「華代ちゃんシリーズ」・特別編

「THE END OF

  KAYONGELION」

作・真城 悠

*「華代ちゃんシリーズ・特別編」の公式設定については

http://geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan03.html を参照して下さい

*この作品はアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」を下敷きにしています。全てを観る必要はありませんが、TVシリーズの第弐拾四話までは観ておいたほうがより楽しめます。

*時間軸的には第弐拾四話の直後を想定しています。



「君はS/he(シー)という言葉を知っているかね碇くん」

「いえ…」

 ここは電子会議室である。いつの頃からかモノリスを思わせる石版状の表示だけになったゼーレの面々に囲まれている碇ゲンドウ。

「我々人類が第十八番目の使徒であったことは知っているな」

「それは裏死海文書にある」

 ゲンドウの目に入る「人類補完計画第18次中間報告」の表紙。

「ええ」

「ところが!だ。我々の予想もつかないところで第十九番目の使徒が誕生してしまった」

「予想外…ですか…」

「左様」

「しかし!」

 声を大きくするキール議長。いや、「01」と書いてある石盤。

「しかしこれは好都合でもある」

「君もエヴァの殆どを失って苦しかろう」

「まだ初号機があります」

「ロンギヌスの槍も最早無い」

「それとS/he(シー)とやらとどんな関係が?」

「その事だ碇」

「これが我々の人類補完計画の鍵となる」

「第十九使徒にその鍵がある」

 

 

 ぱちぱちとキーボードを叩いている青葉と日向。

 「これから俺たちどうなるのかねえ」

 「さあね。…政府機関だから食いっぱぐれ無いと思ったんだけどなあ…」

 と、言って立ち上がる青葉。

 「どうした?」

 「いや…、またマギの調子が悪いんだ」

 「またか?仕方ないなあ…」

 第17使徒であった渚カヲルとの死闘は、第14使徒ゼルエル以来の大損害をネルフに齎した。その傷はまだ癒えていない。

 

 

「S/he(シー)というのは造語、それも合成語だ」

「でしょうな」

「生物学的に観て明かにメスの方が生命力も強く、メリットも大きい」

「外部的な要因を全て除いても、だ」

「つまり腕力の強さ」

「身体そのものの頑丈さなどだ」

「…それで?」

「ところで君はサルについてどう思うかね」

 しばらく黙るゲンドウ。

「それは本件に関係のある質問なんでしょうな」

「無論だ」

「答えてみたまえ」

「…別に…」

「人間はサルが幼くして成長した姿であるとの意見がある」

「体毛も殆ど無く」

「サルに比べれば腕力も無い」

「…」

 中指で眼鏡をくいっと上げるゲンドウ。

「おっしゃることは分かります」

「更にだ」

 畳み掛けるキール。

「人間はサルより幼くしてサルよりも遥かに進んだ頭脳、いやこの地球上でもっとも優れた種族である」

「つまり、文明種族の程度と“幼さ”は比例するのだよ」

「…」

「20世紀末に目撃された宇宙人などはまるで人間の胎児の様だったそうではないかね」

「最早明かだ」

「左様」

 

 

 

「ふ…」

 建物を見上げる男。加持リョウジ。

「結局ここに戻ってきたか…」

 建物の周囲を用心深く見回す。

「さて…と、悪いなネルフのみんな。これも世の無常って奴だ」

「おにーちゃん!」

 突然下のほうから声を掛けられて、一瞬驚く加持。

「おにーちゃん。こんにちは」

 そこには小学生くらいの女の子がいる。

「お、おやおや。子供がこんな所にいちゃよくないなあ」

「あたし、こーゆー者です」

 そう言って何やら名刺状のものを渡してくる。

「ん?…」

 プレイボーイの性なのか、女性から渡された物に対して反射的に恭しく受け取ってしまう加持。

「何かお悩みなどありませんか?」

 にっこりと微笑むその少女。

 

 

 

「そして、女性は男性の幼態をそのまま成熟させた形という考え方が導かれるのだ」

「考えてもみたまえ」

「男性の幼少時期の特徴と成人女性のそれの共通点の多さを」

「皮下脂肪が厚く」

「概ね小柄」

「腕力も弱く」

「声も高い」

「左様」

「つまり、この地球上でで最も進んだ種族は人類であり、その人類の幼態の特徴を残したまま成熟する女性こそが、人類の中でも更に進んだ存在であるといえる」

「更に!」

 冷たいゲンドウの視線が眼鏡の奥から光る。

「この論を突き詰めれば、女性の更に幼態、つまり少女の形態こそが次世代の人類のあるべき姿だ」

「それをS/he(シー)と呼ぶ」

「つまり!人類補完計画とは全人類をS/he(シー)へと変容させることによって、より進化の高みへと導くことを目的とした計画なのだ!」

「今日より人類補完計画はその名を変える」

「「全人類少女化計画」だ!」

 

 

 

 じ…っと見つめているシンジ。

 何を…という事はない。

 ただ視線が顔の向いているのと同じ向きに向いているというだけのことだ

 どうしてこんなことになっちゃったんだろう…

 目の前に渚カヲルの顔がフラッシュバックする。

「カヲルくん…」

 また泣き伏すシンジ。

「おにーちゃん!」

「うわわっ!!」

 飛び起きるシンジ。

「どうしたの?元気ないわねえ」

「あ・・・あわわ・・・」

 目の前に突然現れた少女に口をパクパクさせているシンジ。

「私がその悩みを解決してあげるわ!」

 

