「華代ちゃんシリーズ」27


「不自然」

作・真城 悠

*「華代ちゃん」の公式設定については

http://geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.html を参照して下さい



 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

 さて、今回のお客様は…。

 


 菅山は週刊誌をぱらぱらとめくっていた。
 暑い。
 ひたすら暑い。
 今年の夏は例年に無い暑さである。テレビのニュースでは連日「観測史上最高の」天気が続いている。何だか毎年そんな文句を聞いている気がするが、少なくとも今日この瞬間が暑いことは良く分かる。
 菅山は仕事で地方を回っている。
 地方の電車というのは地域によっては1時間に1本程度しか出ていない。しかも構造が特殊である。
 都内の電車は椅子が全て壁に張り付く様に内側を向いている。だが、この地方の電車・・・それもせいぜい4両編成・・・は一味違う。
 お互いに向かい合うように並ばされた固定式の椅子が2列に並んでいる。ちょうど、新幹線の椅子を向かい合わせにした感じと思ってもらえば間違いが無い。
 そう、座ろうと思ったら目の前に見ず知らずの人間が座るかもしれないのである。
 これは「一度乗ったらなかなか止まらない」地方独特の特徴だろう。車両の数自体が非常に少ないので椅子を増やす目的もあるだろう。
 勿論その座り心地は最悪である。薄い薄い薄汚れたクッションが貼り付けてあるだけ。目の前には昼間から酒臭いおっさんがだらしなく寝ている。

 椅子の並び方だけはグリーン車だが、それ以外は路線バス以下の装備しかない。クーラーなんて都内じゃ通勤電車にも装備されているのにこの年代ものの車両には扇風機すらない。
 初乗りが1000円というのも都会暮らしに慣れたやわな都会人には驚きである。それは快速だの特急だのしか来ないからである。かといって普通を待っていては2時間3時間待ちとなる・・・こんなんで田舎の人は一体どうやって生活しているのだろう?
 ともあれ退屈しのぎに週刊誌をめくることになる。
 毎度おなじみのワイド特集を読むうちに目の前に恐怖の光景が広がっていった。
 電車はトンネルを抜けるとそこは森・・・というよりジャングルの中だった。木々が途切れるとそこには山々が・・・ここは本当に日本なのだろうか。
 人の気配の全く感じられない光景の中に伸びる線路はちょっとシュールな光景だった。
 ・・・そもそもこの週刊誌だって明らかに先週のものだ。駅の売店なんてこういった「更新」は最も敏感だと思っていたのだが、地方では限界がある様だ。そもそも雑誌の種類も新宿のキヨスクあたりで見かける種類の半分程度しかない。大体駅員をあまり見かけない。確か、とある地方が「県庁所在地の隣の駅がもう無人駅」と雑誌の投稿コーナーで笑いものにされていた。
 よく旅番組なんかで頭の軽そうなタレントが地方にやってきて「自然が沢山あっていいですねぇ〜」などと言っているが自分が済むことを考えると悪いけどゾッとする。

「おじちゃん」
 ・・・びっくりした。
「どうしたの?」
 と、そこには小学校の低学年くらいの女の子がいる。
「・・・いや、別に・・・」
 菅山に限らず、身近に子持ちの親戚や知人でもいない限りいい年をした大人は「子供」と話す機会は意外に無い。
「退屈そうね」
「・・・ん?あ・・・まあね」
 地元の子だろうか?・・・こういっちゃ何だが小奇麗な格好で周囲の風景とそぐわない。
「はいこれ」
 何かを渡してくる。
「・・・?」
 思わず手にとってしまう菅山。
 そこには「ココロとカラダのお悩み、お受けいたします 真城 華代」とあった。
「おじょうちゃん・・・これは?」
「何でも悩みを言ってください。あたしが解決してあげます」
 まさか暑すぎて白昼夢を見てるってことは無いよな・・・と菅山は苦笑した。
「ああ〜っ笑ったわねぇ〜っ!」
 少女はプンプン怒っている。
「あ、いやいやそんなことは無いよ」
 こんな所まできて子守りとはトンだ災難だな、と思った。
「それじゃあ今の希望を言ってみて!」
 やれやれ、顔は可愛らしいけどこまっしゃくれた子だなあ、と半ば呆れた。邪険に扱ってもいいのだが泣かれたりすると面倒なので適当に扱うことにした。
「そうだねえ・・・」
 菅山は先ほど買った週刊誌のグラビアをめくった。そこには少々化粧が濃い目ではあるものの知的な雰囲気を漂わせるスチュワーデスの面々が笑顔を競っていた。
 勿論服は着たっきりである。「素人モデル」って奴なのだろうか。
「スチュワーデスさんの職場に行きたいね」
 スチュワーデスのいるような職場・・・それは当然飛行機の中である。きっと冷房も効いて快適なのだろう。行き着く先も近代設備の整った空港で・・・いつもはそんな調子の出張なのだが・・・菅山は軽い気持ちでそう答えた。
「ふむふむ・・・スチュワーデスさんねえ・・・」
 少女は腕組みをして考え込んでいる。
「こんな電車の中にスチュワーデスさん?」
 何だか分からないがどうも本気にしているらしい。
 面白いので菅山はその冗談に付き合うことにした・・・いや、正確にはからかってやることにしたのだ。
「ああ、そうだよ」
「うーん・・・でもねえ・・・」
「何か問題でも?」
 菅山は笑いをこらえるのに精一杯だった。
 少女は脂汗を流して考え込んでいる。
 やれやれ、・・・まあ退屈しのぎにはなったな。
 菅山は窓の外に視線を移した。と、建物の影が見えてくる。これまで木と山とせいぜい田んぼと畑しか見えなかったのだからこれは大変な進歩だった。どうやらこの辺には人が住んでいるらしい。
 田舎出身の奴にこの手の冗談を言うとえらく怒ったものだが、こりゃ言いたくもなるわい。
 菅山は腕時計を見た。
 確かそろそろだったな・・・菅山は荷物をまとめようとした。
「そうだ!」
 突然飛び上がる様な声が上がった。
「うわっ!」
 つられて大声をあげてしまう。
「解決法を思いついたわ!任せて!」
 なんだよ。まだそんなことをやってたのか。
 その大きな声に、あまり多くない客が一斉に菅山と少女の方に振り返った。


