おかしなふたり 連載281〜290

このページのイラスト:おおゆきさん

第281回(2003年06月23日)
「あ、いーのよ。気を使わなくても」
 真希お姉ちゃんが助け舟を出してくれるが、そこはそれで「助かるわ」と顔に書いてあるのがあうんの呼吸で聡(さとり)には分かった・・・気がした。
 聡(さとり)の早合点なのかもしれないが。
「あ、そーね。連れて行ってあげなさい」
 と、これは母。やっぱりこの母娘は思考回路が似ているのかもしれない。
「えー!だりー」
 相変わらずの翔である。
「でもさっきから退屈なんでしょ?」
「ゲームある?」
 間髪入れずにこれである。
「うーん、ごめん。女子高生なんでね。部屋にはテレビも無いの」
「あんだよ使えねーなー」
 ぴくぴく歩(あゆみ)。
「いーからいらっしゃい。“もっと面白い物”があるから・・・」
 聡(さとり)が無気味に笑った・・・様に見えた。
 ゾクッとすると同時に肩をちょんちょん、とつつかれた。
「お兄ちゃん、ちょっと来て」


第282回(2003年06月24日)
 慌しく廊下に出される歩(あゆみ)。
「な、何だよ・・・」
 とはいうものの、実はあの猛獣から解き放たれて少々ホッとしていたのも確かだった。
「あのねお兄ちゃん」
「・・・」
 早くもいや〜な予感がしていた。
 この妹がこうして神妙にこちらに物を頼むなど大抵ロクでも無いことをたくらんでいるに決まっているからだ。
「翔ちゃんはちょっと調子に乗りすぎだわ」



「まあ、そうだな」
「ここはひとつガツーン!とかまさないと駄目だと思うのよ」
「そうかもしれんけど・・・お姉ちゃんの子供だしなあ」
 城嶋家で“お姉ちゃん”と言えば真希お姉ちゃんのことを指す。
「何もひっぱたこうってんじゃないわ。『おいたをするとこんな目に遭うのよ!』と知らしめるの!協力して!」
 物凄く楽しそうに言う聡(さとり)。
 どうもこの言い方だと、歩(あゆみ)にビシッ!と叱って欲しいみたいだ。
 うーん、わが妹とは言えこう言う風に頼りにされるのも悪くない。
「よっしゃ。いいぞ」
「ありがとお兄ちゃん!それじゃあたしの部屋に行こうか!」
 しゅっ!と客間に入って翔を引っ張ってくる聡(さとり)。
「じゃあ、お姉ちゃんの部屋に行きましょー!」


第283回(2003年06月25日)
「はい、ここよ」
 可愛いマスコットなんかが掛かっているドアの前。
「ふーん」
 ちょっとだけしおらしく見える翔(しょう)。
 やっぱりこいつでもほぼ初めてに近い“女の子の部屋”には緊張するのだろうか。
「しょーちゃんでも、前に入ったことあるんだよ。まあ生まれてすぐの頃だけど」
「し、知らねーよ」
 そうそう、こいつも無垢な赤ん坊の頃があったのである。
 こんなクソ生意気なガキに育つとは思ってなかった。
「はい、どーぞ」
 がちゃり、とドアを開けて男二人を招き入れる妹。
 ま、こいつの性格も例外的に開放的過ぎるんだけどな。
 半ば迷惑なくらい仲のいい城島兄妹が、友人・知人に羨ましがられているという話は以前にもした。
 まあ、確かにその妹というのが、兄を“念じるだけ”で性転換&女装させることが出来る能力者という、特殊も特殊、超特殊な環境ではある。
 それでも、お互いの部屋に入るのに殆ど心理的な抵抗が無いというのは歓迎すべき関係なのだろう。
 余りにも慣れていて当たり前のことにしか感じなかったのだが、先日友人が来た時、妹の持っている漫画を無断で部屋に入って取ってきたら、鳩が豆鉄砲を喰らった様に驚かれたことがある。
 殆どの兄妹は、ことに思春期ともなれば友好的な関係どころか冷戦状態で、全く交流が無いことすら珍しくないというのだ。だからお互いの名前を吐き捨てる様に呼び捨てるなんて当たり前、お互いがいない時に勝手に部屋に入れる関係なんてとても考えられるものでは無いというのだ。


