「華代ちゃんシリーズ」

「自己完結」

作・真城 悠

*「華代ちゃん」シリーズの詳細については

http://geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.htmlを参照して下さいを参照して下さい


 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

 報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は…

 

 パソコンの画面に妙な文字が表示された。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします」?

 妙なページだな、と思った。

 雑然とした部屋、スナック菓子はもとより、コンビニ弁当、ピザなどの食べカスで床が見えないほど散らかっていた。漫画雑誌、パソコン雑誌が山を成し、ビデオテープが倒壊しそうなほど積み上げられている。壁にはアニメキャラのポスターが所狭しと並び、その部屋の一角では、パソコンの配線がうねっている。

 太田はそこのページに興味を持った。

 いつもなら人生相談ページなど、サーフィンの途中で間違って迷い込んだら速攻で帰るところだが、ひょっとしたら…その欲望が太田の手をマウスにかけさせた。その重量級の身体をこそこそと動かし、「お気に入り」に入れる。俺の勘は外れたことは無いのさ。

 太田は眼鏡を外し、その辺に転がっている、一回鼻をかんだようなティッシュを取り上げて顔の油で濁ったかのようなレンズをふく。そういえば…そろそろ風呂に入らなきゃな…脇の下に出来ているあせもを見ながら考えた。

 何だ、チャットもやってるのか…いつものように「Erie」という性別不明、と言うよりネットおかまのようなハンドルで入室する太田。

Kayo>いらっしゃいませ。エリーさん

Erie>こんにちは。初めまして

Kayo>依頼などありましたらどうぞ

 太田は少し考えた。

 「依頼」?

Erie>「依頼」ってどんな依頼ですか?

Kayo>何でもいいですよ。ココロとカラダに関することなら何でも受け付けています

 妙なページだな。悩み事の相談を受け付けるのでは無くて「解決」するなんてサービスがあり得るのだろうか?

Erie>それって出張サービスみたいなものですか?

Kayo>まあ、そうです

Erie>料金の方は基本的においくらくらい何ですか?

Kayo>頂いておりません。無料奉仕です

 怪しげな話だ。じゃあちょっとからかってみるか。

Erie>じゃあ、お願いします

Kayo >はいはい

Erie>私、とっても「溜まって」るんです

 しばらく間があった。

Kayo>それは「欲求不満」という意味ですか?

 かかった。くっくっくと一人で笑う太田。

Kayo>時にあなた男の子でしょ?

 どきっとした

Kayo>今、処理をしたから。あたしたちだけになったから。この部屋は

Erie>どういうことですか?

Kayo>単なるチャットなら匿名対談でもいいでしょうけど、これは依頼の受け付けだからね。本音の所を聞くわよ

Erie>はあ

Kayo >じゃあ、「依頼」は「女の子とやりたい」って事でいいですね?

Erie>待って下さい。出来たらもっと条件を付けたいんですけど、出来ますか?

Kayo>…いいけど

Erie>じゃあ、とびきり可愛い娘にして

Kayo>はいはい。とびきり可愛い娘ね…

Erie>あと、

Kayo>まだあるの?

Erie>だって、何でも受け付けてくれるんだろ?

Kayo>…あのね、あたしは基本的に「困ってる人」を助けてるんであって、こういう依頼は普通は受けないのね

Erie>困ってるよボクだって

Kayo>どう困ってるのよ?

Erie>女の子といいことしたくて、毎日そんな事ばっかり考えてるもん。ところでキミ、本当に女の子だよね?ネットおかまじゃないよね?可愛いの?芸能人で誰に似てるって言われた事ある?

Kayo>あーはいはい。依頼の続きしましょ。さっきのでいいのね

Erie>待った!他にもある

Kayo>幾つあるのよ。ちょっと勘弁してくれる?

Erie>「依頼」なら必ず受けてくれるんじゃないの?お客に向かってそういう態度取ってるとあちこちの掲示板にキミの悪口書いて回っちゃうぞ!

Kayo>…分かったわよ…。じゃあ、一旦接続切るから、条件まとめて箇条書きにしといてくれる?

Erie>おう、そういうことなら

 

Kayo>出来た?

Erie>条件これね。よろしく

 1.とびきり可愛いこと。それも色白で華奢でかつグラマラスな娘(こ)。

 2.性格はひたすらボクに従順なこと。常に上目使いで話し、ボクのことを「ご主人様」と呼ぶこと

 3.どんなことをされても逆らわないこと。何かされるたびに「恥じらい」ながらも「感じ」てしまい、「いや…」「やめて…下さい」などと情感たっぷりに言うこと

Kayo>何よこれ…

Erie>まだ終わって無いよ

 4.メイドの制服を着ていること。清楚な感じだけど、下着は黒でガーターベルト

 5.それでいて、可能な限り他人の迷惑にならないこと

Kayo>…あのさあ、こんな都合のいい女の子いないよ。それこそ道行く女の子捕まえて洗脳でもしないと

Erie>それはそっちの仕事でしょ?あ、一応言っとくけど風俗嬢の派遣は駄目ね。あの女共はすれてやがるからボクのピュアな心が理解出来ないんだ。そうそう、お金は一切払わないから。そういう約束だからね

Kayo>まあ…うちは基本的に無料奉仕だけど…はっきり言ってこんな複雑な依頼って初めてだから手間賃くらいは貰いたい気分だわ

Erie>で、どうなの?