「・・・なんだ?・・・あれ・・・」
 通行人の1人が高架橋を見上げて言った。
「ん?何だよ」
 数瞬後、この都市の駅近くにいた人々はその驚天動地の出来事に言葉を失っていた。
 駅に停止するはずの電車は、スピードを落とすどころか益々上げ、そのまま通過した。

 ガキガキガキ!

 鋼鉄のひしゃげる音が響き渡る。
 電車の前面が潰れ、ぐしゃりと丸くなる。

 バキバキバキ!

 内側に陥没する電車の鉄板。各部が剥離し、分裂して別の部分に突き刺さる。


「た、大変です!で、電車が・・・電車がああぁああ!」
 駅の関係者が掛けてもしょうがない電話を怒鳴っている。都市は既にパニックになっていた。


 明らかに容積を増した合金の集合は車体の脇から後ろ斜め方向に突き出た腕に肉付けを繰り返していった。そして・・・なんとうことだろう、線路から浮き上がっていた。
「あ・・・あれって・・・・」
「ひ、飛行機?」
 既に都市内はパニック状態だった。


 四角く角張っていた車体は流線型のボディとなり、大きな翼の下にジェットエンジンが装備された。どこから出現したのか垂直尾翼と水平尾翼を供えたその機体は空高く舞い上がって行った・・・。



「・・・、こ・・・これ・・・は・・・」
 菅山は呆然としていた
 目の前に見えていた景色が歪み、足元が揺れた瞬間から我を失っていた菅山は気がつくとトイレに駆け込んでいた。
 そして・・・そこには信じられないものがあった。
 よく考えたらこんな田舎のオンボロ各駅停車に個室の洗面所なんてあるはずが無いのだ。
 目の前の鏡に映る紺色のスーツ・・・
「あ・・・あ・・・」
 さっきまで俺はYシャツだった。この暑さだ。スーツなんて着ていられない。
 しかし鏡の中の自分はスーツを着ていた。しかも紺色で、白い縦線が入った・・・。そのスーツは胴を越えて下半身まで及んでいた。
 鏡の中には松嶋菜々子の様な美人スチュワーデスが呆然とこちらを見詰め返していた。
 ・・・これは・・・ま、まさか・・・俺?
 自らの身体を見下ろす。
 そこには控えめのバストを越えてスカートの下から黒いストッキングの自らの脚が見えていた。
「あ・・・ああ・・・」


 さあ、今回のお仕事も簡単でしたね。
 そうですよ。その場にいる人が不自然なら回りの方を変えちゃえばいいじゃないですか。いやー、なんでこんな簡単なことが思いつかなかったんでしょう。
 これで解決ですね!はい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 どうも。予告からかなり経っちゃいました。華代ちゃん新作をお届けします。
 これもまたかなり強引な「状況作り性転換」・・・って状況しか作ってない気もしますが(爆)。
 毎度「描写がしつこい」と言われる私にしてはかなり抑え気味の描写になっております。っていうか「変身シーン」が登場しない「華代ちゃん」はもしかして前代未聞?
 でもまあ、このジャンルの作品を読みなれた読者諸氏にはこれでも充分だと自負しております。

 これからも「状況作り性転換」などの新機軸を元に製作に励みたいと思っておりますのでよろしく!