TSシリーズ 2
「クイズ」
「はい!いよいよ準決勝であります。ここまで勝ち抜いてきた十人の選手には新たな難関が待ち構えております」
「はい」
「いや〜それにしてもみなさんタフですね」
「そうですねえ」
「それではここまでの展開をVTRで振り返ってみましょう」
「はい」
「・・・ いやー、凄いですねえ泥の中の死闘」
「とてもクイズ番組には見えません」
「いやはや全く」
「・・・ これは二次予選の早食い競走ですね」
「これも数多くの伝説を作りました」
「次は五次予選の我慢大会です」
「いや〜、何だかもう人権無視も甚だしいですね(笑)」
「流石は“クイズ界のトライアスロン番組”というだけのことはありますね」
「はい!ここまで見てきましたが、実はですねえ」
「な、なんか嬉しそうですね」
「いや、別に嬉しいってわけじゃないんですが!この準決勝も凄いですよ!」
「なんか会場から歓声が上がってますね」
「全く、他人の不幸は蜜の味ってやつですかねえ本当に。とにかく!準決勝なんですけど、今までのクイズは割と肉体を酷使するものが多かったですよね?」
「そうですね」
「この準決勝は今までとちょっと趣が違います」
「と、いいますと?」
「肉体を酷使はしないんですが、感覚を鋭敏にして、自分の身体になされた“あること”を当てて頂きたい」
「・・ひょっとして予選でもあった“背文字”とかですか?」
「ちょっと近いですけど、しかしねえ貴女、準決勝まで来て“背文字”は無いでしょう」
「(笑)そう言われればそうですね」
「準備できましたか?はい!それでは行きます!準決勝『TSクイズ〜〜〜〜!!』」
「『TSクイズ』?」
「はい。これからですね。ずらり並んだ選手
の後ろに設置されたTSに、目隠しをして入
って頂きます」
「はい」
「そしてですね、一斉にTSを発動させますので、合図のベルが鳴ったら、TSから出た所にあるボタンを押して、“今自分が何の格好をしているのか”を答えて下さい。早押しです」
「なるほど」
「え〜、例えばですね。例を挙げますと、今の私ですと、ボタンを押して」
「押して」
「『スーツです』とか『背広です』とか言えばいいんですよ」
「なるほど」
「一見簡単そうですけれども、目隠しをした状態ですからねえ、結構難しいかもしれませんよ」
「そうですねえ」
「だからこう・・・ 身体を動かしたりさわったりして、一刻も早く自分がどんな格好をしているのか答えて下さい」
「はい」
「結構マニアックな問題もありますんで、間違えた場合は次から次へと解答権が移っていきます」
「はい解りました」
「さあ、今はみんなトーナメント仕様のフォーマルスーツを着てますけども、これからどんなことになるんでしょうか!」
「はい」
「それでは選手の皆さんはTSに入ってください」
「・・・ さあ、選手の皆さんが位置に着きました」
「着装終了しますと同時にカバーが透明化して、選手の皆さんの艶姿を拝むことが出来ます」
「なんかもうさらし者ですね(笑)」
「それはもうこのクイズに参加した時から解ってたことですね(笑)」
「おっと!カバーがなされまして選手の皆さんの姿が隠れました!」
「さあ、それでは行ってみましょう!皆さんご一緒に!『クイズで!すぽ〜ん!』」
「さあ、カウントダウンだ!『3、2、1』シールド開いた!」
「(笑)きゃあ〜(笑)」
「さあ!全員が目隠しのまま全身をまさぐっている!両足をすりすりこすり合わせているぞ!おっと六番と二番が出て来た!はい!答えは?!」
『セーラー服!』
「せいかいー!はい、正解です」
「は〜い。びっくりしましたねえ(笑)」
「はい、みなさんどうぞ。目隠しとっていいですよ」
「はい」
「皆さん落ち着きませんねえ(笑)」
「はい。もう下着まで女性のものになってますから」
「ええ〜!?そうなんですかあ?」
「そりゃそうですよ!それもヒントの内ですから」
「あ。なるほど〜」
「七番の解答者の方紅一点ですのでこういう問題ではちょっと有利かもしれません」
「しかし・・・ 皆さん綺麗ですねえ(笑)髪も長くなってますし」
「ええ。しかも今回は新開発の体系パッドを採用してますから、体型としては女性と変わりません」
「凄い技術ですねえ」
「はい!では二問目行ってみましょう!『クイズで!すぽ〜ん!』」
『3、2、1』
「さあ!シールド開きました!」
「これは難しいか!全員が必死に身体に触っている!おっと!一番が出た!」
『看護婦さんの白衣!』
「はいせいかい〜!。お見事です!」
「は〜い」
