秘儀の研究室

作・真城 悠
イラスト 浅島ヨシユキさん
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 俺は目を覚ました。

 …ここは?どこだ?

 がばりと跳ね起きる。

 周囲を見渡す。

 …見たことも無い部屋だった。周囲は鏡に囲まれ、天井が高い。見る限り、どこにも入り口も出口も、窓すらも見当たらない。

「…?」

 俺は言葉を発することが出来なかった。

 周囲を再び観察する。

 部屋は丸かった。その先が見えないほど高い天井から、円筒の底にいるような感慨である。

 その床の周囲をぐるりとクッションが取り巻いている。ちょうど「椅子」の様な具合である。

 俺は鏡に映る自分の姿をしげしげと観察した。

 …うん。変わりない。何も変わりない。

 俺はスポーツ刈りに野暮ったい学生服姿だった。靴は…これも履いている。

 その時、さっきから感じていた違和感の一端を感じた。床である。床がクッションを敷き詰めたかのような柔らかな感触だったのである。いや、きちんと「硬さ」を感じられるほどではある。直接寝転がったら少し痛い程度であろう。

 ここは一体どこなのだろう?

 当然の様に俺には現実感が無かった。それはそうだ。あまりにシュールなこの状況。夢に決まっている。

 …しかし…

 こうして歩き回っている感覚はまさしく現実のものだ。

 俺は鏡に背を向けて椅子状になったクッションに腰を下ろした。

 良く見てみると、八方を等しく鏡に囲まれている訳ではないようだ。露骨に「合わせ鏡」になるのを巧みに避けて作ってある。しかし、どうくつろいでも嫌でも自分の姿が目に入ってくるのが変わっている。

 人工照明が、全く変わらない明かりを照らし続ける。

 音は全くしない。

 ここは…ここは一体どこなんだろう?

 俺は…ここに来るまでは一体何をしてたんだ?

 …おぼろげに思い出してきた。

 俺はいつもと変わらず学校に行ったんだ。そうだ。今朝の1時間目の授業の記憶だってある。

 それが気が付いてみるとこの部屋に…。

「…?」

 何やら身体に違和感を感じる。何だろう?

 丁度この…胸のあたりに感じるんだよな。

 俺は自分の胸を見下ろした。

 俺は信じられないものを見た。

 これまでにも、筋肉が痙攣したりして、自らの意志に反して自分の身体が動くのは見たことがある。しかし、これは今までのどんな体験ともことなるものだった。

 胸が…俺の胸がむくむくと盛り上がってきたのである。

「わ…わあっ!!」

 俺は思わず大声を上げていた。しかし、その変化は止まらない。

 二つの乳首を頂点とし、そこがツンと上を向いたお椀型に整って行く…。そう、まるで女の乳房の様に…。

 俺はろくにボタンも外さずにガクランの前を乱暴にはだけた。

「あ…あああっ!」

 カッターシャツにははっきりとおっぱいが浮き出していた。その胸の先のぽっちりまでが鮮明に。

 な、何だ!?何だ…これは?俺の胸が…お、女…に…。

 反射的に揉みほごしてしまう。

「う…」

 確かに感覚が通っている…間違い無く自分のものだ。し、しかも…

 恐る恐る触ってみた胸の先のぽっちりは…

「あっ…」

 くすぐったいような、なんとも奇妙な、複雑な感触がした。これまでに体験した事の無い感触だった。

 が、俺は次なる衝撃に襲われる。

 頭に奇妙な感覚が走り始めたのである。

「な…なん…」

 “奇妙な感覚”で済んだのはそこまでだった。俺のスポーツ刈の髪は、ぐんぐんと伸び始めたのである。

「わあああっ!」

 俺は狂騒状態だった。目の前の鏡に映る自分が、髪が伸びるに連れ、見る見る女になっていくかのように見える。いや、きっとそうなのだろう。

 俺は目の前の鏡に釘付けになった。

 ずん胴だった俺の腹はきゅきゅきゅっと引き締まって行く。同時に腰の位置自体が上に上がり、上半身が小さくなっていく。

「そ…そん…」

 全身を襲う“変わって行く”感覚の恐怖。

 周囲の背景が次第に大きくなって行くかのように感じられる。…いや、違う。俺だ!俺の身体が縮んでいるんだ!

