「華代ちゃんシリーズ」

「パニック・オフィス」

作・真城 悠

*「華代ちゃん」の公式設定については

http://geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.html を参照して下さい


 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

 さて、今回のお客様は…。

 

 豊川はディスプレイに向かって仕事をしていた。

 ここは名武古商事。一流の商社である。

 オフィスは経営者の方針でそれほど広くない。一人一台のコンピューターなどは与えられていたが、壁で区切った広い広いパーソナルスペースなどは存在しなかった。

「はい、どうぞ」

 クリーム色の制服に身を包んだ林さんがコーヒーを入れてくれる。

「あ、ありがとう」

「豊川あ」

 隣の机から声が掛かる。

「んー?」

「福原貿易さんのところに問い合わせの電話入れといてくれねえか?」

「ああ、昨日の奴な」

「そうそう」

 それでも広いオフィスには数十人の男女が忙しく立ち働いている。

 隣の机に掛かってくる電話。

「はい!名武古商事でございます。いつもお世話になっております」

 ふう、と軽く深呼吸をすると、さっき持ってきてもらったコーヒーをすすり、受話器を取ってダイヤルする。

 しばらく発信音が続く。

「はい、福原貿易でございます」

「お疲れ様です。名武古商事の豊川と申しますが、北米課課長の川原さんいらっしゃいますか」

「川原は本日休暇で自宅におります」

「そう…ですか」

「あ、いえ。でも名武古商事様への言伝は預かっております。この時間ですと自宅におります。番号をお伝えしますので申し訳ありませんがご連絡頂けますでしょうか」

「え…それは…よろしいんですか?」

「はい。構いません」

「そうですか。承りました」

 言われた電話番号をメモし、ダイヤルする豊川。

「もしもし、私、名武古商事の豊川と申しますが、福原貿易様の川原さんのおたくでしょうか」

「はい。川原です」

「先日の件につきまして…」

「あ、ああ。豊川くんね」

「はい」

「ちょっと待っててもらえるかね」

「はい。勿論です」

 ここの家のは保留機能が付いていないのか、使い忘れたのか電話待ちの時間にも何も音がしない。

 

 立野美由紀が誰もいない会議室に入ってくる。

「次長?」

 と、後ろでバタン、と扉が閉じられる。

「いらっしゃい」

「あ、次長。頼まれた資料、持ってきました」

「いいからそんなものそこに置き給え」

「は、はい…」

 そう言ってさっさと立ち去ろうとする立野。

 しかし、北口が先回りする様にその行く手を塞ぐ。

「な、何をするんですか」

「ふふふ、いいじゃないか。どうせ誰も見てやしないさ」

 と言って立野のお尻を触ってくる。

「や、止めてください!」

「そうはいかないさ」

 不敵な笑みを浮かべる北口。

 

 

 豊川も忙しい身なのでまだ三十秒ほどしか待っていないのだが、もういらいらし始めていた。

「もしもし」

「はい!」

「おにいちゃん、元気?」

 豊川は面食らった。

 子供の声では無いか。どうして…?と思ったがすぐに気を取り直した。良く考えればここは自宅じゃないか。家族がいるほうが自然だ。

「あ、ああ。そうだね」

 若干ろれつの回らない口調で答える。

 その声には「子供の相手をしてる場合じゃないんだ」という響きがあった。

「あの…電話に触っちゃだめだよ」

「おにいちゃん暇でしょ?悩みを聞いてあげるよ」

「あのねえお嬢ちゃん」

 といらいらして言う。

 待てよ…

 よく考えるまでも無く、この子供は取引相手の子供か、もしかしたら孫である。起源を損ねたりしたらコトだ。仕方ない。付き合うか。

「パソコン画面見て」

「え?」

 豊川は常にネットに接続状態のディスプレイを見た。そこには「ココロとカラダの悩み、お受けいたします。 真城 華代」と出ている。

 

 人気の無い給湯室。

 そこに二人の男女が絡み合っていた。

「こんなところでしか会えないの?」

「そういう訳じゃないけど…まあお互い仕事も忙しいしな」

「まあね」

 キスを交わす二人。

「もう返るぞ俺」

 と、立ち去ろうとする男。

「もうちょっといいじゃない」

「しかし、お茶汲みに来るだろ」

「いいのよ。あたしが出るまで誰も入らない様に言ってあるから」

「そうなのか」

「困ったときはお互い様って奴よ。その代わりあたしが見張りしてたこともあるもん」

「なるほどね」

 またキスをする二人。

 

「へーえ、お嬢ちゃん。パソコン使えるんだ」

「「お嬢ちゃん」じゃなくて「かよ」ね「かよ」」

「あ、ああ華代ちゃんね」

 これには豊川も少し驚いていた。パソコンも随分普及してきたもんである。そしてこうして電話しながらメールを送ってきたということはISDN回線だな…畜生、羨ましい…などと思ったりする。

