「おかしなふたり」外伝
ないとめあ〜
作・Bシュウさん

 夜、少年―翔は胸騒ぎがして目を覚ました。普段、眠りの深い彼がトイレ以外にこんな夜中に起きることは珍しかった。しかしまだ外は暗く部屋を見回しても暗いだけで特に異常は無かった。
 (気のせいかな…)
 多少不思議ではあったがもう再び寝直そうと布団を被ったその時、
「しょ〜ちゃ〜ん〜」
 その声に彼は驚いて跳ね起きた。この家の誰の者でもない声…この真夜中の訪問者が自分にとって好意的な人物だとはとても思えなかった。
 (まさか…泥棒?)
 夕方のニュース等で放送されている泥棒の姿が思い浮かんだ。色々な想像が駆け巡る中、
「しょ〜ちゃ〜ん〜」
 今度こそはっきり聞こえたその声の方向に振り向く。先ほどまで何もなかった窓際 に一人の人物が立っていた。そしてそこにいたのは彼の良く知る人物だった。
「さ…聡お姉ちゃん」
 そこに立っていたのは彼の母の妹の娘…ようはいとこにあたる城島聡であった。夜中の部屋に制服姿の女子高生は笑っちゃうくらい不釣合いだった。
 彼にとって彼女はただのいとこでは無い。先日城島家を訪れた際彼にとって忘れることのできない思い出を作ってくれたのが彼女と彼女の兄であった。
 「あの時」と同じ天使のようなスマイルでこちらを見ている。しかし逆にそれが不気味であった。
「お…お姉ちゃん、どうしてここに?」
 意を決して声をかけた翔であったが、聡はきっぱりと無視すると相変わらずのスマイルを崩さないまま言った。
「翔ちゃん?」
「うん?」
「この前あたしがした話…覚えてる?」
「う…うん?」
 すると彼女は返事は別にどうでも良かったのか、感心したように首を大きく上下させて、
「そう、『女の人はその気になったら男の子を女の子に変える力がある』って言ったわよね?ところで翔ちゃん……3日前の事、覚えているわよね」
 ぎくっとして翔は生唾を飲み込んだ。三日前彼は友達数人と一緒に授業中、学校を抜け出して『限定版超合金TSフォーマーEX』を買いに行ったのだ。
「学校さぼるなんて…そんなことをするのはどんな子かな〜?」
 ひたすらスマイルを崩さない聡。その場で動けなくなってしまった翔の方に近づいてくると、
「真希お姉ちゃんは優しいから見逃したかもしれないけど…やっぱり悪い子には〜…『お・し・お・き』しなきゃいけ」
「うわ〜っ」
 その言葉が終わらないうちに翔は部屋から飛び出した。しかし部屋の扉から出て廊下に出た瞬間翔は固まった。そこには見慣れた家の廊下は無くただ何もない真っ暗な空間が広がっていたのだ。後ろを振り返るとゆっくりと聡が近づいてくる。とりあえず前に向かって全力で走る。
「はあはあ」
 どれだけ走っただろう。いい加減疲れてへたり込むと
「こ、これだけ離せば…」
「しょ〜ちゃ〜ん」
 翔は心臓が飛び出るかと思った。先ほどと変わらないスピードで聡が背後から追いついてくる。聡はあと数歩というところまで来て立ち止まった。翔はすがるような目つきで
「ご…ごめんなさい」
「駄〜目!もうこんなことしないように…女の子になっちゃいなさい!」
「!」
 聡がびしっと指差すと同時に翔の体にしびれるような感覚が現れる。
「翔ちゃん位の歳になるとそろそろおっぱい膨らんでくる子もいるわよね」
 そういうとパジャマの下の胸の部分がぼんやり暖かくなってくる。パジャマの間からちらっと見えた自分の胸はささやかだが太ってできたのとは全然違う膨らみができていた。
「髪も伸ばしちゃうぞ!」
 と頭がむずむずしたかと思うと一気に彼の髪が伸びてきた。震える手で触ってみると、2組の百合子ちゃんみたいにさらさらできれいな髪になっていた。
「女の子はもっと柔らかい肌しているのよ」
 というと体全体がしっとりとした感じになった。そして翔にとって最も恐ろしい瞬間がやってきた。
「当然女の子に×××××はいらないわよね。翔ちゃんの×××××…どっかに飛んでっちゃえ!」
「えーっ!!!!…あっ」
 下腹部の感覚が薄れていく。慌ててそこに手をもっていくが、その時にはもう何も無い平らな感覚しか返ってこなかった。
「……」
 物も言えずその場にへたりこむ翔。ちなみにその座り方も『とんび座り』といわれる女の子独特の座り方であった。
「いい?もう悪いことしちゃ…」
 途中で言葉を切った聡を不審に思って翔が彼女の方を向くと
「か…」
「か?」
「かわいい〜!」
「あっ」
 今度は身の危険(笑)を感じて翔は走り出した。ただ慣れない感覚のせいか上手く走ることができない。対して聡は先ほどとは打って変わってすごいスピードで追いかけてくる。
「かわいい子は〜た〜べちゃうわよ〜」
 その言葉にスピードを上げる翔。しかし聡との差はどんどん詰まっていく。
「うわっ」
 とうとう追いつかれてその場に押し倒されてしまう。聡はこれ以上ない位輝いたスマイルで言った。
「うふふふふ…それじゃあいただきま〜す!」


「はっ…」
 布団から飛び起きた翔は周りを見回した。いつもの自分の部屋だ、朝日がカーテンの間からこぼれている。手を見るとぐっしょりと汗をかいていた。思わず自分の体を触って確かめる。特に変わったところは無かった。
「夢?」
 ちなみにその後彼は母親に3日前の事を話し謝った。
 ―同時刻、某所城島家
「……」
「うふふ〜た〜べちゃうわよ〜むにゃ…」
「夢の中でも飯を食べているとは…食い意地の張った奴だなあ」
 妹を起こしに来た歩は嘆息した。そのかわいらしい寝顔の下でどんな夢が展開しているかなど神ならぬ歩には知る由も無かった。
                                                             了

 この作品は、以前に頂いていたものを掲載させていただいたものです。
 「おかしなふたり」はシェアードワールド化しておりません。一応こちらにも色々と予定があったりしますので(^^;;、本編に抵触しかねない二次創作に関しましては基本的にご遠慮頂いております(^^。
 今回はサブキャラのその後、という実に上手い「番外編」であったこともありまして、公開させていただきました。これは数少ない例外であることをご了承下さい。
                               真城 悠