 俺は自分の身体を見下ろした。

 確かに縮んでいる…。さっきまでは違和感無く着られていたガクランが、あきらかにぶかぶかになっているのだ。

 反射的に鏡に振りかえる。

「ああっ!!」

 ほんの一瞬、目を離しただけなのに俺はさっきまでと比べても明らかに“女”になっていた。

 その顔は、これまでの自分の面影をかすかに残してはいたが、にきびだらけのごついそれではなく、きめこまかい美しい肌の、ストレートロングのさらさらヘアに囲まれた美少女のものになっていた。少なくともそう見えた。

 お尻が…ヒップがふくよかにむくむくと膨らんでくる。それが余計に細いウェストを強調し、女性的な身体を演出する。

 俺は下腹部を服の上から触った。

 無い!

 触った感覚も、触られた感覚も無かった。しかし、それ以上にショックだったのはその、“触っている”ものだった。

「あ…ああ…」

 俺は自分の手を目の前に持ってきた。

 それは今、まさに変化している最中であった。ぐぐぐぐぐ…と、それまでの角張った手が、美しく細い女性の手に変わって行く。

「手…まで…」

 俺はその声にはもう驚かなかった。いや、驚いている余裕が無かったと言うべきか。その声は俺がこれまで慣れ親しんできた自分の声とは違うものであった。いや、違う気がした。どう違うのか分からない。しかし、もう自分は女になってしまったことは明らかに自覚していたのだ。

 俺は再び鏡に向き直った。

 そこにはだぶだぶのガクランに身を包んだ、ストレートロングヘアのほっそりした美少女が映っている。

 そしてそれは…今の俺の姿であった…。

 な、何だこれは?一体…何が起こったんだ?

 その時だった。

「う…」

 また身体に違和感を感じる。それは胸だった。

「あ…あああ」

 それまで何も存在を主張してこなかった下着のシャツが、突然俺の大きな胸をぎゅうっ!と押さえつけてきたのだ。

 俺は…考えたくなかったが、その感触から“当たり”を付けられたが、あまりのことに、考えたくなかった。しかし、間違い無かった。…俺の胸にはブラジャーがあてがわれたのだ。

 次は下腹部の番だった。何の変哲も無いガラパンは、ぴっちりと肌に吸い付くパンティとなった…様な気がする。何しろ見えなかったから。

 そして、突然胸から下の肌に柔らかくてすべすべの感覚が取り巻く。それは女性の肌着に違いなかった。

 遂に鏡に映る俺の姿にも変化が訪れ始めた!

 先ほど引き千切ったガクランの前が勝手に閉じて行く。

 服はまるでアメの様に勝手に変形し始める。それはもう悪夢としか思えなかった。

 細い手首の袖がすうっとすぼまり、そこに白いラインが入る。ガクランのごわごわな素材はふんわり柔らかなそれになる。

 ガクランの襟からプラスチックの詰め物が消滅し、大きく、大きく広がってくる。

「あ…ああ…」

 広がった襟は大きく三角になって首の回りに広がった。そこから若干胸元が開き、息苦しいガクランから開放される。そこにも白いラインが入る。そして中ランが短ランになり、腹部の下着が少し顔を覗かせる。

 気が付くと、無骨なベルトは溶ける様になくなってしまっていた。おなかの周りも柔らかい感覚に包まれ、開放された様な気がする。

 そして、俺はこれまでで最大の変化を目撃した。

 ズボンの二本の脚の部分がアメの様に融合していく。足首あたりまであった生地は膝下までせり上がってくる。

 それぞれの脚の区分は完全に無くなり、均一に襞・プリーツが入っていく。それはスカートだった。下半身が一気に空気に直接さらされ、さみしい様な感覚に襲われる。思わず両脚をするするとこすり合わせてしまう。

