次元管理人フォスター・シリーズ

「エイジ・オブ

  ・アイス・ウォール」

作・真城 悠

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 私は次元管理人フォスターだ。

 時空に暗躍する犯罪者を追って、今日も過去に未来に飛び回っている。

 タイム・パラドックスを引き起こす犯罪者は許せない!

 私はタイム・パトロールとして少々の「修正」を権限で認められている。その時代、位置に相応しくない出来事にはその権限を行使する場合もあり得る。

 私のモットーは「細かいことは気にするな」だ!

 さて、今回の仕事は…

 

 

 その航海は順調だった。

 その目には、その巨大な豪華客船のへさきぎりぎりに立っている馬鹿なカップルの姿が目に入っていた。やれやれ。

「船長、監視台が双眼鏡が無いと言っております」

 ブリッジに入ってきたその男は言った。

「おい、そんな話は現場の管轄だろう」

 副長がたしなめる。

「は、はい…すみません」

 引き下がる男。

「ふむ…ところで副長」

「はっ!」

「出航直前の火事だが…もう止んだのかね?」

「はい!それはもう」

 そこにちょび髭を蓄えた慇懃な雰囲気の男がやってくる。

「ふふふ、この船が沈むはずはありませんよ」

 かつ、と乾いた足音が響く。

「…な、何だ?君は」

 そこにはいかにも場違いな男がいた。銀色の衣装に身を包み、手には拳銃ともつかない物質を握っている。

「あ、私はフォスターだ。よろしく」

 引きまくっているその場。

「…それは仮装行列か何かか?」

「ん?何だその「仮装行列」っていうのは」

「あんたみたいなののことさ」

 そちこちで含み笑いが起こる。

「あー、ところでだ」

 その「フォスター」と名乗った男はぺらぺらとメモをめくり始める。人の話を全く聞いていない。

「この船なんだが…出発時にかなり乗客の乗り降りがあったそうだな」

 副長が前に出る。

「何だかしらないがここはブリッジだ。さっさと二等客室に戻ってくれ」

「私のメモによると、その時に予定外の入れ替えがあってな…ちょっと歴史が変わっちまいそうなんだ」

「いや、だから何でここにいるんだよ」

「ん?別に大した意味は無い。ここが一番来やすかったからな」

 「何言ってるんだこいつは」?という雰囲気が立ちこめる

「予定よりも女性の死者が二十人ほど少ないんだ…よって修正させてもらう」

 その手の拳銃らしきものを副長に向かってビビビ、と発射する。

「うわっ!よ、よせえ!」

 思いきりのけぞる副長。

 騒然となるブリッジ内。

 しかし、副長は特に怪我をしているでもない。

 不思議そうな表情の副長。

 ちょび髭の男が怒鳴る。

「こいつをつまみ出せえ!」

「う…あああ…」

 その時、副長が胸を押さえて苦しみ始めた。

「どうしたんじゃ副長」

 周りに駆け寄ってくるクルーたち。

 ばっと手を離す副長。そこには豊満なバストがぷるん!とふるえる。

「あああ!」

「な、何だあ!?」

 尚も副長の身体は変化し続ける。ヒップがむっちりと大きく張り、ウエストが引き締まって行く。目の前でその手がほっそりとなめらかな女性のそれに変わって行く。

「こ、これは…!?」

 副長はすっかり美しい女性に変貌してしまった。

 すぐには目の前の現実に対応出来ないクルーたち。

「ふむ…まあ成功だがいかにも色気の無い格好だ」

 淡々と言うフォスター。そしてまたビビビ、と光線を浴びせる。

 その服は見る見るうちに貴婦人の着るような青いドレスになってしまった。勿論装飾品もジャラジャラと付き、化粧も施される。

 副長はすっかり上流階級の貴婦人になってしまったのだ。

「あ…そ…そんな…」

 変わり果てた自分の身体を見つめている元副長。

「よし、この調子だな」

 言うが早いが逃げ回るクルーを貴婦人にしまくるフォスター。

「たまにはアクセントも必用だな」

 と、ちょっと若い船員だとメイドにしたりする。

 ブリッジはパニックに陥った。勿論、まともな操船業務など出来るはずもない。

「む。これで二十人だ。ではさらばだ!」

 

 

 

 

 二十分後、タイタニック号は氷山に激突した。

 

 

 痛ましいことだ。結局かなりの犠牲者が出たらしい。しかし、歴史は守られねばならない。まあ、私の去った後に事故が起こったそうだが、細かいことは気にしないことだ。

 歴史を守るため、私は今日も戦いつづけるのだ!