おかしなふたり 連載541〜560 |
第541回(2005年03月16日(水))
メイドの時みたいに、肩部分が膨らむ。黒ずくめの全身に、白い帯状のフリルみたいなものが走り回る。
「これって・・・」
「うん、最近研究したの」
よくよく見てみると髪の毛の“質”も変わっており、ついさっきまでいつものシャンプーのCMみたいなまっすぐで漆黒の髪だったのが、「焼きそば」か「みそラーメン」みたいにうねうねとうねった形状に変わっている。
ふと気が付くと、何やら顎の下で結ばれているものがある。
どうやらこれも衣装の一部らしい。
ひらひらの髪飾りの一部を頭の上に結び、それを顎の下で結ぶ形らしい。
全身のあちこちにリボンとふりふりのフリルが広がっている。
アップルパイの皮みたいに何層にも積み重ねられた生地が重層的になっていく。
「こ、これって・・・」
薄っぺらいワンピースだったのが、スカートを膨らませるためなのか結構ぶくぶくに下着も入ってきているみたいだった。中身のことなんてなんと無くしか分からないんだけど。
全身は黒いけども、白い手袋がかぶさっていた。
「はい!出来上がり!」
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第542回(2005年03月17日(木))
「あ・・・」
幾ら慣れたとはいえ、やはり“初めての衣装”となると緊張する。いや、“緊張”という表現は適当ではないのかもしれないが、ともあれ「未知の世界」であることには変わりが無いのだ。
しかも、女性物の衣装というのはどこかしら露出度が高いというか無防備と言うか、奇妙な所で“はかなげ”な所がある。
あの全身をびっしりと多い尽くすかのようなウェディングドレスですら首元が大きく開いていて、アップにされた髪の後ろから、“うなじ”が空気にさらされるようになっていた。
そのアンバランスさには、まだまだ十七年間フルタイムで男だった歩(あゆみ)には慣なれないところがある。
少し身体の各部を動かしてみると・・・足首が固定されている・・・と感じた。
「立ってみてよお兄ちゃん」
「あ、ああ・・・」
長い髪がゆらぐ。
全身の衣装がこすれあう。
ドレスみたいな衣擦れの音はしないけど、不必要な(?)装飾があんまりにも多いものだからそこが全部ふらんふらんゆれているのだ。
立ち上がろうと足首を動かそうとして初めて分かった。
靴を履かされていたのだ。
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第543回(2004年03月18日(金))
「よっこいしょ」
・・・何だか自分がおもちゃになったみたいな気分だった。
「・・・」
いつもならはしゃいでいる聡(さとり)が妙に大人しい。というか、頬を紅潮させてぽ〜っとこちらを見ている。
「な、何だよ・・・」
思わず腰を“きゅっ”とひねって自分のお尻を見下ろすみたいなポーズを取ってみる。
「か、可愛い・・・」
感激の余り・・・という体である。
そう、歩(あゆみ)は所謂(いわゆる)「ゴスロリ」こと「ゴシックロリータ」風の衣装を着せられていたのだ!

イラスト おおゆきさん |
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第544回(2005年03月26日(日))
・・・何だかアンバランスで落ち着かない。
スカートを履かされている時のいつもの感覚でもあったけど、それ以外にもある。
そう、このかかとの無闇に高い靴のせいだ。
「靴も・・・変わるんだな・・・」
思わずつぶやいていた。
よく考えたらそんなのは分かりきったことだった。
花嫁姿になった時にもチャイナドレスを着せられた時にもきっちりハイヒールを履かされていた。こういう場合には、どこからともなく湧いて出てくる靴が装着されるのである。
「お、お兄ちゃん・・・こっち来てこっち!」
やっと我を取り返したかの様に一緒に立ち上がった聡(さとり)が、肩を抱くようにして自慢の全身鏡の前に歩(あゆみ)引っ張っていく。
「・・・っ!!」
鏡に映った自分が「別人」にしか見えないという、甚だ心臓に悪い体験もそろそろ感覚が麻痺しつつあったのだが・・・久しぶりの衝撃だった。
そこに映っていたのは・・・正に等身大の「お人形さん」だったのだ!
