おかしなふたり 連載881〜900 |
第881回(2006年04月18日(火)) 「大体、女の子は鏡見て毎日『あ〜あたしって可愛いな〜』とかやってるんだよ?お兄ちゃんも新鮮だろうから結構やってると思うけど」 「やってねーよ!」 「ともかく、年季じゃあ全然違うね」 「今でもやってるのか?」 「うん。この鏡ってお兄ちゃんに全身見せてあげる為に買ったんだけど、最近じゃ自分で使ってるもん」 いや、それは別に構わないと思うが…。 |
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第882回(2006年04月19日(水)) それからひとしきり『ぶわ〜』とやらに付き合わされた。 小学生みたいにケラケラ笑う妹を見るのは、…何だかんだでそう悪くない。恋愛感情などとは全く違うが家族としての好意である。 「はあはあ…あー疲れた!」 地面に座り込んではあはあ言っている妹。 当然歩(あゆみ)もそれに付き合わされた。 |
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第883回(2006年04月20日(木)) 「あっ!」 はじかれた様に何かを思いついたらしい聡(さとり)。 「そうだ!こんなのはどうだろう!」 「な、何だ何だ?」 「あたしってお兄ちゃんの服を変えられるじゃん」 「まあ」 何か嫌な予感がする。 |
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第884回(2006年04月21日(金)) 「でもってこの間実験したじゃん。服を着てれば服だけ交換しても暫(しばら)くは大丈夫だったよね?」 「まあな」 「じゃあ、お願いだけど、あたしの服を着てもらって、それであたしが着たい服に変えて、それで返してもらうの。これであたしが着たい服を着られるって寸法よ!」 少し考える歩(あゆみ)。 「…いいんだけど、ちょっと質問していいか?」 「うんうん」 もう満面の笑顔で頷いている聡(さとり)。 |
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第885回(2006年04月22日(土)) 「まず、すぐ戻っちまうけど、それはいいのか?ってこと」 「全っ然問題なし!戻るって知ってるし元々あたしの服だもん。次は?」 凄い勢いに少したじろぐ歩(あゆみ)。 「あと、それは俺が着た状態の服をお前が着ることになるけど、それはいいのか?」 「はぁ?それが何の問題な訳?な〜んの問題もないってば!」 これも駄目か。何となく分かってたけど。 |
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第886回(2006年04月23日(日)) 「あたしの友達なんてお姉ちゃんと私服の大半をシェアしてるよ。下着も一緒だって言ってたし」 「し、下着も!?」 「別に珍しくないって。ま、中には仲の悪い姉妹もいるけど」 これは参った。「もしも下着みたいに肌が密着してるのでもその方法でいいのか?」とか追い討ちを掛けようとしてたんだけどこれじゃ駄目だ。 「でも俺男だし」 「あゆみちゃんはお兄ちゃんじゃん!元はあたしの服なんだし何の問題もないよ!」 こうなるともう理屈じゃない。 「分かったけど…最後に一つ」 |
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第887回(2006年04月24日(月)) 「うん」 「こういう言い方は何だけど、…それって俺に何かいいことあんのか?俺が面倒くさいだけだろ」 「…そっか。考えなかった」 さも重大な発見をしたかのように考え込む聡(さとり)。何と言う自己中心的な考え方か…。ま、可愛いもんだが。 「じゃあ…お願いします」 ぺこり、と軽く頭を下げる妹。 |
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第888回(2006年04月25日(火)) おや?これは遂にゲットしたこちらの交渉のアドバンテージじゃないのか? 「うう〜ん、どうしようかなぁ〜」 ちょっと思わせぶりな態度を取ってみる。 これまではこっちを変身させるのは聡(さとり)が勝手にやれば良かった。それこそこっちの事情なんぞお構いなしである。聡(さとり)が部屋にいて、こちらが電車に乗っていてもウェディングドレスの花嫁姿にされるほど自由だったのだ。 |
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第889回(2006年04月26日(水)) だが、「着替えて服を交換」となると流石にそうは行かない。相当程度こちらの協力体制が必要になる。こちらの同意がないと何も出来ない。 確かに「言うことを聞かないと周りに誰かいる状態だろうと何だろうと性転換して女装させちゃうぞ!」という「恫喝」を背景に言うことを聞かせると言う方法はあるが、それでも尚こちらが「やらない」と言い張ればそれまでだ。 つまり、この場合かなり交渉上有利なのである。 |
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第890回(2006年04月27日(木)) 珍しく少し考え込んでいる聡(さとり)。 「よし、分かった。じゃあ…」 といって聡(さとり)は鞄を探り始める。一体何が始まるのか。 「気持ちだけど…」 歩(あゆみ)は目が飛び出るほど驚いた。 |
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第891回(2006年04月28日(金)) なんと聡(さとり)は可愛らしい財布から千円札を差し出してくるではないか。 「一回ごとにこれを…」 「ちょ、ちょちょちょちょっっちょっと待て!」 慌てて千円札を押し返す女子高生スタイルの歩(あゆみ)。 これは参った。流石に同じ程度の小遣いしか貰っていない妹から金を取る訳にはいかない。 男と女の兄妹にも関わらずプライベートを殆(ほとん)ど区別していなかった二人は漫画やCDなども分け隔て無く共有するのが当たり前だった。 他の兄弟姉妹が中学にもなると兄弟間でお金の貸し借りが当たり前に行われていることに驚愕したものである。 そんな相手から金なんぞ取れる筈(はず)が無い。 「…分かったよ…一日一回位なら」 |
