おかしなふたり 連載261〜270 |
第261回(2003年06月03日) よーし、今度こそボタンを・・・。 しかし歩(あゆみ)は何か違和感を感じた。 ・・・?何かヘンだ。 いや、男だったのが女になってしまっている現在よりもヘンな状況はありえないのかも知れないけど、そういう分かりやすい異変では無い。 何だろう?このボタンの外しにくさは? 何だか指先の使いにくさを忘れてしまった様な感じである。 ど、どうしよう・・・もう休み時間もごく僅かだし・・・。 あ!そうか! やっと分かった。 ボタンの留めが逆なのである。 右前と左前という奴である。 へー、そうなんだ・・・これが・・・。 何と言うか感心しきりである。女の服ってのは単にズボンがスカートになったという単純なものではないのだな、と思った。 ま、ともかくこのゆるゆるの情けないブラジャーを何とかしないと。 ・・・。 頭の中で“ブラジャー”という単語を思い浮かべたことでまた赤くなる歩(あゆみ)だったりして。 |
第262回(2003年06月04日) これまでとは合わせが違うボタンに悪戦苦闘しながらなんとかボタンを外していく。 えーと、ブラウスの裾をスカートから出さ・・・ないと背中側に手は回せないよな・・・。 スカートを履いて下半身が殆ど剥き出しになった状態ではいまいちはっきり分からないのだが、当然ながらスカートの中には押し込められた裾が飛び出ていることになる。 これを引き抜いてブラジャーを背中で留め、そしてまた裾をスカートに押し込まなくてはならない。 まあ、やってることはズボンと変わらないのだが、当たり前のことがいちいち恥ずかしい。 だがその瞬間だった! またもやあの謎の変身感覚が襲って来たのだ! 「わあっ・・ああっ!」 服の下のゆるゆるブラジャーが生き物の様に動き、歩(あゆみ)に生成されてしまった乳房周辺の脂肪と肉をかき集めてカップの中に押し込み、そして背中側でぱちり、と留められたのだっ! 「・・・ん・・っあ・・・!」 こ、これは・・・一体・・・? 不思議がっている間に外されたボタンがひとりでに閉じていき、スカートやリボンの乱れまでが次々に修正されていった。 瞬く間に変えられた直後と同じく身だしなみの整った女子高生がそこにはいたのだ。 ぽかーん。 |
第263回(2003年06月05日) ま、こんな感じかな。と聡(さとり)は思った。 ありえないことだけど、もしも今自分の格好になっちゃってるお兄ちゃんが何かのきっかけで別の姿になってても今の「メインテナンス」でばっちり女子高生の制服姿に戻れたはず。 うん、よしよし。 まあ、もしも服を脱いでたり乱れてたりしたらひとりでに戻ることになっちゃうけど、まさかそんなこと無いよね。 あのお兄ちゃんが自主的に女子の制服脱ぐとは思えないし。 それを分かっていながら毎日性転換&女装させているのだから罪作りな妹である・・・。 |
第264回(2003年06月06日) そんなこんなで何とかその日は乗り切った。 本当はその後も色々とあったのだが、午後最初の授業、5時間目が終わると同時にスカートを翻して飛び出していったそのショートカットの可愛らしい少女は、兄貴を引きずる様に教室からさらった。 理の当然の様に直後に“元に戻った”兄妹がそれぞれの教室に帰っていくことになるのだが、周囲の人間はそんなことは知る由も無かった。 |
第265回(2003年06月07日) あれからも恭子ちゃんとの関係は変わることは無い。 教室で会えば普通に会話するし、大抵は聡(さとり)が一緒だったけど帰宅時間が合えば一緒に帰ったりする。 言い方を変えれば、それ以上に踏み込む事はあまりなかった。 そして、流石に危ない橋を渡りすぎたと反省したのか学校で変身させられることも無かった。 “無かった”ったってあれから2〜3日しか経っていないんだけど。 今日は日曜日である。 期末テストも週明けの2日を残すのみ。 小学校や中学の時みたいに無条件にワクワクしたりはしないけども、夏休み前の高揚がどこかにあった。 歩(あゆみ)は高校2年生、聡(さとり)に至っては1年生なので、どうしても受験の切迫感に乏しい。 歩(あゆみ)は実は少しいい知らせがあった。 何と言うか、恭子を盾に聡(さとり)による「兄いじり」をちょっとは回避出来るんではないかな?というほのかな希望である。 |
