TS関係のオススメ本03-06


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真城 悠


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人格転移の殺人(1996年/2004年・西澤保彦・講談社)

 TSとミステリってのは上手く同居するでしょうか?
 そもそもSFファンではあるものの、お世辞にもミステリ通とは言い難い真城にあまりミステリを論じる資格があるとは思わないんですよね(^^;;。
 何しろ「ミステリと言ったらこれだろ」とばかりにアガサ・クリスティとかから高校時代に読み始めて
あまりにも非現実的な話ばかり出てくるのでアホらしくなってやめてしまった苦い思い出があるんです…。これは本当にミステリファンに申し訳ないと思ってます。だってこんな古典読んで「ミステリはつまらん」と言われたんではミステリファンもたまらんですよね。
 それ以外で読んでいたのと言えば赤川次郎先生の「三毛猫ホームズ」シリーズ位。
 所謂(いわゆる)「新本格」の元祖とか言われてる「占星術殺人事件」って出版されたの1985年なんですね。ですから私も学生時代に読めることは読めるんだけど、子供ってお小遣い無いからなあ…学校の図書館に置いてないと読みにくいんです(;´Д⊂…。
 ともあれ、一応は現実に準拠していないと困る「ミステリ」で可能なTSネタと言ったら外科手術による性転換とか女装くらいなんだろうけど、そんなものTSファンは面白くもおかしくも無いし萌えられないし…。やっぱりSFとかにしないとTS展開は難しいでしょう。
 だって
「実は犯人は幽霊で、密室からは壁抜けで脱出しました」とか言われたら白けるでしょ?
 それと同じで
「実は犯人はTS体質で、殺した後に女に変わって逃げたので目撃者がいないんです」とか言われても(゜Д゜)ハァ?って感じでしょ?
 …でも何か
多重人格ネタとか女装とかは普通に読んだ記憶が朧(おぼろ)げにあるけどなあ…。

 ともかく、どう考えたって「謎解き」を主眼に据えるしかないミステリではTS(性転換)とか入れ替わりとかが扱える訳が無いんです。
普通の方法ではね。

 ここに颯爽(さっそう)と登場するのが鬼才・西澤保彦氏です。
 この方の書くミステリは…ありていに言えば
変なのばっかりです。
 これもオススメしたい「七回死んだ男」は、不条理SFではよくある「時間が戻ってしまう」展開のお話なのですが、試行錯誤で何度も同じ時間を繰り返しながら犯人を見つけようとします。
 …凄く面白いんだけど、
これってミステリなの?
 こういう「変な」話って他にもあって、例えば「複製症候群」のストーリーはこんな感じ。

「異形の壁に閉じこめられた高校生たち。だがその壁からは逃げ出すわけにはいかない。その壁に触れると、姿形、記憶や考え方まで完璧に同じコピー人間ができてしまうからだ。そんな密空間での殺人事件。犯人は誰?オリジナル人間か、それともコピー人間か。」

 …何じゃこりゃ(爆)。

 あ、でも面白さは保障つきですよ。
 要するにこの西澤保彦氏ってのは
「その作品にのみ通用するオリジナル・ルールをぶちあげて、その土俵の上での謎解き小説を展開する」という作風でいらっしゃるのですね。
 毎回オリジナルルールのギャンブルが登場する「カイジ」みたいなもんです。

 はい、ここまでやれば出来ますよね(^^。
 そう
TSミステリがですよ!それがこの人格転移の殺人」なのです!



