TS関係のオススメ本12-06
*アップロードする際に在庫を確認してから行ってはいますが、なにぶん古い本が多い為、時間が経過することで在庫切れになる場合もございますのでご了承下さい。 真城 悠 |
「ボクサー」 (2010年・吉村達也・角川ホラー文庫) |
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ボクサー (角川ホラー文庫) |
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大変お待たせしてしまいました。新しいレビューをお届けします。 さて、今回選んだのは「ホラー文庫」の「ボクサー」です。 正直、この頃は漫画にしてもライトノベルにしても女装だTSだ入れ替わりだと花盛りで、インターネット黎明期みたいに目の色を変えて情報を収集しなくても該当作は巷に溢れかえっている印象です。 物心ついた頃からこのジャンルのファンだった人間としては、嬉しいことは嬉しいのですけど、この頃の作品はどうも「屈託が無さ過ぎる」のが若干隔靴掻痒の感がございます。 TS(性転換)とか、(強制)女装とか入れ替わりとか変身とかってのはもっと「後ろめたい」ものだったんですね。 いや、「昔は良かった」式の話をしたいんじゃなくて、「作品そのもの」が持つ構造の話です。 この頃は「男の娘(おとこのこ)」と呼ばれるジャンルも台頭して来ている模様。 これは何なのかというと、要するに普段から女性的で女装しているんだけど、余りに可愛らしい男の子を指すみたいです。 |
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個人的には「嫌がっている男を無理やり女装させたり性転換させたりするのが楽しいんじゃないか」と思っているので(ひどい)このジャンルにはそれほど心惹かれません。 というか、意識が女の子で見た目が女の子ならそりゃ女の子だろとしか言えません。 私がニューハーフさんとかにそれほど興味が無いのは、女性が女装したり女言葉使ったりするのは別におかしくもなんとも無いとしか思えないから。 基本的に私がTSに求めるのは「痛し痒し」の感覚。 女の身体になってしまうなんて嫌だ!嫌だけども…ちょっといいかも…みたいなのがポイント。 たまにはもう少し刺激が強いのがあってもいいけど、基本はこの感じ。 だから個人的に「求める路線」となると「うる星やつら」みたいな不条理ギャグ路線ということになります。 07-06 「幸福押し売り! ピントはずれの青い鳥!!」 (レビューはこちら) 07-07 「原生動物の逆襲!プールサイドは大騒ぎ」 (レビューはこちら) 07-08 「愛と闘魂!グローブVSパンツの決闘!!」 (レビューはこちら) 「性転換萌え」みたいな用語も私は思わず使ってしまうのですが、基本は「恐怖」と紙一重の背筋が寒くなる一歩手前くらいがいいんですね。 では、今回の「ボクサー」の「帯」を見てみましょう。 |
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amazonの画像では帯が掛かっていないのでこの迫力は伝わりにくいのですが、もう完全にホラー路線満開。 真っ黒な帯に血糊を連想させる真っ赤なフォント。 それでいて「たすけてくれ! 身体が女になっていく…」ですよ! これですよ!正にこれが読みたかったTSストーリー! 元々私は「人体変形」とか「怪物化」とかに非常に弱いんです。もうあちこちで書いているのですけども。 だから、アニメ映画「AKIRA」のラストの鉄男の変形シーンとか見てられない。 |
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人体変形とかのパニックものとか、ホラージャンルではそれなりにあるみたいで私でも知っている作品が幾つかあります。 間違って見ちゃったものとかあるけど本当に気持ち悪くて恐ろしいです。 ですが、そこにどうしようもなく心惹かれるというのもまた人間の心理なんですね。 |
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そこに持ってきて「女になる」ってのがポイント。 読者の皆さんの中には「いや、死んじゃうとか怪物になるとかならともかく、女になるなんてある意味いいんじゃ…」と思った方もいるかも知れません。 ぶっちゃけた話性別関係の話は欲望・欲求の話に直結しますから、直情的に煩悩方面を発散することを考える方もいるでしょう。 これが正に「痛し痒し」で、恐怖なんだか快楽なんだか分からない絶妙なところを衝くのがTSホラーなんです。 かつて紹介したことがある作品としては 09-01 「震える血」(レビューはこちら) がありました。 |
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こちらも傑作なので詳細が知りたい方はレビューをお読みになっていただきたいのですが、今回の「ボクサー」の裏表紙のストーリー紹介を見てみましょう。 |
