「華代ちゃんシリーズ」

「番台」

作・真城 悠

*「華代ちゃん」の公式設定については

http://geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.html を参照して下さい


 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

 さて、今回のお客様は…。

 

 

「へえ、じゃあボランティアなんだ」

 尾崎は言った。

「うん。まあね。これでもセールスレディだから」

「セールスレディねえ…何を売ってるの?」

 ここは銭湯の番台である。尾崎は一人暮しでその部屋には風呂など付いている訳も無い。日々の銭湯通いは欠かせない。

「え?」

「セールスしてるんでしょ?扱っている商品は?」

「それは人のココロです」

「なるほどそりゃボランティアだ」

 尾崎は苦笑した。

 いつもよりも少し早めに銭湯に到着してみると、その番台には見慣れたおばちゃんではなく、小学生くらいの可愛い女の子がいたのだ。物珍しさからすっかり話し込んでしまった。

「はいどうぞ」

 と言って名刺を取り出してくる。そこには「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」とある。

「これは何て読むの?「まじょう・かしろ」?」

「ましろ・かよ!」

「へえ」

「で、ここのおばちゃんの悩みを聞いてあげているところなんです」

「ああ、番台やってくれって頼まれたわけだ」

「そうそう」

 なるほど、俺のような男が番台をやっていたのでは問題があるだろうが少女なら女性客にも抵抗が無いだろう。

「でもさあ、今番台で働いてんでしょ?」

「うん」

「まずいんじゃないの?自分の営業しちゃ」

 尾崎はからかった。

「エイギョウって何です?」

「いやいや、からかってすまん」

 その時、かぽーんという音がする。

「あれ?もうお客っているの?」

「ええ。いらっしゃいますよ。女湯に結構はいってます」

「ふ〜ん。じゃあ俺もそろそろ入るかな」

「毎度あり〜」

 その時、尾崎はついでにもう少しからかってやろうと思った。

「あのさあ、ココロとカラダの悩みを聞いてくれるんだよね?」

「ご依頼ですか!?」

 勢い込んで言う少女。

「うん…まあ、そうかな」

「なんです?何でもいいですよ!」

 尾崎はあたりを見渡す。男湯の方にはまだ人の気配が無い。

「女湯に入りたいなあ」

「女湯ですか…」

「あ、でも痴漢扱いは勘弁だよ」

「はあ…」

「それから変装、女装の類も駄目。覗きなんか持ってのほか」

「ええー…?…」

 考え込んでいる少女。

「ははは、まあ考えといてよ。俺、入るから」

 そう言って男湯に入っていく尾崎。程なくして常連客含めてそれなりの人数の客が男女問わずに次々と入ってくる。銭湯のかき入れ時の時間帯に突入した様だ。

 まだ考えている華代。

 常に人の入れ替えのある活気に満ちた店内。

 それぞれの更衣室を振り返る華代。「男湯」「女湯」の文字が目に入ってくる。

「華代ちゃん!ありがとうね!」

 中年女性が駆けつけてくる。

「あ、こちらこそどうも」

「お陰で助かったよ。じゃ、もういいから。これ、お小遣いね」

 と千円札を渡してくる中年女性。

「あ、いいです」

「いいから貰っときなよ」

 押し付ける中年女性。

「入れかえれば?…いや駄目だわ…」

 何やらぶつぶつ言っている華代。

「え?何だって?」

「あ、いや何でも無いです」

「そう。あ、いらっしゃいませー」

 新たなお客が来る。

 華代、出口に向かって歩き始める。

「そうか!」

 何か思いついたようなその表情。

「物理的に入れ替えなくてもいいんだ!」

 そのそばを「おかしな娘ね」といった表情で女性客がすれ違って行く。

「中身だけ入れ替えればいいんじゃない!」

 その少女は笑顔で銭湯の前を立ち去った。

 しかし、その笑顔とは裏腹に銭湯の中は阿鼻叫喚の大混乱に陥っていたのだった…。

 

 

 難しかったですう。今度の依頼。でもちゃーんと解決しましたからね。これであのおにいちゃんも女湯に入れた上に痴漢扱いされることも無い!いやーいいことをするって本当にいいもんですね!

 苦学生の味方でもあるこのあたし、華代ちゃんをこれからもよろしく!