「華代ちゃんシリーズ」

「主役」

作・真城 悠

「華代ちゃん」シリーズの詳細については

http://geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.htmlを参照して下さい


 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

  最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に、私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたまた私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

 報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は…。

 

 一糸乱れずに動いているレオタードの集団。

 パン、パンと手拍子をしながらその集団を指揮している新井。

 部屋の隅に座って、その様子を見学している一人の少女。

 

「お疲れさまでしたー」

 明るい声と共に、次々に教室を後にする生徒たち。

「はい、お疲れさまー」

 その生徒たちを笑顔で送り出す新井。

 ひとしきり生徒の帰宅が終わり、静かになる教室。

「おばさま」

 ちょこん、とそこにいる少女。

「ん?何かしら?」

 汗を拭きながら答える新井。

「あたし、こういう者です」

 と、何かを新井の方に向けて差し出す。

「入門希望者かしら?」

「いえ」

 何故か笑顔の少女。その名刺を受け取ってみる。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」とある。

「先生は、なにかしたいことなんかありますか?」

「これは…、何なのかしら?」

「サービス業ですよ。お客様の悩みを何でも解決します」

「へーそう」

「何かお悩みなどあれば」

「そうねえ、悩みは特に無いわ」

「ありゃりゃ…そう言われたのは初めてです」

「みんな悩みが多いのね」

「はい」

 新井、少し考える。

「そうねえ、今度の舞台が成功するかどうかが悩みと言えば悩みかしら」

「舞台があるんですか?」

「ええ。あ、そうそうあったわ」

「何です何です?」

「実はね、うちの劇団に飛田って子がいるのね」

「はい」

「彼ってすごく練習熱心で、今度の舞台でも主役は、まあ間違い無いところだったわ」

「何かあったんですか?」

「怪我しちゃったの」

「ありゃま」

「それに病気がちでね、もう直ってるみたいだけど…でも気の毒でねえ。結局、今回は島崎っていうのが主役を射止めたのよ。この二人は幼なじみで、言ってみればライバル関係なの。急な話だったから彼には別の芝居の予定を開けてもらったりしてねえ」

「はい」

「だから…まあ次の機会でいいんだけど、今度こそ飛田くんに「主役」デビューさせてあげたいの」

「オッケー!わっかりました」

「(笑)あらあら。頼もしいわね。まあ、今度誕生日らしいし」

 と、言う頃にはその少女の姿は無かった。

 

 薄茶色の綿のパンツにTシャツ、スニーカーといったラフないでたちの飛田。

「飛田さん、ですね」

 呼ばれて足元を見ると、小さな少女がいる。

「そう、だけど」

「ちょっとこっち来て下さい」

 

 舞台の袖に連れてこられるまで、いざ初日という舞台は混乱を極めていた。

「ちょ、ちょっと待って」

 少女を制止しては、劇団員に事情を聞く飛田。

「おい、どうしたんだ?」

「それが…鈴木さんが怪我をしたとかで…」

「何?控えの原田は?」

「連絡が付きません。噂では海外旅行中らしくて…」

 その女性は、誰かに呼ばれて行ってしまう。

「何てこった…」

 と、そこは舞台の袖だった。

「飛田さん!先生からの「誕生日プレゼント」よ!」

 それだけ言うと、ポン、と飛田の身体にタッチして走り去ってしまう少女。

 何だったんだろう?という表情でそちらの方を見ている飛田。

「おう、飛田じゃねえか」

 主役の島崎である。島崎はきらびやかな衣装に身を包んでいる。まさしくこれから本番に向かう主役ダンサーといったいでたちだ。普段着そのままの飛田と対照的である。

「ああ、何だか大変らしいな」

「そうなんだよ。もう客席は満員だってのに…」

 と、飛田が身体に異常を感じる。

「…?」

「…どうした」

「いや…別に…」

 突如、飛田の胸の部分がむくむくと突起を始める。

「ん?…あ」

 その隆起は続いた。それは「乳房」と呼ぶ他はない大きさと、美しい形に成長しそのシャツを内側から押し上げる。

「な、何だ?」

 同時にお尻が膨張し始める。綿パンは内部に出現した豊満な物体に張りつめる。

 その変化に驚く暇もなく、胴回りが収縮を始める。豊かなバストとヒップがその蜂のようにくびれたウエストを強調する。美しい脚線美が形成され、腕はか細く、なめらかになっていく。その顔からは角張ったものがとれ、ふっくらとした輪郭へと変わってゆく。ごく普通のその髪は、セミロングまで伸びていた。

