「華代ちゃんシリーズ」

「グランプリの娘」

作・真城 悠

*「華代ちゃん」の公式設定については

http://geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.html を参照して下さい


 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

 さて、今回のお客様は…。

 

 

 轟音が衝き抜ける。

 東野はあせっていた。いや、あせっても仕方が無い。

 もう全てを出しきって戦うしかない。それはピットクルーがこれ以上心配しても仕方が無いことだ。何よりレーサーよりもクルーの方が固くなっていてどうするのか?

 空いている時間ではあるが、ライバルチームの調子が気になる。

 少しだけ…ほんの少しだけ…と、東野は場を離れた。

 

 レースの様子を客席で観戦している小さな女の子がいる。

 観衆の祝福を受けて手を振っている花形レーサーの安藤。そこに美しいレースクイーン達が祝福のキスを浴びせる。

 

 ふうー、と大きくため息をついて座りこんでいる東野。

「駄目だ…運でここまで勝ちあがってきたけど…自力が違う…」

「おにーちゃん!」

「うわっ!」

 びっくりする東野。

 目の前に小学校低学年位の可愛い女の子がいる。

 …いやはや、モータースポーツも未来があるなあ…いやいやそんな場合じゃない。

「何してるのおにーちゃん?」

「いや…別に…お嬢ちゃんこそ」

「かよ」

「は?」

「かよ。ましろかよ。あたしの名前」

 と、言って名刺を差し出してくる。

 軽く見る東野。

 そこには「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」とある。

「あ、いいよ。油だらけになっちまう」

 と言って黒々とした手を見せる。

「そうですか…」

 と言って名刺をしまいこむ華代。

「で?お悩みは?」

「悩みねえ…」

 愉快そうに天井を見上げる東野。

「勿論今回のレースに優勝したいね」

「それがお悩みですか?」

「…」

 少し考える東野。

「いや、いいんだ。有難う」

 その顔は何かが吹っ切れた様子。

「思いきってやるしかないことをぐじぐじ悩んでても仕方が無いや」

 と言って立ちあがる東野。

「あ、おにいちゃん!」

「ん?」

「折角ここまで話を聞いたんだから「悩み」を聞かせてよ!」

「そうねえ…」

 可笑しそうに考える東野。

「強いて言うなら、うちのチームにキレイどころのレースクイーンがもう一人くらい欲しいね」

「はいはい。レースクイーンですね」

「じゃ、俺もう行くから」

「じゃあ、すぐに連れて行きますね!」

 と言って駆け出す女の子。

 その背中に声を投げる東野。

「もう登録時間はとっくに過ぎてるから大急ぎでなー!」

「えっ!?そうなんですか?じゃあ、一刻の猶予も無いわ!」

 走り去って行く。

「おかしな娘だなあ…」

 ちょっとからかい過ぎたかな?と少しだけ反省してチームに戻って行く東野。

 

 

「いいぞ!このままの調子を維持してくれれば確実に優勝だ!なあに、相手は聞いた事も無い様なポッと出の弱小チームだ!負けるはずが無い!」

「おいおい、そうプレッシャーかけないでくれよ」

 苦笑を漏らす花形レーサー・安藤。さっきのキスマークを拭いている、いかにも美男子なその容貌。

「じゃ、ちょっと俺、トイレ行って来るから」

「素早くな」

「ああ」

 

 どん、と走ってきた女の子にぶつかってしまう安藤。

「きゃあ!」

「おっと!」

 転んでしまう女の子。

「大丈夫かい?お嬢ちゃん?」

「いったーい」

 お尻をすりすりさすっている華代。

「あ、おにいちゃん!良い所で会ったわ!急いでるの!協力して!」

「ん?何の…こ…と…?」

 その女の子に声を掛けている途中からも、安藤の全身を異様な感覚が襲う。

「じゃあ!あたし先に事務所行ってるから!」

 と言って駆け出して行く女の子。

「な、何のこ…と…」

 胸の先がむずがゆくてたまらない。思わず見下ろす。

「あ、あああ!!?」

 信じられなかった。自らの胸が、見る間にむくむくと盛り上がってきているのである。

 その感覚は次にお尻を襲う。安藤は「自分のお尻が大きくなる」という感覚を味わった。不随意に、勝手にその脚が内股になっていく。

「お、俺の…身体…が…」

 レーシングジャケットから顔と並んで唯一出ていたその手首から先が目の前で見る見る白く、か細く、美しく変わっていく。

「て、手まで…」

 自分で見ることは出来なかったが、その声を発するその顔はもともとの堀の深い顔に似つかわしい美女のそれになって行く。

 そのウェストは折れそうなほど細くなり、ふくよかなバストとヒップを強調する。逞しかったその肩幅がぐんぐんと縮まり、身体全体が丸みを帯びた柔らかいものになっていく。

「…一体…どうしちまったん…だ?」

 ワンレングスのストレートヘアがふわりと頬を撫でる。

「あ…」

 変化はそれに留まらなかった。

 かかとの下に何かが出現し、足の裏をぐいっと押し上げる。

「わっ!」

 前方につんのめりそうになる安藤。

 驚く暇も無くその表面がエナメルになり、素足となったつま先を包み込む。それはハイヒールだった。

 素足?そう、そのレーシングスーツは下半身は既に無く、なまめかしい脚線美を空気にさらしていた。

「あ…」

 自分のものであるはずの大胆なそれに、ドキッとする安藤。

 生地の切れ上がりはとどまらず、身体の中ほどまでかと思うほど届き、超ハイレグとなる。

「そ、そんな…」

 ぴっちりとそのダイナマイトボディに張りついたレーシングスーツは「テリオ」とチーム名の入ったワンピースの水着に姿を変えていた。

「た、たすけ…て…くれ…」

 目の前で爪に真紅のマニキュアが入っていく。そして自分でもわかるほどまつげがぐぐぐ…と重くなっていく。

「…あ…」

 顔全体に広がる濃いメイク。同時に耳たぶにぷらん、と大きなイヤリングが下がる。

 仕上げとばかりに真っ赤なルージュがきゅーうっとその唇を彩る。

 その手には何時の間にか日傘が握られていた。

 安藤は、完全に美しいレースクイーンとなってしまった。

 

 

 走り抜ける車。

 狂喜している東野たちクルー。個々の声が聞き取れない程の狂騒。

「やったー!やったぞおー!」

 抱き合い、涙を流しながら喜んでいるクルー。

「しかし、相手の花形レーサーが突然いなくなるなんてラッキーだったな」

「今はそういう野暮は言いっこ無しだ!」

「それにしても彼女のはまさしく勝利の女神だな」

 そこには「テリオ」の名前が入ったワンピースを着た美しいレースクイーンがいる。ぱちっとウィンク。

「そうだな…あの女の子…まさかとは思ったが…」

 と、客席に華代と名乗った女の子を認める東野。大きく手を振る。

 華代ちゃんも手を振り返してくる。

 歓声はいつまでも続いた。

 

 

 いやー、おめでとうございます。やっぱり友情っていいもんですねー。あたしはただレースクイーンさんを連れてきただけなんですけど、なんかチームまで勝っちゃって…幸運とはまさにこのこと。おめでとうございます。

 そんなわけで、夢を諦めない人達の味方でもあるあたし、真城華代をこれからもよろしく!