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第892回(2006年04月29日(土)) 「ありがと!お兄ちゃん!」 抱きついてくる聡(さとり)。 「お、おいおい」 おっぱい同士が…ってそんな場合か! 「じゃー早速やってみよー!」 右手を突き上げて満面の笑みでまた箪笥に取り付く妹。 …何だか「今泣いたカラスがもう笑った」という言葉が脳裏に点滅する。 |
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第893回(2006年04月30日(日)) そこから紆余曲折あって、スカートだけ長くなった女子の制服姿だった歩(あゆみ)は、身体はそのままに男の私服姿に戻っている。 「じゃあ、今からこのあたしの私服のキュロットスカートと何ちゅー事もないTシャツがあるから着替えてちょーだい」 聡(さとり)なりに色々考えてくれたのだろうボーイッシュな服装がベッドに置いてある。 「お兄ちゃんも男の服で着たいのがあったらあたしが請け負うよ!」 得意げにドン!と胸を叩く聡(さとり)。 |
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第894回(2006年05月01日(月)) 「いや、別に男の服で着たいのとか無いから」 女はやれスチュワーデスだの看護婦だのと「職業制服」に憧れるらしいが、男では殆(ほとん)ど無い願望だ。「パイロットになりたい」男の子はいても「パイロットの制服が着たい」という願望の抱き方は余りしないだろう。 「そお?あたしが男の子なら『忍者の格好がしたい』とか『サムライの格好がしたい』とか思うけどなあ」 「そんな男いねーよ」 「『将軍』のコスプレして腰元はべらせたいなーとか」 聞いてないし。 |
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第895回(2006年05月02日(火)) 「…この部屋で着替えるのか?」 「うん。だってあっち(歩(あゆみ)の部屋)と行ったり来たりはめんどくさいじゃん」 確かにそうだ。それに兄が妹の服をきて行き来していたんでは目撃した親が泣く。幾らキュロットスカートでも。 確かに子供の頃は年子だったから、歩(あゆみ)のズボンとか随分着せられていたみたいだけど流石に逆は無い。ウチの親は締めるところは締めてたけど、使うべきところにはお金は使う性分だから、聡(さとり)は兄の「男の子の服」と自分の「女の子の服」の二倍のプール(貯蔵庫)から服を選べたことになる。 |
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第896回(2006年05月08日(月)) 彼女が性別に対しておおらかな感覚を持っているのはその辺りもあるのかもしれない。 それこそ、この能力が一切発現しなかったとして、一人暮らしの後何年かぶりに会って歩(あゆみ)がニューハーフになっていた…などという展開でも全く悲しみもせずに面白がるだろう。目に浮かぶようだ。 「大丈夫よ。あっち向いてるから」 …言いたいことは色々あるが、承諾した以上従うしかない。 しぶしぶズボンを下し始める歩(あゆみ)。 |
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第897回(2006年05月09日(火)) 「短パンと同じだから着方分かるよね」 「まーな」 気を利かせてなのか、下着に関してはスリップみたいな肌着は無い。パンティーとブラジャーだけだ。 「…」 実は聡(さとり)によって着せられた服を「脱いだ」経験は殆(ほとん)ど無い。というかこの間の服交換程度だろう。 もう見下ろした自分の身体が女子高生だったりスチュワーデスだったりOLだったりゴスロリさんだったりにはかなり慣れた積りだったけど、パンティーとブラジャーだけの女体…というのはかなり刺激的だ。 |
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第898回(2006年05月10日(水)) …何だか顔が赤くなってきてしまった。 妹もそこにいることだし、あんまりマジマジと見ている訳にもいかない。大体恥ずかしさの方が先に立ってしまう。「目のやり場に困る」という奴だ。…自分の身体に。 大急ぎでキュロットスカートとTシャツに脚と袖を通す。 「着たよ」 目の前にあるので鏡が目に入る。 |
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第899回(2006年05月11日(木)) ごそごそと妹の私服に袖を通し、キュロットスカートに脚を通す。 じじっとファスナーを上げて目の前の鏡に観る。 「…」 目の前には生活観(?)が一割増しになった様な妹に似た女だった。今の自分のことだが。 妹の能力によって女に変えられた自分は妹にそっくりである。年子の兄妹なので当たり前だが。 冷静に考えれば妹の服を兄がこれほど着こなすというのも世間的には余り無いだろう。それこそ「制服」とかなら逆によくあるが、ここまでの私服というのは却(かえ)って貴重だ。 自分で言うのもナンだが、鏡に映る自分自身の今の姿はかなり可愛い。思わずうっとりしそうだ。 軽く身体をツイストして見る。 |
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第900回(2006年05月12日(金)) 「ん?着た?」 いつもは何かと言うとちょっかいを出してくる聡(さとり)も今度は控え目だ。武士の情けなのだろうか。 「…まあ…」 「ど〜れどれ!」 とてとて近寄ってくる聡(さとり)。 「きゃ〜!可愛い!きゃ〜!」 いつもの反応だが…正直同感だった。 |