おかしなふたり 連載921〜940

第921回(2006年06月02日(金))
「こりゃあ…可愛いな…服が」
「あによもー!お約束ぅ!?」
 やっぱり台詞だけ見ると怒っている感じだが、やっぱり楽しんでいる。
 それにしても我が妹ながら、けらけら飛び回る猫みたいな美少女にはぴったりの衣装だ。これで大胆なスリットが入ったセクシーなドレスなんかではここまでフィットしないだろう。おもちゃみたいにキュートさを前面に押し出した衣装だからここまで似合うのだ。


第922回(2006年06月03日(土))
 聡(さとり)はある程度歩(あゆみ)に見せ付けた後、鏡に向かって鼻歌歌いながら色々ポーズをとっている。
 なるほど「女の子は自分が大好き」である。
 ま、念願適ったことだし、これで自分の役目も今夜は終わりだな。
「満足したか?」
「うん!満足満足!大満足!ありがとお兄ちゃん!」
 わざとやってるのかその場で跳ねるので、元々膨らみ気味のスカートが「ふわり」と浮き上がって「見えそう」になる。


第923回(2006年06月04日(日))
 もしかしたら、今までの「着せ替え人形」の延長で、これからは毎日の様に「変えては脱がせ」て自分で色々着たいが為の実験台にされるんじゃ…と背筋が少し寒くなった。
 今回みたいに「制服」系ならまあ、いい。セーラー服だの某有名私立高校のブレザーだの、この間のゴスロリとかスチュワーデスなら…まあ強力してやらんでもない。
 実は歩(あゆみ)はあれだけ着せ替え人形にされていながら、「服まで変えられる」為に「着る」「脱ぐ」アクションは殆(ほとん)どしたことが無い。だから実は「ストッキングを脱いだ」経験が無い。


第924回(2006年06月05日(月))
 だから「ストッキングの脱ぎ方」が分からない。勿論「履き方」も。
 まあ、物凄く薄いズボンみたいなものだろう。多分。知らんけど。
 でも、間違いなく着るのに比べれば脱ぐ方がずっと楽だ。
 実際、このウェイトレスの衣装は構造が複雑だし、全身をぐるぐる巻きにして背中の真ん中でリボン状に結ばなくてはならないのだが、脱ぐことは何とか出来た。
 だが、下着みたいなのはちょっと勘弁してほしい…というのが本音だ。


第925回(2006年06月06日(火))
 ビキニだワンピースだという水着だとか、そういうことを言われたらどうしよう。…妹の部屋で一度すっぽんぽんにならないといけないんだろうか…。
 この間のウェディングドレスだって、中に着ていた下着は相当特殊な物だった。あれを「ドレスだけ脱いで渡す」って訳にはいかないだろう。
 ま、下着だけ戻してもらえばいいんだが。…いや、「下着まで花嫁さんのが着たい!」とか言われたらお手上げだ。あんな高級そうな(値段とか知らんけど)下着なんて流石に女子高生風情が買えるとは思えない。


第926回(2006年06月07日(水))
 そうそう、花嫁姿ってのは…経験してみて分かってるというのも十七歳の男子高校生としては何だが…ごてごてとイヤリングだネックレスだと装飾品が山のようにひっついているのである。
 だから首から上の「顔」部分がうざったいったらありゃしない。そもそも上半身を覆い隠さんとする半透明のウェディングヴェールも頭から垂れているのだ。


第927回(2006年06月08日(木))
 だからドレスだけ脱いでもそれだけでは済まない。多分、普通にやっていたらあの首から上を「普段着仕様」に戻すのはかなり大変だろう。よく言う「メイクだけで2時間」とかいう奴である。
 落とすのに同じ時間が掛かるとは思わないが、数十分掛かるし時間だけでなく手間も大変だ。
 ま、『本物の女性』にとってみれば一生に一度の晴れ舞台だろうから少々手間がかかっても問題ではないのだろう。ともかく、あの分厚いメイクの感覚やら、少し動いただけで耳たぶが引っ張られるあの感覚は忘れがたい。


第928回(2006年06月09日(金))
 余り自分の花嫁姿を客観的にしげしげと観察はしていないのだが、あの装飾具とメイク、そして腰までありそうなヴェールを引きずった状態でドレスを着ておらず、他のどんな格好をしていてもかなり異様だろう。
 ましてや「首から上だけは花嫁仕様」で、「首から下は男子高校生の普段着」なんてゾッとする。身体は紛れも無く女なのにオカマみたいである。


第929回(2006年06月10日(土))
 冷静に考えれば回数を数えるのも忘れるほど女の肉体にされて女装させられている訳だが、実は身体を性転換させられた状態で全裸になった経験が無いのである。
 …これは微妙だ。大体こんな特殊な状況で全裸になるってどういうことだ?妹と一緒に露天風呂に入るとか?
 ついでに思い出すのも何だが、実は性転換した状態でトイレに行った事も無い。いや、行った事そのものはある。しかも女子トイレに。しかし、「用を足し」た経験は無いのだ。
 …ここまでやれば何か一線を越えたことになるんだろうか。