「お悩みをどうぞ」

「え?ううん」

 豊川はそれどころではない。電話の先の相手が気になる。

「悩み…て、華代ちゃん…だったっけ」

「うん」

「華代ちゃんが相談に乗ってくれるんだ」

「いいえ」

「え?」

「「解決」して差し上げます」

「はあ」

 こういう遊びがはやっているのだろうか?豊川、仕方なく考える。

「う〜ん」

 改めて言われるとすぐには思いつかない。

「職場の女性比率を上げて欲しいね」

 軽く笑って言う豊川。

「へえ。そうなんですか」

「うん。忙しすぎて出会う機会も無いし、もうちょっと華やかさが欲しいからね」

「何人くらい増やしましょうか?」

 妙な質問だな。そんなに具体的に聞いてどうする。

「この際みんな女の人でもいいよ」

「そうですか…分かりました」

「あの…それはいいんだけど…パパいるかな?」

 と、その時に何やら全身に違和感を覚えた。

「…ん?」

 同時に目の前で働いている同僚が目に入ってくる。

 信じられなかった。そいつの髪が見る見る伸びて行くでは無いか。

「か、甲斐…お前…髪が」

「ん?」

 甲斐は言われるまで異変に気が付かないほど仕事に熱中していたのだろう。突然胸まで垂れてきたその髪に驚く。

「うわっ!な、何だ!?」

 白いワイシャツにストレートのロングヘアは異様だった。

 たまたまそこに甲斐のためのコーヒーを持ってやって来ていた林さんも固まっている。

 すると今度は豊川の胸がむずむずし始めた。

「…?」

 それは胸の肌触りだけでは無く、視覚にも訴えていた。

 自分の胸が、あたかも女性の乳房の様にむくむくと膨らんできていたのだ。

「あああ!?」

 思わずそれを鷲掴みにする。

「あ…」

 これまでに体験したことの無い感触が襲ってきた。受話器を取り落とす。

 変化はそれに留まらない。お尻がきつくなってくる。ズボンの中身が大きくなっているのだ。それと反対に腰の部分がぐぐぐ…と細くくびれ、内股になっていく。

「そ、そんな…」

 自分の手を甲から見る。す…と伸びたその指が白魚の様にか細く、美しくその姿を変えていく。

 下半身に異様な感触が襲った。ガラパンの感触が消滅したのだ。そして、これまでよりも遥かに少ない面積を、すべすべの生地がぴっちりと押さえつけてくる。

 ワイシャツの下に着ていたTシャツがすすす…とすりあがり、豊満なバストをむちっと押さえつけ、その重さを肩ひもに分散し、背中でしめつける。

「あ…」

 しゅるっという音。動いた拍子に、その服の下にどこからともなく出現したすべすべの肌着が全身をなでる。

 また自分の身体を見下ろす豊川。と、灰色のネクタイが見る見る小さくなっていく最中だった。それは、白く細い数本のボータイへと変化し、ワイシャツはやわらかな生地のブラウスへと変わっていく。

「ま、まさか…ああ…」

 脚を動かす。

 無駄毛一つ無いその脚が直接触れ合う感触。

「ひいっ」

 しかし、すりすりとこすりあわされるその感触は、やがてざらざらしたものへと変化する。

 革靴はかかとの高い靴になり、その美しい脚には肌色のストッキングがかぶせられて行く。

 ズボンの二本の脚の部分はとっくに融合し、膝上まで這い上がっている。それが豊川の目の前でタイトスカートへとまとまってゆく。

「これは…一体…そうしたと…言うんだ?」

 上半身にはブラウスの上にベストまである。その顔に薄いアイシャドウ、口紅が引かれて行く。

「と、豊川…さん…?」


イラスト 出川鉄道さん

 林さんの持つコップから波立ったコーヒーはぴちぴちと落ちる。

 豊川は、その林さんと同じ制服に身を包んだ、可愛らしいOLになってしまった。

「は、林さん…違うんだ。これは…その…」

 その声はすっかり女性のものだった。

 

「大声出しますよ」

「出したければ出すがいい。その代わり君は明日から就職活動だ」

「そんな…」

「ふふふ、いいから。その代わり悪い様にはしな…い…?」

 突如口篭もる北口。と、立野から離れて行くでは無いか。

「…次長?」

「な、何だ…これ…は?」

 立野の見ている前で、たちまち立野と同じ制服に見を包んだOLとなってしまう北口。

「そ、そんな…」

 変わり果てた自分の身体に呆然としている北口。と、突然お尻をつるっという感触が襲う。

「きゃっ!」

 同時にがばり、とその身体を捕まえる立野。

「次長…随分可愛くおなりですねえ…」

 さっきまでと態度がまるで違う立野。 

「た、立野…くん…?」

「女だからって随分な扱いをしてくれたじゃないですか…」

「いやその…これは…」

 むにむにとその乳房をもみほごす立野の手つき。

「あ…や、やめたまえ…あ、あああ!」

「今度はご自身で女の苦痛を体験なさるんですね」

「いや…た、助け…て」

 泣きそうな顔のOL。

 

 口が離れない内に違和感を感じる男。とっさに離れる。

「…?どしたの」

「いやその…なんか身体がおかしいんだ」

 むくっ!と盛り上がるその胸。

「ああっ!」

 程なくしてやはりOLとなってしまう男。

「な、何だこりゃ?」

 呆然として見詰め合う二人のOL。

 

 ある場所では、

「お、お前…何何だその格好…」

「お前…こそ…」

 等と言う会話がされ、またある場所では…トイレに行っている途中だった者までいる。

 見渡すと、その職場は全員がOLとなっていた。

 

 

 

 

 やっぱりこの不況のご時世、そんなに新社員は取れませんからねえ。それも一社員の望みでは結構厳しいと思うのですよ。ところが!だったら新社員を採用しないでそのバランスを変えればいいんですよ。これで「女性比率」があがったでしょ?

 もうばっちりですね。これからも中小企業の味方…って今回は大企業か…の華代をよろしくお願いします!

 それでは!