「はい。さあ、目隠しとって下さい。ちょっと皆さん時間がかかって難しかったと思うんですけど、何が決めてになりました?」
『あのー、この帽子。ナースキャップです』
「そうか!そうですね」
「はい」
「ナースキャップ以外にはこれといった特徴が無いですからね。難しかったと思います。さあ!それでは三問目行ってみましょう「クイズで〜すぽ〜ん!」」
『3、2、1』
「おお〜っと!会場から悲鳴が上がったぞ!(笑)」
「はい八番押した!答えは?」
『バニーガール!』
「はい正解です!では目隠しとって下さい」
「いや〜、なんか異様な光景ですね(笑)」
「この番組らしくなってきました(笑)。ではここでちょっとコマーシャル行きましょう
か」
「はい!今準決勝TSクイズの三問目まで終わった所ですけども、いやあ、やっぱり異様な光景ですねえ。紅一点の七番の七瀬さん」
『はい』
「気分はいかがですか?」
『え〜、恥ずかしいです(泣)』
「周りの人はそれどころじゃないと思うんですけど(笑)」
『でも・・・ 』
「おおーっと、今カメラが後ろから回り込んでいますけど、なかなか艶めかしい光景ですねえ〜(笑)」
「ここからテレビ付けた人は何の番組なのかと思っちゃいますね(笑)」
「これまで着たことの無い服をいきなり着せられて当てようってんですから、かなりの想像力と推理力が要求されますこのクイズ!さあ!気を取り直して四問目行きましょうか!「クイズで!すぽ〜ん!」」
『3、2、1』
「さあ!まさぐりタイムが始まったあ(笑)!今度は五番だあ!さあ何でしょう!」
『え、え〜と、チャイナドレス!』
「はい正解〜!」
「五問目はチャイナドレスでした〜」
「さあ、目隠し取ってもらいましょう。そろそろ皆さん慣れて来た感じですかね」
「そうですね」
「さっきからブラジャーつけっ放しですからね(笑)」
「そうですね(笑)。ひょっとして女装ばっかりなんですか?」
「そりゃそうですよ(笑)しかしまあ、大胆なスリットですねえ」
「今カメラが回り込んでます(笑)」
「五番の方、今の気分はどうですか(笑)」
『脚が寒いです(笑)』
「ですよねえ。さあ、だんだん難しくなってきますよ!第五問!「クイズで!すぽ〜ん!」」
『3、2、1』
「さあ!ゲート開いた!おっと!今度は難しいのか!?なかなかボタンを押す解答者がいない!」
「難しいんでしょうか」
「おおっと!遂に七番の七瀬さんが出てきたあ!はいどうぞ!」
『スチュワーデス!』
「はい正解〜!」
「遂に正解でーす」
「よく解りましたねえ」
『私、スチュワーデスなんです』
「あ、そうなんですか。はい、皆さん目隠し取って下さい。はい、そうですねえ。今までで一番特徴の無い服ですからねえ。ここは着慣れている七瀬さんが有利でした」
「はーい」
「七瀬さん。これで初の正解ですね」
『はい』
「何と言ってもこの中では一番女装のベテランですから(笑)、頑張って欲しいですね」
『はい(笑)』
「男性に負けてますよ」
『すいません(笑)』
「いや別に謝らなくてもいいんですけど」
『セーラー服着たこと無かったんでえ、』
「そうなんですか」
『中学が私服だったんですよ。高校はブレザーだったし』
「はあ、なるほど」
『それにチャイナドレスとか着たことなかったです(笑)』
「はいはい」
「必ずしも女性だから有利という訳でもないんですかねえ」
「いや、そりゃ有利でしょうよ(笑)、しかし、これからもっと着た事ない服が出て来るかも知れませんよ」
『はい。頑張ります』
「それでは第六問!「クイズで〜!すぽ〜ん!」」
『3、2、1』
「さあ!ゲートが開いて・・おお〜っと!これは速い!速いいい〜!さあ二番の方!答えは何ですか!?」
『バレリーナ!』
「はい!いいでしょう!正解で〜す!」
「おめでとうございま〜す」
「はい。皆さん目隠し取ってください」
「は〜い」
「しっかし速かったですねえ〜」
「そうですね〜」
「まあ、しかし流石にこれはすぐに解りますよね」
「そうですね」
「ええと、正確にはその衣装は『チュチュ』と言うそうです。まあしかし『バレリーナ』でも正解としましょう」
「はい」
「しかしまあ(笑)、本当に異様な光景です
よねえ(笑)」
「(笑)」
「目隠ししたバレリーナの集団が一斉に全身まさぐってるんですからねえ。正解した二番の方」
『はい』
「気分はいかがですか?」
『足が痛いです』
「あっ、そうですね。トウシューズですからねえ。簡単でしたよね」
『はい。すぐに見当が付きました』
「さっきのスチュワーデスのユニフォームですけど、難しかったですか?」