第930回(2006年06月11日(日))
「じゃ、そろそろいいかな?」
 やんわりと言い出す歩(あゆみ)。とりあえずウェイトレス姿の妹も満足しただろう。
「ん?何が?」
 タメ口をきく店員、というのもある意味新鮮な光景である。
「いや、“何が”とかじゃなくて俺を戻せよ」
 自分のCカッププラスの胸を人差し指で上からつんつんする。
 間違っても下から両手の掌(てのひら)で持ち上げたりはしない。そんな美味しい見せ方をしてたまるか。


第931回(2006年06月12日(月))

「あに言ってんのよ。駄目よそんなの」
「な、なななな何でだよ!」
 思わず慌ててしまう歩(あゆみ)。
「だって、お兄ちゃん戻したらこの服まで戻っちゃうじゃん」
 と、短いスカートをつまむ。
「あ…」
 余りにも単純なことに気が付かなかった。


第932回(2006年06月13日(火))
「…じゃ、どうするんだよ」
 口調は十七歳の男子高校生のままだが、声は可愛らしい少女なので何とも逆説的に可愛らしい。
「まー、とりあえずあたしの気がまでそのまんまでいてもらいたいなあ…と」
「お前なあ…」
 別に切れないけども、あまりに行き当たりばったりの考え方に呆れた。こうなるともうわざとやってるのかと思うほどで、いっそ芸術的だ。


第933回(2006年06月14日(水))
「もーどうせお風呂入っちゃったでしょ?だったら朝まで部屋にいるよね?女の子のまんまで大丈夫でしょ?」
 ま、確かに言われればそうなんだけど…。
 少し考え込む歩(あゆみ)。
 冷静に考えればこれはある意味美味しい。この変身能力を真の意味で自分でコントロールしたことは殆(ほとん)ど無い。カラオケの練習をする時にやってもらった位だ。


第934回(2006年06月15日(木))
 聡(さとり)の口調だと、恐らく満足して寝てしまうまでこのまんまだろう。
 ということは今夜は一晩中ほったらかしにしてもらえるはずだ。多少の時間差はあるみたいだが、こっちの変身の一部として変形した服は、身体を戻してしまうと遠からずつられて服も戻ってしまう。ということは聡(さとり)が衣装を堪能したい限りは戻されないということになる。
「ま…いいだろう」


第935回(2006年06月16日(金))
「やった〜!あゆみちゃんありがと!」
 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ子猫みたいなウェイトレス。
「じゃ、お礼に…」
 と、言うが早いが足元に空気が入り込んできた。
「ひゃっ!」


第936回(2006年06月17日(土))
 反射的に見下ろすと当然パステルカラーのミニスカートに包まれた脚があった。下半身がスカートにされ、素脚がむき出しになっていたのだ。
「お、おい!お前…っ!」
 と、言った瞬間には歩(あゆみ)もう可愛らしいウェイトレスの制服に身を包んでいた。
「じゃっじゃ〜ん!夢だったの!お揃いの可愛い服着るのが!」
 同時にぐいっ!と手を掴んで鏡の前に引っ張っていく。


第937回(2006年06月18日(日))
「っ!!」
 そっくりの美人姉妹がお揃いの可愛らしいウェイトレスの衣装に身を包んで佇(たたず)んでいた。
「…っ!!」
 …これは…これは強烈だな…。
「か、可愛い〜っ!」
 もう何百回も効いた感嘆符だけども、本当にそう思う。もう聡(さとり)は倒れそうだ。


第938回(2006年06月19日(月))
「んん〜っ!持って帰りたいっ!」
 聡(さとり)はそう言って身体を密着させて頬をすりすりしてきた。
「わひゃっ!」
 下半身がパンツ一丁みたいに涼しいだけでも男には大いに違和感なのに、そこにむき出しの脚の素肌の感触がすりすりしてきたんだから飛び上がるほど驚いた。


第939回(2006年06月20日(火))
 男では全く分からないスカート独特の感触といえば、何と言っても「スカートの中で直接触れ合う素脚」である。
 その感触そのものは男であっても全く経験出来ない訳では無い。大人の男であっても半ズボンを履けば膝から下を接触させることは出来る。
 だが、下着に極めて近い太もも部分はまず接触しない。というか男はガニ股なので両脚そのものがそれほど接触しない。
 だから本当にこの「すりすり感」は新鮮だった。
 そこに持ってきて「他人の脚」がこすり付けられたのだから飛び上がるほど驚いたのだ。


第940回(2006年06月21日(水))
「お、おいっ!」
 人間、余りに慌てると咄嗟に適切な行動が取れないものだ。
 歩(あゆみ)はお揃いのウェイトレスの制服で抱きついてくる妹を思い切り突き飛ばすべきなのか引き剥がすべきなのかどうすればいいのか分からなかった。
「な〜んてね!」
 ぴょん、と飛びのく聡(さとり)。