて戦う男同士が、戦場では女同士…という凄まじい状況。 しかも、これはスポーツの試合でもなんでもないので、お互いに手段を選ばず、相手の家族を人質にするくらいのことは平気で行います。 それでいて、「相手を倒す」ことで齎(もたら)される結果は、「倒された男は女になってその後一生戻れず、女として一生を過ごす」なのですから…。 |
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感覚として近いのは日常的に女装することになる「男性のみで構成されたバレエ団」とかなのかなあと思ったり。 |
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この設定だけでもう100点満点なのですが、読んでいただくとお分かりになるんですが、全体に流れる雰囲気というかセンスというか…が明らかに「こっち側」の方なんですよ(^^。 これはもう「フィーリング」としか言い様が無い。 読んでいて近いのは 02-02 「まるでシンデレラボーイ」(レビューはこちら) でしょう。 もうこっち系の趣向(この作品は女装!女装!ひたすら女装!しかも健全!)が好きで好きでたまらないという意気込みがページから飛び出してきそうな感じというか。 単なる「物語を転がす為の道具」とか「きっかけ」みたいな感じで女装や性転換を使う作品も少なくないのですが、そういうものとは一線を画しています。 もう、お互いの関係の描写とかのねっとり具合ってのはもおたまりません。 これは好きな人にはたまらないでしょうが、一般(?)の読者様にどう映るのかは少し心配なところ。 ただ、「第8回スーパーダッシュ小説新人賞」佳作入選という『実績』はその辺りの心配を吹き飛ばすには充分なものがあるでしょう。 正直もう、設定を説明するだけでたまらんものがあるんですが、この他にもTSファンのツボを突きまくる展開がつるべ打ちですよ。 「刀」を「折られた」アンシーがその後一体どうなるのか?これもちゃんと決まっています。 主人公の木之崎トモくんは最初の戦闘でそんな仕組みなんぞ知らずに一人「折って」しまっているわけですが、その「犠牲者」もちゃんと登場。『彼女』の行状と、それにまつわる設定も明かされます。 何しろ「折れた」アンシーがその後どうなるのかは戦っている彼らも全く知らないというんですからこれまた凄い話。 女の子になっちゃった後はいつの間にか人知れず行方不明に…どこで何してるんでしょうか。 更に恐ろしいことに、この世界…というか、この恐ろしい(?)男子校…には「変身して性転換すると超人化」する男子生徒がゴロゴロしていて、日々命と性別を賭けた抗争を繰り広げているわけです。 ですから、中には凶暴な性格の暴れん坊などもいたりする訳です。 ま、そりゃそうでしょう。 「縄張り争い」なんて、いかにも不良高校生…ヤンキー同士の抗争みたいじゃないですか。 戦う際に性転換して女装するところだけがその違いと言ってもいい。えらい違いですが。 だから中にはいるんですよ。 他人の刀を折りまくる…つまり、見境無く男子高生を女子に性転換させまくるのが趣味という男が。 |
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この凶悪な面構えと幼いながらもメリハリの美しいプロポーションに古風なセーラー服。 そして腰を超えてお尻まである長い髪…。 変身後の姿は肉体的にはランダム(無作為)みたいですが、服装は任意(のはず)。なんて楽しそうな制度なんだ…。 |
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彼女の正体については書きませんので、本編をお楽しみに。 それにしてもこの趣向を思いついた段階で勝ちでしょう。辻斬りならぬ辻性転換。なんという恐ろしい設定…。 そして、主人公の「刀」はどの様な相手の「刀」であっても一撃でへし折ってしまう強力無比なものなんですが、実はこれすらも「最強」とは到底言えない代物でしかないことが分かってきます。 それぞれの能力には個性があり、不死身だったり(!!)、相手の力を吸収してしまうタイプなどいろいろある訳です。 ぶっちゃけどれも一撃必殺クラス。 これはあれですね、山田風太郎の忍法帳シリーズみたいな感じです。 |
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…とまあ、こんな具合に次から次へと設定が小出しにされ、そして上書きされていきます。 その都度それまで思い込んでいた認識が覆され…いやあ、これは凄い。凄いですわ。 ぶっちゃけここまで書いた内容も全体の3分の1くらいです。 これから後にまだまだどんでん返しあり、ラストの大戦闘ありですよ。 実は本作には純粋な女性は…ほぼ登場しません。 主人公の変身後、そしてメインヒロイン役にそのライバルも全員元男性だったり、…それでいて肉体的にも精神的にも「女性」には事欠かないという何とも素晴らしい舞台立て。 |
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何と言っても素晴らしいのは、「バトルもの」で置き去りにされがちな「人を傷つけるということ」に主人公が自覚的にならざるを得ない展開になっていること。 アニメなんかの魔法戦闘では気軽に火の玉とかビームとか飛ばしすぎですよ! 当たれば人が傷つき、大怪我し、下手すりゃ死んじゃうことなんかいちいち考えてられないですからね。 何しろ襲い掛かられて、反撃して相手を叩き切っちゃうと女の子にしちゃうことになるのでロクに反撃も出来ず、やるからには覚悟しなくてはならない…と。 これ以上はネタバレにならずに解説は不可能(^^。 いやあ、面白かった! まるで映画を観るようですよ。 そしてその一級のエンターテインメントの中核をなすアイデアがTS!これはもう読むしかないでしょう! というか、ファンが買い支えないと嘘です!私も買いました! 黒耀の正体とか、まだ明らかになってないことも多いし、これは続編もあるかも? 私は小説読むのは遅い方ではないのですが、余りの密度と分厚さにかなり時間が掛かりました。続編が出版される前、今のうちに押さえるのが吉! もう迷うまでもないですね(^∀^)ノ! 2009.10.03.Sat. |
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