「あ…」

 無駄毛ひとつないその柔らかな肌触りがお互いの脚の内側を刺激し合う…。これが…これが、スカート…だと…いうのか…。何時の間にか清潔な印象の白い靴下に女子学生らしいローファーの革靴があり、足を包んでいる。

 首の周りをしゅするるっ!と真っ赤なスカーフが走って行く。

 大きな襟から飛び出した真っ赤なスカーフの先が結ばれる。

「あ…あ…あああ…」

 鏡に映るその姿は、完全にセーラー服姿の女子高生であった。

 

 

「…ふん。思ったほどパニックにならないな」

「…」

「このあといきなり自慰とかし始めるかと思ったんだが」

「…あの…いいですか先輩?」

「何だ?」

「これって…一体何です?」

「見ての通り実験だよ」

「何の?」

「心理実験さ」

「どんな?」

「いや…『起きたらいきなり見知らぬ部屋にいて、見る見る自分がセーラー服姿の女子高生になっちゃったらどう思うか』という実験だ」

「………」

「何だ渋い顔して」

「まさか…ひょっとしてあれって特撮映像じゃなくて本…」

「さ!次だ。これを見ろ」

 そこには別のモニターがある。

「これは?」

「単独実験だけじゃ面白く無いからな。複数でも試してみる」

 そこには学生服姿の二人の少年が倒れている。

「そろそろ気が付くはずだが…」

 そういうと、二人は気が付き、自分の置かれている状況に半狂乱になる。

「混乱してますね」

「そりゃそうだろう。起きたらいきなり見知らぬ部屋に閉じ込められてんだから」

「…ひょっとして被験者に同意を取って無いんじゃ…」

「…さて、と。どのケースでいくかな」

 と、手元のコントロールパネルを何やらいじっている。

「よし。これで行こう」

「何をしたんです?」

「いいから見てろよ」

 と、一人だけ苦しみ始める。

「まさかまた…」

「マイクオンにすっか」

 と、ボタンを押す。

『どうしたんだよ?おい』

『いやその…体が…変…なん…だ』

 自分の胸を抱きしめる様にする一方の生徒。パッ!と手を離すと大胆なバストがぷるるんっ!と震える。

『あああっ!』

「えーと、今回はこっちで行くか」

「…はあ」

 見る見る女性化してしまうその生徒。今度はショートカットの活発な印象の少女となってしまう。

「おい、おまえ。このボタン押してみろよ」

「でも…」

「いいから押せって」

 ぽちっと押す後輩。

 と、画面の中の美少女の着ていたガクランは、チェックのプリーツスカートの可愛らしいブレザー姿になってしまう。

『な、なんだぁ?これは…』

『お、お前…』

 にやにやしながら見ている先輩。

『お、お前…何て…可愛いんだ…』

『お、おい…よせ…何考えてるんだ!』

 じりじりと迫る男子生徒。下がる現・女子生徒。

『す、好きだ…』

『ば、馬鹿!俺は男だぞ!』

 澄んだ声の美少女としてその言葉に説得力は皆無であった。

『お、男同士じゃないか!や、やめろ!』

 追い駆けっこが始まる。しかし体格差はいかんともしがたくすぐに捕まってしまう。

 激しく抱きしめる男子生徒。身をよじって抵抗する現・女子生徒。

『あ…い、いや…や…め…』

 唇を奪う男子生徒。

 

 

「ふん…やっぱりこうなったか」

「ひどいことを…」

「まあ、しかし予想通りの結果が出たな」

 と、何やらかりかりメモを取っている。

「『気が付いたら見知らぬ部屋に男二人で閉じ込められていて、その内一人が見る見るうちに女の子になっちゃった上、ブレザーになったらどうなるか』実験は成功だ」

「どんな実験ですか!」

「ん?『起きたら…』」

「いいですって!大体名前さっきと違ってるじゃないですか!」

「細かいことは気にするな」

「気にしますよ!」

「うーん、しかもあの二人は幼馴染でこの上ない“男の友情”で結ばれていたみたいだな。ま、所詮友情より愛情、愛情より煩悩ってとこか」 

「な…なんてことを…」

「ん?そうか?面白い実験だと思うが。まあいい。じゃあ更にぽちっとな、と」

「もう止めてくださいよ!」

「いいからいいから」

 