第284回(2003年06月26日)
 見慣れている小奇麗なわが妹の部屋。
 ちょっと珍しいのが、入ってすぐに眼に入ってくる大きな姿見・・・全身鏡・・・であろうか。
 勿論、この妹の持つ余りに特殊な能力・・・念じるだけで兄を性転換&好きな姿に女装・・・させることの出来る能力をより楽しむためのアイテムなのだが、そんなことは他の誰も知る由もない。
 ま、女の子の部屋に大きな鏡があってもいいだろう、というところか。
「ふーん、狭い部屋だな」
 相変わらず口の減らないガキである。
「そーよ」
「ゲームねえのか?」
「・・・ま、いいわ。そこに座りなさい」
「あんでだよ」
「いーから座る!」
 何故か歩(あゆみ)がビクっ!とする。
「説教なら聞かねえぞ!」
「・・・」
 聡(さとり)がにやーりと笑う。
 こ、これからこの悪がきは一体どんなヒドイ目に遭わされるのだろうか・・・?


第285回(2003年06月27日)
「えーとね、翔(しょう)ちゃん」
 何故か男二人を床に座らせて1人で場を取り仕切っている聡(さとり)。
「しょうちゃんは知らないだろうけど、大人ってのは恐いのよ」
 一体何を言い出すのか。
「何だよそれ」
「しょうちゃん、ママに怒られたことあんまり無いでしょ?」
「まーね」
 ふむ、殆ど怒られないからこんなガキが出来上がる訳か。
「でもね、それは手加減してるだけなのよ」
「何言ってんだかさっぱりわかんねーよ」
 翔(しょう)が明らかに退屈し始めた。それはそうだろう、歩(あゆみ)にも良く分からない。
「はやく中華食いに行きてーよ!」
「おだまんなさい!」
「やだ!ママんところに帰る!」
「こらーっ!」
 大きな声。
「駄目じゃないのお兄ちゃん」
 ・・・え?
「お兄ちゃん、この間のお食事の時に粗相をしたでしょ?」


第286回(2003年06月28日)
「・・・・・・え?」
 余りの事にポカーンとしてしまって二の句が告げない歩(あゆみ)。
「いつもはそーやって大人しいお兄ちゃんだけど、あの時は人の言う事は聞かないし、お母さんに対して“ババア!”とか言ってたでしょ!今の翔ちゃんみたいに!」
 無茶苦茶に説明的な台詞である・・・。
 が、勿論全部作り話である。
「いやあの・・・」
 思わず説明を求めようとしてしまう歩(あゆみ)。
 だが、聡(さとり)はしきりにバッチン!バッチン!とウィンクをして何やら“合図”を送っている。
 いや、そんな合図送られても・・・。
 口うるさい翔(しょう)も余りに突飛な事の成り行きに興味深く見守っている。
「そーゆーわけでおしおきよっ!」
 びしいっ!とポーズをつけて歩(あゆみ)を思いっきり指差す聡(さとり)。
 ・・・何故か矛先が歩(あゆみ)に向いてしまった。
 その時だった。
「・・・っん!」
 胸の先がうずく。
「あっ!」
 7月の陽気に合わせて一枚だけ引っ掛けていた歩(あゆみ)のTシャツの下にむくむくむくっ!と乳房が盛り上がってきたのだ!



「ああっ!」
 悩ましい表情で声を上げてしまう“兄”。


第287回(2003年06月29日)
「・・・?」
 翔(しょう)は何が起こったのか分からないみたいだった。
「ば、馬鹿・・・何を・・・」
 思わず声が出てしまう歩(あゆみ)。
 何て事をするん・・・だ!
「あーこれこれ!これもおしおきよ!」
 思わず押さえようとしてしまうが、敏感になっているそこをあまり強く押さえつけるのも・・・と気が引けている内に、ツンと上を向いた形のいい乳房がTシャツを綺麗に押し上げ、その形を確定させてしまった!
「ほーら!おっぱいできちゃったでしょうが!」
 もう無茶苦茶である。
 どうして歩(あゆみ)がこんな目に遭わなくてはならないのか。
 翔(しょう)の目が大きく見開かれる。
 もう、誰が見ても歩(あゆみ)の胸には大きなおっぱいが鎮座していたのだ。
「でもって・・・さらにこうよ!」
「ああ・・・あああっ!」
 “妹”の号令で“兄”が悩ましい声をあげて身悶える。
 そして見る間に、むくむくと縮み、寸詰まりになっていく上半身。その形状は丸みを帯びた皮下脂肪の厚い女性的なものだった・・・。


