晶くんシリーズ 4

「コーヒー」

作・真城 悠

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 僕の名前は白鳥晶。しらとりあきら、と読む。

 年齢不詳の名前だけど、立派な男。男子高校生だ。

 でも、ある日突然うちに郵送されてきた謎の雑誌「根暗な蜜柑」という雑誌を読んだ日から僕は奇妙な運命に巻き込まれることになってしまったのだった…。

 

 

 机の上に、女性のヌードデッサンがある。

 何でこんなことになってしまったんだ…

 毎度毎度こんな感想しか出てこない。

 どうも僕が女の子になっちゃうのは運命なんじゃないだろうか?いや、そんな筈は無い。

 と、そこで携帯電話がメロディーを奏で始めた。

 

 

「どうも有難うございます」

「いえいえ…」

 目の前で笑顔でコーヒーを注いでいるのはクラスメートの相原さんだ。いかにも上品な人で、今時珍しい「深窓の令嬢」なんて形容詞が似合いそうなうちのクラスのマドンナである。

「そ、それじゃいただきます」

 なんだこいつ?声が震えてやがる。

 放課後、呼び出されたと思ったらこんなことになってしまった。ま、悪い気はしないが…。

 ここにつるんで来たのはあの「ネットおかま」だったという一之瀬一馬、それに二村、三宅という悪友軍団である。その名前から「123トリオ」なんて呼ばれている。

 美人の家に招かれて悪い気はしなかったが、こちらは考えることが多すぎる。世間話に興じている他の面々を尻目に、一人思考の海に沈んでいた。

 前回に関して言えば、恐らく「緊急回避」みたいな形で能力が発動したんだろう。ま、確かに先輩の頼み事なんだから聞いたほうがいい。だからといって、何も自分がヌードモデルになることはない。しかも性転換までして…

 と、女性化した自分の身体の映像が頭の中に蘇ってくる。

 …

 思わず気付かれない様に手を身体の前に持っていく。

 ともかく、この能力の一番の欠点は、その優先度が全く分かっていないということにありそうだ。言うまでも無くあの状況で一番いいのは他の女の子を連れてくることである。他にも先輩を説得するとか…いずれにしても自分が性転換してヌードモデルを務めるよりもマシな選択肢は山ほどあるはずだ。

 …もしかしてこの能力には「制限」というか、何かの「条件」があるのでは?

 なるほどそれなら納得が行く。考えられるのは他人に直接影響を及ぼすことが出来ないってことだ。例えばそれこそ先輩自らを女の子にしちゃえばいい。でもそれは出来ない。何が何でも…というか自分の身体を使って問題を解決しようとする。

 …でも最初の「お金が欲しい」という願いは信州のおばさんがくれたよな?…いや、あれこそが偶然でその後の結婚式の方が本当の「能力」なのでは?…うーん、よく分からない。

 ともあれ、「能力」が勝手に発動しようとするのは困る。そうだ!それじゃあ自分が先に別のことを願ってしまえばいいんじゃないか?とにかく「能力」の方が勝手に状況を判断してしまう場合が多い。

「ところでさあ」

 相原さんが話し掛けてくる。この娘はいわゆる「お嬢さま言葉」みたいなのは使わない。そのほんのちょっとしたギャップみたいなのが好感度を上げているんだろう。事実女子にも人気がある。

「あたしって実はコーヒー結構凝ってるんだけどさあ…」

「ああ。そうだよねえ!ちゃんと豆から挽いてるし!」

 お調子者の二村が目立とうと思ってか声を大きくする。

「このコーヒーのブランド…じゃなくって豆の種類って分かるかな?」

「ええー、種類?」

 こりゃ絶好の機会だ。よーし、「能力」よ、豆の銘柄を教えてくれ。

「種類って、キリマンジャロとか何とかああいう奴?」

 一之瀬が言う。

「そうそう」

 その時だった…。どういう訳か僕は酷い尿意に襲われてしまった。何てこった!

