おかしなふたり 連載901〜920

第901回(2006年05月13日(土))
「じゃあ、名残惜しいけど行ってみようか」
 似たような印象の私服の美人姉妹の片割れが言う。
「そう言えば聞いてなかったけど、今日は何にすんの?」
 歩(あゆみ)が思わず聞いた。
「正直あたしもドレスとか着たいけど、十六歳じゃまだ勿体無いからもっとカジュアルなのにするよ」
 こちとら十七歳の男の身でもう花嫁衣裳どころかお色直しまでさせられているんだが…。


第902回(2006年05月14日(日))

「それじゃあ、ぐりぐりやるのもあんまりなんで一気に行くね」
 といって、また必要も無いのに手を「ひょいっ!」と動かす。
 その瞬間、パステルカラーの普段着がより可愛らしい「制服」に変わった。
「わあっ!」
「きゃー!きたー!きゃー!」


第903回(2006年05月15日(月))
 それは有名なレストランの女の子の制服だった。たしか「ハンナ・ミナーズ」とか言ったか。
「か…わぃい〜い!!」
 もううっとりしてはしゃいでいる聡(さとり)。
 そして…確かにこれは可愛い。態(わざ)とらしいほど胸元を強調した上半身。見えそうなミニスカートからはみ出す健康的な脚線美。可愛らしいピンク色の色使い…。
 漫画でしか見たことが無い様なおもちゃみたいな衣装を着せられた自分が鏡の中にいた。


第904回(2006年05月16日(火))
 なるほどこれがあったか…。
 歩(あゆみ)は少し関心していた。
 女子高生の制服を殆(ほとん)ど制覇し、ウェディングドレスにチャイナドレス、OLの制服にゴスロリ、果てはスチュワーデスの制服まで着せられたが、まだこんなのが残っていた。
「回って回って!」
 いつものことなのでその場でくるりと回ってやる。
 スカートが軽く「ふわり」と広がる。
 親が来るのを心配するほど金切り声を上げる聡(さとり)。
 …ま、喜んでもらえて何よりだよ。


第905回(2006年05月17日(水))
 とはいいつつも、歩(あゆみ)だって男である。…今は肉体的には女だが。
 とにかくこの制服は可愛い。パステル調のこの衣装に合わない表現だが、凄い破壊力だ。
 女の子が夢中になるのも最もだ。男だってこりゃ夢中になるだろう。
 Cカッププラスにされた胸の奥が「きゅんっ!」となってしまったほどだ。
 自分の姿なのに。


第906回(2006年05月18日(木))
「じゃあ、脱いでもらおうか」
「え?」
 女の声で女の口から言われているのに思わず「どきっ!」とする歩(あゆみ)。
「もお!忘れちゃったの!これからあたしが着るんだから脱いでよ!」
 そうだったそうだった。すっかり忘れていた。
 その為に今回の騒動があったのにそこを忘れちゃ大変だ。


第907回(2006年05月19日(金))
 妹の方を向いたりなんかするけども、ピンク色の制服が鏡の中で動いているのがちらちら目に入って何とも複雑だ。まるで人形になったみたいな気分である。ゴスロリさんになった時にもここまで思わなかった。
「あたしも早く着たいから早く脱いで脱いで!」
 女の身体で脱げ脱げ言われるのは「邪心」や「煩悩」は無いにしろドキドキしてしまう。


第908回(2006年05月20日(土))
「あ、ごめんごめん。見つめられてたらヤだよね。あっち向いてるからよろしく」
「…そうだな」
 ぴょん、と自分のベッドに正座で飛び乗って壁の方を向く妹。
 その姿が目の前の鏡の隅っこに映っている。
 …どうやらこっそり兄の(姉か?)着替えを覗き込んだりはしないつもりらしい。何しろ今回ばかりはこちらの強力が必要なので大人しく協力せざるをえないのだ。


第909回(2006年05月21日(日))
 しっかし、女ってのは本当に着るもので変わるなあ、と思った。
 多分肉体年齢は変わらないから十七歳の女の子なんだろう。このピンク色でエキセントリックなデザインの制服は、各種学校の制服の可愛らしさとは全く違うマスコットみたいな、おもちゃみたいな可愛らしさだ。
 妹がすぐそばにいる状況で非常に危険ではあるのだけども、身体をきゅっとひねって上目遣いになってみる。
 …か、可愛い…。


第910回(2006年05月22日(月))
 あー、いかんいかん。すっかり妹に毒されている。このまんまクセになったらどうするんだ!
 とブルブル頭を振るウェイトレス。
 ポニーテールがぶんぶん揺れる。
 クセになるったって妹の強力がいるから「自己完結」が出来ないのが救いだ。最も、あの妹が協力を要請されて断るとは思えないが。
 とにかく脱いでやらなきゃ収まらない。今のまま放っといてもこのウェイトレス制服は妹の私服に戻るだけだ。このまま部屋に帰って寝ても、起きたら妹のキュロットスカート姿になるだけだ。
 先日の制服に比べればマシだが、女の子の格好には違いない。とにかく脱がなきゃいけないのだ。
 歩(あゆみ)は身体のあちこちを探り始めた。


第911回(2006年05月23日(火))
 …いかん、脱ぎ方が分からない…。
 所謂(いわゆる)「ワンピース」で上下一体になった服だというのは分かるんだけど、胸の部分を下から抱き上げて持ち上げている部分からはブラウスが露出しているし、妙な形でエプロンが身体に纏(まと)わりついていてどこがどうなっているのか良く分からない。
 …何だこりゃ?