『スカート履いてるって事しか解らなかったです』
「あははは。はい、解りました。さあ!あと準決勝の第一試合はあと四問です。それでは第七問!「クイズで!そぽ〜ん!」」
『3、2、1』
「さあどうだ!おっと今回も速いぞ!はい!九番!九番の方押した!さあ答えは!」
『着物!』
「んん?」
『着物です!』
「確かに着物なんですけど、それだけじゃちょっと辛い。どんな着物ですか?はい!十番
の方!」
『振り袖!』
「せいかい〜!はい、正解です」
「は〜い」
「はい、皆さん目隠し取って下さい」
「九番の方惜しかったですねえ」
「はい。しかしやはり『着物』だけでは範囲が広過ぎますからねえ。ちなみに一応クイズ
番組なんで聞いてみましょう。十番の方」
『はい』
「『振り袖』とはどんな服ですか」
『え〜、未婚女性の晴れ着です』
「じゃあ、既婚女性の晴れ着は何ですか?」
『『留袖』です』
「はい。お見事です」
「は〜い」
「ところで貴女は振り袖と留袖の区別は知ってましたか?」
「ええ、まあ・・・ 一応」
「なんか怪しいですねえ(笑)大丈夫何でしょうかこのひと。九番の方」
『はい』
「『着物』だと言うのはすぐに解りましたか」
『はい』
「どの辺が決め手でした」
『あ、ノーパンなんで『こりゃ着物だな』・・・ 』
「えええっ!皆さんパンツ履いて無いんですかあ!?」
「ああっ!(笑)皆さん頷いてます(笑)」
「どうですか着心地は?」
『すーすーします(笑)』
「そうですよねえ。じゃあ、次の問題行きましょう第八問「クイズで!すぽ〜ん!」」
『3、2、1』
「おおっと!これは(笑)」
「可愛い!」
「さあ押した!六番の方!答えは!?」
『アンナミラーズの制服!』
「せ・い・か・いー!」
「すごーい!」
「さあ、会場沸いてます(笑)。よく解りましたねえ。着た事あるんですか?」
『はい』
「えええ!?(笑)」
「着た事ある!?」
『はい。あります(笑)』
「それはどんな所で」
『学園祭の時に』
「ああ、女装コンテストか何かで」
『いえ、女装喫茶です』
「(爆笑)そうですか!?」
「いや〜ん(笑)」
「じゃあ、その格好で『いらっしゃいませ』とかやってたんですね」
『やってました(笑)』
「どうですか再び着てみて?」
『(笑)その時は贋物だったんですよ』
「ああ、その・・・ そっくりな服だったと」
『いやあ、だから『やっぱ本物はいいなあ』と(笑)』
「何言ってるんでしょうかこの人は全く。さて!気を取り直して次の問題行ってみましょう!かなり難しいですよ。「クイズで!すぽ〜ん!」」
『3、2、1』
「さあ!カバー開いた!」
「また会場から悲鳴が上がっています(笑)」
「おおっと!これは難しいか!まだ誰もボタンを押していないぞ」
「これは『着物』ではありません」
「そうです。『着物』だけでは正解になりません!はい!四番の人!」
『ええと・・・ 和風の花嫁衣装』
「はい!確かにそうなんですけど、それの名前を答えて頂きたい。はい!二番の方」
『白無垢!』
「はいそうです!正解!」
「は〜い」
「はい。皆さん目隠し取って下さい。はい、そうですこういう格好だったんですね(笑)」
「きれ〜い」
「こういうのは『白無垢』って言うんですね、貴女知ってましたか?」
「(笑)いえ」
「あんたホントに大丈夫ですか?女として」
「修業します」
「さあ!いよいよ最後の問題になりました」
「はい」
「泣いても笑ってもこれが最後です!さあ、もうぐだぐだ説明はいりません!行ってみましょう!「クイズで!すぽ〜ん!」」
『3、2、1』
「さあ!カバー開いた!全員が目隠しのまま全身をまさぐって・・おおっと!五番出た!五番速いい!さあ答えは?」
『ウェディングドレス!』
「はい!正解で〜す!」
「おめでとうございま〜す」
「はーい。皆さん目隠しとってもいいですよ〜」
「は〜い」
「しかし(笑)壮観ですねえこんなに揃うと(笑)」
「ホントですね(笑)」
「五番の方」
『はい』
「いかがですか」
『ん〜(笑)嬉しいです』
「(笑)嬉しいですか」
『はい。一度着てみたかったんで(笑)』
「そうなんですか?」
『僕、もう結婚してるんですよ』
「あ、そうなんですか!」
『嫁さんのは見たことあったんで』
「ああ、それで解ったと」
『それだけじゃないですけど』
「ん、ひょっとして奥さん会場にいらっしゃってるんじゃありませんか?」
『はい。いるはずです』
「おっと、今マイクが行きましたね」
『は〜い、今五番の方の奥さんの所に来てま〜す』