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第545回(2005年03月27日(月))
「こりゃ・・・びっくりするな」
「そうよね・・・こんなに可愛いと思わなかった」
ちょっと聡(さとり)は感激しすぎじゃないかと思ったりもしたが、でもこれは強烈だった。
名前に「ロリータ」が入っているだけあって、何とも言えない子供っぽい可愛らしさがあるのだが、カラスみたいに全身が真っ黒なのが何ともアンバランスである。
加えてこの過剰な装飾と言うか、フリルが全身を這い回っている。まるでテーブルに敷いてある敷物を丸めて着ているみたいだ・・・ってそれはひどいか。
でも、膝まである靴下には教会のステンドグラスみたいな模様が一杯に入っている。
真っ黒な靴の形状は、まるでクリスマスツリーに吊るしてある靴型のオモチャみたいな形である。
そして・・・この間のメイド姿と決定的に異なっていることがある。
それは、何とも言えない退廃的な不健康さが漂っていることだった。
殆ど陽に当たっていない様な元気の無さというか・・・。
「いいわあ・・・」
何だかおばさんくさい感想を漏らす聡(さとり)。
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第546回(2005年03月29日(火))
「あ、そうそう。大事なことを忘れてたわ」
「な、何だよ」
生憎(あいにく)と歩(あゆみ)は生きて動いている(?)ゴスロリさんを見たことは無いので、こういう口のきき方で良いのか分からないけども、とりあえず素で答える。まあ、「望ましい所作」だの「ゴスロリさんといえばこういう喋り方!」なんてものがあったとて、そんなのに付き合ってやる積もりも無いのだが。
「この格好の時には忘れちゃ駄目なのよ」
と、何やら顔中を撫で回されているみたいなくすぐったさが襲ってくる。
「あ・・・あ・・・」
「ゴスロリさんには“ゴスロリさんメイク”をしなくっちゃね!」
と、鏡の中の“お人形さん”である自らの顔に変化が現れていた。
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第547回(2005年03月30日(水))
「・・・はあ」
それは奇妙なメイクだった。
「確かイメージではこんな感じよ」
元々決して色の黒い方ではない鏡の中の女の子は、その顔色を益々白くしていた。
更に・・・その目の周りを黒いラインが囲っていく。
全く日焼けしていない不健康な感じが更に増幅されて、もう十年も部屋に引きこもっていたみたいな女の子の完成である。
「どお?」
「“どお?”って言われても・・・」
歩(あゆみ)はちょっと複雑だった。
一歩間違えば何だかパンダみたいである。わざと「目の下のくま」みたいなのを作るみたいなこのメイクは男の子である歩(あゆみ)からしてみれば「勿体無い」と感じてしまう。「そのままにしていれば可愛いのに」という奴である。
「これがゴスロリさんのポイントよ」
何だか「メイドさん」とか「ウェイトレスさん」とか「看護婦さん」みたいだ。しかしそう言われると「ゴスロリさん」という言い方もそれはそれで違和感が無いと感じられるので不思議である。
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第548回(2005年03月31日(木))
「この不健康な感じがか?」
高い声に違和感を感じつつも訊く歩(あゆみ)。
「うん、そーそー」
満足げな聡(さとり)。
「本当は真っ黒な口紅とかもあるらしいんだけど、個人的にはそれはちょっとやりすぎと思っちゃうもんで・・・」
いい加減なものだが、まあファッションなんて主観的なものだし、それでいいのかもしれない。
「という訳で、そのまんま寝てね?明日の朝元に戻ってるかどうかの実験よ!」
まあ、それからも色々あった。
実はこの日、ゴスロリファッションを着せられた時点で風呂に入っていなかったりしたのだが、もうこうなっちゃった以上仕方が無いのでそのまま部屋に帰ることになった。
廊下に出た瞬間、こんなのが歩いていたんでは平和な家庭はパニックになってしまうので、先発隊として聡(さとり)にそこいらを偵察してもらってから廊下を渡る、なんてアクロバットをこなさされた。
もしも見つかったとしても、流石に息子だと気付かれはしないだろうが(そうなったらそれはそれで問題だ)、こんな人と「お付き合い」があるというのは中々に説明し辛い。
いや待てよ。この際、「コスプレ好きな兄妹共通の女の子のお友達」がいることにしてしまえばこれからも安心なんじゃ・・・って駄目だ駄目だ。