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こ、これは凄い!です。 私はWeb上で情報を得て通信販売で購入したので予(あらかじ)めストーリーは知っていたのですが、こんなの本屋さんの店頭で見つけたら間違いなく心臓バクバクもんですよ! 文庫本で小説ですから、表紙以外のビジュアルは一切無し。かなりストイックなTSものですが、間違い無くオススメ。 もう少し紹介しますけど、この時点で読みたいと思ったかたは間違いないので是非どうぞ。 * * * 今回の主役は芹沢哲(せりざわ・てつ)という世界チャンピオンのプロボクサー。 八度の防衛に成功したチャンピオンです。 TSものの演出ポイントとしては、「性転換被害に遭う人間」の造形も大事。 それこそ「男らしい」男というのは「ギャップ」が存分に味わえますのでとてもいい選択。 ましてやボクシングの世界チャンピオンですからね。 ご存知の通りボクシングは厳密に体重で区分けされておりますのでその肉体はギリギリまで絞り込んだ精悍な筋肉質です。 それでいて、裏表紙とかでは「男らしい」としか書いていないのですが、彼は極端な女好き。好色男なんですな。 妻帯者で子供もいる身でありながら、浮気はし放題。愛人も多数。 世界戦の夜にはハーレム状態で酒池肉林というそういうタイプの「男」なんですわ。 かつて、ひげもじゃのおっさんが美少女にされてしまう「神変武闘女賊伝」を紹介したことがありましたが、ある意味それ以上のギャップ。 |
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03-01 「神変武闘女賊伝」(レビューはこちら) |
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ちなみに、ジャンルでいうと「変身」に相当するといえるでしょうけど、ならばまるきり非現実的なファンタジーかSFなのか?と思いきや、この小説の中で使われているのはなんと「実在する」性転換現象なんですね。 それなら「半陰陽」なの?と思うでしょ。 |
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個人的なオールタイムベスト第2位!amazonカスタマーレビューが軒並み好評なのが結構驚き。超オススメなので未読の方は是非どうぞ! |
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ところがこれが「半陰陽」じゃないんですね。 |
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05-08 「問題ないねヒデユキ君」(レビューはこちら) 代表的で典型的な「半陰陽」作品がこちら。一応主人公は性転換しますけど、基本的に物凄く真面目でシリアスな漫画です。「男の娘」的なノリは期待しないこと。というか、そういう不埒なことを考えているとバチが当たりそう…orz…。 |
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では、何か?というと、簡単に言うと「ホルモンの分泌異常」です。 これは私も知らなかったのですが実際にそういう症状は存在するらしいです。 「ホルモンの分泌異常」と言ったって多少体調が悪くなるとかその程度だと思うでしょ? ところがさにあらず。 世の中にはこの症状が非常に「極端」に出る人間が存在するらしいのです。 人間の身体の中では男女どちらであろうとも両方のホルモンが生成されているということはご存知ですね。 ところが何らかの原因で片方を生成する能力が止まってしまうという現象が起こるのだそうです。 よく知られているのは「宦官(かんがん)」です。 |
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女性ばかりの宮廷で奉仕する男性で、「間違い」が起こらない様に男性器を切除された役人がその成り立ちですが、男性ホルモンが少なくなるので、最終的には見た目が完全に「おばあちゃん」になっていくそうです。 なるほど、とは思いますけど萌えないでしょこんなの? まあ、「ホルモンの分泌異常」ったってこの程度だと思うでしょ? というか、「普通の人」はこの程度なんです。 ところが、ごくまれに「異常に男性ホルモンが大量に出ている」タイプの人がいますよね? それこそ、この芹沢哲こそ正にそういう存在なんです。 彼らは「男性ホルモンが大量に出る」と同時に「女性ホルモン」も大量に作られていて、それを押さえ込む能力も非常に強い訳です。 この状態で「男性ホルモンを作る能力だけが喪失」したらどうなると思います? なんと、流石に「一晩で」とまでは言いませんが、数ヶ月もあればほぼ完全に女性化するそうです。 |