「はい」
『いかがですか?旦那さんのウェディングドレス姿』
『(苦笑)まあ、なかなか綺麗ですね』
『惚れ直しました?』
『(苦苦笑)はい』
『本音は?』
『もう別れます(笑)』
『あああ〜!(笑)大変なことになってしまいました。それではこちらは以上で〜す』
「はい。これでこのクイズも一応終了なんですけど、これだけでは終わりません!」
「そうなんですか?」
「はい。解答者の皆さんには、このままの格好で」
「ウェディングドレス姿のままで」
「次の問題にもチャレンジしていただきます!」
「ああ、会場どよめいてますね(笑)」
「そりゃそうですよ。こんなおいしいシチュエーションをこの番組が見逃すはずはありません!」
「は〜い」
「クイズの早押しも兼ねた障害物スです!」
「それは何ですか?」
「ちなみに貴女はウェディングドレス着たことはありますか?」
「いえ・・・ 早く着たいと思ってるんですけども・・・ (笑)」
「また男性解答者たちに抜かれてしまいましたね」
「はい(泣)」
「とにかく、あのドレスのスカートが凄いですから!解答者の皆さんは着てみて実感なさっていることと思いますけども」
「はい」
「非常に扱いにくいんですね。きっと慣れて無いと歩くのも難しいと思うんですよ」
「はい。きっとそうでしょうね」
「そのスカートを引きずったまま、地上のコーンをいかに倒さずに、しかも短いタイムでゴールに辿り着けるかということを競うレースです!」
「なるほど!さあ、解答者の皆さんにはレース会場まで移動して頂いて、その間にちょっとコマーシャルです」
「はい」
「あとがき」と「解説」 真城 悠
お読みになった方にはお分かりの通り、今回の小説にはこちらのページの趣旨である「ファンタジーとしての性転換」が含まれていません。しかし「萌え」要素は満たしているということもあって、管理人の八重洲さんの計らいによより、例外的に掲載を許されました。いい機会ですので、「女装小説」というジャンルについて、ひとくさりさせて頂きたいと思います。
「ファンタジーとしての性転換」というジャンルのフィクションは、それを「ヤエスもの」と呼ぶかの議論はさておくとして、少なくとも我が国では一定の市民権を得た感があります。長期連載の少年漫画などでは年に一度程度の「人格交換」はお決まりの通過儀礼の様なものだし、青年誌などでは月に一度は発見できると言っても過言では無いでしょう。そういったオンライン小説を集めた、こちらのようなページが五十万ヒットを達成し、尚躍進中という事実を見てもそれは明らかです。
その中にあって「ファンタジーとしての女装」小説の現状を見ていますと、甚だ心許ないものがあります。より、「現実」からの束縛の強いジャンルであるだけにある程度は仕方がない側面もあるのですが、このジャンルを愛好する私としては少々寂しい所です。
恐らく、数だけで言えば「女装小説」は「ファンタジー性転換小説」よりも多いでしょう。しかし、こちらの読者には恐らくご存じの通り、内容は「同性愛小説」とでも言うべきものです。そのきっかけは止むに止まれぬものであったにしろ、次第に「その内なる性に目覚め」て、「素敵な男性に巡り会い」、「女として生きて行く」と言ったもの(全てでは無いでしょうが)。現在存在する「女装小説」から「同性愛嗜好」「性同一性障害」「服装倒錯」の要素を含む物を除外した場合、一体何作が残るでしょう。
確かに、純粋な「随意運動」である「装う」ことが主題である以上、全く「その気」が無い者を巻き込むストーリーテリングはかなり困難です。私が書きました今回の二編も、上記の三条件を満たしてはいないものの、結局「その意志がないものを無理矢理(美しく)女装」させるには近未来SFにせざるを得なかった訳ですから。
しかし私はこういった「被女装小説」とでも言うべきジャンルのフィクションは、「ヤエスもの」と同様(何か既存の言葉の様に使っちゃってますね。不適当でしたらすいません)潜在需要はあるものと考えています。何より、その目的が最終的には「萌え」なのですから。
いずれにせよ、随意運動である以上、物語の流れの中でいかに登場人物に女装させ、しかも「萌え」る展開に持っていくかは、ファンタジー的展開が必ずしも許容されていない世界では、よりストーリーテラーの力量を試します。このジャンルの発展を期するのなら、まずは身を持って方向性を、それもより高い次元で示し続けることが大切である、と自戒して、まとめさせていただきます。誤拝読、有り難うございました。