Kayo>いいわよ。…って言うか依頼はとっくに受け付けちゃってるから。後からゴテゴテ要求が付いてきたんでね…うん。もうすぐそっち行くから

Erie>え?

Kayo>とりあえずこれで接続切っていいわよ。終わったらまた連絡してね

 切断される。

 ピンポーン、と呼び鈴が鳴る。

 飛ぶようにドアに駆け寄る太田。

 迷わずドアを開ける。

 そこにはメイド姿の女の子がいた。透き通るように白い肌。化粧っけは全くないが、その可愛らしさは類を見ないものだった。その子がエプロンドレスに身を包んでもじもじしている。

「キミって…さっきの…」

「はい…ご主人様…」

 上目使いで、可愛らしい、消え入りそうな声!まさしくイメージ通りだ!

「はい!いいから入って入って!」

 太田は彼女にいろいろな事をさせた。彼女の衣装はどう見ても「普段着」ではないのに「待った?」「いいえ、今来たところですから・・・」などと「初デートの会話」をさせたり、さんざん照れながら「好きです」という意味の事を言わせたり、ちょっと恥ずかしいポーズをさせたり、実はスカートの中が見える様なポーズで座っていたのに気がつかず、指摘されて「きゃっ!」と恥ずかしそうに隠す、などという芝居などなど。

 太田はヘトヘトになって仰向けに倒れていた。

 へへへ…こりゃ満足だ。最高のページ見つけたな。明日から毎日頼んでやる。

 コンコン!とドアをノックする音がする。

 誰だ!こんな時間に。

 問答無用で次の瞬間にはドアが開けられる。

「終わったあー?」

 

 太田はまだ興奮している。

 ここはその少女に案内されてやってきた同じマンションの別の部屋である。

「あんないい娘、どこから連れてきたの?」

「はいはい、それじゃあ、と」

 太田の言葉を軽く受け流すと、時計を確認するその少女。

「五時間ちょい、戻せばいいわね」

「何だよ?何の話…」

 そう言いかけたとき、身体に異変が感じられた。いや、明確に異変が起こっていた。でっぷりと脂肪のついたその身体が見る見るスリムになっていくではないか。

「お…ん?何だこりゃ?」

 既に「やせている」と言ってもいい体型にまでなる太田。

「え…と、色は白い…と」

 何やらメモを見ながら言う少女。と、太田の身体からブツブツがとれていき、透き通るように白い、きめ細かい、柔らかい肌に変化していく。全身の不潔な体毛は殆ど抜け落ち、アニメキャラのプリントされたそのシャツの下に、むくむくとそのスリムな体型に似合わない豊かな乳房が盛り上がってくる。

「あ、ああ…」

 手がよりほっそりと白魚のようになっていく。腰はもともと細身なのでくっきりと分かるほどにはくびれなかったが、その位置自体はぐいぐい上がっていき、ぷっくりとお尻が柔らかく膨らみ、そのメリハリのある体型が形成される。それまで肉に埋もれていた顔のパーツの一つ一つがその姿を変えていく。目がぱっちりと大きくなり、マッチ棒すら乗りそうな程まつげが伸びる。たらこの様だったその唇は、サクランボの様に小振りになる。

「よし…、と。後は服か」

 太田の服からアニメキャラのプリントが消え、漆黒に染まっていく。一瞬にして黒い長袖のワンピーススカートとなり、その上にフリフリの沢山ついたエプロンが装着される。その幼さを残す脚に、その清楚ないでたちに似つかわしくない漆黒のストッキングが走り、ガーターベルトとなって固定される。仕上げとばかりに、背中まで伸びるつややかな黒髪の頭に髪飾りが出現する。

「ああ…!」

 醜悪なオタク男は、一瞬にして清純なメイド少女になってしまった。

「…!?」

 どういうわけか身体の自由が利かなかった。

「え…と、じゃあ軽く実験ね」

 やはりメモを見ながらその少女は言う。

 その少女はメイドの背中を、人差し指でつーっ、となぞる。クロスしているエプロンとブラジャーの感覚と共に背中に軽い電流のような感覚が走る。

「あ…いや…」

 勝手に声が出ていた。自分の意志に反して。

 いきなりスカートをめくってくる少女。

「きゃあ!」

 やっぱり身体が勝手に反応してスカートを押さえてしまう。顔が真っ赤に火照ってくる。バランスを崩し掛かるメイド少女を見計らってその手を離す。

「きゃっ!」

 どたん、と倒れ込んでしまうメイドになった太田。

「どっこいしょっと」

 その上にのしかかってくる少女。

「あ…や、やめて…ください…」

 消え入るような声が出る。必死に声を出そうとするが、従順な女言葉以外はどうしても発音する事が出来ない。

「よし、まあこんなもんね。じゃあ、五時間前のあんたの部屋に行こうか」

 そのメイドは恥じらいながら、こくりと頷いた。

 

 

 いやー今回は苦労しました。何せ注文がメチャメチャ多かったですからねえ。でもあんな要求にまでぜーんぶ答えちゃうなんて、なんて健気で律儀なのかしら華代ちゃんったらもう!

 ま、とにかくこんなに仕事熱心なあたしに任せて貰えば何でも解決!お任せ下さい。

 いやー、幾ら相手が礼儀知らずでも、やっぱりいいことをするって本当にいい気分ですねえ。明日はあなたの元へ行くかも知れません。

 それではまた!