おかしなふたり 連載1341〜1360

第1341回(2007年10月01日(月))
 フロアにいるお客は歩(あゆみ)の通う高校の生徒達で埋め尽くされていたのである。
 …何で?何でこうなるんだ?

第1342回(2007年10月02日(火))
 けど、考えてみるとそういうものかも知れない。
 高校生にとってみればテスト期間というのは「午前中で帰れる日」と言ってもいいだろう。
 まだ期間中で明日もあるんだけど、特に一年生にとって受験なんてまだまだ先の話だ。切迫感が無いのも当たり前ではある。


第1343回(2007年10月03日(水))
 ええ、バレると決まった訳では無い。
 さっきも証明されたじゃないか。黙ってる分にはまずバレることはない。
 大体「バレる」言うけど、こちとら生徒会の一員でも何でもない。校内でも特に有名人という訳でもないのだ。

第1344回(2007年10月04日(木))
 問題になるとすれば女装しているかどうかってことだけど、今のこの格好ならば問題になんぞなりはしない。


第1345回(2007年10月05日(金))
 慌ててフロアの真ん中を横切る闖入者に、一瞬注意をひきつけられたかに見えた観衆だが、すぐに仲間内のおしゃべりに戻っていく。
 ま、それはそうだろう。

第1346回(2007年10月06日(土))
 歩(あゆみ)は先ほど考えたように迷わず男子トイレに入っていく。
 ここを見られるのが困るんだけど、逆ならばともかく外見が完全に女である人間が男子トイレに入るのは…多少顰蹙(ひんしゅく)は買うかも知れないが多分逮捕はされない。
 逆の場合は逮捕されるがね。
 その時だった。


第1347回(2007年10月07日(日))
 立って小用を足すための便器と、個室一つ分しかないそこから、手を洗ったばかりのサラリーマン風の男がぴっぴと水を弾き飛ばしながら出て来たのである。
「…っ!?」
 予想していなかった歩(あゆみ)は面食らった。
 びくっ!とリアクションし、美しい髪が一瞬ふわりと浮き上がる。

第1348回(2007年10月08日(月))
 驚いたのはあちらも同じだったらしい。
 ハトが豆鉄砲を食らったみたいな顔をしている。
 だが、付き合っている暇は無い。さっさとその脇をすり抜けて中に入ってしまわなくてはならない。
 またいつめぐさんや聡(さとり)から電話連絡があるかもしれないのだ。


第1349回(2007年10月09日(火))
 思い切って身体を横にして男性の脇を通り抜けようとする。
 その時だった。
「あ、あの…」
「…」
 舌打ちはしなかったが、したくてたまらないシチュエーションである。
「男子トイレですよ」

第1350回(2007年10月10日(水))
 流石にこの距離にしてこの状況では「聞こえなかったフリ」を装うことは出来ない。
「あ…ははは…はい」
 笑いを引きつらせながら仕方なく引き返す。
 うう…余計な事言いやがって…。


第1351回(2007年10月11日(木))
 そのサラリーマンに罪は無いのだが、最悪の状況だ。
 仕方が無いので引き返して女子トイレに向かう。
 うう、これは聡(さとり)の身代わりに制服姿で一年の女子トイレに閉じ込められた時以来である。

第1352回(2007年10月12日(金))
 今度は女子トイレの方から女の子が出てきた。
「…っ!」
 良く考えれば女子トイレから女の子が出てくるのは当たり前である。
 なので出て来た女の子の方は別にびっくりしていない。
 何事も無かったかの様にさっさと席に向かって歩いていく。


第1353回(2007年10月13日(土))
 ん?今の内にこっそり男子トイレに…と思って思わず振り返ると、そこには先ほどのサラリーマン氏がこっちを見ているではないか。
 な、何だよこのスケベ!
 こりゃ本当に女子トイレに入るしかない。
 ええい!ままよ!
 思い切ってそのまま女子トイレに入る歩(あゆみ)。

第1354回(2007年10月14日(日))
 中には入ってみるとそこには個室のドアが2つあった。
 当たり前なのだが改めてギョッとする。
 そうそう。女子トイレってのはこういうものなのだ。別に便器の配置忘れでは無い。


第1355回(2007年10月15日(月))
 幸い、どちらの扉も開いている。
 歩(あゆみ)は奥のほうの個室に飛び込んだ。
 そして入り口を閉じると鍵を掛ける。
 まるっきり女子トイレに入り込む痴漢である。
 余りの申し訳なさに罪悪感で一杯になるが、ここは仕方が無い。

第1356回(2007年10月16日(火))
 …これってこっちから掛けても構わないんじゃないだろうか?
 一応密室だし。
 店内に効いた冷房のお陰で全身にかいた汗がうっすら引いていきつつあるもののやっぱり暑い。
 トイレの中ともなると、毎日掃除しているんだろうが芳香剤のキツい匂いと混ざり合って湿気の多い空気が非常に不快である。


第1357回(2007年10月17日(水))
 手前の扉も開いていたし、つまりこのトイレには2人まで入ることが出来るが今は自分ひとりってことだ。
 入り口の開閉の音もしていない。
 …今がチャンスなんじゃないか?

第1358回(2007年10月18日(木))
 というか今から先はリスクが跳ね上がる…いや待てよ?むしろ今は男に戻れないんじゃいだろうか?
 そうなのである。
 状況がややこしすぎる。もう一度整理しよう。


第1359回(2007年10月19日(金))
 まずは実家に恭子ちゃんが尋ねてきている。
 こちらは素直に会いたいんだけど、「あゆみ」という立場で電話に出てしまい、「歩(あゆみ)」は別の家から帰って来る…というシチュエーションでなくてはならない。
 ところがいざ外部から入り込もうとするものの隣の部屋で女に変えられたまま放置される事態となってしまった。

第1360回(2007年10月20日(土))
 そこで仕方なく、身体は女のまま男ものの服に着替えて家を脱出。外部から携帯電話で聡(さとり)に連絡して男に戻った状態で家に帰って来ることを計画。
 ところがそこにたまたま通りかかった聡(さとり)達の友達に出会ってしまってそのまま「誰にも見られていない」密室を探して駅前のファーストフード店までやってくる。