 

『お…おい。ここはどこなんだ!?』

『ほ、本当だ!』

「また二人組みですか…」

「黙って見てろって」

『な…?』

『どうしたんだよ』

『いやその…身体が…』

 みるみる女性化する生徒の身体。

『あああっ!!』

『な、なんだあ!?』

「今度はこんな趣向でどうかな?」

『ん?これ…は?』

 今度は男のままの生徒に変化が起こり始める。

「今度は何をたくらんでるんです?」

「何だと思う?」

『う…あああ…』

 今度は男だった方の生徒まで女性化してしまう。ほっそりとした身体に、ばさり、と美しい黒髪が覆う。

『お…お前…』

『お前…こそ…』

 お互いに少女と化した二人が見つめ合う。

 と、お互いのガクランが白く染まり、純白のブラウスになる。可愛らしいデザインのエプロンが出現しズボンはミニスカートとなり、初々しい脚線美が露出する。学生服はバストを強調したウェイトレスの制服姿になってしまう。

『こ…これ…は?』

『な、なんだぁ?』

 あまりの事に呆然として見つめ合うばかりの美少女達。

 

 

「はて…『女の子同士だから綺麗よ…』とか言ってにゃんにゃんし始めると思ったんだが…」

「鬼畜ですかあんたは」

「そうか?俺なら結構嬉しいが…」

「ところであの生徒達はどこから連れてきたんです?」

「ああ、近所の高校の生徒を借りてきた」

「はあ…許可を取ったりして」

「んなもん取るか。大体許可なんぞどうやったって出ねえし」

「そ、そんな…」

「そもそもこの実験は被験者が事前に何が起こるかを知ってたら効果も半減だ」

「しかし…」

「さ、つぎつぎ…」

 また別の画面が映る。

 そこには学生服姿の男子生徒と、セーラー服姿の女子生徒が倒れている。

「あ、女子もさらってたんですか」

「“さらってた”とは失敬な。拉致監禁と言え」

「……」

『…ん、んん…』

 女子生徒が気が付く。

『!!??な、何よこれ!?』

 自分が見知らぬ密室にいるのに気が付く女子生徒。

『起きて!ねえ!起きてよ!』

「ほう…やはり女のほうが冷静の様だな」

「何を感心してるんですか」

『ん…!?何だここは?』

 男の方も事態に気が付く。

「じゃあ、俺の趣味でこんな風に…。ぽちっとな」

『…?…』

『おい…どうしたんだ』

『な、何でも無いの…何でも…』

『おかしいよお前。どうしたんだ?』

『何でも無いったら!』

 そうこう言う間に美しい黒髪がすすす…と短くなっていく。

『きゃああーっ!!』

『お、お前…』

 そしてあっというまに普通の七三分け程度にまでいたってしまう。

『な、何よ…何なの…これぇ!?』

 目の前で自らの白魚の様な細い手がむくむくと逞しい節くれの目立つそれになり、毛が生えてくる。

 脂肪質のふっくらした身体は筋肉質のがっしりした身体へと変貌を遂げて行く。それに従って、セーラー服もぴちぴちの状態に張り詰める。

『あ…あ…ああ…』

 豊かだった乳房は平坦に盛り上がった胸板になり、お尻もその大きさを減じ、下腹部の何かがセーラー服のスカートを押し上げる。

 そこにはセーラー服で女装した…様にしか見えない男子生徒がいるばかりだった。