第288回(2003年06月30日)
 ぽかーんとしている翔。
 驚いているというよりも、何が起こっているのか分からない様子だった。
 ただ、目の前でただならぬ出来事が進行しているということだけは分かる。
 ついさっきまで元気だった親戚のお兄さんが悶え苦しんでいるのである。
「えーとね・・・それじゃあいつもと順番変えちゃうぞ!」
 可愛く仕草をつけたりしている聡(さとり)。勿論歩(あゆみ)にはそれどころではない。
 頭皮がむずむずする。
「あ・・・あ・・・」
 毛根がほんの少しちくちくしたと思った瞬間、湧き上がる様に、さらさら出美しい髪が噴出した。
「・・・っ!!!!!」
 翔が“ビクっ!”とした。
 胸が膨らむアクションに比べてもこれは見た目に余りにも分かりやすい変化だったのだ。
「ああっ!」
 悩ましい表情の兄の姿は、ハト胸でTシャツを突き上げたストレートロングの黒髪が美しい美少女のそれになっていた。


第289回(2003年07月01日)
 今度という今度は大きく目を見開く翔。
 無理も無い。事情を知っている歩(あゆみ)ですらこんなもの見せ付けられたらたまらん、と感じる恐怖のパノラマである。
 長い髪がさらさらと揺らぎ、肩に乗り上げて流れ落ちる。
 そのつややかな光沢は溜め息が出そうなほど美しかった。
「ほら!分かったかな!おいたをすると“おしおき”として女の子にしちゃうのよ!」
 ま、まさかその為に・・・。
 歩(あゆみ)はあきれていた。
「どう?翔ちゃん?」
 そんな風に振られても答え様が無い。
 タダひたすら目の前の突然出現した美少女を凝視しているのみである。
「翔ちゃんのママも、みんなそうだけど、女の人はその気になったら男の子を女の子に変える力があるのよ!今まではそういう力を使わないで我慢してただけなの。分かる?」
「・・・あ・・・」
 やっと言葉を発することが出来た翔だったが、それは単なるうめき声でしかなかった。可愛そうに。これじゃあ完全にトラウマものである。
「あれー?まだ分かってないみたいね。それじゃあ・・・お尻も大きくしちゃうぞ!」
 止まっていた変化が再開される。
 むくむくむくっ!とズボンの中のヒップが豊満に膨らんでいく。
「・・・あっ!・・・ああっ!」


第290回(2003年07月02日)
 歩(あゆみ)にしてみれば、まさに“それどころではない”目に遭っている真っ最中なのだが、長い髪の毛のカーテンの向こうに覗く翔は顔面蒼白に見えた。
 それにしてもこんな大胆な・・・。
 もしも翔が他人に喋ったらどうする積りだったんだ?
「お兄ちゃん!分かったかな!?」
 まだ芝居を続けている妹。
「いやその・・・」
 ロクな打ち合わせもされずにおっぱいを作られ、豊満なヒップまで形成されてしまった歩(あゆみ)はこれからどうしたものか話し掛けようとしてしまった。
 だが、“出来レース”だと翔に気付かれない為なのか、無理矢理遮るように歩(あゆみ)にかぶせてきた。
「あっ!おにーちゃんったらもお!駄目な子ね!」
「い、いや・・・だから・・・」
「そーゆー悪い子は・・・お○ん○んなくしちゃうぞ!」
「ええっ!?」
 天地がひっくり返る様な翔の悲鳴。
 それと同時だった。
 下腹部の感覚が徐々に寂しくなっていく・・・。
「女の子にこんなのいらないわ。そーれっ!」
 シュシュシュッ!と身体の中に引っ込むかの様に消滅する歩(あゆみ)の男性自身。
「あああっ!」