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第549回(2005年04月01日(金))
もしもそんなことが仮に実現しちゃったりしたら、今でも傍若無人な聡(さとり)に尚大義名分を与えるに等しい。
それに・・・まあ、現実的ではないよ。うん。
大体幾ら「コスプレ好きの友人」ったって、コスプレ衣装だって安くは無いだろうから・・・買ったこと無いから知らんけども・・・毎度毎度違う格好をしているなんて幾らなんでも不自然だろう。
・・・そんなこんなで今、朝である。
結果から言えば、「実験」はある意味で成功で、ある意味では中途半端に終わった。
いや「実験」というよりも「調査」ということだろう。要するに「朝までに戻るか」「変える側(この場合は聡(さとり))の意思が途切れた場合にも変身状態は持続するか」という“調査”は中途半端に終わったのだ。
とりあえずよるから翌朝まで程度の時間は持続することは分かったが、それ以上は同なのかということはこの時点では分からない訳だ。
見渡すと布団の上にごてごてと装飾されたスカートが広がっている。
布団にはところどころ黒い汚れがついている。
これはパンダみたいなメイクがこすれて落ちちゃったのだろうと思う。よく見ると付けまつげの残骸みたいなものまである。
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第550回(2005年04月02日(土))
付けまつげって・・・そんなものまでやってたのか・・・。
まあ、今までも付けられていたのかもしれない。ウェディングドレスの花嫁姿の時もメイクまでバッチリだったし、チャイナドレス姿にされた時もきっと付けまつげ位は付けられていた・・・と思う。余り覚えていないけども。
それにしても、多分「本物」の女の人はそうした格好そのものはしたとしてもそのまんま寝たりはしないだろう。
大体メイクをしっぱなしだと肌の健康に悪いって聞いた事があるぞ。
・・・全く無茶しやがる聡(さとり)の奴・・・。
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第551回(2005年04月03日(日))
歩(あゆみ)は考えていた。
それは家の外でこの話をどうしたらいいのかということだった。
目の前に自動販売機がある。
何の変哲も無い自動販売機だが唸りを上げるこれが今は目の前にある全てである。
「おまたせー」
そこにはすらりとした姉御肌の女性がわが妹と一緒にいた。
そう、先日謎のOLスタイルでの写真撮影に巻き込まれた際に一枚噛んでいた女性である。
「じゃ、ちょっと移動しようか」
実にナチュラルなウィンクだった。
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第552回(2005年04月04日(月))
「確かこの間って渡してないよね」
と言って名刺を渡してくる。そこには「ラシュモア企画 八重洲 恵」とある。
ここは最寄の喫茶店である。
聡(さとり)の奴はすっかり馴染んでいるみたいだが、歩(あゆみ)はまだ警戒心が解け切れていない。
何しろこの間はどさくさに紛れて直接は余り話していないのである。
「単刀直入に言うけど、是非うちと契約してほしいのよ」
口に含み始めていたコーヒーを吹きそうになった。
「・・・え?」
「はい。よろこんで」
隣に座っている妹に危うく飛び蹴りをかますところだった。
「ちょっ!ちょちょちょちょっと待てえ!」
「・・・何か問題でも?」
「も、問題だろうが!当たり前だ!」
いきなりそんな訳の分からない話に巻き込まれてたまるか。
「えーと、お兄さんでよかったよね?」
「・・・そう、ですけど」
「とりあえず話を聞いてよ」
「はあ・・・」
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第553回(2005年04月05日(火))
「まずその、誤解があるみたいなんだけど・・・」
あくまでもにこやかに話をすすめるその女性。
「あたしらは別に悪徳業者じゃないから。きちんと届け出てまっとうに仕事やってる会社なんだから、きちんと契約書も作るし、本人が嫌がってるのに無理矢理なにかさせたりなんてことは絶対に無いから」
「はあ・・・」
という割にはこの間のOL姿での撮影は結構強引だった様な気がするんだが・・・それを言うと話の腰を折りそうなのでやめておいた。
その辺の押しが強くないと世の中渡っていけないぞ!