『そんな…!!』

 しかしその声は野太い男のものだったのだ。

「…今度は男同士でやおいですか?」

「どぅわれがそんな気色の悪いことするか!まあ見てろって」

 と、元女子生徒のセーラー服のスカートが両足にまとわり付き、その生地を足元まで伸ばす。そればかりか上半身も硬い、しっかしりた生地へと変わって行く。

『そんな…何…?』

 ちっとも可愛くない男の声で言う元女子生徒。

 瞬く間にタキシードに身を包んだ“いい男”が誕生する。

『お、お前…』

 しかし、男子生徒にも変化の波は襲ってくる。

 むくむくと膨らむ乳房。

『ああ!!』

 きゅうっとくびれるウェスト、豊かに膨らむヒップ…。

『お、俺が!お、女…に!』

 その言葉の通り、服がだぶだぶになるほど身体は小柄に、ほっそりと女性的なそれになる。ぐーっとつやつやの髪が伸び、目の前で手がすらりとした美しい手に変わって行く。

『手まで…』

 もうその姿はだぶだぶの学生服に身を包んだ美少女そのものであった。これらのビジョンは四方に張り巡らされた鏡によって絶えず視界に強制的に飛びこんでくる。

「これは…?」

「可愛いだろ?」

「いや…そうじゃなくて」

 すると元男子生徒の漆黒の学生服が見る見る白く染まって行く。

『な、何だぁ?』

 可愛らしい声で言う元男子生徒。

 その指先までが純白の生地に覆われる。見る見るうちにつややかな光沢を放つ純白の刺繍に全身が覆われて行く。

『わ…わあああっ!』

 肩の部分がかぼちゃブルマの様に膨らみ、胸の谷間が見えそうなほど首元が開く。腰の部分がきゅうっと締め付けられ、ズボンは半径1メートルほどの巨大なふっくらしたスカートへと変貌する。

 長い髪の毛は勝手にアップされ、首の周りに真珠のネックレスが取り巻き、耳たぶにぷらん、とイヤリングが下がる。

『あっ…』

 ほっそりした首が強調される間もなく、その端正な素顔に美しいメイクが施されて行く…

『い、いやだぁ…助け…て…ああっ!』

 両手が勝手に身体の前に揃えられ、どこからともなく出現したウェディングヴーケが握られる。

 そして頭頂のティアラから上半身を覆い尽くすかの様なウェディングヴェールが下がってくる。

『そん…な…これって…』

 元男子生徒は鏡に映る自らの姿の変貌を全て目撃していた。彼はもう純白のウェディングドレスに身を包んだ美しい花嫁であった。

 身体の各部を動かしてみる。

 しゅるり。しゅるするる、という美しい衣擦れの音が耳をくすぐる。

 そしてはっ!とする。この衝撃的事態に加えて花嫁たる自分の目の前には“花婿”がいるのだ。

 花婿の方に顔を向け、ぽっと頬を赤らめる花嫁。

『あの…これは…その』

『綺麗…』

『お、おい…よ、よせぇ!』

 抱きしめられる花嫁。

『あっ…い、いや…どうして…どうしてこんな…目に…』

 その赤らんだ顔は、涙が滲んでいる。

 花婿は折れそうに細い腰を片手で抱きとめながら花嫁のヴェールをめくった。

『いや…いや、いやああああぁ〜っ!!』

 薄いルージュに彩られた可愛らしい唇を奪う花婿。

 

 