「な、何だ…?どうした……んだ?」

「…!!!」

 目の前で島崎が固まっている。

 変化は第二段階に入った。

 スニーカーからひもを含め、一切の装飾が消失した。その色は白一色になり、つま先には堅い「詰め物」が形成される。靴下が消滅し、靴の表皮は薄皮一枚となって、くるぶしから下をぴったりと包み込む。それは「トウシューズ」だった。

 ぴっちりと脚に張り付いていた綿パンはその色を白く変え、美しい脚線美を保ったまますべすべの光沢を放つストッキングへと変わっていく。それはトウシューズの中に浸食していった。

 Tシャツは、その肩から上が、肩紐を残して消滅する。胸の部分が大きな乳房をすっぽりと掴むカップになる。その縁には羽毛がかたどっていく。白くなったかつてのTシャツの表面には美しい刺繍が刻まれ、同時に背中にまで広がっていく。

 そのか細い腕は、肩から大胆に露出され、浮き出している鎖骨はか細い身体全体を際だたせた。

 その腰の部分から、真横に、まるでシャンプーパットの様なスカートがすーっ、と生えてくる。

「あ…あ」

 その直径は一メートル程に及び、次から次、一重二重とその厚さを増してくる。やがてそのスカートの表面にも堂の部分と同じ刺繍が広がり、すべすべの表面に変わっていく。

 セミロングの美しい髪はすうっ、とひとりでにオールバックにまとまる。

 その耳たぶにはピアスが、頭には羽毛の髪飾りが出現する。

 ぐぐぐ…とまつげが伸びていく。見る間にそこに濃厚なマスカラが乗っていく。

「そ、そんな…馬鹿な…」

 二重まぶたに変形していくその上にアイシャドウが広がっていく。頬には遠目にも分かる頬紅がくっきりと施され、真っ赤なルージュがきゅーっ、と引かれる。

「ああ!」

 飛田は、またたくまに美しいバレリーナとなってしまった。

「…だ」

「え?」

「…可憐だ…」

「よ、よせ!何言ってるんだ」

 しかしそこには「青年」飛田は原型を留めておらず、「美しいバレリーナ」がいるだけだった。

 その時、開演を告げるベルが鳴り響く。

「何だ?」

 同時にピンッ!と背筋が伸びるバレリーナとなってしまった飛田。す…、とつま先立ちになり、首を傾けるポーズをする。

「ああ!…か、身体が…か、勝手に…」

 す…、とその腰に島崎が手を添える。

「お、おい!何のつもりだ!」

「こうなったら、…お前に主役をやってもらうしかない」

「な、何言ってるんだ…」

 しかし、身体が言うことを聞かない。つつつ、とつま先立ちのまま回転移動を始めるバレリーナ。そこに「王子様」役の島崎がぴったりと寄り添う。

「よ…よせ!…お前と…こんな…でも、身体が…勝手に…あっ!」

 舞台に飛び出していく二人。

 プリマドンナの美しい跳躍が決まり、それをがっしりと受け止めるたくましい王子様。

 その腕の中に抱かれ、また離れて踊り続ける美しい主役バレリーナ。

 二人の息はぴったりだった。

 

このイラストはオーダーメイドCOMによって製作されました。クリエイターの平岡昌昭さんに感謝

 

 その舞台の主役、特にバレリーナの方は、これまでにない、憂いを秘めた戸惑ったような絶妙な表情の表現が好評、舞台は大成功だったそうです。

 「主役」デビューおめでとうございます。何よりの誕生日プレゼントですね!あたしもあんなに生徒想いなの先生に巡り会いたいです。うらやましいなあ。これから誰かに「プレゼント」あげたい人がいたらあたしにおまかせ!ってな感じでしょうか。いやー、本当にいいことをするっていい気持ちですねえ。

 それでは、また。

 明日はあなたの街に行くかも知れません。