おかしなふたり 連載1181〜1200

第1181回(2007年02月21日(水))
『ん…あ…そうなの?』
 恭子がきょとんとしている様子が手に取るように分かる。
『あ、いいよ別に。あゆみちゃんの部屋見たいし』
 ヤバイ。ヤバイ。本格的にヤバイ。


第1182回(2007年02月22日(木))
「あ、ゴメン!ちょっと用を思い出したから今すぐ帰るから!」
 もう問答無用でやっちゃうしかない!
 問答無用で電話を切った。
「ああーっ!切っちゃった!」
 聡(さとり)が面白そうに悲鳴を上げる。
 こ、この能天気娘が!


第1183回(2007年02月23日(金))
「しょーがねーだろーが!こうするしか!」
「んー、確かにそうだけどねぇ…」
 脊髄反射で生きてるのかこいつは。
「で、お兄ちゃんこれからどうするのよ?」
「どうするってそりゃ…暫(しばら)くしたら帰って来るよ」


第1184回(2007年02月24日(土))
「でもさあ、それって…外から帰って来るってことよね?」
「…あっ!」
 そう言われてみればそうだ。今は部屋の中にいるけど、そういうことならば外から帰ってこなくてはおかしい。
「じゃあこうしよう。お前が今から自分の部屋に戻って恭子ちゃんを引きとめとけ。その隙にオレが表に出るから、ある程度の時間が経ったら帰って来ると」


第1185回(2007年02月25日(日))
 その時だった。
 ついさっきまで恭子と話していた電話がまた鳴っているのだ。
 まだ登録していないから窓に光っている番号が掛けてきた人間の名前に変換はされていないが、ここは最悪の事態を想定すべきだろう。
 つまり恭子からの電話だ。


第1186回(2007年02月26日(月))
「…これ、どうしたらいい?」
 思わず何も考えていなさそうな妹に訊いてしまった。
「多分恭子ちゃんって女の子のあゆみちゃんに向けて掛けてると思うよ」
 その通りだ。
 少し考える。
 この携帯電話は架空の「あゆみの部屋」に向かって掛けられている。


第1187回(2007年02月27日(火))
 つまり、男の子の歩(あゆみ)が「あゆみの部屋」を飛び出して今こっちに向かっていることになる。
 ということは女の子のあゆみがこの電話を取れない理由は無い。
 寧(むし)ろ男の子の歩(あゆみ)が帰って来るまでの時間稼ぎと考えることも出来る。


第1188回(2007年02月28日(水))
「じゃ、しょーがないね」
「…楽しそうに」
 二人の間で合意に達したのは、この電話に歩(あゆみ)が出るには性転換しなくてはならないということだった。
「とりゃっ!」
 またいらん仕草をする聡(さとり)。


第1189回(2007年03月01日(木))
 意味は無いけどもまた目をつぶる歩(あゆみ)。
 …こういう時の仕事は早い。
 もうすっかり身体は女になっているみたいだ。
 手も足もすっかりむき出しになっている。当然ながら裸足だ。


第1190回(2007年03月02日(金))
 でも今度はお腹とか背中がはむき出しになっていないみたいだ。
 …首の後ろは相変わらず暑苦しい。髪は長いらしい。
 この瞬間にもベルは鳴り続けている。
 躊躇っている暇は無いのでバチッ!と目を開けて電話に飛びつく。
 その時に今の自分の格好が目に入った。


第1191回(2007年03月03日(土))
 って、こ…これはスクール水着だあぁっ!!
 流石にこれにはかああっ!と顔が赤くなった。こ、これではまるで変態じゃないかっ!
 まあ、手足はむき出しだけどハイレグ具合はさっきまでの派手な水着に比べても浅いし、露出度も低い。何だか知らないが生地も分厚い感じがする。
 その意味ではいいんだけど…やっぱり何だかマニアックな感じがしてしまう。


第1192回(2007年03月04日(日))
「お、お前なあ!!」

イラスト:おおゆきさん

 目の前の“下手人”に文句を垂れる。
 どこの世界に実の兄にスクール水着を着せて嬉々としている妹がいるというのか。ここにいるが。
「ほらほら!早く出ないと怪しまれるよ!」


第1193回(2007年03月05日(月))
 ま、文句を言っていても仕方が無い。
 それに変態言っているが、どうみてもおっさんだのにーちゃんだのが着ているのとは違って正真正銘女の子の身体なので全身フィットしていて違和感は無い。


第1194回(2007年03月06日(火))
 17歳の女子高生ってスクール水着を着るものなのかも良く知らんが。…男子と女子は水泳の時間がバラバラなので直接見ないのである。
 …って良く見たら胸のゼッケンに「城嶋」って入ってるじゃねえか!


第1195回(2007年03月07日(水))
 仕方なくそのまま保留ボタンを押して電話に出る。
「…もしもし」
『あ、もしもーし!恭子だけど!何度もごめんね。歩(あゆみ)ちゃん…って男の子の方ね…が急いで帰るっていうから…あたしあゆみちゃんの携帯番号知らないからそっちに掛けちゃった』
 これなんだけどね。


第1196回(2007年03月08日(木))
『どーしたのかな?随分焦ってたけど…』
 こんこん!と何かを叩く曇った音がした。
 一瞬意識が飛び、顔を見合わせる美少女二人。
『さっちゃーん!』


第1197回(2007年03月09日(金))
 1秒が数分にも感じられた。
 動物的なカンを最大限働かせ、次の瞬間には音波衝撃波で部屋中が破壊されそうな勢いでベッドに飛び込んで上から布団を被る。
 ドアが開いたのはほぼ同時だった。


第1198回(2007年03月10日(土))
「あ、やっぱりこっちにいたんだ」
 …という台詞は歩(あゆみ)には余り聞こえない。
 咄嗟に布団を被ったので視界は真っ暗である。
 ムチャクチャに乱れた髪がぐっしゃぐしゃに全身にからみついている。


第1199回(2007年03月11日(日))
 スクール水着ではなくて露出度の高いビキニだったらさぞくすぐったかっただろう。
 かなり無茶な飛び込み方をしてしまったんだが、ちゃんと隠れられているんだろうか?
 髪も長いし尻が出ていても分からない。
 それにしてもこんなかくれんぼみたいな行動は久しぶりだ。
 …良く考えたら小学校に入る前の頃も三人でこんな風に遊んでいた気がする。


第1200回(2007年03月12日(月))
 …それにしても外ではアスファルトの上に卵を落とせば目玉焼きが出来そうな陽気なのにこんな狭いところにいるので更に暑苦しい。
 おろしたてのスクール水着は何ともいえない工業的なにおいを放っているし、多分自分の汗のにおいもしていることだろう。