「ふん…こりゃなかなか…」

「酷い…なんてことを…」

「男女逆転ってのもオツなもんだろ?」

「オツってそんな…」

「しかもこの二人は学校でも有名なアツアツカップルだったらしい」

「…知っててやったんですか?」

「…まあ、細かいことはいいじゃないか」

「つかぬ事を聞きますけど、彼らは元には戻れるんでしょうね?」

「ん?戻れるわけないじゃん」

「ないじゃんってそんな!」

「俺も方法とか知らないし。まあいいじゃん細かいことは。女を男には出来るわけだから何とかなるだろ」

「…」

「さあーて、実験実験。色んな実験できるぞ」

 その後行われた実験は一部を挙げるとこうなる。

『男二人で目覚めて片方が女になってチャイナドレス姿になっちゃったらどう思うか実験』

『男二人で目覚めて片方が女になってバニーガールになっちゃったらどう思うか実験』

『男二人で目覚めて片方が女になって振袖姿になっちゃったらどう思うか実験』

『男二人で目覚めて片方が女になって男がタキシード、女になったほうがウェディングドレス姿になっちゃったらどう思うか実験』

『男二人で目覚めて片方が女になって体操服にブルマ姿になっちゃったらどう思うか実験』

『男二人で目覚めて片方が女になってスクール水着姿になっちゃったらどう思うか実験』

 この他、ブレザー、ボレロ、メイド、バレリーナ、看護婦、婦人警官、スチュワーデス、レオタード、レースクイーン、白無垢、振袖、イブニングドレス、パーティドレス、などが試された。組み合わせも「男二人から片方だけ」と「男二人から二人とも」「男女逆転」全てが試された。「その後立場逆転」なども実施されるケースもあった。

「ふう、疲れたな」

「もう止めましょうよ!可哀想ですよ!」

「何を言うか。貴重な実験だぞ。サンプルになれるなんて光栄だと思わにゃ」

「だって…」

「そもそも状況が苛烈になるのはこれからだ」

「え?」

『男三人から目覚めてその内一人だけが女になって○○姿になっちゃったらどうなるか実験』

『男三人から目覚めてその内二人だけが女になって○○姿になっちゃったらどうなるか実験』

『男三人から目覚めて全員が女になって○○姿になっちゃったらどうなるか実験』

「三人っていう選択肢があるんだよ」

「…はあ…」

「まあ、人数に意味があるのもこの辺までだろうな。四人となるともう集団ヒステリーの域だからな」

「…」

「しかし連中の気持ちになったらやっとれんがね」

「でしょ?」

「気が付いたらどことも知れない部屋に閉じ込められ、しかも突然性転換してみたり女装…って女だから“女装”じゃないかも知れんが…させられたり、ましてや男女逆転させられて男になった、かつての女に女として抱きしめられたり…俺たちはここでこうして“神”の立場で全てを見てるから…ともかく…」

「はあ…」

「連中に…してみれば…」

「?先輩?」

「いや…何でも…ない」

 と、言った瞬間、先輩の美しい髪がばさりとなびく。

「ああっ!せ、先輩っ!」

「こ、これは…?」

 そういう間にも乳房がむくむくと盛り上がり、ウェストはくびれ、ヒップは豊かになっていく。

「な、なんて…ことだ…」

 そしてやはり目の前で手が細く、美しく変形して行く。

「あ…あああ…」

 後輩を尻目にすっかり美しい女性と化してしまう先輩。

「ま、まさか…」

 その声も既に澄んだ女性のものだった。

 研究者の白衣の肩の部分が消滅し、素肌が露出する。

「ひょっとしたら…」

 ズボンはぴっちりと脚に張りつき、すらりとした脚線美を見せ付ける。その脚は白いタイツに包まれる。

「ひょっとしたら…俺たちをも誰かがどこかで観察してる…ってこと…なのか?」

 頭に髪飾りがほどこされ、“白鳥”然とする先輩。何時の間にか足先はピンク色の光沢を放つトゥシューズに包まれている。

「せん…ぱい…」

 豊満なバストをチュチュが包み込み、真横に向かってスカートが伸びる。“先輩”は今やすっかり美しいバレリーナとなっていた。

「ち、ちく…しょう…」

 勝手に踊り始めるバレリーナ。

「これを…見てる奴…お前だお前!」

 ふわっ!と空中に舞いあがり、着地してポーズを決め、再び踊り続ける踊り子。いつのまにかそばには男性ダンサーのいでたちとなった後輩がよりそっている。

「きっとお前も誰かに観察されてるんだからな!」

「先輩…とっても素敵です…」

 と腰をさする後輩。

「あっ…やめ…くすぐった…い…」

 屈辱と羞恥に厚い化粧の顔が歪む。

「せいぜい注意するんだな!」

 “先輩”はあなたに向かって呪詛を吐いた。