おかしなふたり 連載1221〜1240

第1221回(2007年04月02日(月))
 あっちこっちに身体の色んなところが引っ掛かって実に不恰好である。
 …何だか胸がひりひりするんだけど…。
 何故か目をつぶっている歩(あゆみ)。…自分の身体なのだから誰に迷惑を掛けている訳でもないんだけどね。
 なんちゅーか、こういう慌(あわただ)しい状況で中途半端に堪能するのもなあ…て何を考えているのか!


第1222回(2007年04月03日(火))
 “急がなきゃ”という焦りと、“そういえば今のこの胸の感触っておっぱいなんだよなあ…”という不思議で複雑な感覚が交錯する。
 思えば数奇な運命である。
 数週間前までは自分が女の身体になって部屋でしこしこスクール水着を脱いでいるところなど想像も出来なかった。


第1223回(2007年04月04日(水))
 上半身が“べろりん”とむき出しになる。
 勿論硬く目をつぶっているので見ていない。
 悪戦苦闘でべったべたに汗をかいている。
 それに長い髪がへばりついて不快なことこの上ない。
 プールの授業前の女子更衣室ってこんな感じなんだろうか…。


第1224回(2007年04月05日(木))
 こりゃ綺麗に脱ぐのは全く無理だな…と歩(あゆみ)は観念した。
 漫画やドラマなんかで女性が衣類を脱いでいるシーンってのはとても美しく見栄えがする演出がされているんだけど、実際は何だか不恰好である。
 とにかく時間を掛けている場合じゃないので全部裏返ってしまうのもお構いなしで両脚をスクール水着から引き抜く。


第1225回(2007年04月06日(金))
 もう水着何だか何なんだか分からない「衣類の塊(かたまり)」として丸まったそれが足先から引き抜かれる。
 バランスを崩してベッドに頭から倒れこむ。


第1226回(2007年04月07日(土))
「むはっ!」
 女の身体で全裸で昼間っから布団に倒れこんでいるというのはどうなんだ。
 とにかく!こんなことやってる場合ではない!
 髪の毛を振り乱し、仕方なく目を開けてトランクスを掴んで脚を突っ込む。
「…」
 お尻のサイズだけが大きくて余裕があるはずのトランクスがパンパンである。
 これが女の身体か…。


第1227回(2007年04月08日(日))
 下腹部に“何も無い”感覚が常に襲い来る。
 その違和感たるや半端ではない。
 ただ、人類の半分は常にこうなのだから…と自分に言い聞かせて打ち消す。
 飾り気の無いシャツを引っ掛ける。
 当然ノーブラである。
 こんな体質だが自分の部屋に女物の下着を常駐させる趣味はまだない。


第1228回(2007年04月09日(月))
 腰まである長い髪が邪魔で仕方が無い。
 普通にTシャツを着ただけだと、背中にごっそり髪が入り込んだままとなる。
 これがくすぐったいわ暑苦しいわといい事が一つも無いので引き抜いて外に垂らす。
 …髪の長い女性はいつもこの作業をやってるんだろうか?…そりゃやってるわな。


第1229回(2007年04月10日(火))
 …おっぱいの先っちょがTシャツの内側に当たる。
「…」
 気になるなあ…。
 でもどうしようもない。生憎(あいにく)自前のブラジャーを持つ趣味は無いのだ。
 冷静に考えたらこの生活が続くんであれば、その程度は準備するべきなのだろうか…。まだ兄妹で能力が発現して三週間程度しか経っていないが、今後のことを考えると頭がぐるぐるしてくる。


第1230回(2007年04月11日(水))
 歩(あゆみ)もごく平凡な現代の男子高校生である。
 これと言って確固たる「将来の夢」がある訳でも無い。何となく進学するんだろうなあ…とは思ってるけど、銀行に入るだの公務員になるだの何一つ具体的なイメージが出来ない。


第1231回(2007年04月12日(木))
 仮にこの能力がこのまんま存続したとして…そして聡(さとり)が相変わらずの性格の場合…それこそ大学生になっても同じだろう。
 いや、一応こちらは兄貴だから先に卒業することになる。
 ストレートで大学に入れるのかどうかは分からんけど、卒業だけは先だろう。多分。


第1232回(2007年04月13日(金))
 今は妹と同じ高校に通っていて、何しろ同じ屋根の下…隣同士の部屋に住んでいる。
 お互いに都内の大学に進学すればいいが、遠隔地の大学に進学したりするとその時点で別居だ。
 大学のことを考えずともいつかは別居することになる。


第1233回(2007年04月14日(土))
 そうなった時にはどうするんだろう?
 流石にそうなればあいつも自制してはくれると思うんだけど、この間の電車でウェディングドレスみたいな騒動もある。
 意識するだけでこちらを変えることが出来る訳だが…それこそお互いに家庭を持って独立してもふとした弾みに花嫁姿とか勘弁だ。
 歩(あゆみ)は背筋がゾッとした。


第1234回(2007年04月15日(日))
 とりあえず今この瞬間にそのことを考えても仕方が無い。
 歩(あゆみ)は適当なズボンに身体を押し込む。
 Tシャツだけではいかにもなので、薄手の色のついたYシャツを引っ張り出して上から羽織る。
 先ほどの「首の部分から髪を引っ張り出す」ことを繰り返す。
 うわー、めんどくさい。


第1235回(2007年04月16日(月))
 靴下は…いらんとは思うんだけど、多分足も小さくなってるから靴が合わないと思うんだよなあ。ウェディングドレス姿にされた時にはあの白いハイヒールはその身体に合わせてくれたから多分小さいものだろう。
 考えるべきことは沢山ある。


第1236回(2007年04月17日(火))
 状況を整理しよう。
 とにかく、今現在は服も含めて全部変えられてしまっている状況だ。その「服」は今は完全に脱ぎ捨てているので戻されたとしても大丈夫。部屋に脱ぎ捨てられたスクール水着が普通の男物の服に戻るだけだ。


第1237回(2007年04月18日(水))
 身体は元に戻っても今の男の服装に押し込められた女の身体が男に戻るだけだ。
 よし、大丈夫。
 ではまずこの格好のまま家の外に出て、聡(さとり)に電話をかけ、そして戻してもらって家に帰る。これだ。


第1238回(2007年04月19日(木))
 …よく考えたらこの腰まである長い髪はどうするのか?
「…!」
 そういえばいつだったか旅行した時に記念に買ったキャップがあったはずだ。
 いつかのドラマでアイドルの女の子が変装して出歩く時に長い髪を野球帽みたいなのに押し込んでいた描写があったはずだ。
 あれと似たようなことになればいいのだ。


第1239回(2007年04月20日(金))
 さっきから裸同然の水着だの、スクール水着だの矢鱈(やたら)に露出度が高い服ばかり着せられていたので、ちゃんと全身のかなりの部分が覆われる今の格好は何だかんだと安心する。


第1240回(2007年04月21日(土))
 歩(あゆみ)は溢れる様な黒髪をまとめてぐるぐる巻きにしようとトライする。
 だが、ゴムで結ぶ訳でもないのにこれだけ沢山の細くて長い物体の束を制御しようとするのはかなり難しい。
 髪が痛んでしまうのを承知で強引にキャップを頭に押し付け、はみ出した髪をぐいぐい押し込む。