 タイトルの通り
「入れ替わり」もの。
 主人公はアメリカの下町で大地震に巻き込まれ、この恐ろしい惨事に巻き込まれます。

 まずあまりにも荒唐無稽な「舞台設定」と「この作品のルール」を把握しなくてはなりません。
 何と謎のテクノロジー(?)が残した「人格転移装置」です。
 この装置は、近くに来た人間の「人格をランダムに転移させ続ける体質にする」という性能(?)を持ちます。
 例えばAさんとBさんが近くに来たりすると、AさんBさんの人格が時間もタイミングも不定期に入れ替わり続けるんです。この体質は
一生継続します。

 この恐るべき装置が、何故
アメリカの下町のハンバーガー屋の裏にあるのか…という問題はあるものの、とにかく老若男女が数人も一気に巻き込まれてしまったからさあ大変!
 そしてその中には
金髪碧眼の美女もいます。素晴らしい。

 この「人格転移」は何人いても発動し、それぞれ玉突き事故の様に
お互いの肉体を渡り歩いていくことになります。
 しかし、何と言う設定を考え付くのでしょうか(爆)。

 この体質になってしまった集団は一生元の体質に戻ることは出来ないので、研究材料としてアメリカ政府に隔離されてしまいます。
 
ここまではいい(?)んですが、なんとここで謎の殺人事件が発生!
 次々に被害者たちが殺されていきます。

 はい、お分かりですね。
 肉体と中にいる人格が一致している訳では無いので、「誰が犯人なのか?」というだけではなく「
誰の精神が犯人なのか?」そして「その精神は今、誰の肉体に入っているのか?」というところまで含めて考えなくてはなりません。

 それどころか外界から隔離された空間であるために、主人公の日本人青年は自分の身を守ることも考えなければなりません。
 しかも人格転移は勝手なタイミングで次々起こるので、理論上「ついさっきまで誰かを殺そうとしていた
犯人(の人格が入っていた肉体)にいきなり転移する」ということもありえますし、はたまた「犯人(の人格が入っている肉体)に殺されそうになっている人物」に転移することもあります(!!)
 肉体が死んでしまうと、その時点でその肉体に入っていた精神も消滅するらしく、主人公は犯人探しと同時にサバイバルにも勝ち抜かねばならず、突然金髪美女になったかと思えばホームレスのじいさんになったり色々な目に遭いつつ必死に頑張ります。

 が、努力もむなしく一人また一人と人数が減っていきます。
 真犯人は一体誰なのか!?そもそも主人公は生き延びることが出来るのか!?


 …一応読んだ小説なのですが、自分で粗筋書いていてもかなり面白そうですな。そして
実際面白いです(^^
 ストーリーは勿論のこと、TS描写ではどうか?
 これが中々面白い文化論になっているんですよ。
 どうも西澤氏は帰国子女みたいで、海外経験を活かした描写が満載。
 特に「外国人女性」の描写が秀逸。
英語には所謂(いわゆる)「女言葉」が無いのはウチのページにいらっしゃる方はご存知でしょうが、それでも「女性的な言い回し」は存在するんだそうです。
 次々に肉体を渡り歩かなくてはならない主人公は当然金髪碧眼の美女の肉体にも入るのですが…これは読んでのお楽しみ(*^^*。

 ちなみにちょっと想像してみて下さい。
 「肉体が死亡すると、その時点でその肉体に入っていた精神も消滅する」ということは、仮に自分が美女の肉体に入っている状態で
残りの人間が全員死亡したらどうなるでしょう?

 展開が面白いのは勿論のこと、ラストのオチもTS的に実に美味しいものになっており、TSファン以外にも胸を張ってオススメ出来る逸品。若干混乱はしますが、そこは多数入れ替わりものですので我慢しましょう。
 ちなみに真城はこの作品に影響を受けて「人格転移の変人」というエヴァンゲリオン二次創作を「少年少女文庫」に投稿していたりします(*^^*。
 シンジがミサトさんの身体の中に入ってテレたり、ゲンドウが綾波の中に入って「…問題ない」と言うとかアホらしい(自慢)展開が目白押しなのでよかったらそちらもどうぞ。
 新書だったものが今は文庫になって再販されているみたいなので、かなり手に入りやすいです。
 これは買いですね(^^。  2006.11.30.Thu.
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