「そもそもまだ高校生だよね?」
「はい!そうです」
これは聡(さとり)。
「未成年相手に契約する場合はきちんと保護者の了解も取るから安心して」
歩(あゆみ)の心臓は跳ね上がりそうになった。りょ、りょりょりょ両親に話を通す?!駄目だ。絶対に駄目だ。話にならない。大体この間変身後の姿でこの兄妹が雑誌に載ったことすら話していないのである。
「で、どんな内容なんですか?」
目をキラキラさせて聡(さとり)が腰を乗り出している。
こ、このバカ妹が・・・と心の中で歯軋りをする歩(あゆみ)。
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第554回(2005年04月06日(水))
「はいはい、それじゃ説明するね」
流暢に内容の説明に入ろうとする女性。
「あ、あの・・・八重洲さん」
「“めぐみ”でいいよ。それで通ってるし」
無茶言う人だ。どんな男子高校生が初対面に近い年上の女性を名前で呼ぶというのか。
「じゃあめぐさんよろしく」
「はい、ありがとー」
既に女性陣はあうんの呼吸になっている。
「あ、あの・・・別に内容を聞いたからって同意したことにされたりはしませんよね?」
一瞬の間があって噴出す恵(めぐみ)。
「こりゃ業界全体がよっぽど信用無いのね」
「お兄ちゃん言い過ぎ!」
窘(たしな)められる兄。
「はい。保障します。内容を聞いたからって強引に契約したこととかにはなりませんから」
にこやかに言う八重洲嬢・・・恵(めぐみ)。
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第555回(2005年04月07日(木))
「でもね、多分想像しているようなことは無いよ」
「そうなんですか?」
あからさまに残念そうに言う聡(さとり)。こいつ、タレント志望だったのか?
「要するにあなた方は“素人モデル”としてそこそこ仕事があるかもしれないって話なのよ」
「“素人モデル”・・・ですか?」
「前回みたいな雑誌とかね。別にスカウトとかじゃないのよ」
歩(あゆみ)は少しほっとした。
「なーんだ、そうなのね」
調子が良いことに聡(さとり)はもう砕けた態度になっている。
「ウチは一応タレント事務所なんだけど、まだまだ駆け出しでね。良かったらあなた方に仕事を紹介する窓口にさせてもらえないかなあと・・・まあこういう話よ」
想像していたのと随分違う話だ。
「え?じゃあここから一気にシンデレラストーリーとか・・・そういうんじゃないんだ?」
完全にタメ口になっている聡(さとり)。嫌味では全く無いけど失礼には違いない。
「うーん、残念ながらまだウチにそこまでの営業力は無いかな」
凄く正直な人だ。
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第556回(2005年04月08日(金))
「ちなみに所属タレントにはどんな人がいるんですか?」
勢い込んで訊き始める聡(さとり)。すっかりミーハー状態である。
「そうねえ、汚職事件とか」
一瞬沈黙。
「は?」
兄妹の声がハモった。
「聞いた事無い?お笑いタレントの「汚職事件」」
一ミリも全く聞き覚えが無い。
「す、凄い名前ですね」
聡(さとり)がどうにかフォローを入れる。まあ、遠まわしに「聞いた事無い」と言っているのだ。
「うん。本人達がインパクトがあった方が良いって付けたんだけどねえ・・・」
「ちょっとインパクトありすぎかも・・・」
「これでも大分良くなったのよ。最初は「脳卒中」だったんだから。その次は「クモ膜下」。病気関係やめろって言ったら今度は「交通事故」」
その時点でお笑い芸人は諦めるべきではないのか。
「まあ、余りテレビには出てないんだけどね」
「じゃあ見れないじゃん!」
キレのいいツッコミを放つ聡(さとり)。
思わず拍手してしまう恵(めぐみ)。
「うーん、あの二人に爪の垢を煎じて飲ませたいわ」
大丈夫なのかそんなんで。
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第557回(2005年04月09日(土))
「この二人にもいいところはあるのよ。地方の営業とかには沢山出てるし」
「へー、そういうもんなんだ」
「今テレビでコントとか漫才やってるお笑い芸人の人達って言って見れば“頂点”だからね。何万人のトップだと思って間違いないよ」
ちょっと“業界人”っぽい話になってきた。
「まあ、良いところはあるんだけど、たった一つの欠点は・・・余り面白く無いことかな」
「じゃあ駄目じゃん!」
・・・この二人がお笑いコンビとしてデビューすべきなんじゃないのか、と歩(あゆみ)は思った。
「まあ、冗談はこれくらいにして」
冗談なのかよ!