第912回(2006年05月24日(水))
 それでも背中にあったエプロンの結び目を引っ張って解(ほど)き、あちこち身体を探る内に目に入ったボタンをひたすら外して開いたりしている内に色々外れてきた。
 これは脱ぐのは出来るけど、地力でもう一度着ろと言われたら絶対に無理だな、と思った。勿論地力で着る気なんか全く無いけども。
 非常に立体的な衣装なので、脱いだ服をきちんと畳むことが出来ず、簡単に纏めるけどもどうしても「脱ぎ散らかした」みたいなことになってしまう。
 …何だか若い女の着替えた部屋みたいである。…物理的にはその通りだが。


第913回(2006年05月25日(木))
 ワンピースだけ脱いでブラウスだけになると、その裾の下から下着が見えそうな脚が殆(ほとん)ど100%露出する。超ミニスカートの更に短いのを履いている様な状況だ。
 これは相当複雑な風景だ。
 しかも、その胸を乳房が大きく突き上げている。その男にとっては「ありえない皺(しわ)」が何ともいやらしい。
 いつまでも見ていても後ろで待っている妹に悪いので、ボタンの留めが反対になっていて凄く扱いにくいブラウスのボタンを大急ぎで外してブラウスを脱ぐ。


第914回(2006年05月26日(金))
 服の前を開けるとそこからブラジャーが出てくるのは心臓に悪い。しかも女装ではなくて…まあ、女性がやっていようと女装には違いないのだが…“本物”がそこに収まっているのである。
 もう一々気にしていても仕方が無いので、ブラウスは本当に脱ぎ散らかしていそいそとそこいらに放り出してあった自分の私服に脚を突っ込む。
 こちらの方は着るのは簡単だ。男の服なんて本当に適当…じゃなくて簡単である。


第915回(2006年05月27日(土))
「いーぞー」
 全然服を畳んでいないのだが、そのまま声を掛ける。
 聡(さとり)だってここまで我がままを押し通してるんだから、自分でそれ位はどうにかしろよ、と思った。
「はいはーい!」
 宙を飛ぶ様に瞬時に寄ってくる妹。
「すごいすごーい!じゃあ着るね!」
 凄い勢いで服を脱ぎ始める妹。
「あ、おい!」
 慌てて真っ赤になる歩(あゆみ)。


第916回(2006年05月28日(日))
「兄貴の前で着替えるなよ!」
「ん?大丈夫大丈夫!あたしは気にしないから」
「俺は気にするの!」
 甲高い声で必死に言う歩(あゆみ)。女性声優が男の子を演じているみたいである。
「大丈夫よ。全部は脱がないから」
「当たり前だ!」
「もお、気にするんならあっち向いといてよ!」
 文字にすると怒っているみたいだが、あくまでも面白そうに言う妹。


第917回(2006年05月29日(月))
 仕方が無いので背を向ける歩(あゆみ)。
 後ろでごそごそやっている音が聞こえるというのは男として何とも居心地が悪い。いや、ある意味いいとも言えるんだけど、激しく落ち着かない。
 うーん、これは幾らでも「覗き」が出来るのに理性で抑えろと言われているみたいなもんだ。
 あの「好奇心が服を着て歩いている」様な妹がよく我慢出来ていたもんである。そこまでおしゃれ心が勝ったのだろうか。


第918回(2006年05月30日(火))
 …よく考えたら妹もまた「脱ぐ」ところからスタートしているはずだ。
 って何を考えているのか!んな色気の無いもんに興味かきたてられてどうするのか。
 確かに可愛い妹ではあるけども、そういう感情は全く無い。友達の姉や妹がいる奴が言うのと同じく、「世界中の女の中」でも母と姉・妹だけはどれだけ可愛かろうがそういう対象にはまずならないのである。
「まだか?」
「ん〜ちょっと待ってね」


第919回(2006年05月31日(水))
 流石にあの妹でも奇妙な衣装に難渋しているらしい。
「はい出来た!いいよこっち向いて!」
「お、おお…」
 いざ見ていいと言われるとちょっとドキドキする。
 だが、思い切って振り返った!


第920回(2006年06月01日(木))
「じゃっじゃーん!どおだ!」
 そこには衣装に何の違和感も無く着こなした“ウェイトレス”がいた。
「…」
 何だか頬が赤くなってしまう。か、可愛い…。
 自分で言うのも何だが、自分が着ていた時にも可愛かったこの衣装が益々輝くような可愛らしさだ。