「あ…あの…申し訳無いんだけどその…」

 僕のもじもじした態度で見て取ったのか、相原さんは間髪入れずに言った。

「ああ、そこのドア開けて左の突き当たりだから」

「ご、ごめん!」

 僕はすぐに飛び出した。

 

 

 ドアを閉めてすぐに背中を付き、はあはあと息をする。動悸が激しく打っている。

 な、何だ?何なんだ?この…感覚…は?

 すると、またおっぱいがむにむにする感覚が襲ってきた。

「ああ…ま、またぁ!」

 むくむくと成長する乳房。それと同時に身体全体が柔らかくふっくらとした女性的な体つきに変化し始める。

「あ…ああ…あ」

 内股になっていく脚、ほそくくびれて行く腰、か細く可憐になっていく目の前の手…。

「そ、そんな…」

 さらさらの髪は肩までの長さに伸びる。

 またすっかり女の子になってしまった。

 そしてまた服が変化し始める。

「わあっ!な、何だ?この…格好…は?」

 

 

「う〜ん、分からないなあ」

「ボスかな?」

「アホかお前は!そりゃ缶コーヒーの商品名じゃねえか」

 くすくす笑っている相原亜由美。

「じゃあ、正解を教えるね」

 

 

 目の前にぴちぴちの脚が殆ど全て空気にさらされている。セミロングの髪は動きやすい二本の三つ編みになっていかにも活発な女の子って感じだ。しかも今度のブラジャーには肩のひもが無い。ひょっとして…聞いたことだけはあったけど「スポーツブラ」って奴?

 上半身は清潔感溢れる厚手のシャツ。首と肩の周りには紺の縁取りがなされている。しかもご丁寧に「白鳥晶」という名前の縫い取りまで…そして問題は下半身だった。

 そう、僕は体操服にブルマ姿の女の子になってしまったのだ!

このイラストは「オーダーメイドCOM」によって作成されました。
クリエイター「水神奈月」さんに感謝!

 な、何でこんなことに?僕はコーヒーの銘柄を知りたかっただけなのに…

 

 

「正解はブルマン・コーヒーよ」

 相原亜由美はさらっとそう言った。

 

 

 しかし…僕はごくりと唾を飲みこんだ。

 柔らかいなあ、女の子の身体って…

 と、これまでにも何度と無く直接触ってきた自分の身体を改めて触ってみる。その触っている手の方までが柔らかい…という実に幻想的な体験である。

 身体を前にかがめた事によって三つ編みがころん、と視界の中に転がり出る。

 どきっとした。

 露出度の高いブルマが何とも微妙にいやらしい。

 これまでウェディングドレスやセーラー服を着せられてきたけど、どっちもスカートだ。こんなに直接脚全体が見えたことはない。前回は全裸だったけど、それはそれだ。隠されるべきところは隠されていた方が…

 ああ、何かどきどきする。しかもこのほのかに香る「女の子の匂い」が…

 僕は思わず自分の身体を抱きしめていた。

 …やっぱり。…気持ちいい……。…ってちがーう!

 思わず手を離して頭をぶんぶん振る。三つ編みがとんたん身体にあたる。

 こんなことしてる場合かって!

 と、とにかくだ。原因はともかくこの状況を何とかしなきゃ。他人の、しかも女の子の友達の内に見知らぬブルマ姿の女の子がいるなんて状況はもはやシュールだ。でも…服はこの体操服に変わっちゃったし…

「…!」

 思い出した様に猛烈な尿意が蘇ってきた。

 冷や汗と脂汗が交じり合って流れ落ちる。

 そ、そんな…ここで…その…おしっこを…しかもこの格好で…。

 改めて自分の女の子の身体とブルマを見下ろす。かあっと顔が赤くなる。

 僕は途方に呉れていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「晶くんシリーズ紳士録1」

 白鳥晶(しらとり・あきら)17歳

 本編の主人公。公立の共学高校に通っている。都内のマンションに家族三人で暮らしている。

 ある日送られてきた奇妙な雑誌「根暗な蜜柑」という雑誌を読んだ日から奇妙な「能力」を身につけてしまう。が、しかし「能力」の正体も現在の時点でははっきりとは分からず、彼自身全く制御出来ていない。

 これから「能力」を制御出来るようになるのか?