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主人公はプロボクサーです。 八連続防衛中の世界チャンピオンとはいえ、全く打たれない訳ではありません。 ボクシングでお馴染みの「肝臓打ち(レバー・ブロウ)」を受け続ける内に、徐々に肝臓へのダメージが蓄積していくことになる訳です。 物語の冒頭において主人公は、「この頃どうも体調がイマイチ」ということを訴えます。 はい、もうお分かりですね。 これは、主人公の身体が徐々に女性化して行っている影響なんですね。 この「プロボクサー」という設定は実に「絶妙」でした。 元々その存在自体が非常にドラマティックで映画の主題なんかには非常に向いています。私も「ロッキー」大好きですよ。 |
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実はここだけの話、読み始めた時にはその「ト書きを読んでいるかの様な」余りにも説明口調な台詞やら、くどくど状況を噛んで含めるように状況を説明する地の文やらにかなり驚いてしまいました。 しかし、それも最初の内だけ。すぐに慣れましょう。 因縁ある対戦相手とのタイトルマッチを前にしていざリングに立つまでのごく短い時間に、それまでの「人生」を回想形式で挿入していくスタイルをとっています。 これは実に上手い手法です。 読んだ感じは「スラムダンク」をはじめとした井上雄彦さんの漫画に近いです。 井上先生はかなり意図的に「回想」を入れるタイプです。「リアル」とかもあのパートがあるからよりぐっと来る訳で。 |
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単なるケンカが強いだけのチンピラだった主人公が、妻の弟をプロボクサーとして導く場面など、劇中の中では十数年の年月が経過することになりますので、「因縁のタイトルマッチ」を時間軸の中心に据えて回想形式で彼らの人生を振り返るというのは実に理に適った形式です。 もしもこれを時間軸どおりに前から描いていたのでは非常にかったるいものになったことでしょう。 傲慢不遜で男性性そのものみたいな主人公のキャラを最初に印象付けて、その背景を回想形式で振り返り、そしてタイトルマッチ!お見事! |
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主人公を取り巻く人間関係はそれこそ「本編をどうぞ」というところなのですが、読者の皆さんに押さえておいて欲しいのは、主人公の芹沢哲が妻帯者で子供もいるということ。対戦相手が妻の弟であり、今は仲たがいしているもののボクシングの世界に導いた「可愛い愛弟子」も同然の存在であるということです。 ところが、ここに来て芹沢の体調は正に最悪の状態に。 女性ホルモンの影響が徐々に強くなり始め、すでに性的な衝動すら薄くなってき始めます。 それでも試合に臨むしかない哲。 身体の女性化は徐々に見た目にもはっきり影響が出始めています。 そして…試合中にトンでもないことが起こるのです! なんと…試合中に胸にパンチを食らった哲は、乳首から母乳を噴出させてしまいます。 正に感想としてはこんなんです。 |
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も、ここだけ聞くとギャグなんだか何なんだか分からないシュールとしか言い様が無い凄まじい場面です。 ボクシングの試合中ですから、対戦相手は打たれて傷が開き、血まみれになっています。 そして、真紅の血液と白い母乳まみれになった対戦相手…。 その後主人公はそのまま試合放棄して失踪してしまいます(そりゃな。 そして、ここからがこの小説の読みどころ。 正に「女性化によるデメリット」の波状攻撃が始まる訳です。 |
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02-09 「キックアウト・ラヴァーズ」(レビューはこちら) 「女性化によるデメリット」をリアルに描いたことで有名な作品。 |
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冷静に考えてみていただきたいのですが、子持ちの妻帯者がある日突然女性化したらどうなると思います? 上記に紹介している「キックアウト・ラヴァーズ」などは、根無し草の学生崩れみたいなの(ひどい)ですから、女性化して確かに困りはするけども、そのスケールはあくまでもプライベートなものです。 妻帯者の男性がTSの被害者になる作品というのは「入れ替わりもの」にはままあります。 |
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02-06 「パパとムスメの7日間」(レビューはこちら) 小説も傑作ですが、テレビドラマも愛すべき佳作に仕上がってるのでオススメ
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