「お兄さんが心配しているみたいな事は無いし、むしろあたし達にまかせた方が安心だと思うよ」
「それはどういうことですか?」
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第558回(2005年04月10日(日))
「歩(あゆみ)です」
これは聡(さとり)。
「へえ、じゃあ“あゆ”だね」
ここで言う“あゆ”というのは当代の歌姫“沢崎あゆみ”の愛称である。
主に女子の中高生など、若い女の子に人気があるとされている歌手である。ということはつまり男性に人気があるようなアイドル系やグラビアアイドルの様な人気はどちらかと言うと無い。所謂(いわゆる)「F1層」と言われている二十代前半の女性ともなると「卒業」してしまうタイプの歌手だった。
「本名一緒なんだ」
「・・・向こうは平仮名ですから」
であるから生粋の男で「沢崎あゆみのファン」と言った日には「ちょっと変わり者」「少女趣味」と言われても仕方が無いところがある。
ところが「カラオケ大王」であるところの歩(あゆみ)には「沢崎あゆみ」の凄さが分かるのだった。訊かれても答えることは無いが、それはもう大ファンなのだった。
「え?知らないの?彼女本名は漢字だよ。「あるく」と書いて「あゆみ」」
「そ、それ一緒です!!」
思わず立ち上がってしまう歩(あゆみ)。
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第559回(2005年04月11日(月))
一瞬引いてしまう恵(めぐみ)。
「そ、そうなんだ・・・良かったわね」
男性でここまで沢崎あゆみに劇的に反応するという例に遭遇したことが無かった為に少し戸惑う。
「めぐさんって“業界”の人ですよね?」
もう「めぐさん」になっている聡(さとり)。
「あ、残念だけど直接サインとか貰えないよ。先に言っとくけど」
「そう・・・なんですか?」
早々に釘を刺されてしまった。
「あたしも学生時代の友達とかから誰のサインもらってとかよく言われるけど、自分の所の所属タレントならともかく、よそのしかも大物なんてちょっとねえ・・・」
意外な話だった。
「え、それはどうして・・・」
歩(あゆみ)が食い下がった。
「あたしも会ったことはあるよ。でも現場では少なくとも素人でも無い限りサインを求めたりするのは厳禁なの」
「えー、何で?」
友達口調になっている聡(さとり)。ちょっと気になったが放置することにした。
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第560回(2005年04月12日(火))
「別にそういう決まりが法律みたいに決まってる訳じゃないけど、不文律ってやつかな。“こういうことになってるから”みたいな」
「会った事はあるんですね?」
「挨拶する程度ね。ぶっちゃけうちみたいな弱小じゃあ、名前も覚えてもらってないね。賭けてもいいよ」
そんなことを自信満々に言われても困る。
「話を戻すけども」
話が戻ってしまった。ちょっと残念そうな歩(あゆみ)。
「今のところではとりあえずそんな話よ。考えておいて」
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