第266回(2003年06月08日) 恭子が転校してきて早々にカラオケボックスで遭遇した時に、よりによって変身させられ、ピンクハウスなんぞ着せられていたせいで「あゆみちゃん」という“新キャラ”を演じさせられてしまった訳だが、それでも基本的に・・・女の子の友達がいるということは大きい・・・気がする。うん。 却って面白がって性転換&女装させられる気が・・・いや!違う違う!そんな事は無いって! 勝手な想像が頭の中をぐるぐる回って否定したりあーしたりこーしたり大忙しである。 流石の妹もここ2日ほどは「夜の性転換&制服女装」はお休みらしい。 テストだもんな。うん。 勿論、歩(あゆみ)だって笑い事ではないので真面目に勉強している。 別に理由は何だって構わない。友達と携帯電話で話していようがなんだろうが女装させられないだけいいわい。 しかもこの間約束した通り、お互いの監視下でしか変身させないことに決まっているから、部屋にいて突然性転換したりはしない。 ・・・少なくとも今のところは。 もしもそれこそ風呂に入っている時やトイレにいる時ににいきなり性転換させられたりしたら・・・。 考えるだけで身震いがする。 |
第267回(2003年06月09日) 「いつ来るんだっけ?」 「もうすぐじゃねーの?」 「ねえねえ!まだだっけ?」 聡(さとり)が母親にしつこく聞いている。 「もうすぐ来る頃なんだがなあ」 この小説では影の薄い城嶋家の父親もきちんと客間に座っている。 家族での男女比は2:2。拮抗しているはずなのだが、底抜けに明るい性格の女性軍と比較的普通の男性軍ではどうしてもイニシアチブを女性軍に握られがちになってしまう。 くわえて男の子と父親というのは女の子と母親よりも若干関係に距離がある。 父と母はケンカしたのを見た事が無いほど二人とも穏やかなのでどちらかが主導権を握っているという感じでは無いのだが、子供であるところの兄妹に関しては完全に主導権は妹のものであった。 何しろ「言うとおりにしないと女の子にしちゃうぞ!」という冗談みたいな脅し文句が現実になっているのだから。・・・そして言う事を聞いても女の子にされちゃうのであるが・・・。 |
第268回(2003年06月10日) 「もうすぐ来るって。今角を曲がったらしいわ」 なんだか嬉しそうな母親。 確かに久しぶりに会うので気分が華やぐのも分かる。 父親の姉の子供である娘の子供が来るのだ。 分かりやすく言うと、僕ら歩(あゆみ)と聡(さとり)にとっては「イトコのお姉ちゃん」にあたる人が結婚して子供が生まれたので連れてくるというのだ。 その子供は歩(あゆみ)や聡(さとり)にとっては「甥(おい)」に当たる訳だ。高校生にして「おじさん」「おばさん」になってしまった。 ん?よく考えると違うのかな?まあいーや別に。 最もその“イトコのお姉ちゃん”ももう三十代近いのであるからそれほど不自然でも無い。 西村真希(まき)お姉ちゃんは子供の頃にはよく遊んで貰った。一回り以上年が離れているので“友達”という感じではなく、本当に「お姉ちゃん」という感じだった。 歩(あゆみ)は「妹」はいるけども「姉」はいないので、人生でほぼ唯一「お姉ちゃん」と呼べる人である。 |
第269回(2003年06月11日) それでも結婚して家を出た形になった真希お姉ちゃんは苗字も変わって、行事も旦那さんの実家に合わせるようになった。 城嶋家の兄妹もいつまでも小学生では無いので、旅行しないと会えない真希お姉ちゃんとは少しご無沙汰だったのだ。 ・・・どうもこの頃は懐かしい人によく会う気がする。 そんなこんなで今日やって来る「甥っ子」である「石田 翔(しょう)」君は、もう「5歳」だったりする。 うーん、そんなに小さな子と接するのは久しぶりだなあ、と歩(あゆみ)は思った。 城嶋兄妹は一歳違いの年子である。殆ど一緒に成長したので“妹の世話をした”記憶なんてあるはずがない。同レベルであれこれやってたのだ。 だから小さな子のリアルな成長の段階の知識なんててんで無い。 赤ちゃんって何歳頃で立って歩けるんだっけ? まあ、そんなレベルである。 だから「5歳の男の子」がどんな風だったかちっともピンと来ないのだった。 |
第270回(2003年06月12日) 「なあ、翔君の小さい頃とか覚えてるか?」 小声で聡(さとり)に話し掛ける歩(あゆみ)。 「うん、まー」 ちょっと思い出す素振りをする妹。 「でも赤ちゃんだった時の記憶しか無いなー」 「そうよねえ」 母・城嶋綾(40)が相槌を打つ。 「でも、かなり元気な子みたいよ」 父・城嶋智明(43)黙ってお茶を飲んでいる。 ピンポーン! 呼び鈴が鳴った! |