「コード青!使徒です!!」

 画面に「ANGEL19」の文字が躍っている。が、けたたましい警報もならず、戦時警戒にも移行しない。

「19番目?まあこの間倒した使途は17体目なのになぜ!?」

 伊吹二尉がいぶかしがる。

 険しい表情の葛城三佐。

「戦自の方は?」

「あいかわらず大規模に動いてます」

「葛城三佐!」

 情報部の人間でありながら葛城三佐に続いて多くの人間が直接発令所に入ってくる。

「どうしたの?」

「いや・・・それが・・・」

「いいから言いなさい」

「しかしここでは・・・」

「一刻を争うの!早く!」

 

 

「あそこが本部だな・・・」

 双眼鏡から視線を落とす戦略自衛隊司令官。

「本部からの命令で指令があり次第、まずは制空権を掌握する。その後強行突入!!」

「おじちゃん!!」

 あまりに場違いの声に、一斉にそちら振り返る自衛官たち。

 

 

「基地の近くで少女が発見されました」

「少女?・・・迷子ってことはないわよね。身元は?」

「はあ・・・それが・・・」

「いいから言いなさいって」

「その娘は明らかに男性物のスーツに身を包んでおりまして・・・身元もその服にしか・・・」

「お父さんのスーツを借りた?その報告をしに来たの?」

「いやその・・・、彼女が言うには「オレハカジダ」と・・・」

 

 

 苦境の自衛官たちが悲鳴をあげている。

「う・・・あ・・・あああああ・・・!」

「た、隊長!!・・・な、なんでありますか・・・こ、これは!?」

「お、・・・俺が知るか・・・あ、ああ!」

「み、みんな・・・そ、そんな!!・・・」

 

 

「そしてそれがその答えだ」

「SEELE01」のいう表示が明滅して消えていき、そこから人影が浮かび上がってくる。

 ゲンドウの眼鏡の鏡面にも、その人影が映り込みその姿がくっきり輪郭を整える。

 そこには上品なブラウスに身を包んだ色白の美少女が映っていた。そのストレートヘアの光沢はまぶしく、その薄らと口の端に浮かんだ笑みさえなければ「深窓の令嬢」で通用しそうな可憐さだった。

「どうかね?」

 そんなかわいらしい声で言われても困ってしまうが、その少女・・・おそらくキール議長はいかにも誇らしげに言う。

「何しろまだまだ不慣れでな。この服を選ぶのにもかなりかかってしまったわい」

 と、床につきそうな長さのスカートをちょいとつまんで見せる。

 気づくと、周囲のウインドゥもそれぞれ美少女に姿を変えていた。

 

「どうかね?こんなすばらしい計画があるかね」

 ゲンドウは一気に華やいだ会議室を見渡して、ある種の不自然さに気づいた。

「残念ながら・・・」

 ゲンドウは言った。

「私にとっては30歳以下は興味の対象になりませんな」

 確かにゼーレの面々の変化したであろう姿は一様に若く、下手をするとローティーンにすら見える者もいた。

「これこそ残念だが、それはならん」

 かつてのキール議長・・・とは信じられないし、信じたくもない・・・その美少女は言った。

「基本的にこの真・人類は一生少女形態のまま成長することはない。そして当然老いることもない」

 ぴくりとひそめられるゲンドウの眉。

「そもそも“生殖”とは何か?」

「それは生物が自分の手を残そうとする場合に働いた防衛本能だ」

「肝細胞生物などは基本的に“分裂”することによってその命をつなぐ。もちろん雌雄同体ということになる」

「しかし“分裂”には全く同じ形のコピーしか作ることができず、それは同じ、たったひとつの原因で全滅してしまう危険性も同時にはらんでいる」

「そこで女性体の1部・・・つまり約半分に若干の修正を加えて“オス”とし、その遺伝子を持ち寄ることによって多様化を促し、種としての耐性を高めたのだ」

「つまり、進化したわれわれは“男性”という進化の途中の余分な要素も必要としなくなったのだよ」

「御講釈はありがたく拝聴しました」

 慇懃に言うゲンドウ。

「で、それと第19使徒の関係は?」

 

 

 バタン!!と開かれるドア。

 スヤスヤ寝ているアスカがそこにはいる。

「よかった・・・アスカは無事ね」

 ほっとするミサトね。

 すでにネルフ全棟はその機能を果たしていなかった。

 まったくの原因不明だが、各部がそれぞれ大混乱に陥ってしまっていたのである。

 しかしそれはネルフのみならず、日本全体がそうであった。おかげで、すぐそこまで来ていた戦自の動きも止まっていたのが救いだった。今、襲撃されればひとたまりもないであろう。

 と、腕につけた通信機に通信が入る。

「葛城三佐!!すぐに発令所に来てください!!へ、変な女の子が・・・な、なんだ君は・・・う、うわあああ!!」

 

 

「原因は分からない。しかしそれは突然に生まれた」

「そいつは、人々の「悩みを聞く」と称して、われわれを次々にS/he(シー)へと変えていった」

「それは裏死海文書にある第19使徒だったのだ」

「今ごろは、君のかわいい息子もわれわれの仲間になっているはずだ」

「そもそも、君にはもう分かっているはずだがね」

 そこにはだぶだぶの服に身を包んだショートカットの可愛らしい少女が座っていたのである。

 

 

 薄らと視界が回復してくる。

 波の音がする。

 身体の上に重さを感じた。

 そこには、顔にそばかすを浮かべた活発そうな少女が物珍しそうに自分の身体をなで回している。

 怪訝な目をその少女に向けるアスカ。その少女の顔にはどこか見覚えがあった。髪の毛はさらさらのセミロングになり、まるでなっていない着こなしの少女趣味の衣装に身を包んでいる。

「あ、ち・・・違うんだ。アスカ・・・これはその・・・ちょっと、どんなんかなあ・・・と、思って・・・」

 そのおどおどした口調は雄弁に事実を語っていた。

 長い沈黙。

「気持ち悪い」